歪み





百年クエストから帰還したギルダーツから、クエストで出会った黒竜の話を聞いたナツはギルダーツの家を飛び出してしまった。
今はそっとしておくべきだろう。
三年ぶりにギルドに戻れば変わっている事がいくつもある。それは、良くも悪くも。
重い息を吐き出して、ギルダーツは椅子に腰を下ろした。

「俺がいない三年間、色々あったみたいだな」

リサーナが亡くなっている事もナツから話されて知ったのだ。ギルダーツの言葉にハッピーが頷く。

「ラクサスも破門になって出て行っちゃったんだ」

「そうか……リサーナとラクサスがいなくなっちまったか」

ギルダーツの顔半分は、手で覆われて隠れてしまった。身体と同様に低い声は震えている。
告げられた凶報に動揺しているのだろう。そう察したハッピーだったが、手がのけられてあらわになった表情に目を見開いた。

「ナツに、こんな顔見せられねぇな」

俯いていても見上げているハッピーには確認できる。
ハッピーは目を吊り上げて、声を荒げた。

「何で笑ってるんだよ!」

悲しんでいると思っていたハッピーの予想を裏切り、ギルダーツは口元を笑みで刻んでいた。

「だから言ったろ。こんな顔ナツには見せられねぇって」

いつでもナツの近くにいたリサーナ。ナツに淡い恋心を抱かせたラクサス。
ナツに特別な感情を持ってしまったギルダーツにとって、二人は邪魔でしかなかった。それならば、今は好機といってもいいだろう。

「リサーナとラクサスは妖精の尻尾の仲間なんだよ!」

それはナツも強く想っていた事だ。ハッピーの言葉はナツを思わせて、ギルダーツは弧を描いていた口元を歪めた。

「ただの、じゃねぇんだよ」

低い声は鳥肌を立たせる程だ。

「ナツにとってはな」

ぞくりと背筋が冷えた。
ハッピーは身動きが取れなく、ギルダーツを黙って見上げるしかできなかった。三年ぶりに再会した仲間が変貌してしまったようで怖さよりも悲しさの方が大きい。

「ナツに、何かするの」

ハッピーは涙で目を潤ませながら声を絞り出した。
ハッピーの言葉に、ギルダーツは少しだけ間をおいて口を開いた。

「俺が、ナツに酷い事すると思うのか?」

纏う空気が和らいだ。
ギルダーツの瞳はハッピーを映してはいない。走り去ってしまったナツを想っているのだろう。
とっさに首をふるって否定するハッピーに、ギルダーツは小さく息をついてガリガリと頭をかいた。

「ハッピー」

ギルダーツの瞳がハッピーを捕える。
先ほどの発言も全てが嘘だったと思わせるように、瞳は柔らかく細められている。

「ナツは、お前が支えてやれ」

ギルダーツの声は、ハッピーの耳に静かに響いたのだった。




2010,05,07〜2010,07,07
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