思い出の
大陸中を旅してきた料理長が腕を振るう魔導士ギルド妖精の尻尾の料理。
一級品の味は度々雑誌でも紹介され、料理を食べるためだけにわざわざ足を運んでくる者までいるほどだ。
そんな一流の腕を持つ料理長が、一番手塩にかけている特別な料理が存在した。
それは食べる者を限定する料理。
「おいしー!!」
ルーシィは雑誌でも紹介されたスイーツを口に運んで、顔を綻ばせた。
幸せそうに、また一口口に運ぶ。
「こんなに美味しいスイーツ中々食べられないんだけど……」
ルーシィは手を止めて目の前で広がる光景を眺めた。
目の前で三人が並んで食事をしているのだが、常人では考えられない食事風景なのだ。
「何て言うか、すごい光景よね」
目の前にいるのは、ナツとウェンディとガジルの滅竜魔導士三名。
「ていうか、おしいの?それ」
食事をしていた手を止めて、ルーシィの問いに三人は咀嚼しながら答えた。
「ギルドの飯は一番うめぇぞ!」
「すごくおいしいです!」
「まぁまぁだ」
それは良かった。
顔には出さないがガジルも機嫌良く食事をとっているようだから、味には満足しているのだろう。
だが、やはり異様だ。
「最近味も増えたんだぜ!」
炎パスタを頬張りながら、笑みをこぼすナツ。
「こんなにおいしい空気初めてです!冷たくて、どこかの氷山の一角削ってるって言ってました」
密閉され膨らんでいる袋にストローが刺さっている。それを満足そうに吸っているのだが、傍からみたら危ない薬でもやっているのではないかと思われそうだ。
「ガジルさんの鉄はおいしいですか?」
「……名のある鍛冶屋が鍛え上げた刀らしいな」
それを料理長が数日にわたって磨き上げたらしい。つまり名刀を食べているというのだが、それって許されるのだろうか。
ルーシィはガジルの言葉は聞かなかった事にして、気のない笑みを浮かべた。
「滅竜魔導士の好物って、やっぱ自分の属性なのね」
炎パスタを食べ終えたナツが、首をひねった。
「ギルドの飯もうめーけど、じっちゃんの火もうめーぞ」
聖十大魔道の称号を持つだけはあるだろう。それだけ魔力は高く、心も強い。そんなマカロフが扱う魔法ならば、質も高いのだろう。
「でも、一番うめぇのは……」
思い出すようにどこか遠くを見つめるナツに、ルーシィは首をかしげた。食事を終えたウェンディとガジルも視線を向ける。
ナツは、照れたように笑みを浮かべた。
「やっぱイグニールの火だな!」
きょとんとするルーシィとは逆に、ウェンディとガジルは頷いた。
「グランディーネの周りの空気は優しくて甘かったなー」
「メタリカーナの鉄より歯ごたえがあって質の良い鉄はねぇ」
思い出したのだろう、思わず顔を緩ませるウェンディとガジルに、ナツも混ざった。
「イグニールの火はどんな火よりも熱くてうめぇんだ!!」
そこからは彼らしか分からない会話だ。どれほど、美味しかったかを各々で力説している。
それをどこか遠くに感じながら、ルーシィは食べかけていたスイーツに、再度手を付け始めた。
「これもお袋の味って言うのかしら……」
でもイグニールは確実に男なのだから、親父の味か。
語感の悪さにげんなりと顔を歪め、ルーシィは考え付いた単語を脳内から消し去るように首を振った。
滅竜魔導士の三人は、今日も兄弟のように仲良く過ごしています。
2010,07,07〜2010,08,15