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筆記試験の全日程が終わり、いよいよ私たちはヒーロー科の演習試験の日を迎えた。
ズラリと並ぶ先生たちに目を細める。拳藤さんの話では、通年期末試験はロボによる実践演習である筈。なのに、どうしてこんなに“ヒーロー”が集まっているのだろうか。
その疑問は、校長先生によって直ぐに解消される。


「残念!!諸事情あって今回から内容変更しちゃうのさ!」

「校長先生!」

「変更って……」


ひょこ!と相澤先生の捕縛布から現れた校長先生。変更、と言うことは今回の相手はロボでは無いということ?それにこの先生たちの数。まさか。


「これからは対人戦闘・活動を見据えたより実戦に近い教えを重視するのさ!というわけで…諸君らにはこれから……


二人一組で、ここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう!」


戦闘。先生たちと。つまり、プロのヒーローと。
その場の空気に緊張が走る。皆の顔が強ばっていく。
既にペアと対戦相手の先生は決まっているらしく、早速相澤先生によって組み合わせが発表される。うちのクラスのは21人。二人一組のペアを作るとなると一人余る。戦闘訓練の時のようにどこかの組は三人になるのだろうか、と考えていると、あっという間にペアの発表が終わる。あれ?私の名前呼ばれた??


『あ、あの、相澤先生、私のペアの相手は……?』

「……苗字、お前は特例だ」

『特例…?』

「お前には一人で挑戦してもらう」

『………はい?』


今、なんて言いました??




***




「さて…今日は激務になりそうだ」


リカバリーガール先生の言葉にモニターに映る皆へと視線を向ける。演習試験の為に用意された出張保健所では、怪我した生徒たちの様子を見るために多数のモニターが設置されている。
皆が試験の準備に入る中、どうして私だけここに居るのか。理由は、私の試験監督となる“プロヒーロー”がまだ到着していないことにある。


“お前には一人で挑戦してもらう”


相澤先生からそう聞かされた時、最初は聞き間違いかと思った。クラスの皆も「苗字が一人??」「え、さすがにそれは…」と戸惑っていたし、普通に考えればプロと学生での1VS1なんて結果が目に見えすぎている。けれど、今回の試験内容においては違うらしい。
今回の実技試験では、二人一組となった生徒たちのどちらか一人がこのステージから脱出する、もしくは、相手の先生にハンドカフスを掛ける。このどちらかを達成することで“勝利”となるのとのこと。どちらの“条件”を達成するのかは本人たち次第。果敢に先生たちに挑むもよし、敵わないとみて脱出を目指すもよし。つまり、その判断力も問われているのだろう。なんともいやらしい。
ではなぜこの試験内容において、私は一人で受ける事が決まったのか。それは私の“個性”が関係してくる。


「苗字の場合、“脱出”を選択すれば高い確率で“逃げる”事が出来る。もちろん相手の力量によっては逃げることもまた必要だ。だが、“ソレ”だけじゃ困る」

「我々は、君を強いヒーローに育てる為にサポートをする義務がある。だからこそ、君の成長のためにも、今回の試験では君には一人で受けてもらい、かつ、勝利条件もハンドカフスを掛けるという一つに絞ることにしたのだ」


相澤先生と校長先生の説明はもっともだった。
私の個性“時間停止”は、時間を止めている間は自分以外の人やモノの動きを止められる。つまり、その間に脱出口へと向かえば、合格確実だと言うこと。しかし、それでは“試験”の意味が無い。今回の演習試験、おそらく組み合わせはテキトーなんかじゃない。生徒たちはそれぞれ、各々が苦手とする相手を宛てがわれている。そして、私の場合の苦手は“攻撃”だ。この“苦手”を克服するためには、一時停止の個性を“逃げる”ために使っていては意味が無い。
詰まるところ、先生たちは私に苦手な“攻撃”を克服して欲しいと思っているのだ。そこまで分かっていて、なお試験内容に意義を唱えるほど馬鹿ではない。
1体1の試験。それと、カフスがないため戦闘は避けられないはず。わざわざ“先生”ではない相手を外部から呼び寄せるなんて、一体どんなヒーローが相手になるのだろうか。


「おや、そろそろ始まるみたいだね」

『あ……』


自分の試験について悶々と考えているうちに、皆所定の試験会場へと辿り着く。それぞれ試験開始の合図に備えて、身を構えたその時、


“レディイイイイイイイ―――………スタート!!!!”


期末試験最後の科目、実技演習が始まった。
モニターに映る皆がそれぞれ動き出す。今回の試験において、明確な合格ラインは示されていない。けれど、夏休み前のこの試験で赤点を取った者は林間合宿に行けない、と相澤先生に脅されている以上、林間合宿に参加したい皆からすれば是が非でも勝って試験を終えたい筈だ。


「おやまあ……緑谷のとこはアレ大丈夫かい?」

『……緑谷くん、爆豪くん………』


どの“ヒーロー”が相手であろうと甘くないのは確かだけれど、やはり一番心配なのは緑谷くんと爆豪くんのチームだろう。開始早々何やら衝突している二人。そんな隙を天下のNO.1ヒーロー様が見逃すはずもなく、いつの間にか現れたオールマイト先生が二人に向かって突っ込んでくる。
逃げようとする緑谷くんと、そんな彼とは反対に怯むことなく向かっていく爆豪くん。全く正反対の動きをする二人に思わず顔が歪む。

最悪のチームワークだ。

元々幼馴染にしては随分と険悪だとは思っていたけれど、まさかここまでとは。
オールマイト先生の攻撃をモロにくらった爆豪くんが、胃の中のものを全て吐き出す。いくらなんでも加減がなさすぎるのではと口を手で覆えば、「全くアイツは…」と呆れたようにリカバリーガール先生も首を振る。
しかし、そんな私たちの思いなど露ほども知らないオールマイト先生が再び爆豪くんに手を伸ばそうとした。
その時だった。


「負けた方がマシだなんて――…君が言うなよ!!!」


何やら叫びながら、フラフラの爆豪くんの頬を思いっきり殴った緑谷くん。吹き飛んだ身体を抱え、緑谷くんは先生から距離をとるために走り出す。そこで一度カメラは二人の姿を失い、暫く誰もいない映像が流れる。とりあえず、まだ不合格にはならなさそうだ。良かった。
ホッと息を吐きながら、他の組の様子を見てみると、轟くんと百ちゃんのペアは丁度相澤先生に見つかり、轟くんが吊るし上げられている所だった。二人捕まってしまえば即終了。それを避けるべく走り出した百ちゃん。けれど、直ぐに相澤先生に見つかった彼女は、なんとかその場を乗り切ると、再び轟くんの元へと逆走してしまう。
百ちゃんが轟くんの元へ辿り着くと、何やら会話をし出した二人。その後ろにはまた相澤先生が迫ってきている。スピーカーがないため何を話しているのかは分からない。でも、轟くんが百ちゃんに何かを伝えた瞬間、彼女の顔から“迷い”が消えた。


「あります!轟さん!私、ありますの!

とっておきのオペレーションが!!」


先生を閃光弾で退けた百ちゃんが轟くんの拘束を解く。
走り出した二人を視界を取り戻した先生が追い掛けたものの、先生の“個性”のスキをついた轟くんが大氷壁を作り出し、二人は先生から隠れることに成功した。

その後の展開は見事だった。

布隠れたように見せかけて、先生の捕縛布をなんとか切り抜けた百ちゃん達は、後ろへ飛び退いた先生を、自身の個性で作り出したのだろう特別な捕縛布で縛り上げてカフスを付けることに成功したのだ。
合格者が出た瞬間、演習場のスピーカーから合格となったチームの発表がある仕組みらしく、百ちゃん達の合格を知った皆が少し焦りを見せる。あ、そうだ、緑谷くんたち。彼らはどうなっているのだろうか。
視線を緑谷くんたちが映るモニターに移した時、目に映ったのは、


『っな…………!!』


ボロボロになった緑谷くんと爆豪くんが、オールマイト先生に捕まっている姿だった。
MY HERO 25

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