05-3


「あの、すみません。送ってもらっちゃって」
「気にしないで。俺も心配だったから」

バイトがもうすぐ終わるということで、瀬多先輩は私を家まで送ると言った。大丈夫だと断ったのだけれど、堂島さんも最近物騒だから送ってもらえと強く言った。なにより瀬多先輩が私を送っていくことを譲らなかった。二人から攻められてしまえば私は首を縦に振るしかなかった。
雨はまだ降っている。今度は瀬多先輩もちゃんと傘を持っていて、二人で傘をさして並んで歩いた。

「まさか水無瀬と堂島さんが知り合いだなんて思わなかった」

瀬多先輩がぽつりと言った言葉に同意する。

「私も、瀬多先輩が堂島さんの親戚だとは思いませんでした」
「お店の常連って言ってたけど、どんなお店なの?」
「………飲食店?」

どうして疑問形なんだと瀬多先輩は笑った。前から思っていたが、瀬多先輩は柔らかい表情をする人だ。見ていると、胸が温まる感じがする。

「自営業なんだろ? そっちを手伝ったりはしないの?」
「たまに……。でもお酒も扱ってるから、あんまりさせてくれなくて」
「へえ。じゃあ、お父さんとお母さんでやってるんだ?」
「あ、私、お父さん、いなくて」

小さい頃に亡くなりましたと言うと、瀬多先輩は少し口を閉じて、ごめんと言った。私は慌てて首を振る。

「あの、小さい頃だったからそんなに覚えてないし、気にしないでください。えと、ごめんなさい、気を遣わせて」
「……水無瀬って、よく謝るよね」
「え?」
「俺と話すとき、毎回謝ってる気がする」
「あ、す、すみません」
「ほら、また謝った」

慌てて口を手で覆う。瀬多先輩はあははと可笑しそうに笑った。すごく恥ずかしくなって、俯くしかなかった。

「水無瀬は結構わかりやすいね」
「え?」

そんなことを言われたのは初めてだった。ぱっと顔を上げると、瀬多先輩は微笑んでいて、私はその顔をみてやっぱり俯いてしまった。顔が熱い。

「あ、えと、うち、ここです」

いつの間にか家の前までついていて、慌てて立ち止まった。先輩は家を見上げ、大きいねと呟いた。元は祖母の家なのだと伝えると、昔の家って大きいんだねと感心したようだった。確か堂島さんの家もそんなに変わらないような気がしたのだけれど。都会の人には珍しいのかもしれない。

「じゃ、また学校で」
「あの、本当に、わざわざすみませんでした」
「こういうときは『すみません』じゃないんだよ」
「あ、えと、あ、ありがとう、ございました」


瀬多先輩はそっちのほうがずっと嬉しいと言って笑った。なんだかさっきからの私は変だ。瀬多先輩と話すたび、顔を見るたび、一緒にいるだけでなぜか胸がどきどきとうるさくて、すぐ顔も赤くなってしまう。熱でもあるのだろうかと考えていると、ねぇ。と瀬多先輩は口を開いた。

「俺も、陽介みたいに名前で呼んでいいかな」

突然いわれ、答えることが出来ずにいると、駄目かなと悲しそうな顔で言われてしまって、とっさに駄目じゃないですと言葉が出た。

その時の瀬多先輩の笑顔が、とても嬉しそうで、柔らかくて。私も今までにないくらい、心臓が高鳴って、身体中が熱くなった。

「じゃあ、おやすみ。またね、亜希」

もしかしてこれは、恋というやつなんじゃないだろうか。
そう思うと余計に胸がきゅんとなって、どうしようもなかった。




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