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「だから違えっつってんだろ!!!よく見ろボケナス!!!こっちの問題にはこの公式使うんだよ!!!!」

「わ、悪い!!」


テスト前の週末。私と切島くんは、爆豪くんの家近くにあるファミレスを訪れていた。
バシバシと丸めた教科書で切島くんの頭を殴る爆豪くんを、怪訝そうに店員さんが見つめている。可哀想だし、あと店員さんの視線が怖いのでそろそろやめてあげ欲しい。

教え殺してやる、という約束通り、私たちの勉強を見てくれている爆豪くん。初めはいつ彼の爆破が飛んで来るのかとヒヤヒヤしていたものの、教えて貰っているうちにその心配が杞憂だったことに気付かされる。
爆豪くん、見かけに寄らずかなり教えるのが上手いのだ。そのおかげで、一度聞けば大体の問題は解く事ができるように。まさか彼にこんな素質があったなんて。けれど、切島くんは爆豪くんの説明を聞いてもよく分からない所があるらしく、先程から何度か爆豪くんに頭を叩かれているのだ。


「くっそー……なんか爆豪、俺にだけ当たり強くね??」

「あ?てめえが一発で理解しねえからだろうが!!」

「ぐっ……!反論できねえ………!!つーか苗字が普通に勉強出来るだけなんじゃ……?」


「苗字って中間何位だったんだ?」という切島くんペンを動かす手を止める。


『わたし??9位だったよ』

「え!?まさかの10位圏内かよ!!普通に勉強出来る方じゃん!!」

『いやあ……爆豪くんとか百ちゃんとか飯田くんがいるのに、“出来る”なんて言えないよ……。それに、苦手科目は中々点数取れないし、』


苦笑いで答えた私に、「あー……」と切島くんが言葉を濁す。うちのクラスの座学トップ5と比べれば、9位なんてむしろ“出来ない方”と捉えられても可笑しくないのではなかろうか。
「喋ってねえで手え動かせや!!!」という爆豪くんの声に「「はい!」」と2人で返事をして、慌ててまた問題との睨めっこを始める。現在、私と切島くんは数学を教えて貰っているところなのだけれど、この数学が私の苦手科目だったりする。けれど、爆豪くんのおかげでいつもの数学問題集を解くスピードがあがり、調子よく頁を進めていたのもつかの間。


『(………あれ、この問題って……)』


スムーズに動いていた手が止まる。今までの問題とは少し違う系統の応用問題だ。これ、どの公式が使えるんだっけ?
爆豪くんに聞こうにも、集中して自分の課題を進めている彼の邪魔をするのは申し訳ない。もう少し自分で考えてみようと、参考書に手を伸ばした時、


「教科書、52ページの公式」

『っえ?』

「さっきの応用と似てるけどちげェ。問題文よく読め。引っ掛けだ」

『あ………』


トン、と問題文の二行目あたりを指す彼に“引っ掛け”の意味が漸く分かる。「要らん気い使ってんじゃねえよ」とこちらを見ずに言う爆豪くん。どうやら躓いていた事に気づかれていたらしい。「ありがとう、」と笑って爆豪くんを見たけれど、相変わらず問題を解き続ける爆豪くんは問題集から顔を上げることさえない。なんとも彼らしい。
「返事くらい返してやれよー」と切島くんが苦笑いで言うと、「うっせえわ!!!」と目を吊り上げた爆豪くん。あ、顔上げた。


「爆豪って色々残念だよなー」

「んだと…!!!誰が残念だクソ髪!!!!てめェの頭の出来の方がずっと残念だ!!!!」

「そこだよ、そこ!せめてもう少し口がよけりゃ、人望も集まるかもしれねえのによー」

『確かに……。それに爆豪くんって顔立ちも整ってるのに、こう……眉間に皺寄せて怖い顔してる事も多いもんね』


「勿体ないねー」と口にしながらオレンジジュースの入ったグラスに手を伸ばすと、ピタリと動きを止めた切島くんがどこか焦った様子で声を上げる。


「え!?あ、いや、確かに爆豪は見た目もカッケエ部類に入る…と思わなくもないけど……。苗字から見たら……つーか、じょ、女子から見るとそう……なのか??」

『え?そうじゃない??轟くんとか爆豪くんって系統違うイケメンじゃない?』


「中学の時とかモテたでしょ?」と爆豪くんに話を振れば、不快そうに顔を顰めた爆豪くんがチッ!と大きな舌打ちを打つ。なんか私、爆豪くんによく舌打ちされているような。


「なんだんな話、てめえらにしなきゃなんねえんだよ!!」

「告られたりした事ねえのか??」

「あるわ!!!知らねえモブ女どもに呼び出されてこっ酷くフってやったわ!!!」

『あ、やっぱりあるんだ』


予想通りの答えに小さく笑う。言動は荒っぽいし、目つきも鋭い。眉間に寄る皺で強面さも増しているけれど、いつでも真っ直ぐな赤い瞳はとても鮮やかだ。それに、鼻は高いし、肌も羨ましいくらい綺麗だし、鍛えているから身体だって筋肉質で逞しい。きっと彼も、そして轟くんも、一目惚れされてきたのは一度や二度ではないだろう。
「上鳴や峰田が羨ましがりそうだな」と笑う切島くん。上鳴くんは高校では彼女作る!!って言ってたし、確かに羨ましがりそうだと騒ぐ二人の姿を思い浮かべていると、「何が羨ましいんだよ」と心底面倒だとばかりに爆豪くんは顔を歪めた。


「??なんだよ爆豪、お前嬉しくねえの??」

「嬉しいわけあるか。よく知らねえ女から好きだのなんだの言われても気持ち悪さしかねえっつーの」

『きもちわるい……』

「だから言い方………」

「キモいだろうが。顔も名前も知らねえ相手に好きだって言われて何が嬉しいんだよ。俺の事何にも知らねえくせに、好きだなんて言われる筋合いねえっつーの」


あ、それはなんか分かるかもしれない。
一目惚れ。と言うものを悪く言うつもりはない。第一印象で相手に想いもを寄せる人もきっといるだろう。
でも、見た目だけ告げられる“好きだ”という言葉と、中身を知ってから“好きだ”と言われる言葉はやはり重みが違うのではないだろうか。
「一目惚れでも普通に嬉しいけどなあ」と言う切島くん。誰かに寄せられる好意を悪く思う人の方が少ないだろう。


『じゃあ、爆豪くんの事を丸ごと好きになってくれる人がいたら嬉しいってことだね』

「あ?」

『爆豪くんの、口が悪くて、目つきも悪くて、態度も粗暴で、』

「喧嘩売っとんのか!?」

『……でも、強い意志や高い志があって、意外と冷静で、こうして私たちの勉強を見てくれたりもして……そんな所まで全部知って、爆豪くんの事を想ってくれる人が現れるといいね』


ニッと歯を見せて冗談っぽく笑った私に、スっと目を細めた爆豪くんはまた問題集へと視線を戻した。


「…………………んなもん今は必要ねえわ」

『そっか。今はヒーローになる事が何より大切だもんね』


爆豪くんに倣うように問題集に戻ろうとすると、ふと隣に座る切島くんが何やら複雑そうな表情をしている事に気づく。「切島くん?どうかしたの??」と声をかけると、ハッと意識を戻した切島くんは「なんでもねえ!!」と首を振ると慌てた様子でシャーペンを握り直したのだった。
MY HERO 23

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