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夏休み直前。
本日私たちは大型ショッピングモールに来ている。


「うおお!!スゲエ!デケエ!!!」

「ホントだねえ!」


わいわいと騒ぐ上鳴くんと透ちゃん。二人を先頭に、私や切島くん、瀬呂くんが後に続いている。

林間合宿に向けて必要な物を揃えるために皆で買い物に出掛けようと言い出したのは、確か透ちゃんだっただろうか。
みんなが乗り気の中、切島くんに誘われていた爆豪くんだけは下らねえ!と言うように顔を顰めていた。
ちなみに、私も轟くんに声を掛けたところ、週末はお母さんのお見舞いに行くとのことらしい。


「緑谷にも声かけられたんだが……悪いな、折角誘ってくれたのに」

『ううん、気にしないで。会いたいと思える人に会える時間は大切にして欲しいし…なにより、轟くんがそんな風にお母さんに会えるようになって嬉しいし』

「…苗字は、優しいな」


「今度昼飯でも奢る」と轟くんは言ってくれたけれど、気にしないでいいと首を振って断れば、轟くんは少し残念そうに眉を下げていた。
轟くんとのやり取りを思い出していると、お目当ての店を見つけた透ちゃんと上鳴くんが店の中へ。後で合流する約束をして二人と別れてモール内を歩き出すと、漸く私たちの探していた店が現れる。


「お、あったあった!」

『結構広いね……。瀬呂くんと切島くんは何が欲しいんだっけ??』

「俺はー…新しいリュックが見てえかな」

「俺はボストンバッグ!」

『私もボストンとか大きめのカバンが見たいな』


「なら、俺はアッチ見てくるから後で合流な」と軽く手を挙げて歩いて行った瀬呂くんを見送り、私と切島くんも旅行用カバンコーナーへ。目的や用途に併せた様々な種類のカバンが用意されていて、何から見ようか迷ってしまう。キョロキョロと店内を見回していると、「お!これいいな!」と切島くんが足を止めた。


「見た目もかっけえし、サイズもデケエ!」

『ホントだね。これなら、林間合宿の荷物も入りそう』

「俺はこれにすっかなあー。苗字は?なんかめぼしいもんあったか??」

『んー……それが、これだけ色々あると目移りしちゃって…。時間掛かりそうだし、切島くんは瀬呂くんと合流して皆のところに戻っていいよ?』

「いやいや!苗字が選ぶのにも付き合うよ。女子一人にすんのもアレだし」


気を使わせてしまっている。でも、こうして付き合うと言ってくれているわけだし、断るのも悪いだろう。「じゃあ、一緒に選んでもらっていいかな?」と眉を下げてお願いすると、もちろん!と言うように切島くんは笑って大きく頷いてくれる。

あれはどうだ。これもいいんじゃないか。
ブラブラと歩きながら二人で店内の商品を吟味する。そう言えば、男の子とこんな風に買い物するの初めてかも。隣を歩く切島くんを横目で見上げると、その視線に気づいた切島くんが「どうした?」と首を傾げる。


『なんか、こんな風に男の子と買い物する初めてだなあって』

「え?…あ、あー……確かに俺も女子と二人で買い物とかしたことねえや」

『なんかデートしてるみたいだよね』

「えっ!?!?」


ギョッと目を丸くして固まる切島くんは、みるみる顔を真っ赤に染め上げていく。もしかして、デートなんて言い方したのが不味かっただろうか。


『き、切島くん??大丈夫??もしかしてデートみたいとか言って怒った??』

「え!い、いや!全然!!怒ってねえから…!ほ、ほんと!マジで怒ってるとかねえし!ただ、」

『ただ?』

「……“みたい”でも、デートとか言われて……その……照れただけっつーか……」


「だせえよな」と自嘲気味の笑って顔を背けた切島くん。「そんな事ないよ」と緩く笑って首を振ってみせれば、逸らされた視線がゆっくりと戻ってくる。


「いや、けど、たったそれだけで動揺するなんてカッコ悪くねえか??」

『そうかな?“カッコ悪い”の基準は分からないけど…でも、切島くんは、カッコ悪くなんてないよ。すごく、すごくかっこいい人だって私知ってるよ』

「か、……っこいいって………俺が?」

『うん、かっこいいよ。前にも言ったでしょ?うちのクラスの皆はすごく、すごくかっこいい人達ばっかりだって』

「そりゃ、クラスの奴らはみんなスゲエ奴らばっかりだぜ?爆豪とか轟くんみたいに派手な個性で活躍する奴らはもちろん、他にもサポーターとして力を発揮出来る梅雨ちゃんとかもいるし……」

『そういう所だよ、切島くん』

「え?」


少し間の抜けた声を漏らした切島くんがパチパチと瞬きを繰り返す。確かに、爆豪くんや轟くんは個性も派手だし、体育祭で1位、2位になれる実力も持ってる。でも…いや、だからこそ、当たり前のように二人の力を認めてすげえ奴らだと言えることがどれほど“かっこいい”事か切島くんからすればきっと分からないのだろう。


『クラスメイトって言っても、ライバルはライバルでしょ?でも、切島くんは、自分が競い合う相手だとしても皆のことをちゃんと認めてる。妬みとかそういうのなしに。
それに、あの爆豪くんでさえも切島くんには気を許してる。それって相手を認めるだけじゃなくて、誰かに認められる力もあるってことだよ。だから、切島くんは“かっこいい”人だよ』


入学から約3ヶ月。たった3ヶ月ではまだ知らないことも沢山ある。でも、その短い時間の中でも切島くんや皆の素敵な所を知ることが出来た。だから言える。彼はカッコ悪くなんてない。とても、かっこいい人だと。
驚いたように固まる切島くんの瞳を覗き込んで、ね?と笑ってみせれば、切島くんの頬っぺたがほんのり赤く染まっていく。


「……さんきゅー、苗字」


柔らかく目を細めて笑う切島くんに笑って頷き返せば、嬉しそうに頬を掻いた切島くんは止めていた足を再び動かし出したのだった。

それから、また二人で店内を見て、気に入ったカバンを購入してから店を出ると、モールの広場には警察官が集まっていた。何事かと慌てて二人で下へ戻ると、緑谷くんやお茶子ちゃんが何やら警官と話をしているところで、聞けば二人はUSJ事件の時に襲撃してきた死柄木と遭遇したらしい。
目立った怪我はないものの、事情聴取のため緑谷くんは警察署へ。モールも封鎖されるため、私達もその場で解散となった。

どうして死柄木がこんな所に来ていたのかは分からないけれど、ヴィランであるあの男が、ただ買い物に来たとも思えない。アイツは、簡単に人を殺せる人間だ。そんな奴と遭遇したにも関わらず緑谷くんとお茶子ちゃんが無事だったのは不幸中の幸いと言うべきだろう。
電車に揺れる帰り道。思い浮かべた死柄木の姿が酷く曖昧なものだったのは、単に覚えていなかったからか、それとも、思い出したくない存在だったからなのか。そのどちらなのかは分からなかった。
MY HERO 29

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