とりあえずトーストを焼いて簡単に作った付け合わせという手抜きな朝食を、何故か私はさっきの外人……さん、と食べている。なんだこの図。なんで見ず知らずの外人と朝ご飯食べてるの私。いやでも他に人がいるのに私だけ食べるっていうのも……ねぇ?
「……一人で暮らしているのか?」
「へ?」
「家族の姿が見えない」
「あぁ…。両親は仕事で、海外に」
「海外?異国に渡るような仕事なのか?どんな仕事だ?」
「どんなって…。ふつーの。IT関係の」
「あいてぃー?」
え、私何か変なこと言った?
怪訝そうに首を傾げる外人さんの頭にはクエスチョンマークが飛んでいるようだった。
「ここはどこだ?」
「どこって……。日本ですけど」
「それにしては家の造りが西洋的だな。広いし、家具も…」
「いや、最近の家なんてみんなこんなものだし」
「……服装も和服じゃない」
「むしろこのご時世和服着てる方が珍しいんじゃ…」
どんだけ日本について無知なんだこの外人。日本語ぺらぺらのくせに。
「私の友人は常に袴をきているぞ」
「はぁ。変わったご友人っすね」
「語尾が常に『ござる』だ」
「何時の時代の人間だよ!侍か!」
「サムライ、とは違うが剣術はそこらのサムライ以上のものだな」
な、何この人…。言ってる意味がさっぱりわからない…。
都市伝説だと思ってたけど、外人ってほんとに日本に侍がいるって信じてるんだ…!
「あのですね、夢を壊すようで申し訳ないですけど侍なんて日本にはいません」
「まさか。私はよく日本のサムライの話を聞くぞ」
「あーもう、どこから仕入れてきた知識かしらないけど、いないものはいないの!夢見る年頃でもないんだから、21世紀に侍がいないことくらい常識的に」
「待て。今なんと言った」
「…?いないものはいない、って」
「違う。その後だ」
「だから、21世紀に侍がいないことくら」
「21世紀……?」
言い終える前に男の人はいきなり立ち上がった。
思ったより勢いがあったようで、椅子がガタンと音を立てて後ろに倒れる。
「え、なに……」
「今は、21世紀なのか?ここは、21世紀の日本なのか…?」
「は、ちょっと、何言って」
「答えてくれ。今は西暦何年なんだ。何世紀なんだ」
ふざけてるのかと思った。でも、それにしてはあまりにも真剣だった。気付いたら私は彼の問いに答えていて、それを聞いた彼は一度目を伏せた後、大きく息を吐いた。
「……あの」
「どうやら私は、とんでもない所に来てしまったようだ」
「え?」
「原因はわからない。が、やっかいなことには変わりないな」
あの、話が見えないんですけど。
「私はどうやら、タイムトラベルというものをしてしまったらしい」