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「#エロ」のBL小説を読む
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期末試験の期間は計4日。3日間の筆記試験プラス演習試験で構成されている。
今日は筆記試験一日目。ヤオモモのおかげもあり、本日のテスト用紙に空欄はない。出だしはかなりいい。これ、もしかするともしかするんじゃね??クラス最下位免れちゃうんじゃね???
とは言え実の所勝負は明日だ。俺の一番の敵、古文が待っているのだ。明日も試験である事を考えると、さすがにヤオモモに今日まで勉強を見てもらう訳にはいかない。しかし家に帰ったところで一人で勉強が捗る気も全くしない。


「図書室にでも行くかなあ……」


独りごちりながら図書室へと向かう。図書室とかそういう静かな場所って苦手なんだけど、背に腹はかえられない。これも林間合宿を皆と行くためだ。うん、頑張れ俺!!
荷物を持って図書室に入ると、結構な人数の生徒が既に席を埋めている。これ、座るとこあるか??とキョロキョロと図書室内を見渡すと、ふと目に付いた一人の人物にお!と目を輝かせる。


「苗字っ、ここ、いいか??」

『上鳴くん?あ、うん。どうぞ、』


これ幸い!とばかりに、目に付いた苗字の元へと駆け寄り、向かいの席に座っていいか尋ねると、フワリと微笑んで頷かれる。ああ、癒されるわあ。
ほっと息をつきながら席に腰掛ける。明日の試験科目の勉強道具一式を机の上に揃えてみたものの、何から手をつけていいか迷ってしまう。…いや、ここは素直に苦手な古文からするべきだろう。思いため息を吐いて古文の教科書に手を伸ばす。同じ日本語であるはずなのに、古文とはどうしてこう分かりにくいのだろうか。


「(……げ……ここノート取ってねえ!!!)」


教科書の小難しい文とノートの訳を見比べていた時、思わぬ失態に気づいてしまった。本来であれば訳を書いていなければならない場所にあったのは歪なミミズ文字。寝てたのか。寝てたのかよ過去のおれ!!つかなんでヤオモモん家で気づいて……あ、そうだ。あの日俺ノート忘れてたんだった!!
ノートのミミズ文字を睨みながら、本来そこにあるべき訳をなんとか思い出そうとしてみたけれど、哀しいかな、俺の脳みそは忘れたことを思い出す事が出来るほど高性能ではないのだ。教科書約1P分。テストにどこか出るのかなんて分からない訳だし、このページはいっそ諦めて、


『山桜のようなあなたの美しい面影が私の身から離れません』

「へ??」

『その和歌の意味、考えてたんじゃないの??』


向かい側から聞こえてきた柔らかい声。
周りを気遣ってか、ボリュームの下げられたその声にあー…と頬を掻くと、キョトンとした顔の苗字がどうしたの?と言うように目を瞬かせた。


「実は……和歌どころかこのページ全部訳書いてなくて……」

『ぜんぶ??なんで??』

「…………過去の俺は睡魔に勝てなかったらしい……」

『………寝てたんだね……』


言い返す言葉も無い。う、と言葉を詰まらせ肩を縮こませれば、呆れたようにため息をつかれる。くそ!何やってんだよ過去の俺!!!そう昔の自分を責めようとした時、スっと向かいから差し出された綺麗なノート。あれ、これって、


『写していいよ』

「え!?マジで!?」

『しー!!……まあ、授業中眠くなる気持ちは分かるし……』


仕方なさそうに笑う苗字の後ろに後光が見える。
「ありがとう!!苗字!!」とつい声を大きくすると、しー!と人差し指をたてた苗字と周りの生徒に睨まれてしまった。やべえ、ここ図書室だったわ。
貸してもらったノートを受け取り、慌てて自分のノートに書き写す。ありがとう苗字。やっぱお前は女神だわ。入試の時も助けてくれたし、この前も水族館の割引券くれたし。
あ、そういや水族館と言えば、


“切島くんに、怪我がなくて、本当によかった………!!”


細い肩を揺らして、切島の胸に縋りついた苗字。
ナイフだった。なんの仕掛けもない変哲なナイフ。苗字はそれに怯えていた。怯えて、動けなくなっていたのだ。おかしくはない、のかもしれない。いくらヒーローを目指しているからってナイフを向けられて怯えないのが当然じゃない。でも、あの時の苗字は異常だった。切島の個性も忘れてしまうくらい、苗字は動揺していた。


「(…時々、なんかこう……雰囲気変わる時あるよな…)」


向かいの席で黙々とペンを走らせる苗字に視線を向ける。苗字はいつも穏やかで、笑うとフワッて音がする。でも、たまに、すげえ辛そうな顔をする。チアガールの服を着ていた時然り、この前の水族館然り。
なんでそんな風に辛そうに、苦しそうにしているのか分からない。分からないけれど、でも、苗字にはそういう顔が似合わないことは俺でもわかる。


“だからさ、普段は、上鳴くんの“可愛い”って台詞はしまっておきなよ。それでさ、もし、本当に上鳴くんにとって大切な子が出来た時……その時は、心を込めて言ってあげたら?”


水族館に入ってすぐ苗字に言われた言葉。
あんな風に言えるのは、苗字自身が誠実なやつだからだろ。入試では助けてもらい、水族館では助言をされ、オマケに今日はノートを貸してもらっている。苗字からすれば、多分俺なんて頼りになるとは思えないだろうけど、でも、


「……ノート、さんきゅー」

『あ、うん。どういたしまして』

「すげえ助かったわ!……だからさ、もし苗字が困ったことある時は言ってくれよな?」

『え?』


でも、そんな俺にでも苗字のために、誰かのために出来ることがあるなら、


「俺でよければ、いつでも手え貸すからさ!」


笑ってそう言った俺に、苗字の瞳が小さく見開かれる。「…ありがとう、上鳴くん」と苗字は笑ってくれたけれど、その笑顔がどこか寂しげに見えたのは、どうか俺の気の所為であって欲しい。
MY HERO 24

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