「どっけ!!邪魔だ!!デク!!!」
BOOM!!!
爆豪くんの怒声と共に辺りの空気を揺らした爆発音。思わず耳を押さえると、すかさず切島くんも1人の敵に向かって突っ込んで行った。
個性を使って時間を止めた私は、二人とともに広場の方へ出ると、目に映ったのは化け物のようなヴィランに腹を掴まれて血を流すオールマイトの姿だった。
「個性解け!!ノロマ女!!!!」という爆豪くんの声に、止めていた息を吐き出せば、黒いモヤの敵に向かって飛びかかっていた爆豪くんの攻撃がモロに直撃する。
モヤヴィランを押さえ込んだ爆豪くん。そして、更にそこに現れた轟くんの氷結によって、オールマイトもなんとか立ち上がる。
一見すれば形勢逆転したようにも見えるこの状況。
けれど、不気味なヴィランは焦るどころか、どこか愉しげな声で“脳無”というヴィランに指示を出す。
「脳無、爆発小僧をやっつけろ。出入口の奪還だ」
轟くんの氷で砕けたはずの身体が再生していく。
なんだこいつは。なんて、化け物だ。
震える唇を手で覆えば、そんな私を庇うように緑谷くん、轟くん、切島くんが前へ。
脳無が爆豪くんに向かって飛びかかっていく。「危ない!」と声を張りあげようとすると、それを遮るような物凄い風圧に身体が後ろへと傾いた。なに、今の。何が起こったの。
見開いた目で、爆豪くんの無事を確認しようとすれば、先程まで黒いモヤを押さえていたはずの爆豪くんが、いつの間にか緑谷くんの隣にいる。「避けたの!?」と声を上げる緑谷くんに、どこか呆然とした爆豪くんは「違えよ、黙れカス」と声を零す。
そこからは、オールマイトと脳無の激闘だった。“ショック吸収”する脳無に対し、吸収出来ない程の攻撃を仕掛けていくオールマイト。大きく振り抜かれた拳が脳無に打ち込まれ、脳無の巨体が天井を突き破ったのを目にした私たちは、ただただその凄まじい“強さ”に立ち尽くすしかなかった。
これがNO.1ヒーロー。平和の象徴オールマイトの力。
涼しい顔をしていた不気味なヴィランの様子が変わる。
オールマイトの圧倒的な力に、彼の邪魔にならないようにと私たちは退くことに。けれど、緑谷くんだけはその場を動こうとしない。どこか心配そうにオールマイトを見つめている。
『緑谷くん、どうし、』
どうしたの。そう彼に伸ばした手が空を切る。
え、と小さく漏れた声。視線の先には、いつの間にかモヤヴィランに飛び掛かる緑谷くんの姿。
一瞬だった。いま、彼はあっという間にあそこにいた。
モヤヴィランに向けられた緑谷くんの拳。しかし、それを見越したようにモヤの中から手が現れる。不味い。あの手に捕まったら、緑谷くんは。
『っ緑谷くん!!!』
個性を使おうと息を吸い込んだその時、
「ごめんよ皆。遅くなったね」
「あ、れは……」
「1ーAクラス委員長、飯田天哉!!ただいま戻りました!!!」
飯田くんと共に現れたのは、雄英高校の教師である、“プロヒーロー”達だった。
***
「君たちも今日はもう帰るんだ。学校でバス出して送るから」
簡単な事情聴取を終え、制服に着替えた私たちは一旦教室へと戻される。唯一大きな怪我を負った緑谷くんを暗じながら大人しく教室に留まっていると、そこに校長先生を方に乗せたブラド先生が現れた。
校長先生の言葉に、「あの、でもデクくんがまだ…」とお茶子ちゃんが心配そうに眉を下げる。「彼もリカバリーガールの治療後、すぐに家に送り届けるよ」という言葉に、ほっと息を吐いたお茶子ちゃん。
明日は休校になるとの事だけれど、明後日になればまた学校は再開する。その時、緑谷くんにも会うことが出来るだろう。
どこか不安そうなお茶子ちゃんの背を押してバスへと乗り込む。ヴィランに襲われた衝撃が治まらないのか、皆表情が少し固い。
「…アイツらの狙いってオールマイト……だったのか?」
「……分かんねえよ、ヴィランの考えてることなんて」
上鳴くんの言葉に切島くんが顔を顰める。
ヴィランが何を考えているのかなんて考えたくもない。
動き出したバスの振動に身体が揺れる。隣に座るお茶子ちゃんの顔色はまだ優れない。
『…お茶子ちゃん、緑谷くんなら大丈夫だよ。リカバリーガール先生の“個性”なら直ぐに治せる』
「うん……そうやけど、でも……」
『……明後日、学校で会った時、お茶子ちゃんがそんな顔してたら、緑谷くんも困ると思うよ』
「え……」
俯き気味だったお茶子ちゃんの顔が上がる。大きな目を見開く彼女に、ゆるりと微笑む。
『次に会った時、お茶子ちゃんがいつもみたいに笑ってくれてた方が緑谷くんも元気になれるよ』
「ね、」と優しく肩を叩けば、瞳を潤ませたお茶子ちゃんが大きく頷き返す。そんな彼女の背を撫でていると、「苗字の言う通りだね」と後ろの席の響香ちゃんが呟くように声を落とす。
「緑谷の事もそうだけど、ヴィランの事もウチらが難しく考えたってしょうがない」
「…そうですわね。落ち込むよりも、次に備える事を考えた方が、今回の襲撃を“力”に変えられる」
「うん!ヤオモモの言う通りだ!!」
響香ちゃん、百ちゃん、三奈ちゃんが声を続ける。そんな彼女たちに負けてられないとばかりに「その通りだぜ!!」「落ち込んでなんていられねえよな!」と男子達も声を上げていく。
誰かを想う優しさがある。
次に繋げる向上心がある。
ヒーローになりたいという強い志もある。
彼らは、このクラスメイト達は、みな一様に凄い。
凄いからこそ、思う。どうか……どうか、この人達は“正しい”ヒーローになって欲しいと。そして。
あんなヴィランに負けない、“強い力”を手に入れて欲しいと。
『……強いヒーローになってね』
「っえ?」
『あんな奴らになんて負けない、強いヒーローになって、………なって………それで、』
それで、どうか。
『自分自身も、守ってあげてね』
静かな車内に響いた私の声を、皆は、どんな風に受け取っただろうか。
MY HERO 8