これまでのあらすじ(※嘘です突発ネタです)

マカロフの知人イグニールが海外に出張する事になってしまった。しかしイグニールには小学生の息子ナツがいた。出張先に連れていくとなればナツは転校しなければならない。辛い思いをさせるのは忍びない。そこでマカロフは、ナツを一時的に預かる事にした。明るい性格のナツが、家に溶け込むのに時間はかからなかった。
マカロフの孫であるラクサスは、高校に入ってからは反抗期なのか態度がいいとは言えない。そんな彼も純粋なナツに心を開き、次第にマカロフとラクサスの溝も縮まる。まさに万々歳だね☆
祖父と孫の二人暮らしだったドレアー家にナツが加わった、ニュー・ドレアー家。期限付ラクナツ兄弟の愛と感動ドラマ、二人の絆はどうなる。



日記○×ページ目「おむかえ」





雨が降るなど予想もしない程に朝は晴れ渡っていた。雲一つなければ天気予報でも降水確率は低い。そのはずが、授業が終わり下校しようとした時にはバケツをひっくり返したような雨。道路の端の下水路など、雨水で溢れているほどだった。こんなにも豪雨なのに、どうやれば予報を外せるのか。
当然傘など用意していなかったために、家まで走って帰るはめになった。

「くそ、」

ラクサスは家に飛び込むように駆けこんだ。濡れた髪をかき上げて呼吸を整える。服だけではない靴の中も雨水が浸透していて不快だ。

「帰ったか」

祖父であるマカロフが、ラクサスの帰宅に気付いて玄関先まで出てきた。
不機嫌そうなラクサスの姿。それを目にしてマカロフは目を瞬く。

「ナツはどうした?」

「あ?まだ帰ってねぇのか、あいつ」

小学校ならば、ラクサスの通う高校よりも早く下校になるはずだ。小学校の下校時間には雨も降っていなかった。
何やってんだと苦々しく呟くラクサスに、マカロフは眉を寄せた。

「学校からは帰って来たんじゃがな……」

何を言いたいのだ。
ラクサスが促す前にマカロフは続けた。

「お前が傘を持っていないと知って、迎えに行ったんじゃ」

ラクサスの傘を持って一時間ほど前に。お気入りの、蛙を模した緑色の雨がっぱと、揃いの傘を差して。
しかし、ラクサスは帰路に着くまでの間、ナツとは出くわしていない。

「、あのバカ!」

ラクサスは持っていた鞄を放ると、家を飛び出した。
雨で視界が悪ければ車の事故も多い。それどころか最近は妙な趣向を持った変質者も老多いのだ。
激しい雨の中では何かあっても周囲に気付かれないだろう。悲鳴さえもかき消してしまうのだから。
考えるほどに、最悪の事しか出てこない。
ラクサスは、先ほど通ったばかりの家から学校までの道のりを走っていく。周辺に目を走らせながら足を進める。
子ども用の雨がっぱ。桜色の髪。
いつも以上に神経を集中させていたはずだが、見つける事もなく学校までたどり着いてしまった。

「どこだ……」

焦燥感に冷静さが欠けていく。
まず迷うことなどないはずなのだ、ナツを連れて何度も通った事がある道なのだから。いくら視界が悪くなっていても、相当な方向音痴でもない限り有り得ないだろう。
思考をめぐらしている内に、冷静さを取り戻していく。

「あいつが寄りそうな場所」

道草を食っている場合はどこだ。友人の家か、ナツを孫のように可愛がる婆さんがいる駄菓子屋か。
立ち尽くすラクサスの思考を遮るように、轟音が鳴り響いた。それと同時に空が光る。雷が結構な近距離で鳴っているのだ。

「雷……そうか、あいつ」

来たばかりの道を再び走り、着いた先は公園。
ラクサスは公園内に足を踏み入れると、迷うことなく足を進める。広さのある砂場の中央にある遊具。かまくらの様な半球型のそれは、公園内で唯一雨をしのぐ事が出来る場所だ。
確信はあった。遊具の中を覗きこんだラクサスの目に映ったのは、薄暗い中丸まっている緑色。

「何やってんだ」

声をかければ、一瞬びくりと肩を震わせたそれが首をひねって視線だけを向けてくる。
ラクサスを確認すると弾かれるように顔を上げた。蛙の顔が描かれていたフードが反動で落ち、雨から守られていた桜色の髪があらわになる。

「ラクサス!」

じわりと大きな猫目が潤む。
ラクサスは腰をかがめて、遊具の中へと入りこんだ。

「……ラクサス、オレ、傘とどけたくて」

「ジジィから聞いてる」

ラクサスは向かい合っているナツの頭をぐしゃりと撫でた。
ラクサスの手は濡れ、雨にうたれたせいで体も冷えてしまっている。ナツはそれに気付いて更に涙を浮かべた。

「ごめ、オレ、ちゃんと、わたせなかっ……」

泣かれれば面倒だからと頭を撫でたはずだったのだが、目の前のナツは嗚咽を漏らしている。
ラクサスは小さく息をついた。

「雷が怖ぇんだろ」

「ご、ごわぐねー」

涙声で否定されても説得力などないし、大体ナツが雷を苦手と知っていたからラクサスはナツを見つける事が出来たのだ。

「いいから帰るぞ」

ラクサスも流石に身体の冷えに身震いをした。早く帰って風呂に入りたい。
促されて立ち上がったナツの小さな手には、不釣り合いの大人用の傘。
先に遊具から出ていたラクサスは雨にうたれながら、ナツに手を差しだした。反射的にナツはその手に己の手を乗せる。

「違ぇ。傘だ」

「でも、もう濡れてるじゃねーか」

すでに濡れ鼠になっているなら、この後どれほど濡れても変わりないだろう。傘の意味がない。
首をかしげるナツの手から傘をとると、ラクサスは空いている手でナツに雨がっぱのフードを被せ、再び手を差しだす。
まだ何かあるのかと困惑するナツに焦れたのか、奪うように幼い手をとった。

「……雨の中、二度も捜しに行きたくねぇんだよ」

自分よりも大きく骨ばった手。それをきょとんと見ていたナツは、次第に笑みを浮かべた。

「へへ、しょーがねーな!」

照れるように頬を紅色させるナツを見下ろしながら、ラクサスは溜息をついた。
雨は相変わらず振り続けていたが、いつの間にか雷は止んでいる。

「帰ったら風呂だ」

元気よく返事をするナツ。
ラクサスは傘を差すと、子どもの歩幅に合わせてゆっくりと歩き始めた。




20100728

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