しばらく他の服や日用品を求めて歩いていたのだけれど、私が根を上げて夕飯の材料を買って帰ることになった。
「根性がないな」
「誰のせいだと思ってんのよ!」
食料品売り場でカートを押しながらぼやくジオを睨みつけた。ジオはふむ、と至極真面目に、
「容姿が良すぎると言うのも考えものだな」
とほざきやがったので思いっきり膝裏を蹴ってやった。するとがくんとバランスを崩してこけそうになっていた。ざまぁ。
「たかが視線を集める位でそうカリカリするな」
「だまらっしゃい。こちとら20年この平凡な容姿で生きてきてんのよ。あんたみたいにすべてがド派手なイケメンヤローと一緒にすんな」
あんたに向けられる視線はピンク色のあっまーい物かもしれないけど?私に向けられるのは『なんであんたみたいなのが隣にいんのよ』っていう妬みと僻みの籠ったどす黒い禍々しいものなのよ。心折れるわ。
えーえーどうせ私は平平凡凡の並レベルですよ。釣り合ってませんよ。しってるっつーのそこまで身の程知らずじゃねぇよ。っていうか恋人でもなんでもないのにいい迷惑だっつーの。
「だからそれは褒めているようにしか聞こえないぞ」
くっくっと可笑しそうに笑うジオを見ると、ぐるぐると腹の中に溜まっていたものが毒毛を抜かれてしまって、でもなんだか納得がいかなかった私は最後の悪あがきにぼそりと一言呟いた。
「せっかくあんたに携帯電話を買ってあげようとしたのに」
ぴたり。
「でもお預けねーこんだけ注目されちゃうとおちおち買い物もできないし。容姿が良すぎるジョットさんは気にならないみたいだけど?一般ピープルな私にとっては障害以外のなにものでもないもの。ごめんねー私も容姿が良かったならよかったんだけどねー」
あからさまに厭味ったらしく言ってやった。ジオのことだ。どうせまた言い返してくるに決まってる。そう思っていたのに何の反応もない。ちらりと横目でジオを見ると、彼はあからさまにしゅんとしていた。人間にないはずの獣耳としっぽが垂れているように見えた。
……えっ何これ私が悪いの?
「ちょ、じ、ジオ?うそ、そんなショックだった?ごめんって!ほら、カタログもらったからこれ見て何がいいか決めればいいじゃない!今度買ってきてあげるから!」
「………天音は、」
「な、なに?」
「俺と一緒にいるのが嫌か?」
…………………はい?
「………あんたってほんっとーにアホね」
「だって天音が、」
「だってじゃないわよ。子どもか。あのね、嫌だったらとっくに家から追い出してるわよ。ってかそれ以前に住まわせないわよ。私は慈善事業をしてるほど暇でもお人よしでもないっつーの」
「………」
「さっきのは、その、言葉のあやっていうか、い、言いすぎたわよ。と、友達にすっごいかわいい子がいて、よくその子と一緒にいるからさ、視線には慣れてるのよ。で、でもね?その子女の子だから一緒に居る私が妬まれるような視線を今まで向けられたことがなくてさぁ…、その、耐性がないっていうか、戸惑ったというか、えと、あの、だから別に一緒にいるのが嫌とかそういうんじゃなくて……だから、さぁ」
「………………」
「………ご、ごめん…なさい」
「………っはは」
天音、顔が真っ赤だ。
ジオが嬉しそうに笑いながら言った。とたんに恥ずかしくなってうるさい!と場所も考えずに大声で怒鳴ってしまった。それでもジオは嬉しそうに笑ったままだ。
「っもう、知らない!」
ジオを置いて早足に歩く。その後ろからカラカラとカートを引く音が付いてくる。
「天音、今日はカレーライスが食べたい」
「自分で作ればいいでしょ」
「天音が作ったのがいい」
「……わがまま」
「ああ。俺はとても我儘なんだ」
嫌か?と後ろから聞こえるジオの声に、足を止めて振り返った。
「知ってるわよバーカ」
ちなみにあんたが辛いもの食べるときに本当に一瞬だけ顔を顰めるのも知ってるから、今日のカレーは甘口にしといてやるわ。感謝しなさい。