これまでのあらすじ☆(※これまでもクソもない突発ネタです)
本当の家族のように馴染んだナツ。しかし、マカロフまでもが海外に出張になってしまった。ナツを預かっている理由同様にラクサスを連れていくのは気が引ける。ラクサスも高校生だ、身の回りのこと位出来るだろう。「ナツの事を頼んだぞ」そう書き置き1枚残してマカロフは海外へと旅立ってしまった。
しかして、ナツとラクサスの二人暮らしが始まったのだった。



2冊目。日記△×ページ目「いただきます」





夏休みに入っても部活動などで忙しい学生もいる。ラクサスもその一人で、軽音楽部に所属している。秋の文化祭に向けて練習をするため、夏休みも学校へと赴かなければならないのだ。

「腹減ったら菓子を食ってもいいが、食い過ぎんなよ」

玄関先で靴をはきながら背後に立っているナツへと告げる。
おお、と元気よく返事を返してくるナツに、ラクサスは振り返った。

「帰ったら飯だからな」

ラクサスが食事の準備をしているのだ。例え学校がある平日だとしても、簡単でも朝食は必ず自炊。学校がある日は、ナツは給食なので作らなくとも何とでもなる。夕食は自炊か出前かコンビニ弁当。

「今日はラクサスが作るのか?」

「不満か?」

ぎろりと睨まれてナツは慌てて首を振るった。頭が吹き飛んで行ってしまいそうだ。

「ラクサスの飯うまいから好きだって!……ミラの作った飯もうまかったけど」

ミラジェーンはラクサスの同級生。家も近所で、所謂幼馴染というやつだ。明るく優しい性格に加え容姿端麗とくれば人気がないわけがないのだが、本性を知っているラクサスは好感を持つことはできなかった。

「あの変態女、勝手に人の家に上がりやがって」

「ミラは良い奴だぞ。菓子もくれるし」

いつの間にか餌付けされているし、間違いなくミラジェーンの狙いはナツだろう。彼女の様な人物を俗にショタコンと呼ぶのだ。当人が聞いたら怒りながら否定するだろうが。

「あいつにも妹がいるから、お前が気になるんだろ」

その程度の認識で止めておかなければ、犯罪一歩手前だ。
ラクサスは小さく息をついて立ちあがった。

「何かあったら携帯に電話しろ。……ナツ」

念を押す様にラクサスに名を呼ばれると、ナツは背筋を呼ばして手を額に当て敬礼の形をとった。

「いち、火は使わない!に、誰が来てもドアを開けない!さん、特にグレイはダメ!よん、じっちゃんが帰ってきたらぶん殴る!」

「よし」

満足そうに頷くラクサスにナツも笑みを浮かべた。
マカロフに置いて行かれて、ラクサスとナツが二人暮らしとなってから作られた規則だ。ナツが一人きりで留守番する時限定だが。

「いってくる」

「いってらっしゃーい!」

手を振るナツに見送られて家を出た。
それが朝八時の出来事。
それから部活へ行ったものの、文化祭ライブについての話し合いでもめて時間がかかってしまった。ナツと約束した昼過ぎという時間、一般的には十二時と捉えるだろう、それから一時間以上が経過していた。

「餓死してねぇだろうな」

ラクサスは小さく舌打ちした。
本人はいたって真面目な発言だが、まず一日食事をとらないだけでは餓死はしない。そんな事は分かっているだろうが、それでもラクサスの脳内には腹が減って泣きわめくナツがいるのだ。
ラクサスは学校を出ると、競歩と言えるような速度で帰路についた。
慌ただしく家の扉を開ける。瞬間、鼻に飛び込んできた匂い。

「……カレー?」

独特な香りを間違えるはずもない。
ラクサスは眉を寄せて家の中へと上がった。台所へと向かって足を進めていけば、香りは更に強まっていく。

「何やってんだ、てめぇは」

台所に行きついたラクサスの目には、大きすぎるエプロンを身につけて動き回るナツの姿。
踏み台に上って棚から皿を取り出していたナツは、ラクサスに気が付くと踏み台から飛び降りた。

「おかえりー」

笑顔で駆け寄ってくるナツに、ラクサスは周囲を見渡した。コンロの上には湯気の上っている鍋。これはカレーで間違いないだろう。炊飯器も湯気を立てて起動している。

「座れよ!」

ナツに促されて、ラクサスはテーブルに着かされる。
呆然とラクサスが見守る中、ナツはおぼつかない手つきで皿にご飯とカレーを盛っていく。ナツの力では重いのだろう、手が震えている。
ラクサスは音を立てて立ち上がると、ナツから皿を奪い取った。

「……これ、お前が作ったのか?」

「おお!すげーだろ、驚いたか!」

楽しそうに笑みを浮かべるナツに、ラクサスは深くため息をついた。
出がけに規則を確認したというのに、あっさりと破ってくれている。

「怪我はしてねぇだろうな」

頷くナツ、嘘はついていないようだ。料理で怪我しやすい手も、幼い柔らかそうな綺麗な手だ。
ラクサスがテーブルに着くと、ナツも定位置であるラクサスの前の椅子に座った。
怪しむようにカレーを見下ろすラクサスを、ナツが見上げる。

「食わねーのか?」

急かされるように言われても、分かりましたと口にできない。第一ナツが料理をできるわけがないのだ。これまでに料理している姿など見た事がないし、小学校で調理実習があったなど聞いた事もない。

「おい、この中に何入れた」

きょとんとしたナツは、指を折りながら名前を上げていった。
りんご。バナナ。チョコレート。ポテトチップス。プリン。
ラクサスはぎょっとして、スプーンでカレーをすくってみた。ジャガイモだと思っていた物は皮つきの林檎だ。ご飯も水気が多くて粥に近い。顔を近づけてみれば、確かに甘い香りがする。

「な。すげーだろ?」

ある意味すごい。
目を輝かせて言ってくるナツに、ラクサスは出かかった言葉を飲み込んだ。
わけの分からない食べ物など投げ捨てたいのだが、ナツが期待するように見上げてくるのだ。捨てればナツの機嫌を損ねて面倒な事になるだろう。
ラクサスは観念してスプーンを動かした。もしかしたら食べられる味なのではないか。そういう期待があったのだ。しかし、それは裏切られる事になる。

「……ぐ、」

ラクサスは珍しくうめき声を上げて固まった。スプーンを口に突っ込んだ状態で止まっている。

「うまいか?」

うまいなどと言えるものか。バナナの存在が強くて、吐き気がする。ポテトチップスは芋だから安全かと思ったが溶けているのか見当たらない。
何としても口から消したく飲み込んだものの、ラクサスは俯くと目元を覆ってしまった。

「泣くほど美味いのか?!」

嬉しそうな声が聞こえてが、ラクサスは何も言葉を発する事はなかった。
鍋には二人では食べきれない程の量のカレー。しかも、ナツは菓子で腹がいっぱいだと言って口を付けない。何とも無責任だ。
しかし、こういう時に利用できる人物がいる。ラクサスは携帯電話を取り出した。嫌そうに連絡を取り、それから五分足らずで家の呼び鈴が鳴る。
現れたのはクラスメイトのグレイだった。

「ナツの手料理だって!?」

鼻息が荒いのは走って来たからだろうと思いたい。
ラクサスは突っ込む気力もなくグレイを招き入れると、水っぽいご飯にカレーをかけて差しだしてやった。
ナツに御執心のグレイは、感動に身を震わせながらカレーを見つめる。

「お、俺の為に花嫁修業してくれてるんだな」

感動しているところ悪いが、とんだ勘違いである。
もりもりカレーを食べ始めるグレイ。その手は止まらずに一杯目を完食してしまった。おかわりをして再度食べ始めるグレイに、ラクサスは口元を押さえた。

「……よく食えるな」

壁に寄り掛かって遠目でグレイの勇姿を眺めていたラクサス。感心する声に、グレイは笑みを浮かべながらスプーンをラクサスに向けた。

「愛があるからな」

若干涙目なのは感動しているからか、カレーの不味さゆえか。
その気持ち悪さにラクサスは顔をしかめた。

「さっさと食って、さっさと帰れ」

ナツを自室に押し込んでおいて正解だった。




20100730

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