ココアの香り
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「…何、見てるの」
彼女は僕の横顔を見つめながら問うた。
肩より長めな髪を風になびかせ、長い睫毛をぱちぱちと瞬きさせて、甘い甘い薫りを纏わせて。
先程チョコレートを食べていたからだろう、ココアの香りが鼻をつく。
チョコレートが嫌いな僕は、軽く咳払いをしてみせた。
僕は 彼女の世界の真ん中に居た。
また彼女も 僕の世界の真ん中に居る。
強い相思相愛の中で、僕の気持ちは揺らいでいた。
先日、慕っていた友人に裏切られた。
裏切られた、というよりも 僕自身が離れた。
その友人曰く、地味な生活は嫌だ…らしい。
そんな地味な生活を好む僕は、そいつから 逃げた。