全ては間違いだったのだと、望んでいた事ではなかったのだと、そう言われてしまえば否定などできない。
共に生活し時を刻む中で胸の苦しさは増していった。

ナツはソファに座り、背もたれに寄りかかった。目の前ではフリードが茶の準備をしている。いつもなら二人分のそれが、今日はナツの分のみ。ラクサスが朝から野暮用で出かけていて不在なのだ。
テーブルの上に置かれた菓子を見つめながら、ナツが口を開いた。

「なぁ、フリード」

ちょうど、フリードが紅茶をナツの前に差しだした時だった。
フリードがカップから手を離してナツへと視線を向けると、ナツはゆっくりと続けた。

「ラクサスは、他の奴と結婚したかったんじゃねぇのかな」

「…………どうしたんだ?急に」

フリードは心底驚いたようで、返答するまでに間が空いてしまった。
ナツは顔を俯かせると、似つかわしくない小さな声で話し始める。

「だって、俺と結婚したのは事故だろ。見合いもいっぱいしたみてぇだし、ラクサスは俺の事……好きじゃねぇんだろ」

最後の部分は躊躇っているようで聞きとりにくい。
フリードはまじまじとナツを見つめた。ナツが、ラクサスに対して好意を抱きはじめていた事は、近くで見守っているフリードが気付かないわけがなかった。しかし、その前からラクサスはナツに好意を寄せていたのだ。
ラクサスのナツへの態度は分かりやす過ぎると思うのだが、ナツはそれさえも凌ぐ鈍さを持っていたようだ。

「ナツ」

フリードの呼びかけに、ナツはゆっくりと顔を上げる。大きな瞳には涙が溜まっていた。それほどまでにラクサスを想っているのだろう。
フリードは落ち着かせるように笑みを浮かべた。

「生活を共にして分かったと思うが、ラクサスはあの性格だ。興味のない人間を近くにおけるほどに心は広くない」

結構酷い言い草である。
それに、とフリードは続けた。

「ラクサスの事は幼い頃から知っているが、あんなにも優しい目をするラクサスを見たのは初めてだ。それが、どんな時か分かるか?」

首を振るナツに、フリードは笑みを深めた。

「お前なんだ。ナツを見ている時、ラクサスは誰よりも優しい目をしている」

それがどういう意味かは流石に分かったようだ。ナツは頬を紅色させた。

「そ、そうなのか?」

フリードが頷くと、ナツははにかむ様な笑みを浮かべた。

「そっかぁ」

まるで汚れる事を知らない純粋な笑顔。
フリードは眩しそうに目を細めた。

「ラクサスが戻ったら気持ちを伝えてみるといい」

「こ、告白って事か!?」

告白も何もすでに結婚している。日も浅い新婚だ。慌てるナツに、フリードは小さく噴出した。

「きっと面白いものが見られるな」

帰宅したラクサスがナツの言葉に顔を赤らめる。その姿まで、後数時間。




20100806

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