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「贋物……。

正さねば――……

誰かが……血に染まらねば…!

“英雄”を取り戻さねば!!

来い、来てみろ贋物ども


俺を殺していいのは、オールマイトだけだ!!!」


ヒーロー殺しの魂の叫び。
どんな言葉を述べようと、アイツが沢山の人達の命を奪ってきた事には変わりない。でも、私は少しだけ分かる気がしたのだ。

ヒーローたちの中に、“贋物”がいるというヒーロー殺しの気持ちが。



***



「ってな感じでやっていくわけだけどもね、ハイ、ヒーロー基礎学ね!久し振りだ、少年少女!元気か!?」


職場体験を終え、私たちは学校へと戻ってきた。


あの日、ヒーロー殺しと遭遇した三人、緑谷くん、飯田くん、轟くんは、その後病院へと運ばれ、警察の方に“厳重注意”を受けたらしい。その繋がりで、今回のヒーロー殺しの一件は、轟くんのお父さんであるエンデヴァーが解決したものと扱われ、世間に報道されることとなった。ちなみに、ヒーロー殺しと対峙せず、個性の使用も無かったということで、私も職場体験先のヒーローから少しお小言と言われる程度に留まった。

その後、テレビで放送されるヒーロー殺し逮捕のニュース。このニュースの裏に、飯田くん達の苦労があったことなんて見ている人は知らないのだろう。それが、酷くやるせない。簡単に操作できる情報も。それを行う大人はたちも、全部。


ギリッと奥歯を噛み締めていると、「名前ちゃん?どうしたの??」とお茶子ちゃんに顔を覗き込まれる。いつの間にかオールマイト先生の説明が終わっていたらしく。皆移動しようとしているところだ。


『あ、ごめん。ちょっと考え事しちゃってて…』

「大丈夫??少し顔色悪いけど…?」

『大丈夫大丈夫、体調は悪くないから』


心配てくれるお茶子ちゃんに笑って答えながら、皆の後を追いかける。今から行うのは所謂レースだ。オールマイト先生が出した救難信号が上がった場所に、誰が一番早く着けるかの競走らしい。
最初は、緑谷くん、尾白くん、飯田くん、芦戸さん、瀬呂くんの五人で、意外にもこのメンバーの中で一番目を引いたのは緑谷くんだった。ピョンピョン跳ねるような動きで建物の上を上手く移動していく緑谷くん。けれど、途中足を滑らせた彼は結果的に最下位へ。


「さあさあ!次の組は君たちだ!」


二組目は、切島くん、砂糖くん、峰田くん、透ちゃん、私の五人。さっきとは打って変わって機動力のないメンバーが集められた。強いて言うなら、壁を伝って移動できる峰田くんが有利かな?と思いつつ、スタート地点で救難信号を待つ。


“START!!!”


「!信号だ!!!」


先生の信号を見つけた瞬間、皆が一斉に動き出す。私の個性は、建物の上を移動したりするのには不向きだ。ただし、


『“発動!!!”』


辿り着くまでの時間を、“短く”することは、できる。
息を止めている間に、少しでも建物へと近づく為に足を動かす。右腕についた時計で1分経ったことを確認し、「“解除!”」と一旦個性を解くと、止まっていた皆が再び動き出す。しかし、その後もう一度個性を使って時間を止め、峰田くんと僅差でなんとか一位でゴールすると、「機動力というより、時間力だなあ、苗字少女は」オールマイト先生は笑っていた。

そして残りの2レースも終わり、授業は終了。ヒーローコスから制服へと更衣室で着替えていると、隣の部屋から聞こえてきた峰田くんの声に、女子全員が一瞬動きを止める。


「八百万のヤオヨロッパイ!!芦戸の腰つき!!葉隠の浮かぶ下着!!麗日のうららかボディ!!苗字の隠された柔肌に、蛙吹の意外おっぱァアアア……ぎゃああああ!!!!!?????」

「ありがと、響香ちゃん!」

「何て卑劣…!!すぐに塞いでしまいましょう!!」

『峰田くん……………』


これはさすがに擁護できない。いや、元から擁護するつもりもなかったけど。顔を引き攣らせながら、穴を塞ぐ百ちゃんを見守っていると、ふと何かに気づいた三奈ちゃんが、「あれ?」と首を傾げた。


「苗字、その傷どうしたの?」

『っ、え……?』


三奈ちゃんが指摘したのは、右肩に残る、忌々しい傷跡。
しまった。峰田くんの声に気を取られて、着替える手を止めてしまっていた。バッと隠すように傷を手で覆うと、そんな私に驚いたように皆が目を丸くする。


『…………えっと………ごめん。これについては、あんまり話したくなくて…………』

「あ………もしかして触れちゃいけない系のやつだった……??ご、ごめんね…!!」

『う、ううん。気にしないで、』


止めていた手を動かしてそそくさと服を着る。「ホント、気にしなくていいからね」と笑って一番に更衣室を出ると、後ろ手に閉めた扉から、「名前ちゃん、」と心配そうな声が聞こえたけれど、今だけは聞こえないふりをさせて欲しい。

は、と息を吐いて肩を抑える。
落ち着け。落ち着け、私。傷を指摘されたくらいで動揺してどうする。

過去は変わらない。だから、この傷は消えたりしない。
未来は変えられる。だから、雄英に入学した。
間違えたは繰り返さない。だから、私は、


もう、簡単に“ヒーロー”を信用したりしないのだ。
MY HERO 20

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