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白い椿が散りばめられた紺色の浴衣に赤色の帯。髪も綺麗に纏められて、「似合ってますよ」と笑ってくれるメイドさんに少し恥ずかしくなる。
お風呂からあがり、いざ着替えようとしていた私には二つの選択肢が。1、自分が持ってきた洋服に着替える。2、戻さんが用意してくれた浴衣に着替える。着慣れた服を着たい気もするけれど、メイドさん曰く、この浴衣は戻さんがわざわざ私のために用意して下さったものだと言う。なら、浴衣を着ないのは失礼に当たるのでないだろうか。
迷った結果、綺麗に畳まれた浴衣に手を伸ばし、扉の向こうで待機してくれているメイドさんに手伝いをお願いし、なんとか浴衣を着ることに成功する。
脱衣場に用意された姿見で自分の姿を確認すると、久し振りに見た自分の浴衣姿にちょっとだけテンションが上がった。もう随分と着てなかったもんな。新鮮でちょっと嬉しいかも。メイドさんにお礼を言い、荷物を持って部屋にもどると、直ぐに自室の扉がノックされ、「苗字ー!いるかー??」と上鳴くんの声が。


『あ、うん。ちょっと待ってね』


一言返して、着替えを買ったばかりのボストンバッグに詰め込む。まさか林間合宿の前に出番が来るなんてバッグも思いもしなかっただろう。荷物を片付けた事を確認し、「上鳴くん、どうぞ、」と声をかけると、「開けるぜー」と言う声と共にゆっくりと扉が開かれた。


「失礼しまー………っ!!」

「苗字ももう風呂からあがって……………」

『あ、うん。今戻ってきた所なんだけど……?上鳴くん?切島くん??どうかしたの??』

「え!?あ、いや!その…浴衣!!」

『浴衣??』


部屋に入ってきたのは、上鳴くんと切島くんの二人だった。
私の部屋に一人で来るのはアレだから、気を使って二人で来てくれたのかもしれない。
入ってすぐ、何故か固まってしまった二人に首を傾げると、はっと意識を取り戻した上鳴くんが少し慌てたように声を上げた。あ、そう言えば二人も浴衣着てる。


『二人も浴衣借りたんだね』

「え、あ、お、おう!…………その、苗字も、浴衣……か、借りたんだな……」

『うん。用意して貰ってたみたいだし……折角だから着ようかなって。………あ、もしかして何処か変???やっぱり止めた方がいいかな?』

「「変じゃねえから!!!」」

『え、あ、そ、そう、かな……?』


声を揃えた二人の勢いに少し驚く。何度も何度もコクコクと首を縦に動かす二人に嘘は無さそうだ。「変じゃないなら良かった」とへにゃりと笑って安心すると、上鳴くんと切島くんは何故か再び固まってしまった。本当に変じゃないんだよね??


『あ、ところで二人とも何か用があったんじゃ…?』

「あ、……あ!そ、そう!!飯!飯行こうぜって伝えようとして!」

「さ、さっき執事の人がもう用意出来るてるからいつでも来ていいって教えてくれたんだよ!それで、苗字も誘って皆で行こうぜってなって……!」

『ああ、それで』


要件を理解して、二つ返事で頷き返す。「私はもうこのまま行けるよ」と言うと、「じゃあアイツらにも声掛けて行こうぜ!」と上鳴くんが言うので、そのまま三人で部屋の外に。切島くんが男子部屋に待機しているメンバーに声をかけると、部屋から出てきたのは緑谷くん、飯田くん、常闇くん、轟くんの四人で、「あれ?爆豪くんは??」と居ない人物について尋ねると、あー………アハハハハハ。と乾いた笑みを浮かべた緑谷くんが困ったように頬を掻いた。


「かっちゃんは、先に行くって言って聞かなくて……」

『あー……なるほど』

「たった数分も待てねえって、アイツ耐え症無さすぎだろ…」

「全くだ。爆豪くんには集団行動が何たるかを教えてやる必要がある!!!」


いや、それはそれで逆効果だろう。
ビシッ!と揃えた手で爆豪くんが消えたであろう廊下の先を示す飯田くんに苦笑いを浮かべていると、「まあとりあえず俺らも行こうぜ!」と空いたお腹に我慢出来なくなったのか、上鳴くんが歩き出した。そんな彼に続くように私も轟くんの隣に並ぶ形で歩き出せば、ふと何かに気づいたように轟くんの視線がこちらへ向けられる。


「……苗字も浴衣着たんだな」

『あ、うん。男子も皆着たんだね』

「いや、爆豪だけは頑なに着ようとしなかったぞ。めんどくせぇっつってな」

『……目に浮かぶよ…』


ハハ。と脱衣場から早々に退散する爆豪くんの姿を思い浮かべていると、変わらずジッと向けられる轟くんから視線に気づき、「?どうかした?」と覗き込むように首を傾げれば、おもむろに前を向き直した轟くんは、形のいい唇をゆっくりと動かした。


「似合ってる」

『っえ、』

「浴衣、似合ってる」


思いもよらぬ褒め言葉に思わず轟くんを凝視してしまう。まさか、彼からそんな台詞が出てくるなんて。こう言っちゃなんだけど、轟くんって人の服装だとか髪型だとかそういう変化に疎そうだと思っていたのに。
ポカンとした顔で見上げてくる私に、居心地悪そうに「…なんだよ?」と尋ねてくる轟くん。そんな彼の耳が僅かに赤くなっているのは気のせいだろうか。


『え、あ、いや。あの………まさか、轟くんが褒めてくれるなんて思ってなくて……。その…ビックリして……』

「俺だって褒める時は褒めるぞ?」

『あ……う、うん。そうだよね。でも、その、……こういう変化に敏感な方ではないかなあって、』

「……確かに、姉さんが髪切ったりしても気づかねえ事の方が多いな…」

『(やっぱり)』

「でも、さすがに浴衣着てりゃ気づくし、それに、」

『…それに…?』



「苗字にスゲエ似合ってるって思ったら、なんか、言いたくなったんだよ」



前を向いたまま歩く足を止めることなく発せられた言葉。
うわ。なにそれ。なんか顔が熱い。やっぱ轟くんって見た目だけじゃなくて言動までイケメンだ。
赤くなった顔を少しでも隠そうと少し俯く。「あ、…ありがとう、」とぎこちなくお礼を返せば、「いや、思ったこと言っただけだ」と当たり前のように返されるから、更にほっぺたに熱が集まる。

そんなやり取りをしているうちに、気づけば食堂に着いていて、「いらっしゃい」と朗らかに笑ってくれる戻さんに迎えられながら、赤くなった顔で慌てて席に着くことに。
先に来ていたという爆豪はふてぶてしい様で既に着席していて、私たちを見るなり「遅せえぞ!!!モブ共!!!!」と怒鳴り声を上げていた。


「まあまあ、爆豪くん落ちついて。…さて、全員揃った事だし、夕食にしようか」

「お待たせしてすみませんでした……!」


ニコニコと相変わらず人に言い笑顔を向けてくれる戻さん。ペコペコと何度も頭を下げる緑谷くんにも、「気にしなくていいよ」と気さくに笑ってくれる。ほんと、いい人だなあ。
戻さんの出来た人柄に感心している間に、どこからともなく現れたメイドさん達によってズラリと並べられていく料理たち。「うまそー!!」と上鳴くんが目を輝かせると、反応のいい彼に嬉しそうに笑った戻さんは、「さあ、存分に召し上がってくれたまえ」と食べるように促してきた。


「そ、それじゃ、お言葉甘えて……いただきまーす!!」

「いただきます!!」

『いただきます』


和洋折衷様々な料理に早速手を伸ばしたみんな。続くように目の前に合った麻婆豆腐を食べてみると、ピリリと感じる程よい辛さに「おいし、」と思わず呟いてしまう。


「うめえ!!スゲエ美味いっす!!」

「ランチラッシュにも負けてねえ!!」

「口にあって何よりだよ。食後にはデザートも用意してあるからね」

「デザート………りんご………」


右隣からポツリと聞こえてきた常闇くんの声。常闇くんってりんごが好きなのだろうか?
「りんご好きなの?」「ああ、好物だ」「果物いいよねえ。私もりんごとか梨とか好きだなあ」なんて他愛のない会話をしながら食事を続けていると、お腹いっぱいになる頃には食卓の上の料理は既に3分の1ほどに。もう食べれないなあ。なんて思いながら、変わらず箸を進めて行く男の子たちを見守っていると、そんな私に気づいた戻さんが声を掛けてくれる。


「苗字さんはもう食事は良かったかな?」

『あ、はい。……もうお腹いっぱいで……』

「はは、そうか。なら、一足先にデザートを準備させようかい?」


デザート。その言葉に、パンパンに膨れていた筈の胃に隙間が出来た気がする。「お、お願いします…」と尻すぼみの声で頼めば、くすりと笑った戻さんがメイドさんにデザートを持ってくるように声を掛けてくれた。
その後、メイドさんによって運ばれてきたアップルパイを堪能し、男の子たちもデザートまで完食して満腹なったところで食後のティータイムの時間へ。湯葉から入れられた美味しい紅茶にホッと一息ついていると、ブラックコーヒーの入ったカップをソーサーに置いた戻さんがゆっくりと私たちを見渡した。


「この後から明日の午前中は自由に過ごしてくれたまえ。昨日の訓練所も開放しておくから好き使ってくれていい」

「自由時間……ですか?」

「ああ。その代わり、明日の午後からはまた個性のデータ取りを。そして夕方からは船上パーティに出席してもらうよ」

「せ、船上パーティ…!!」


「すげえ!かっけえ!!」と嬉しそうに声を張り上げる上鳴くん。パーティって。お金持ちってすごいな。
「ドレスやスーツも用意してあるから、楽しみにしておいてくれ」と言い残すと、戻さんは仕事があるとかで自分の部屋へ。「俺達も戻るか」と轟くんが席を立ったところで、爆豪くんを先頭に全員で部屋へと戻ることに。

部屋の前で「おやすみなさい」とみんなと別れ、自分の部屋に戻って直ぐにベッドにダイブすると、長時間の移動か、慣れない場所か、はたまた個性を使ったからか。襲ってきた眠気に、あっという間に夢の中へと意識を落としたのだった。
MY HERO 32

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