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「えー…そろそろ夏休みも近いが、もちろん君らが30日間1ヶ月休める道理はない」

「まさか……」

「夏休み、林間合宿やるぞ」

「知ってたよー!やったー!!!」


わ!と嬉しそうな声があがる。
「肝試そー!!」「風呂!!」「花火」「風呂!!」「カレーだな…!」「行水!!」と楽しみだとばかりに合宿行事を思い浮かべる三奈ちゃんたち。峰田くんの一人外れた思考は皆スルーらしい。
そこに水を刺すように「ただし、」と低い声を出した相澤先生。その声に騒いでいた皆がピタリと止まり、誰かがゴクリと息を飲んだ。


「その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は……学校で補習地獄だ」


ヒッ!と小さな悲鳴が三奈ちゃんからあがる。「みんな頑張ろーぜ!!」と拳を握った切島くんが声を張ったところでちょうどチャイムが鳴り、授業が終わる。
教室から相澤先生が出ていくのを見届け、各々席を立つ。私も自分の席から女子陣の集まっている梅雨ちゃんの席に移動することに。皆それぞれで林間合宿の話題で盛り上がっていると、「おやおやおやー??」と突然廊下から聞こえてきた声。誰だ?と声の方を見ると、教室の前方の出入口に居たのは、B組の彼。


「何を騒いでいるのかと思えば……林間合宿???まさか君たち、全員で林間合宿行けるつもりか!?!?」

「あ、この人ってたしか……」

「B組の物間ちゃんね」


騎馬戦の時、やたらと爆豪くんに突っかかっていた彼は物間くんというらしい。「相澤先生から聞いてないのかな??赤点は林間合宿行けないんだよ!!」と嬉嬉として声を上げる物間くん。彼は一体何しに来たのだろうか。


「今聞いたよ!だから、赤点回避するよう頑張ろうぜ、った話してたとこ!」

「回避出来るといいねえ……問題児くんたち!…いや、たとえ赤点回避出来ても、林間合宿までの間にまた問題起こしたら、合宿参加出来なくなっちゃうかもよー???せいぜい気をつけてよね!!僕らの林間合宿を潰さないように!!!」

「なんなんだ、こいつ……」


うげ、と顔を顰める上鳴くん。その気持ちよく分かる。彼はあれか。爆豪くんの暴言がデフォのように、物間くんは、A組を煽るのがデフォなのか。
呆れたように全員で物間くんを見つめていると、廊下から「誰か拳藤よんでこーい!」という声が聞こえてくる。拳藤さんって、たしか百ちゃんが職場体験先が同じだったって言ってた子だっけ?


「つーかよ、俺らだって別に問題起こしたくて起こしてるわけじゃねえし??」

「だよねー。USJの時だって襲われてかなりビックリしたもんね」


物間くんの物言いに、少しムッとしたのか三奈ちゃんと瀬呂くんが言い返すと、ハッ!と鼻で笑った物間くんはふてぶてしく腕を組んでみせる。


「そう。その通り!君たちがヴィランに襲われたのは偶然だ……!だから君たちに集まる注目も偶然の産物。もし、もしUSJでヴィランに襲撃されたのがB組だったら………その注目は僕らが得ているものだったんだ!」

「…あのなあ!」


さすがにカチンと来たのか、切島くんがガタッと音を立てて席を立った。けれど、何かに気づいた切島くんは目を見開いて動きを止める。「ちょ、苗字…?」と不思議そうに呼ぶ声を背に受けながら、真っ直ぐに入り口から出て物間くんの元へと歩いて行くと、近づいてきた私に一瞬目を丸くした物間くんはすぐ様また不敵な笑み浮かべて「何かな?」と惚けたように尋ねてくる。


『……ヴィランに、』

「うん?」

『ヴィランに襲撃されたのがB組だったら………?そんな、………そんなふうに………………っ自分たちが襲われたかったみたいな言い方しないで…!!!!!』

「っ!」


パァアン!と乾いた音が廊下に響き渡る。
何が起きたのか分からないと言うように目を丸くした物間くんは、ぱちぱちと瞬きを繰り返すと、叩かれた頬を抑えて呆然としている。
まさか手を上げるとは思っていなかったのだろう。慌てた様子の皆が廊下に飛び出してきた。「何をしてるんだ!苗字くん!」と焦った様子で私の肩を掴む飯田くん。けれど、その声に応える余裕はなく、ジンジンと痛む手のひらをギュッと握りしめた。


『あの時、私たちがUSJって助かったのは運が良かったから……!一歩間違えれば皆今ここに居なかったかもしれない……!!もし、……もし仮に、B組のあなた達が襲われたとして、無事で済んだっていう保証がどこにあるの!?!?襲われたのがあなた達で、その時誰かが………物間くんが、傷ついたりしたら…………っ悲しむ人が、いるんだよ………!』


情けなく震えた声が廊下の空気を揺らす。
目の前の物間くんは目を丸くしたまま固まっている。

偉そうに、何言ってるんだろ。私。

でも、止められなかった。物間くんの言葉を聞いた時、どんどん頭に血が上っていって、気づいたら物間くんの頬を思いっきり叩いていたのだ。
「何してるんだ!お前ら!!」とどうやら騒ぎを聞き付けたらしいB組の先生と相澤先生が駆け寄ってくる。事情を聞いた相澤先生は、スっと細めた瞳で私を捉え、「苗字、お前は職員室に来い」という先生の言葉に、無言のまま私は先生の後に付いていった。



***



「……話は聞いた。物間の奴にも非はある」


「すまなかったな、苗字」となぜか謝罪をしてくるB組のブラド先生。首を振り、「悪いのは私です」と小さな声で返すと、「ああ、そうだな」と酷く冷静な声が相澤先生から向けられる。


「手を上げたのはお前だ、苗字。いくら物間の言葉の選び方が悪かったとしても、手を出していい理由にはなんねえぞ」

『………はい。…すみません、でした……』

「俺に謝ってどうすんだ。………お前には反省文を書いて貰うぞ。あと、物間にもちゃんと謝れ」

『はい………』


「失礼します、」とひと言告げて職員室を後にする。深く長いため息を吐き出してから、重たい足取りで教室へと向かう。今は授業中。となると、物間くんに謝るのは、この授業が終わってからだろう。
プレゼント・マイク先生の英語の授業が始まっている中、後ろ側ドアからこっそりと教室へ入ると、私に気づいた皆の視線がチラチラと向けられる。ああ、居た堪れない…。出来るだけ音を立てないように自分の席へ座ると、斜め前に座る轟くんが音を立てずに唇を動かした。

“大丈夫か?”

そう、確かに動いた轟くんの唇。どう考えても私が悪いのに、それでも気遣ってくれるなんて本当に優しい。苦笑いを浮かべながら小さく首を縦に動かすと、ふっと一つ笑みを零した轟くんはまた視線を黒板へと戻した。

その後は大人しく授業を受け、チャイムと同時に「See You Next Time!!!」とキメ顔で教室を出ていく先生を見送ってから自分も席を立つ。「あれ?名前ちゃん?またどっか行くん??」と声を掛けてきたお茶子ちゃんに、「B組に……」と力なく笑い返すと、あー…と何かを察したようにお茶子ちゃんが眉を下げた。


『物間くんに、謝ってくる……』

「そっかあ……ついて行こうか??」

「あ!なら、私も、」

『え、でも悪いし……』

「けど、一人でB組行くの心細くない?」


…正直、かなり心細い。少し悩んだけれど、ここは、お茶子ちゃんと三奈ちゃんに甘えてしまおうという事で、二人に付いてきて貰うことに。更にそこに「学級委員として!俺も一緒に行こう!」と言い出した飯田くんも加わり、4人でB組へと向かい、教室後方の入り口かなそっと中を覗き込むと、いち早く私に気づいてくれた拳藤さんが「あれ?A組の…」と小さく呟くと、何かを察したようにああ、と一つ頷いた彼女は「物間、」とお目当ての彼を呼んでくれる。
拳藤さんの声に、どこかぼーっとした様子で頬杖をついていた物間くんがゆっくりとこちらを向く。あ、頬っぺた、冷えピタが貼られてる。なんだか痛々しいそれに申し訳無さを増していると、「何ボヤっとしてんのさ」と物間くんの頭を小突いた拳藤さんが彼と共に廊下へと出てきてくれる。


「唯たちから話聞いたよ。ごめんね、物間の奴が酷いこと言って」

『え、いや、そんな……叩いたりした私の方が悪いわけだし…』

「でも、物間の言葉が苗字にとってはそれくらい許せなかったって事なんだろ?なら、張り手の1つや2つ食らわせたくなるって」


「ねえ?」と拳藤さんが他のB組の人達を振り返れば、教室の中から返ってきたのはうんうん、といういくつもの頷き。よくも俺らのクラスメイトを!!!と責められる事も覚悟していたので、まさかこんなあっさり許して貰えるとは思わなかった。
とは言え、やはりこの人には謝らなきゃればならないだろうと改めて物間くんを見る。気まずさから伺うように下から視線を向ければ、目が合った瞬間、バッ!と両手で顔を覆った物間くんはすぐ様天井へと顔を逸らした。え、そんな顔も見たくないくらい怒ってるの??


『あの………えーっと……も、物間くん、』

「……な、ななななななんだい!?」

『さっきは、叩いたりしてごめんなさい…。痛かったよね?』

「べ、別に!?!?キミのビンタくらいどうってことないけど!?!?!?」

『いや、でも……ほっぺた冷えピタ張ってるし……』

「暑いから貼ってるだけですが!?!?」


いや、それはさすがに無理があるのでは。
頑なに目を合わせようとしてくれない物間くん。そんなに怒っているのか、と眉を下げると、ほほう。と何かに気づいた拳藤さんがニヤニヤと笑いながら物間くんの肩を叩いた。


「ははーん。そういうことか物間。だから、さっきから様子がおかしかったわけー?」

「はあ!?何がそういうことだい拳藤!!僕はおかしくなんてないが!?!?」

「じゃあ、その手を離しなさいよ。折角謝りに来てくれてるんだからさ」


ほら、と拳藤さんにうながされて、ようやく物間くんが隠していた顔を見せてくれる。ゆっくり、ゆっくりと顔を覆っていた手を下ろした彼と目を合わせると、何かに耐えるように物間くんの眉間にぎゅっと皺が寄る。いや、ホントに嫌われたものだなあ。


『物間くん、あの……本当にごめんなさい』

「っ〜〜〜〜!!!」


へにょんと眉を下げ、改めて謝罪を口にすると、物間くんの顔がみるみる赤くなっていく。まさかアレルギー反応的な??拒絶反応的なあれ??と目を丸くしていると、耳まで赤く染めた物間くんは小さな、本当に小さな声で呟いた。


「僕も……………………ゴメン」

『え………』


まさか、彼が謝ってくるとは思っていなかった。だってそもそも悪いのは私なわけで、彼には謝る道理がないし。
キョトンとした顔で物間くん見上げれば、様子を見ていた拳藤さん、お茶子ちゃん、三奈ちゃんが何やら訳知り顔で顔を見合わせている。
「そういうことか!」「そういうことだね」「そういうことじゃん!」と盛り上がっている三人。一体何がそういうことなのだろうか??


「学級委員として俺からも謝らせてくれ!物間くん!」

「はあー??誰もA組の委員長さんなんてお呼びじゃないんですけどー??」

「む……」


あ、なんかいつもの物間くんだ。飯田くんと話す物間くんは、見慣れたいつも通りの彼である。やっぱりあれか。私にはアレルギー的な何かがあるのか。と一人納得していると、「そろそろ次の授業始まるんじゃない?」という拳藤さんの声に漸くA組へと戻ることに。
帰り際、もう一度物間くんに謝ろうとすると、思いっきり顔を逸らさせてしまい、また目が合わなくなる。「物間くん、」とそんな彼の名前を呼べば、顔を背けたままチラリと視線だけ寄越してくれた物間くんにゆるりと微笑んでみせる。


『えっと……謝らせてくれて、ありがとね。あの、あと………』

「……あと……?」

『“物間くんが傷ついたりしたら、悲しむ人がいる”っていうのは本心だから……だから、えっと………自分のこと、大事にしてあげてね?』

「っん゛!!」


「それじゃあ」と小さく手を振ってB組を後にすると、後ろから「物間ー??」「ダメだこりゃ、ショートしてやがる」と何やら話し声が。何はともあれ、無事に謝ることが出来て良かったとほっと胸を撫で下ろす私に、三奈ちゃんとお茶子ちゃんはどこか面白そうに笑っていた。
MY HERO 21

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