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「島が見えたぞー!!」


響いた声に船室から慌てて外へ出る。船の縁から顔を覗かせ、見えてきた島、ジャヤへと目を向ければ、目に映ったそこにぱあっと目が輝く。


『あれが、ジャヤ、』

「そうみたいね」


エターナルポースの指針の先を確認したナミさんが頷く。
この海では、記録指針(ログポース)と永久指針(エターナルポース)という指針を使ってでないと目的の島にたどり着くことは出来ないらしい。このジャヤに着くことが出来たのも、ロビンさんが手に入れたというエターナルポースのおかげなんだとか。
「どんな島ですかね…」と期待半分不安半分に呟けば、「行って見ればわかるわよ」とポンっと優しく肩を叩かれる。願わくば海軍がいてくれますように。

その願いは船を島につけた瞬間に打ち砕かれる。


「殺しだー!!!!!」

「やべえ!誰かあいつ止めろおおおお!!」


何かが壊れるような破壊音と喧騒の声。ウソップさんとチョッパーさん、ナミさんと共に町を見つめていた私の目に映ったのは、どう見ても“平和”とはかけ離れた危ない光景。震える手をどうにかしようと、服の裾を握っていると、それに気づいたサンジさんが「大丈夫かい?」と眉を下げる。


『は、い……』

「…随分と騒々しい町ね」

「ああ、この荒れ様じゃ、海軍の常駐所はあるとは思えねえけど…」


ロビンさんとサンジさんの言葉につい肩を落とす。そんな私の後ろから聞こえてきた、うしし、という嬉しそうな声。誰の声かなんて確認しなくても分かるけれど、一応チラリと振り返ってみればにこにこと至極嬉しそうに笑うルフィさんはご機嫌な様子で町を見下ろす。


「そっかー、海軍いねえのかー。そりゃザンネンダナー」

「いや、絶対思ってねえだろお前、」


私の気持ちを代弁するように突っ込んでくれたウソップさん。そんな彼の声が聞こえていないのか、よっ、という声とともに船から降りたルフィさん。その後を追うようにゾロさんも島へ。
「賑やかな町だなあ!」と楽しそうな声を上げて進んでいく2人に、「あの二人が問題を起こさないはずがないわ…!」とナミさんも飛び出していく。

わたしも、行った方がいいのだろうか。
もしかしかたら、本当にもしかしたら、海軍の人がいるかもしれないし。
でも。

パアアアアン、と空気を揺らす銃声音。ビクリと震えた身体で一歩後退れば、落ち着かせるようにサンジさんの手がそっと肩に添えられる。


「…名前ちゃん、残念だけど、この町には降りない方がいいと思うぜ」

『…はい…』

「大丈夫。ここに居る限り、俺が守ってみせるから」

『…ふふ…ありがとうございます、サンジさん』


怖がっている私を元気づけようとしてくれているのだろう。頼もしく笑ってくれるサンジさんに胸がじんわりと暖かくなる。そんな私に安心したように笑っていたサンジさんだったけれど、ふと何かに気づいたように船の中を見渡した。


「あれ、ロビンちゃんは?」

『…え?さっきまでそこに……』


いたはず。だったんだけど。
いつの間にか消えたロビンさんの姿に、サンジさんと2人に目を合わせて首を傾げるのだった。







「い、医者あああああああああぁぁぁ!!」

「いや、おめえだろ!」


数時間後、ルフィさん、ゾロさん、ナミさんの3人が戻ってきた。けれど、ルフィさんとゾロさんの2人は何故かボロボロで、変わり果てた姿となってしまっている。
鼻をくすぐった鉄の香り。血の匂いだ。
全身傷だらけだと言うのにケロッとしている2人に、慌てたチョッパーさんが駆け寄るのを見ながら顔を青くしていると、それに気づいたウソップさんが、「おいおい」と焦った様子で声をかけてくれる。


「お前、大丈夫か?顔が真っ青だぞ?」

『っ……すみ、ませ…』

「名前ちゃん、部屋で少し休んで来たらどうだい?アイツらなら、大丈夫だからさ」


「ね、」と言い聞かせるようにそう言ったサンジさんに、小さく頷き返す。ボロボロの2人は心配だけれど、そんな2人の姿を見ているだけで、震えが止まらない。情けない事はよくわかっている。でも、今まで私の周りには、あんな風に血だらけになる人がいた事などなかったのだ。
重い足取りで女部屋へと向かう。いまだに鼻腔に残る血の匂いに顔が歪む。ああ、ほら、やっぱり私には無理だ。この船はとても暖かい。暖かくて、優しい。それでも、やはり、“海賊船”である以上、“戦い”を避けることは出来ないのだろう。
一刻も早くこの船から降りるべきだ。私の為にも、そして、何より、彼らのためにも。



***



『ん……』


いつの間にか眠ってしまっていたらしい。瞼を開け、ゆっくりと身体を起こす。揺れを感じない所を見ると、船は動いていないようだ。
甲板へ出るためにベッドから降りた時、外から聞こえてきた騒がしい声。なんだろう?と首を傾げながら外へと出れば、真っ先に目に入ったベニヤ板作りのお城にぱちぱちと瞬きを繰り返す。なに、あれ。


「あ!名前、起きたんだな!」

『チョッパーさん、』

「よかった、もう顔色も良さそうだな」


キョトンした顔で“お城”を見つめていると、そんな私に気づいたチョッパーさんが船の方へ駆け寄ってくる。彼の声に他のみんなも私に気づいたらしく、「もう大丈夫かー?」とウソップさんが声をかけてくれる。彼の顔が涙で濡れているように見えるのは何故だろう??


『はい、もうすっかり、』

「そっか!なら、名前も降りてこいよ!」

『はい、あの、ここって一体…?』

「ん?ああ、ここはさっきの街の反対側!ジャヤの東側」


なるほど。寝ている間に移動はしたようだけれど、別の島に動いたわけではないらしい。「ほら!来いよ!」というウソップさんの声に頷いて、ロープの梯子を使い、覚束無い足取りで船から降りると、久しぶりに踏みしめた地面の感覚に少しだけ、おおっと感動してしまう。


「また随分と海賊らしくねえ姉ちゃんだな」

『え…えっと、あなたは…?』

「ん?ああ、俺あモンブラン・クリケットだ」


「よろしくな、嬢ちゃん」とタバコを咥えた口の端を引き上げて笑ってくれるクリケットさん。「苗字名前です、」とぺこりとお辞儀をすれば、「ほんと、海賊には見えなあ」としみじみと呟かれ、それはそうだろうとつい苦く笑ってしまう。


『私、海賊ではないので…』

「あ?こいつらの船に乗ってんだろ?」

『えっと…居候…みたいな、もので…海軍のいる島まで送って貰ってるんです』

「海賊船で海軍のとこまで…?そりゃまた随分とおかしな話だな」

『あ、あはは…』


怪訝そうに眉根を寄せた後、すぐさまガハガハと笑い始めたクリケットさん。確かに、本来海賊と海軍は敵同士なのだろうから、海賊船に乗って海軍の元へと向かっているというのはおかしな話だ。


「んで?嬢ちゃんも空島に行くのか?」

『え…いえ、私は………本当なら、この島で降りる予定だったんですけど…ここには、海軍が居ないみたいで…』

「ん?ああ、確かに、この島にあるモックタウンは既に海軍に見放された荒くれ者の町だが……一応定期的に様子見には来るぜ」

『え、』


俯き気味だった顔が思わずあがる。ぱっと目を輝かせてクリケットさんを見あげれば、ふうっと煙を吐き出したクリケットさんが海の方を見ながら言葉を続けてくれる。


「2ヶ月に一回だが、海軍の船がこの島に来て島の様子を見て帰ってくんだ」

『じゃ、じゃあ、あの、次に海軍の船がこの島に来るのは、』

「そりゃ…一週間後だな」


一週間後。一週間後に海軍がこの島に来る。つまり、この島で一週間過ごす方法を見つければ、海軍に保護して貰うことが可能だということ。「あ、あの!」と少し上擦った声でクリケットさんを呼ぶ。ん?と片眉を上げて視線を向けてきた彼に、勇気をだして頭を下げる。


『ものすごく不躾なお願いなのは、百も承知なんですが、もし、もしよければ、一週間…!私をここに置いて頂けないでしょうか…!』

「なにいいいいいいい!?」


「名前!お前なに言ってんだ!」とルフィさんが声を上げているけれど、顔を上げることなくクリケットさんの返事を待つ。ダメで元々だ。会って早々こんなことを頼まれても、普通は断るだろう。
じっとクリケットさんの返事を待っていると、またふうっと煙を吐き出す音が聞こえる。少し間を開けて発せられた、「顔上げな、嬢ちゃん、」という言葉に恐る恐る顔を上げると、どこか見定めるように向けられる瞳に一瞬怯んでしまう。


「……どうやら、訳ありみてえだな」

『っ……』

「…いいだろう。一週間程度なら、お前さん一人うちに置くくらい問題ねえ」

『ほ、ホントですか…!』

「な…!お、おっさん!何言ってんだ!!断れよ!!」


ムキィっ!と歯をむき出して怒るルフィさん。「落ち着け!ルフィ!!」とウソップさんが羽交い締めにして止めようとしているけれど、そんなの気にもとめないと言うようにルフィさんはクリケットさんと私の方へ詰め寄ってくる。


「名前は!!俺たちと一緒に空島に行くんだ!!」

「…だ、そうだが?」

『え、い、いえ!私は、クリケットさんの元で、海軍を待たせて貰うので、空島には……』

「だとよ、麦わら。お前さんも男なら、嫌がる娘っ子を無理に連れて行こうとするんじゃねえよ」


「着いてこい、マシラとショウジョウを紹介しよう」と言って石造りの家の方へと歩いていくクリケットさん。チラリと一度ルフィさんを見てからその後を追いかけたものの、背中に注がれる視線にやけに居心地が悪く感じた。
空島

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