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『いってきます』


心配そうに見守る家族に一言だけ告げ家を出る。背中に背負ったリュックのせいか、少しだけ足取りが重い。


今日、私は、雄英高校ヒーロー科に入学する。


立派な門を潜って、目の前に聳える校舎を見上げる。今日から3年間、私はこの校舎で“ヒーロー”になる為に学んでいく。そうだ、私はなるんだ。“正しい”ヒーローに。


「あれ?きみ、確か入試の時の!!」

『っえ?』


上履きに履き替え教室に向かおうとした時、背中に掛けられた声に思わず振り返る。「やっぱそうだ!」と嬉しそうに声を上げて近づいてきたのは、つい先日、この雄英高校ヒーロー科の入試の際に見た金髪の彼。名前は覚えてない。でも、確か彼の個性は、


『あ、放電の、』

「電気!上鳴電気です!!……あん時も自己紹介した筈なんだけど……」

『あ、ごめん。入試の時は…ほら、演習にいっぱいいっぱいだったから』


苦く笑って謝れば「それもそうか」と笑い返してくれる。どうやら名前を忘れていたことに怒っている様子ではなさそうだ。さすがに入学初日に同級生と険悪になんてなりたくない。

上鳴くんとは入試の実技試験で、会場が一緒だったのだ。その際、彼が敵(ヴィラン)から襲われそうになった時、たまたま近くにいた私がその敵を倒した。その時の上鳴くんは、一瞬ぽけっとした顔をした後、直ぐにぱっと目を見開いて、少し情けない顔で「ありがとな!!あんた!!」と大袈裟に何度も何度もお礼を言ってくれた。
名前は忘れていたけれど、いい人だなあ。と思ったのは覚えてる。いや、そりゃヒーローを目指していて“いい人”ではない人なんていないのかもしれないけれど、でも、私は知っている。


ヒーローにだって、“いい”も“悪い”もあることを。


「確か苗字名前ちゃん……だったよね?」

『あ、うん。よく覚えてるね』

「そりゃ、せっかく教えて貰ったかわい子ちゃんの名前を忘れるはずないっしょ!」

『いや、かわい子ちゃんて……』


多分褒めてくれている。のだと思うけれど、かわい子ちゃんなんて褒め方してくる男の子には初めて出会った。というかそもそも、こんな風に直球に人を褒める人ってあんまり居ない気がする。お世辞であったとしても、悪い気はしない。
「冗談でも嬉しいよ」と小さく笑い返すと、「いやいや!冗談じゃねえって!」と首振ってくる上鳴くんが漸く歩き出したので、私もその隣に並ぶ形で教室へと向かう。


「助けて貰った時、まじで後光が見えたって!女神様!!って感じだったね!」

『それはレスキュー補正がかかってたからじゃ…?吊り橋効果的な』

「いや、まあそれもあったかもしんねえけど……それを差し引いてもさあー……あれ?つか、苗字って何組?ここに居るってことはヒーロー科合格者ってことだよね??」

『うん、そう。無事にヒーロー科に入学したよ。私はA組』

「うそ!?やったー!!!俺もA組!同じクラスじゃん!!なんか運命感じね!?」

『それは感じないかなー』


ポンポン続く会話は心地いい。きっと上鳴くんが話しやすい事が大きいだろう。入学初日に、こんなにも誰かと話す機会があるなんて思いもしなかった。
それからも他愛のない会話を続けながら教室へと向かうと、漸くお目当ての“A組”と書かれたプレートを見つけ、上鳴くんと2人で教室の中へ入る。席に着いている人達が何人かいるけれど、まだ全員は揃ってないらしい。
「とりあえず座っちゃおうぜ」と入って2列目の先頭の席を確保した上鳴くん。そんな彼に倣うようにその後ろの席に腰掛けようとしたとき、


「おはよう!」

『え!?あ、お、おはようございます……?』

「俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ!よろしく!!」


突然掛けられた声に思わず動きが止まる。話しかけてきた眼鏡の男の子だった。声が大きい。聡明って確か所謂エリート校だったような。
「よ、よろしくね」ととりあえずな返事を返すと、満足したように頷いた彼、飯田くんは今度は上鳴くんの元へ。
「ボ……俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ!よろしく!」「んえ!?お、おお……おれは、上鳴電気ね、よろしく!」と前の席から聞こえてくるやり取りに耳を傾けながらぐるりと教室内を見渡す。

ここが雄英高校ヒーロー科1年A組。
今日から私がヒーローを目指す場所。


私は“ヒーロー”になる。なってみせる。
もう、あんな、


“なんで……?なんで、こんなニュースが、”


あんな思いをする人がいないように。
MY HERO 1

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