悪夢





目が覚めたら世界が変わっていた。

「誰だよ、お前」

顔をゆがめるナツの目の前には黒髪の少女。少女は、ナツの顎に指を伝わせると、笑みを浮かべた。

「何言ってんの。グレコよ」

「誰だよ!」

少女グレコの手を払ってナツは小さく唸る。警戒する姿は猫の様だ。そんなナツの姿にグレコは頬を染めた。

「今日のナツミ、いつもよりかわいい」

「ナツ……ミ?」

ナツは口元をひきつらせながら視線を自分の身体へと移す。胸には、今までなかったはずの微かな膨らみがあった。手で触れてみれば柔らかい。

「何だこれ」

「ふふ。大きくしたいなら、揉んであげる」

ナツの手の上に自分の手を重ねるグレコ。

「な、なにす……あん!」

「直接の方が、効果あると思うけど?」

グレコの手がナツの服の中へと侵入する。身体を跳ねさせるナツの耳にグレコは熱い吐息をかけた。

「ねぇ。ナツミ、私の家に来ない?」

「いい加減にしろよ、グレコ!」

第三者の声にグレコは舌打ちをした。
ナツの潤んだ瞳に映るのは金髪の少年。

「邪魔しないでよ、ルーイチ」

「ルー、イチ?」

首をかしげるナツに、ルーイチは顔を赤くして視線をそらせた。

「な、ナツミ、とりあえず服直せよ!」

ナツの服はグレコに捲りあげられていた。胸の突起までもが晒されており、ナツは言われるがまま服装を正した。
それを確認したルーイチが、小さく息をつく。

「やりすぎだぞ」

「ルーイチは黙っててよ」

つんと無愛想にそっぽを向いてしまったグレコ。その反応にルーイチは目を吊り上げる。

「お前、」

「その辺にしなよ」

また他から声がかかり、視線がそちらへと集中する。波打つ淡い色の短い髪を揺らせる青年。薄く笑みを浮かべていた。

「み、ミラオさん」

「ルーイチだって気持ちは分かるだろう?ナツミはかわいいからね」

そうだと、頷くグレコに、ルーイチはむっと口元を歪めた。

「でも、グレコはやりすぎだ」

「ルーイチは初心だな」

ミラオが小さく息をつと、ルーイチの顔が一瞬で赤くなる。

「グレコが破廉恥なだけだ!」

グレコとミラオが噴き出した。

「破廉恥って、あんた」

「今時使う奴がいるとは思わなかったな」

二人が笑えばルーイチの機嫌は下がる一方だった。
騒がしくなればナツへの意識は完全にそれる。その隙にと、今まで傍観していたナツは彼らから離れた。

「誰なんだよ、あいつら……それにしても、ここってギルドだよな?」

カウンター席で寝ていたナツ。目を覚ましたら周囲がおかしくなっていた。いつものメンバーは居らず、居たのはグレコ、ルーイチ、ミラオだ。彼らの臭いは、ナツがよく知る仲間たちと似ているのだが、性別がおかしい。

「でも、ルーイチはルーシィに似てたな」

雰囲気が似ていた気がする。
一人で唸っていると、顔面に衝撃が走った。痛みではない、クッションに突っ込んだかのような感触だ。
反動で背後によろけたナツ。倒れると思ったが、それは難なく阻止された。

「何よそ見してんの」

力強く手を引かれてナツは体勢を直した。顔を上げれば頭一つ分ほど背の高い金髪の女性。顔面に当たったのは、彼女の豊満な胸だったのだ。
しかし胸にぶつかったからといってナツが今さら照れなど見せるわけもない。ナツの視線は豊満な胸よりも、女性の顔へと向いていた。

「何?」

じっと見つめてくるナツに、女性は首をかしげる。

「お前、何か見た事ある気がするんだよな」

首を捻るナツに、女性はくすりと笑みを浮かべると、ナツの顎を掴んで上を向かせた。

「また、身体に教えてほしいの?」

「は?何が」

「ナツミから離れなさいよ!」

グレコが走り寄って来た。
ナツを、引き離すように抱きしめると、女性を睨みつけた。

「もう帰ったのね。ラクネ」

「あんたみたいな露出魔と違って忙しいのよ。グレコ」

二人の間に火花が見える。硬直するナツに手が伸びた。グレコから奪うようにナツを抱きしめたのはルーイチだった。

「大丈夫か?ナツミ」

間近に迫ったルーイチの顔に、ナツは微かに頬を紅色させた。つられてルーイチも顔を赤くする。

「あ、あのさ、ルーイチ」

「ナツミ、俺は……」

ルーイチの顔が、唇が重なるほどに近づいた―――――







「やだ!ナツから湯気が出てる!」

カウンターで眠るナツから湯気が立ち上っている。ちょうど近くを通ったルーシィは目を向いた。

「どんな夢見てるのかしらね」

ミラジェーンがにこにこと笑みを浮かべてナツを見る。

「でも、悪夢なんですよね?」

顔を歪めるルーシィに、ミラジェーンはポケットから包み紙を取り出した。中身は無くすでにゴミとなっているものだ。

「チューイン噛夢(ガム)ね。当たりがあってそれを引き当てると悪夢が見られるの。魔法屋マジカルドロップの新商品よ」

「何で当りを引いて悪夢見なくちゃいけないんですか」

呆れた様にルーシィが溜め息をつく。
カウンターで気持ちよさそうに寝ていたナツが、ふにゃりと顔を緩ませた。

「ル、イチ……」

初めて耳にする名前に、ルーシィとミラジェーンは顔を見合わせた。

「誰?」




20100828

過去最悪だと反省してます

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