マカナツ





レビィ、ジェット、ドロイの三人がガジルに襲われた妖精の尻尾は、幽鬼の支配者のギルドを攻め入った。
ナツが先陣を切り殴りこむ。騒然となる幽鬼の支配者内に、マスター・マカロフの声が轟いた。

「妖精の尻尾じゃーッ!!!!」

ルールなどない。ただギルドの魔導士を倒していくだけだ。
両ギルドの魔導士達が争う中、マカロフはマスター・ジョゼがいるだろうニ階へと足を運んでいく。いち早く気づいたのはエルザだった。

「マスター!」

「ワシはジョゼをやる。後は頼んだぞ」

襲いかかってくる下っ端の魔導士ではマカロフに触れる事すらかなわない。突き進んでいくマカロフが一度階下へと目を向けた。

「気をつけろ。ナツ」

小さくつぶやかれた声でも滅竜魔導士のナツには確かに届いていた。
ナツは周りの魔導士を蹴散らしながらマカロフを見上げた。怒りを露わにしながらも気遣ってくれるマカロフに、ナツは胸に手を当てて頬を染める。

「じっちゃん、かぁっこいい」

まるで恋する乙女のようだ。敵は唖然となり、味方はまたかと言わんばかりに溜息をついた。

「じっちゃんも気をつけろよー!」

両手を振るナツに、マカロフの纏っていた怒りが一瞬だけ消えた。

「これ、皆が見とるじゃろ」

照れで赤く染まる頬をかいて口元を緩ませる。ナツとマカロフが見つめあうと、もう二人だけの世界に入ってしまった。
敵味方問わずこの中に入る事は許されない。しかし忘れてはならない、今はギルド同士の抗争の真っただ中だ。

「TPO!TPOォォォ!!!」

誰かが叫んだ。

「時と場合考えろ!」

「つか、あんた何考えてんだ!バカ野郎!!」

突っ込んだのは状況に多少なりとも慣れていた妖精の尻尾側の者達だった。
流石にマカロフも緩んでいた顔を引き締め、ジョゼの元へと向かっていった。その後ろ姿を寂しそうに見守っていたナツは、マカロフの足音が消えると敵側に冷めた目を向けた。

「俺とじっちゃんの邪魔した分、きっちり払ってもらうからな……灰になれやゴラァァァ!!!」

先ほどよりも数段違う凶暴な炎がギルド内を襲う。

「さっきと別人じゃねぇか!」

全くだ。
そんな中、エルザは凛々しい表情で頷いた。

「流石だな」

「怖ぇよ……つかそこ!悔しがってる場合か!」

グレイは歯ぎしりしながら床を蹴り、ロキは床に手をついて項垂れていた。
怒りをぶつけるなら敵にしてほしいものだ。しかし、幽鬼の支配者側の魔導士の士気は下がっていた。

「何か、向こう大変そうだな」

「ケツがボロボロどころか、頭があれじゃな」

「可哀そうになってくるよな」

囁き合っている幽鬼の支配者共に、妖精の尻尾側は衝撃を隠せない。

「ど、同情されてる……」

「おいィィ!あの二人と一緒にすんじゃねェェ!!」

怒りが爆発して、妖精の尻尾側の士気は高まる一方だった。ナツも、同じ滅竜魔導士のガジル相手に闘争心むき出しになっている。

「あんなじーさんとできてんのか?火竜」

「じっちゃんをバカにしたら許さねぇ!跡形もなく燃やしつくしてやるよ、鉄クズ野郎!」

殺意さえ浮かべるナツに、妖精の尻尾は顔を青ざめさせた。そして、ガジルに同情する者まで出ていた。
妖精の尻尾内では暗黙のルールが二つあるのだ。ナツの前でマカロフを貶さない事と、ナツに手を出さない事。それを破れば必ずどちらかから制裁が加えられる。
二人の戦いに注目が集まる中、地が揺れた。地震でもない、マカロフの怒り。強大な魔力が地さえも揺らしているのだ。
動揺する幽鬼の支配者に、妖精の尻尾はにやりと笑った。

「これは、マスターマカロフの怒りだ」

「もう誰にも止められん」

恐れる者たちの中にロキとグレイもいた。彼らも以前怒りにふれた事があったのだ。原因はナツに手を出した事。グレイとロキはどこか遠くを見つめていた。

「あー、俺もじっちゃんとこ行きてぇな」

つまらなそうに唇を尖らせるナツに、ガジルは顔を顰めてナツへと攻撃を再開した。
しかし、その戦いの途中で、問題は起きた。ニ階でジョゼを相手にしていたはずのマカロフが、天井をぶち破って落ちてきたのだ。
エルザ達が駆け寄る中、ナツも駆け寄った。

「じっちゃーん!!」

エルザに抱き起こされるマカロフをナツは心配げに見つめる。
荒い呼吸を繰り返すマカロフの顔には血の気を感じられない。ナツの瞳に涙が浮かんだ。

「じっちゃん、俺、ミボウジンなんかなりたくねぇよ……」

ぐすぐすと鼻を鳴らしながら涙をこぼすナツに、周囲は驚愕した。ナツとマカロフが婚姻直前だと言うのは周知の事実だが、ナツが口にした言葉が信じられない。

「お前、未亡人の意味知ってんのか?」

ナツは涙を拭って頷いた。

「ロキとグレイが言ってたんだ。じっちゃんが死んじゃったら、俺はミボウジンってのになるんだって。そんで、グレイとロキに×××で××しなきゃなんねぇんだって。××××……」

「ナツ!頼む、黙ってくれ!」

意味は分かっていないのだろうが、ナツが淡々と話し続けるのに、周囲は必死になって止めた。はっきりと口に出してはいけない様な単語が盛りだくさんなのだ。
ロキとグレイが気まずそうに目をそらす中、エルザは歯ぎしりすると声を上げた。

「撤退だ!!全員ギルドへ戻れー!!」

周囲もエルザの言葉に拒否する事もなく、力なくギルドを出ていく。
幽鬼の支配者側の魔導士も、撤退する妖精の尻尾を憐れむように見つめていた。

「ロキ、グレイ……お前たちには後で話しがある」

エルザの低い声に、ロキとグレイは背を正したのだった。




20100821

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