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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
「なんであんなに嫌がるんだよー…」


「楽しそうだって言ったくせによお」そう不満げに零し、つまらないとばかりに唇を尖らせたルフィ。ゴロンと地面に横たえた身体をゴロンゴロンと回転させる姿はまるでガキのようだ。


「名前からすりゃ、冒険よりも故郷の国に帰ることの方が大事なんだよ」

「なら、俺たちと一緒に冒険しながら帰る方法を探しゃあいいじゃねえか!」

「そういうわけにはいかないでしょ」


はあっと呆れたようにため息をついたナミがそっと目を細める。少し寂しげに見えるその視線の先には名前が入っていったオヤっさんの家がある。


「…あの子は、私たちとは住む世界が違うのよ」


ふっと吐き出された言葉に黙って話を聞いていたゾロとサンジの目が伏せられる。

ナミの言う通り。名前は、俺たちとは違う。自慢じゃねえが、俺はルフィやゾロ、サンジのように強くはない。危険な場所には行きたくねえし、ヤバい敵とだってできることなら会いたくねえ。それはきっとナミやチョッパーも同じだろう。けど、そんな俺たちでも戦わなければならない時は武器を持つ。怖くても、弱くても、どうしても倒さなきゃ行けねえ敵がいる時が必ずある。だから、怪我をするのは慣れっこ…なんかではないが、ある程度の耐性はあるし、ボロボロになって戦うルフィたちなんてもう幾度となく見てきた。

けど、名前は違う。

あいつは、俺たちのように戦わなきゃいけねえ時なんてきっとなかったのだ。だから、あんなに震えていた。ボロボロになって帰ってきたルフィとゾロを見た名前は、顔を真っ青にして今にも倒れてしまいそうだった。
ルフィの気持ちは分からなくもない。名前は良い奴だし、“楽しそうだ”と微笑んでくれた彼女に空島を見せてやりたいとも思う。けど、あんな名前を見てしまったら、“一緒に行こう”なんて軽々しく言えなくなってしまったのだ。あんなに、震える名前を見ていたら。


「あら、どうして外にいるの?」

「ロビン、」


しんっと、俺たちにしては随分と珍しい静かな空気に包まれていると、チョッパーに呼ばれて船から降りてきたロビンが不思議そうに首を傾げて歩み寄ってきた。事情を説明しようと口を開こうとした瞬間、それを遮るようにルフィがガバッと起き上がり声を張り上げた。


「なあロビン!なんで名前は空島に行きたくねえんだ??」

「まだ言うか!」

「だって!俺はあいつに見せえてんだ!!冒険を楽しそうだって笑ってくれた名前を!空島に連れて行ってやりてえんだよ!!」

「ルフィ、お前、」

「俺は!あいつが空島に行って!笑ってくれるところが見てえんだ!」


ルフィの声にその場にいた全員が目を見開く。
笑って欲しい、だなんて、そんな、サンジじゃあるめえし。そう思って笑ってしまいそうなったけれど、ふと思い出した名前の笑顔に、そんな気持ちが一気に萎えていく。


“みんなの冒険はすごく素敵だね”


優しく目を細めて、本当に、心からそう言ってくれた名前。そうか。ルフィは、みたいと思ってしまったのか。あんな風に言ってくれた彼女が、その“素敵な冒険”を経験した時、どんな顔をするのかを。
ははっ、と笑い声が漏れる。なんともルフィらしくない理由だ。いや、ある意味ではとても単純でアイツらしいのかもしれない。
ふっと微笑ましそうに笑ったロビンが「そうねえ」と少し考えるように指を顎に添える。そっと目を細めたロビンは、眩しそうに名前のいる小屋の方を見つめる。


「…きっと、あの子にとって、冒険は、空島に行くことは、もちろん“楽しそう”ではあるけれど、それ以上に、“怖い”ものなんでしょうね」

「…こわい?」

「ええ。船長さんには、少し分かりにくいかんじょうかもしれないわね」


こわい?なんだそれ?と言うように首を傾げるルフィ。そりゃそうだ。こいつの中に“怖い”なんて言葉があるとは思えない。「アイツの辞書に“怖い”なんて、あるわけないわよね」と呟いたナミに激しく頷いていると、「じゃあ、どうすりゃいいんだ?」とルフィは更に首を捻る。


「…そうね……あの子が、冒険は“怖い”ことよりも“楽しい”ことの方が多いって事を知れば、何か変わるかもしれないわね」

「そっか!分かった!!」

「は!?分かったって、おいルフィ、お前、」

「よーし!お前ら!船長命令だ!!今からみんなで名前に冒険は怖くなんてなくて、楽しいってことを教えてやるぞ!!!」


「冒険は楽しいぞ作戦だ!!!」とよく分からない作戦名を叫ぶルフィに「そのままじゃねえか!」と突っ込んでしまったのもはや条件反射である。名前のためには止めるべきであろうその作戦だけれど、あいにく“船長命令”と言われた以上、止めることはほぼ不可能だ。「楽しそうね」と笑うロビンと、正反対に深いため息をつく俺やナミ。
にししししししといい笑顔で笑うルフィに、とりあえず、心の中で名前に合掌をしておこう。
空島 2

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