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腕に嵌められた手錠。この手錠の中にある爆弾のせいで、上手く身動きが取れない私たち。
まず優先するべきは、この船に乗っている人達の安全。そうなると、何か行動を起こすのなら、彼らが船を降りてからという事になる。
そして、次にこの手錠。無理やり壊しそうものなら、起爆スイッチが作動してしまうというのだから、外すには鍵を手に入れる必要がある。そして、その鍵を持っているのは戻本人の可能性が高い。私に取引を持ち掛けて来たと言うことは、この手錠を外す術を持っていなければ成立しないはずだ。


「鍵を手に入れられる可能性があるとすれば、この船が陸に戻って、苗字さんに“答え”を聞きに来た瞬間だと思う」

「じゃあその時に鍵と、あと、起爆スイッチを奪えば…!」

「だが、どうする?俺たちが攻撃を仕掛けようとすれば、躊躇なく爆弾を爆破されるぞ」

「その前に奪うんだよ。コイツの個性でな」


爆豪くんの親指の先が自分に向けられる。
なるほど。つまりこういうことか。
戻が部屋に入ってきたその瞬間、私が個性で時間を止める。そして、その隙に戻の懐に入り込み、スイッチを奪う準備をするのだ。恐らく、牽制の為に戻はスイッチを手に持って見せつけるように入ってくるはず。そこを狙う。スイッチさえ奪ってしまえば自由に動けるため、鍵を手に入れるのはその後でもいい。

しかし、まだ問題がある。


『パーティ会場で悲鳴をあげてた女性、あの人は戻の仲間だと思う。もしかすると、彼女以外にも戻の仲間が潜んでいるかもしれない』

「部屋に入ってきたのが戻一人でない場合、他の人間にも対応しなければならないということか……」

『戻の持っているスイッチは、私が絶対に奪ってみせる』

「なら、苗字のサポートは俺がしよう。苗字に触れていれば、たとえ時間が止まったとしても、俺も自由に動く事が出来る」

「それじゃあ、他の敵が居た場合は僕達で対処しよう。苗字さんと常闇くんがスイッチを取り戻した後は、戻にも攻撃を仕掛けよう」

「この状況だ。個性を使ったとしても、“正当防衛”だと認めてもらえるだろ。プロの助けも望めないしな」


緑谷くんと轟くんの言葉に爆豪くんが以外の全員が頷き返す。
ヒーロー殺しの一件で、緑谷くん、轟くん、飯田くんの三人は、資格がないにも関わらず個性を使用してしまった事で職場体験先のヒーロー達に迷惑を掛けたらしい。その事もあっても轟くんの言葉なのだろう。

それから朝になるまでの間に、いくつかのパターンを想定して作戦を立てていると、窓の外で朝日が上り始め、あっという間に朝がやってきた。
夜の間は停泊していた船も動き出し、おそらく乗客たちを下ろすために陸へと向かっているのだろう。緩やかに動いていた船の動きが止まったことで、全員が顔を上げて扉を見つめる。


「来るぞ……!」

「うん!」


扉の向こうから足音が近づいてくる。カツ、カツ、と革靴のヒールの音がすぐ側で止まった。
ガチャリと捻られたドアノブ。ゆっくりと開く扉から昨晩と同じ愉しげな笑みを浮かべた戻が現れる。その手には、予想通り、起爆スイッチを持って。


『っ“発動!!!!”』

「な……!」


戻が部屋に入ったきた瞬間、常闇くんの手を掴み、個性を使って時間を止める。ピタリと止まった世界の中で、戻の後ろを確認すれば、昨晩悲鳴をあげた女性もいて、やはり彼女は戻の仲間だったようだ。他にも部屋の外で見張りに付いていたのであろう男が一人確認でき、戻も含め、敵は三人だと確信し、常闇くんに向かって視線で合図を送る。


「ダークシャドウ!」

“あいよ!”


常闇くんの身体から現れたダークシャドウが、戻に向かって飛びかかる。その瞬間、「“解除!”」と個性を解けば、ダークシャドウによって、戻のスイッチを持つ腕が拘束される。


「なに!?」

「苗字!!!」


不意をつかれて掴まれたせいか、戻の手から起爆スイッチが落とされる。それをすかさず拾い上げると、「2人いる!!」と皆に敵の数を知らせる。
声を聞いた皆は、すぐ様残りの二人に向かって攻撃を仕掛けた。轟くんの氷で女が拘束され、爆豪くんの爆破で男の身体が吹き飛ばされる。ダークシャドウに右手を掴まれたままの戻は個性を使って若返っているけれど、拘束を解くことが出来ず、悔しそうに顔を歪めている。


「半分野郎!こっちも氷で固めろ!!」

「ああっ…!」


爆豪くんの攻撃を受け、廊下の壁に激突した男が立ち上がろうとし、それに気づいた爆豪くんが轟くんに向かって叫びながら、再び男に個性を使おうとした。しかし、爆豪くんが迫っている事に気づいた男は、自身の腕をドリルに変えて爆豪くんに向かって振り上げた。


『爆豪くん!』

「死ねやクソガキイイイイイイ!!!」

「こっちの台詞だ!!クソモブがっ!!!!」


ガリっと硬い床を抉りあげた男のドリル。爆破の勢いで何とか男の攻撃を避けた爆豪くんは、直ぐに体勢を直し、右手を男に向かって翳しあげた。
男はもう一度ドリルで爆豪くんに襲いかかろうとしたけれど、パキパキと音を立てて近づいてくる氷に気を取られ、爆豪くんが気を逸らしてしまう。そして、そんな隙をもちろん彼が見逃すはずも無く、


「死ねや!!クソモブ!!!!!」


ドガアアアアアアン!!!と勢いよくぶっぱなされた爆発。吹き荒れる爆風に目を細めていると、ガラガラと壁の壊れる音が。爆豪くんめ。戻の船だからと全力で個性を使ったな。
上がる煙にゴホゴホと咳き込めば、「大丈夫か!?」と切島くんに背中を支えられた。


『う、うん、平気』

「爆豪のやつ、また随分と派手にやりやがったな……」


爆破の衝撃で半壊した部屋を見回して切島くんが顔を引き攣らせる。半壊させた犯人である爆豪くんへと視線を向ければ、ボロボロになって氷漬けにされた男を見下ろしていて、「手応えねえな」とつまらなそうに呟いている。
「やり過ぎだぞ!爆豪くん!!」と飯田くんが声を張り上げているけれど、聞こえないフリをしているらしい爆豪くんは、ニヤリと笑って今度は戻に向かって歩み寄った。


「後はテメエだ!!クソロリコンジジイ!!!!」

「…やはり、子供とはいえヒーロー志望なだけはある…。侮っていたよ。しかし………



誰がスイッチは1つしかないと言った?」


「!!ダークシャドウ!!!」

「もう遅い!!!」


晴れた煙の中から現れた戻。その左手には、どこから取り出したのか、再び起爆スイッチが。
まさか、もう一つ持っていたなんて…!!
ギリッと奥歯を噛んだ常闇くんがすぐ様ダークシャドウに指示を出したけれど、不敵な笑みを浮かべた戻は、迷うことなく赤いスイッチを押した。
途端に鳴り出したピ、ピ、ピ、という規則的な機械音。腕の手錠に目を落とすと、右腕の部分に付いた小さなモニターに00.09.58という文字が。「ば、爆弾が!!!!」「やべぞ!!」と上鳴くんと切島くんが焦った声をあげる中、緑谷くんと爆豪くんの二人は躊躇なく戻へと飛び掛った。


「鍵だ!!!!!」

「うん!!!」


爆弾が作動したのなら、もう鍵を奪って手錠を取る道しか残されていない。そう瞬時に理解した二人が、戻に向かっていた。しかし、


「予想通りの動きだよ……!!!」

『あっ……!!!!』

「鍵がっ…!!!」


二人の動きを予測していた戻は、あろうことか、ジャケットの中から取り出した鍵を半壊した壁の向こうへ放り投げたのだ。太陽に照らされる真っ青な海に向かって落ちていく二つの鍵束。それに気づいた瞬間、考えるより先に身体が動き出した。


『だめっ!!!!』

「!?苗字!?」

「いけ!ダークシャドウ!!!」


鍵を追い掛けるように空中に跳んだ身体。無意識だった。気づいたら鍵に向かって手が伸びていたのだ。
空中で鍵束の一つを掴み取る。その隣でダークシャドウがもう一つの鍵束を掴もうとしたけれど、その手が鍵に届く前に、私と、もう一つの鍵束は海へ落ちてしまう。


『っ“発動!!!”』


落ちた瞬間、個性を使って時間を止める。水の中に入った状態で個性を使った場合、水の動きが止まってまるで固い鉄の塊の中にいるような感覚になる。
鍵を。鍵を見つけなきゃ。
身動きの取れない身体で、なんとか視線だけを動かして、海に落ちたもう一つの鍵束を探してみたけれど、見える範囲に鍵は確認出来ず、個性の“時間切れ”を迎えることに。


『っくそ!!!』


限界を向かえ、海面から顔を出すと、入れ替わるように海に飛び込んだ上鳴くんと切島くん。二人も落ちた鍵を探すために潜ったようだけれど、この果てしなく広い海中の中で一度見失った鍵束を発見できるはずもなく、悔しそうな表情を浮かべた二人が海から顔を出した。


「ダメだ!!!」

「見つからねえ!!!」

「っくしょう!!!テメエ………!!」


首を振る上鳴くんと切島くんの反応に、爆豪くんが戻の胸倉を引き寄せる。そんな彼を嘲笑うように視線を海へ落とした戻。目を細めて私たちを見下ろした戻に、悔しさから手に力が入る。


「兎に角いったんあがれ!!」

「っわ、分かった!!!」


轟くんの声に、ダークシャドウがこちらへ。大きな黒い手によって船内へと引き戻されると、すぐ様に持っていた鍵を出して、皆へと視線を向ける。


『ごめん…こっちしか掴めなかった……!』

「謝ることじゃないだろう!」

「ああ。下手したら両方とも海ん中に落っこちてたかもしれねえんだ」


気にするな。と言うように首を振ってくれる飯田くんと轟くん。けれど、私がもっと早く反応していれば、両方の鍵束を掴めたかもしれなのに。下唇を噛んで俯く私に、「反省や後悔は後だ」と切島くんと上鳴くんを引き上げた常闇くんが振り返る。


「それよりも今は、“これ”をどうにかするぞ」

『っうん…!』


震えそうになる唇を噛み締め、大きく頷き返す。
常闇くんの言う通り。反省や後悔は帰ってからいつでも出来る。今はただ、この状況を切り抜ける事だけを考えなければならない。

視界の端で轟くんが戻を氷で固めたことを確認して、もう一度鍵へと視線を落とす。
私が手に入れた鍵は全部で五つ。鍵にはそれぞれ番号が振られていて、おそらくこの番号が手錠とリンクしているのだろう。手錠を確認すると、左腕の方に小さく番号が書かれている。


『鍵の番号は6から10まで。皆の手錠の数字は??』

「おれが6番だ!」

「おれが8だ」

『私は7って書いてある。他のみんなは??』


飯田くん、常闇くんに続いて手錠の数字を伝えると、他の5人が俯いたまま黙ってしまったことに気づく。まさか、と小さく目を見開いた時、ギュッと眉根を寄せた緑谷くんがゆっくりと唇を動かした。


「…僕は4番だ、」

「…俺は2番だ」

「っ5番だ…」

「さ、3番……」

『そんな………』


力ない声で自分の手錠の番号を述べるみんなに指先が震える。「爆豪、お前は?」とこんな状況でも冷静さを保った声で轟くんが尋ねると、自分の腕についた手錠を睨みながら爆豪くんが小さく口を動かした。


「……1だよ」

『っ……』


彼らしくない、随分と小さな声だった。

静まった部屋に、忌々しい機械音だけが響く。タイマーを確認すれば、あと少しで8分を切ろうとしていた。


「…飯田くん、常闇くん、苗字さん。とにかく3人の手錠を先ず解除しよう。それで、3人はこの船を離れて、ヒーロー達に連絡して」

「なっ……!しかし、それでは!」

「お前たちを置いていけと?」

「…手錠が取れない以上、僕らは無闇に動かない方がいい。他の策を考えるか、ここで“助け”を待つしかない」

「っ待つと言っても、残り時間はもう8分もないのだぞ!?今から連絡して間に合うかどうか、」


『なら、私が時間を稼ぐ』


焦りと不安から声を荒らげる飯田くん。そんな彼の言葉を遮るように言葉を被せると、俯き気味だったみんなの顔がゆっくりと上がる。


「時間を稼ぐって……苗字の個性じゃ……」

『…体育祭の前からずっと考えてた。もっと“個性”の使い方を学ばなきゃいけないって。だから、体育祭が終わってから少しずつ練習してきた。まだ実践の中で使えるレベルでは到底ないけど……』

「苗字…?お前、何言って、」

『飯田くん、常闇くん。どれだけ持つか分からない。だから…………お願いね』


“発動”


息を止める直前、自分の腕に掛かっていた手錠を外し、持っていた鍵束と共に飯田くんへと投げつけた。
伸びてきた轟くんの手が止まる。怪訝そうにこちらを見る爆豪くんも、何を言っているのか分からないと言うように困惑している緑谷くんも、不安げに眉を下げる上鳴くんも、悔しさから拳を強く強く握り締める切島くんも。

五人の動きが、止まった。


「こ、れは………」

「苗字の個性の力……なのか?」


目を丸くして固まる飯田くんと常闇くん。そんな二人の目の前には、私と、そして、緑谷くん達五人を包み込む半円型のドームが現れている。薄らとグレーの膜で包まれたようなソレは、“止まった”時間と、“動く”時間を隔てる壁である。

ずっと考えていた。もっともっと、この“個性”を上手く使わなければならないと。使うタイミングや持続時間を伸ばすことはもちろん、“個性”そのものの使い方を学ばなければ、私は、いつか皆に置いて行かれしまう。
だから考えた。もっと幅広く、様々な場面で個性を利用出来るように。私が、“ヒーロー”となっても使える“個性”にする方法を。


“CUT OUT(カット・アウト)”


これが、導き出した個性の使い方だ。
空間全ての時間を止めるのではなく、部分的に停止される力。どの範囲をどのタイミングで止めるのか。大切なのは具体的なイメージ。そのため、今は集中しなければ発動さえ出来ず、咄嗟の状況や目まぐるしく動く物は対象とならない。けれど、


今、使えなければ、磨こうとした意味もない。


『(行って…!飯田くん、常闇くん…!!!)』

「っ……行くぞ!常闇くん!!」

「分かった…!」


「頼んだぞ、苗字くん!」という声とともに走り出した飯田くんと常闇くん。二人の姿を見送り、轟くんの手錠のタイマーを確認する。
残り7分弱。この時間をどこまで延ばすことができるかは正直わからない。でも、


『(絶対、持ち堪えてみせる…!)』


みんなを、助ける為に。
MY HERO 36

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