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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
動かなくなったロボット達が地面に転がる。最後の一体を爆豪が爆破したところで、パチパチパチ!と1人分の拍手が聞こえてきた。


「いや、素晴らしい!!これまで様々な生徒を見てきたが、君たちはまた一段と有望な卵たちだ!!」


大袈裟とも言えるような褒め言葉に、「いやあ」と上鳴くんや切島くんが照れたように頬を掻いている。
個性確認のために用意された仮想ヴィラン達は氷漬けにされていたり、燃えカスになっていたり、感電していたりとボロボロだ。持ってきたヒーローコスに着替える間もなく戦ったため、私達も制服を汚してしまっている。ああ、早くお風呂に入りたい。


「咄嗟の判断力、行動力。共に素晴らしい!爆豪くんの個性は爆破だね?轟くんの個性は半半熱。常闇くんはダークシャドウという自身に宿した影を操るんだよね!そして飯田くんは脹脛のエンジン、上鳴くんは電気系の個性だよね??上鳴くんの電気は周囲の電力の操作系かい?それとも自身に留めた電力の放出系??」

「放出系っす!電気を帯電する事が出来るんすけど、俺自身に充電した電気を放つ事が出来ます!!」

「なるほど。今は電気系の個性は企業でも引っ張りだこだからね。ヒーロー界でも重宝されるだろう。……それで、実は一番気になっていたんだが……苗字さん、君の個性は瞬間移動かい?それともワープ系??」


上鳴くんに向けられていた視線がこちらに移される。
「体育祭の映像でもよく分からなかったんだよ」と興味深そうに見つめてくる戻さん。予想通りの言葉に「いえ、違うんです」と首を振るとどういう事かと言うように戻さんが首を傾げる。


『私の個性は、瞬間移動でもワープでもなくて、“時間停止”なんです』

「じかん……ていし?」


戻さんの顔色が変わる。そんなに私の個性が意外だったのだろうか。目を丸くした戻さんは「もっと詳しく教えてくれないか?」と詰め寄るように前へ。そんな彼に少し圧倒されながらもゆっくりと唇を動かす。


『えっと……私の個性時間停止は、私が息を止めている間は自分以外の人や物の時間を止められるんです』

「自分以外の時間を………そうか、だから周囲には瞬間移動したように見える…と……」

『もちろん許容時間はあります。使い過ぎると身体に負担も掛けるし…今の私じゃ、まだまだ個性を活用し切れてません』

「…それは、まだまだ伸び代があるってことだろ?」

『伸び代……』

「君も十分有望な生徒さ。将来が楽しみだよ」


穏やかに微笑んでポンッと肩を叩いてくれる戻さん。「ありがとうございます」と笑って返してはみたものの、ヒーローとして“有望”と言われてもあまり嬉しくないのが本音だ。けれど、そんな私の内心など戻さんが知るはずもなく、ゆるりと笑った彼は肩に添えていた手を下ろして、ゆっくりと皆を振り返った。


「さて、君達の個性は十分見せて貰ったし……夕食の前に風呂に入るといい。着替えも既に準備するように言っている。時間は気にせずゆっくり入ってくれ」


「疲れているのに、早速個性を見せてくれてありがとう」と言って施設から屋敷へ私たちを案内し始めてくれた戻さんの後に続く。戻さんが屋敷の中へ入ると、主人を迎えるために使用人であろう人々がズラリと並んで頭を下げる。
「ほ、本物のメイドと執事かよ…!」と呆けた顔をする上鳴くんに小さく笑っていると、戻さんがメイドさんの1人に何やら指示を出す。指示を受けたメイドさんは、「承知しました」と恭しく頷くと「それではまた夕食の時に」と手を振った戻さんを見送った後、私たちを振り返った。


「これより皆様をご案内させて頂きます。こちらへどうぞ」

「あ、は、ひゃいっ!!!」


深くお辞儀するメイドさんに上擦った声で緑谷くんが返事を返すと、早速メイドさんが屋敷の二階へと歩き出した。
見た目同様、やはり中もかなり広い。御屋敷自体は三階建てで、白い壁に赤い絨毯敷の床がよく目立つ。この屋敷を建てるのにどれだけの費用が掛かったのだろうか。サポート会社の社長をしていると相澤先生が言っていたけれど、かなりの資金力がある人物のようだ。きっと雄英にも相当の“支援”をしているのだろう。
屋敷の中を見ながら歩いていると、「こちらのお部屋でございます」とメイドさんの足が止まった。


「こちらが男性の皆様のお部屋で、お隣が苗字様のお部屋となります」

「隣同士なんすね」

「はい。苗字様のお部屋には鍵が付いておりますので、就寝の際はご利用ください」

『あ、あはは…。分かりました』


何もそんな釘を刺すみたいに言わなくても。部屋が隣同士であることを指摘した上鳴くんが少し居た堪れなさそうにしている。「お風呂の準備も出来てますので、ご利用の際は3階へどうぞ」とまた一つお辞儀をしたメイドさんにお礼を言い、それぞれ用意された部屋の中へ。

部屋の造りは極めてシンプル。そのシンプルさが逆に品の良さを感じさせ、まるで高級ホテルの一室のようだ。二つ並んだシングルベッドの一つに腰掛け、持ってきた荷物もベッドの上へと下ろす。部屋の窓から外を見れば、丁度日が沈もうとしているところで、暗い空に薄らと赤色が差している。
メイドさんがお風呂の準備もしていると言っていたし、早速入ってしまおうか。気怠い身体で立ち上がり、荷物の中からお風呂道具一式を持って部屋の外へ。
そのまま三階へと足を運ぶと待っていたようにメイドさんが現れ、風呂場へ案内される。女と書かれた赤の暖簾を潜って脱衣所へ入ると、その広さに目を丸くする。これ、家にあるお風呂っていうか、ただの温泉じゃないか。


「お着替えとタオルの準備はそちらにございますので、お上がりの際はお声をお掛けください。外に待機しております」

『え、待機って、なんで…?』

「お着替えは浴衣となっておりますので、お手伝いが必要かと、」

『ゆ、浴衣ですか??でも…自分で持ってきた着替えがあるので、』

「遠慮なさらず。ご主人様が苗字様のためにと用意されていたものです。どうぞお使い下さい」


「それでは、」とまたお辞儀をして脱衣場から出ていったメイドさん。ここで過ごす間、あと何回お辞儀を受けるのだろう。馴染みが無さすぎてやめてくれと言いたくなる。
まあ着替えについてはとりあえず置いておいて、お風呂に入ってしまおうと、汗と土で汚れた制服と下着を脱いで風呂場に向かうと、ぶわりと風が吹き付け再び目を見開く。


『これって……半露天風呂ってやつ??』


浴室に入って真っ先に目に映ったのは、正面に広がるオーシャンビューだった。屋根と左右の壁はあるけれど、正面の大きな窓は開け放し可能になっているらしい。浴槽の向こうに見える景色に思わず見惚れつつ、頭と身体を洗い終え、早速広い浴槽に入り海側へと移動すると、沈みゆく夕日が目に映りほうっと感嘆の息が漏れる。


『きれい……』


あまりに見事な景色についそう零した時、壁越しに聞こえてきた「すっげえ!!」「これがオーシャンビューってやつか!!」という声に、思わず声を上げる。


『か、上鳴くんと切島くん!?』

「え!?!?」

「ちょ、そ、その声、苗字!?」


「え?苗字さん!?」「な…!苗字くんだと!?」と他にも緑谷くんや飯田くんの声まで聞こえてくるところを見ると、どうやら男子全員が揃っていそうだ。
暖簾を見た限り、風呂場は隣合っていても確かに可笑しくはないし、海側の窓が全開になっていれば、声が聞こえるのも当然か。なんて一人で納得していると、「わ、悪い!!」と何故か切島くんが謝ってきた。


『?なんで謝るの??』

「え!?い、いや、それは…………あ、あれ…?なんで俺謝ってんだ??いや、けど、なんかこう申し訳なくて……」

「いやいや、つーかこれいいのか??声すげえ聞こえるけど??峰田が居たらあっという間に覗かれてるぞ!?!?」

『まあ…普段は戻さんやその家族が使うものだし…。仕切りもちゃんとあるから大丈夫じゃないかな??』


「手くらいしか見えないでしょ?」と外に手を出してヒラヒラと振ってみせると、「「「「「やめて/やめろ!!!」」」」」と何故か怒られてしまったので、慌てて手を引っ込めた。なんでだろ。


「苗字、お前もう少し危機感持った方がいいんじゃねえの?」

『轟くん。…んー…まあ峰田くんがいたらもう少し気をつけるかもだけど…。…それに、この景色を一人で見るなんて味気ないと思ってた所だし。素敵なものは、誰かと分かち合ってなんぼでしょ?』


「ね、」と壁の向こうに声を掛ければ、「確かにな」と轟くんの穏やかな声が返ってくる。
くすりと笑って水平線の向こうに消えようとしている太陽をじっと見つめる。銀朱色が暗い海と空を彩やかに染めていて、ゆっくり、ゆっくりと水平線に沈んで行った夕日を見送る。赤色が消えた空は、今度は真ん丸のお月様の仄かな光に照らされた。こんな美しい景色を見せて貰えるなんて、それだけでここに来た意味があったかもしれない。


『早速、夏休みの想い出が出来ちゃったね』

「そうだな」


壁越しに聞こえきた常闇くんの声はとても穏やかで、そのまま暫く夜空の下の温泉を楽しむ私たちだった。
MY HERO 31

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