親自慢





妖精の尻尾では珍しい滅竜魔導士三人が集結。同じ境遇で竜に育てられた彼らは、仲良く顔をつき合わせて、

「イグニールに決まってんだろ!」

「メタリカーナだ」

「グランディーネです!」

は、居なかった。
一つのテーブルに、ナツ、ガジル、ウェンディが座り互いに睨み合っている。ウェンディの場合は、睨むというよりも負けまいと必死に食らいついている感じだ。
周囲は、異様な雰囲気を放つテーブルに近寄れないでいる。

「ナツたち、どうしたんですか?」

昼過ぎ、ギルドに到着したルーシィが、やはり他の者達と同じようにナツたちに近づけないでいた。
ルーシィの問いにミラジェーンは苦笑する。

「なんていうか……親自慢かしら?」

「親自慢?」

三人の共通点、育ての親が竜である事。それぞれ、火竜、鉄竜、天竜の三体。しかし何故そんな話しになったのか。
ルーシィが首をかしげると、ナツたちのテーブルにいたハッピーが近づいてきた。

「ルーシィ、おはー」

「おはよう、ハッピー。ねぇ、ナツたち何があったの?」

原因がなければ、大人しいウェンディを巻き込む事にはならないだろう。

「あのね、オイラが聞いたんだ。イグニールとメタリカーナとグランディーネ、誰が一番強いのかって」

「また余計な事を……」

なるほど。
ナツとガジルなら食いついて来る内容だ。

「それでナツが、イグニールが一番強いって言って、ガジルがメタリカーナって」

「分かった、もういいわよ。大体想像がつくから」

ルーシィがハッピーと共にテーブルに近づいていくと、ナツが立ち上がってテーブルを踏みつけた。

「イグニールが一番強ぇんだ!」

ガジルが負けじと立ち上がり、ナツの額に己の額を付きあてると、ウェンディも慌てて立ち上がる。

「メタリカーナ以外にいるわけねぇ」

「グランディーネはすごい奇麗なんですよ!」

「ウェンディ、オスなんかに負けちゃダメよ」

シャルルも止めようとはしないようだ。煽ってどうすると、ルーシィは溜め息をついた。

「あんたたち、いい加減にしなさいよ。誰が一番だっていいじゃない……」

三人の顔がいっせいにルーシィへと向けられる。

「ルーシィはイグニールが一番強いと思うよな!」

「メタリカーナだろ。バニー」

「グランディーネですよね、ルーシィさん!」

「ていうか、会った事ないんですけど」

どう判断しろと言うのだ。
特にナツとガジルの殺気だった目に気圧されてルーシィは体を震わせた。親が好きなのはいいが迷惑甚だしい。
ナツが自分の首に巻いてあるマフラーを見せ付けるように引っ張った。

「このマフラーはイグニールが編んだんだぞ」

「それ手編みなの?!」

ルーシィは目をむいた。
竜が手編みってどうなのだろう。というか良く編めたものだ。だから幼い頃から身に付けてもいまだに無事なのだろうか。特殊だというのならそれも頷ける。

「それに、強いだけじゃなくて何でも知ってんだ」

胸をそらせるナツに、ガジルも負けじと口を開く。

「それなら、知ってっか?火竜。215年に起きた反乱の真実」

「それ知ってますよ、ガジルさん。人の歴史とは少し違ってて、本当はあの人が首謀者なんですよね」

何の話しだと訝しげに傍観するルーシィ。
ナツは、二人の話しに言葉を詰まらせたようだが、思い出したように口を開く。

「じゃぁ精霊と人間が友達になった時の話し知ってるか?精霊王のじっちゃんと人間がよぉ」

「あ、はい!あの話しは感動ですよね。今でもその繋がりが残ってるのは素敵です」

「ぐ、それは知らねぇ」

ガジルが悔しそうに拳を握り締める。しかし今の話しは聞き流せない。ルーシィが小さく体を震わせた。

「ね、ねぇ、今の話しって、何?精霊王って言わなかった?言ったわよね?!」

必死な様子のルーシィ。精霊王とは一度だけ対面したが普通会えるものではない。何より精霊魔導士にとって、精霊と人間の交友間の起源は気になる話しだ。何故それをナツがさも当たり前のように話しているのか。
ルーシィの様子にナツは首をかしげ、ウェンディが気づいたように、あっと声を漏らした。
ナツとガジルに顔を近づけるようにテーブルに身を乗り出すと、小声で話し始める。

「ダメですよ、こういう話しは」

「何でだ?」

「竜と人の歴史は違ってるんですから。混乱しちゃうじゃないですか」

人とは別の視点。人は伝える歴史を隠すこともあれば脚色する事もある。竜の場合は全てを客観的に見た全てが真実の内容。
人ではないからこそ知る事もあるのだ。

「じゃ、他でやろうぜ」

ナツの言葉に頷くウェンディ。
ガジルも含めた滅竜魔導士がギルドを出て行こうとする。内容が気になり着いていこうとするルーシィだったが、ナツとウェンディが振り返った。

「ルーシィは来んなよ」

「ごめんなさい、ルーシィさん」

拒絶され、ルーシィはギルドの門で立ち尽くしたままナツたちを見送った。

「な、何なのよ、気になるじゃない!」

しかし、三人が揃うとまるで兄弟のようだ。彼らのように同じ境遇を持っているものは、もういないだろう。今まで他の者に話せなかった事も色々あるのかもしれない。話しが気にはなるが、黙って見守ってあげた方がいい。
小さくなっていく三人の背を見つめながら、ルーシィは溜め息をつくのだった。




2010,01,31〜2010,03,05
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