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並んでいく料理とお酒の数に比例して、皆の声が高まっていく。少し頬を赤くしているクリケットさんは、どう見ても酔っていらっしゃる。同じようにお酒を飲んでいるナミさんやゾロさんはというと、顔色ひとつ変えていない。
お酒の味なんてまだ分からない私はというと、ロビンさんの傍に座って大人しくオレンジジュースを飲んでいる。「あなたは飲まないの?」という彼女の問いかけに激しく首をふる。「そう、」と言ってくすりと笑ったロビンさんの手には、400年前、クリケットさんの先祖だという“モンブラン・ノーランド”という人の航海日誌がある。


『…400年前の日誌だなんて、凄いですね…』

「そうね。とても貴重なものだと思うわ」


心なしかロビンさんの声が弾んで聞こえる。ロビンさんは考古学者だと言っていたし、こういう歴史あるものに触れるのが好きなのかもしれない。ペラリペラリと長い指がページを捲っているのを見つめていると、ふと手を止めたロビンさんに「あなたも読んでみる?」と微笑まれる。読んでみたい気はしなくもないけれど、読めないしなあ、と苦く笑うと、不思議そうにロビンさんに首を傾げられた。


『…あの、私、字が…』

「読めないの?」

『そう、ですね…あんまりスラスラとは読めなくて、』

「そうだったの…なら、私が代わりに読むわよ?」

『え?でも…』

「気にしないで。これも、“作戦”のうちだから」


作戦?なんのこと?
キョトンとした目でロビンさんを見上げると、くすりと微笑んだロビンさんは再び視線を日誌へ。美しく弧を描いていた唇をそっと開いた彼女は、その見た目に似合う綺麗な声で日誌を読み上げようとした時、


「ドクロの右目で黄金を見た」

「『!?』」


突然目の前に現れたクリケットさん。し、心臓に悪い…。悲鳴をあげなかった自分を褒めたい。「涙で滲んだその文が、ノーランドが書いた最期の文章だ」と言ってクリケットさんはゆっくりと立ち上がる。


「ドクロの右目に黄金を見た、その日ノーランドは処刑された」


処刑って。テーブルの上に置かれた絵本に思わず目がいく。小さい子でも読みやすいようにと可愛らしい絵で書かれた表紙。けれどそこに詰まった物語は、フィクションなんかではなく、実際にあった出来事らしい。
“うそつき”と呼ばれ続けてきたモンブラン家。その汚名を晴らすべく、クリケットさんは潜り続けてきたのだ。何年も、何年も。暗い、海の底に向かって。


「これを見ろ」

「うわっ!!黄金の鐘だ!!!」


声高々に話していたクリケットさんだったけれど、途中何やら楽しそうな顔でマシラさんに何かを持ってくるように示した。キラリと目を光らせたマシラさんが取りに行ったものは白い布に包まれた包み。それをゆっくりとクリケットさんが開けると、中から現れたのは、


「黄金じゃねえか!!」

「インゴットね」

「いやーん!きれい!!!」


キラキラ、なんてものじゃない、眩しいくらいに輝くそれは、まさしく正真正銘の黄金だ。初めて、みた。「きれー…」と零れるように呟けやけば、「そうだろう」とショウジョウさんが誇らしげに頷く。この黄金の小さな鐘は、クリケットさんが海の底で見つけたものらしい。


「何だよ、あるんじゃん黄金都市」

「そーいう証拠にゃならねえだろ。この量の金なら何でもねー遺跡からでも出てくる」


ルフィさんの言葉を残念そうに否定するショウジョウさん。そうなのか。私からすれば、この黄金のインゴットだけでも十分にすごいのに。
「インゴットって何だ?」不思議そうに黄金を見つめるチョッパーさんに「なんでしょうね…?」と一緒に首をかしげていると、くすりと微笑んだロビンさんが黄金の鐘へと視線を向ける。


「“インゴット”は金をぐらむわけするために加工されたもの。それで取引がなされていた事になるわ」

『「へえー…」』


ロビンさんの説明に頷いている私たちをよそに、「おい、マシラ」と今度はマシラさんに何やら指示を出したクリケットさん。その声に嬉しげに頷いたマシラさんは、白い包みを持ってきて包を開く。


「わっ!!まだあんのか」

「こっちのはデケェな!!」


次に出てきたのは鳥の形をした黄金のインゴットだった。ゾロさんの言う通り、さっきの鐘の形をしたものよりも大きい。「うわあっ…綺麗…………!」と声を上げ、うっとりした様子で黄金の鳥へと手を伸ばしたナミさん。そう言えば、「ナミは金目のものに目がねえんだ」とウソップさんが神妙そうな顔つきで話していた。


「こいつは“サウスバード“といって、ちゃんとこの島に現存する鳥だ」

「鳴き声が変なのか?」

「ああ、日誌にある通りさ」

「“サウスバード”と言やあ、昔から船乗りの間じゃあ…………」



「「「しまったァ!!!!」」」


楽しそうに語られていた声が止まったかと思えば、突然声をあげたクリケットさんたち3人。あまりの大きさにびくっと肩を震わせると、「大丈夫?」とロビンさんに顔をのぞき込まれて慌てて頷いた。


「何だ!!?どうした!!?」

「こりゃまずい。おいお前ら、森へ行け!!南の森へ!!!」

「は!?何言ってんだおっさんアホか!」

「この鳥を捕まえて来るんだ!!今すぐ!!!」


鳥を、捕まえる?「何で!!?何が??」とはてなマークを浮かべているウソップさんと同様に首をかしげる。

さっきまでと一変して険しい表情のクリケットさん曰く、空島に行くために必要なノックアップストリームという海流に辿り着くためには、この黄金の鳥のモデルとなった“サウスバード”という鳥が必要らしい。聞きなれない言葉ばかりで、いまいち話の流れを掴みきれていないけれど、とにかく、皆はサウスバードがいなければ、空島に行けないのだとか。
「何で今ごろそんな事言うんだよ!!」「もう真夜中だぞ!!今から森へ入れって!!?」と騒ぐウソップさんたちを半ば無理やり小屋の外へと押し出したクリケットさん。壁に立て掛けていた虫取り網を押し付けるようにして渡した彼は「ガタガタ言うな!」と目を釣りあげた。


「俺達はこれからお前らのボロ船の強化にあたる!!考えてみりゃ、宴会やってる場合じゃなかったぜ!!」

「だから今ごろ言うなって!!」

「いいな、夜明けまでにサウスバードを一羽必ず捕まえて来い!!!」


そう言ってルフィさんたちを森の方へと見送ろうとするクリケットさん。出来ることは少ないだろうけれど、私もクリケットさんたちを手伝おう。「気をつけてね、」とみんなに声をかけようとしたその時。


「分かったよ!!いくぞ!名前!!!」

『…え?』


グルグルとお腹に巻きついた肌色。これって、もしかして。気づいた時にはグンッと勢いよく引き寄せられた身体。はたと目を瞬かせ、自分の状況を確認すれば、目の前にあるのは、にししっと満面の笑みを浮かべたルフィさんの顔。ちょっと待って、まさか。


「よーし!行くぞー!!」

『え!?ちょ、ま、え!?』

「あ!!!このクソゴム!!なに名前ちゃん抱っこしてやがる!!!!!」


森へと走り出したルフィさん。そして、その腕に抱えあげられている私。つまり、必然的に私も森へと入ることに。「お、おろして下さいっ…!!」と抗議の声をあげようとしたけれど、同じ人間とは思えない早さで走る彼のおかげで、口を開く隙さえ与えて貰えない。「名前ちゃんをおろしやがれ!!つーか、俺に渡せええええええ!!」と何やら叫びながら追いかけてくるサンジさんやみんな。そんな彼らの後ろには、小さく手を振るマシラさんとショウジョウさんの姿があって、手を振るのではなく助けてください、と少しだけ3人を恨めしく思うのだった。
空島 3

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