2人と1人の3日目





意識が浮上し、ゆっくりと開いた目蓋。眠気眼が一番に捕らえたのは、間近にあるナツの顔だった。ナツはベッド横に座りこみ、ラクサスの顔を覗きこんでいたのだ。
未だ覚醒しきれていない脳を働かせながら、ラクサスは悪あがき程度に首を動かしてナツと距離を離した。

「何やってんだ」

「見えるか?」

ナツが発した声と顔は至極真面目で、言葉の意味を数秒かけて理解したラクサスは頷いた。

「ああ、見えてる」

ラクサスは布団の中から手を出し、ナツの頬に手をあてた。存在を確認し、認める動作。その行動一つで固かったナツの表情は和らいだ。

「そっか」

ナツは無邪気に笑みを浮かべると、勢いよく立ちあがった。

「早く飯にしようぜ!」

騒々しい足音をたてながら部屋を出て行くナツを見送り、ラクサスは上体を起こした。前髪をかきあげて顔を顰める。脳裏をよぎるのは昨日の出来事。ナツと共に登校したまでは良かったのだが、その後が問題だった。

「連れて行かなきゃよかったか」

ラクサスは溜め息をついて、髪をかき混ぜた。
考えずとも分かる、ナツの今朝の行動の意味。昨日、出会った幼馴染達は、誰一人ナツの姿を確認することができなかったのだ。だから、ナツは目が覚めたラクサスに己の存在を確認した。
ラクサスの中で後悔が広がっていく。同じ学園に通っているルーシィとグレイ。二人を見つけて笑顔で駆け寄っていくナツの後ろ姿。何度話しかけても二人は気づく事はなかった。
あんな顔をさせたかったわけじゃない。
笑顔は固まり、無駄な行動を繰り返していく内に、瞳には涙の膜が覆っていった。
ナツを傷つけてしまったのだ。大きな後悔がある。それなのに、同時に喜びも大きい。ナツが見えるのは自分だけなのだ。世界で誰でもない、他に誰もいない、自分だけがナツを見ることができる。
ラクサスは長い間ナツを想い続けていたのだ、喜ぶなという方が無理だった。

「俺だけ、か」

先ほどナツの頬に触れた手を握りしめて、ラクサスはベッドから抜け出した。
幽霊なのになぜか空腹を訴えるナツを思い出し、早々に着替えてリビングへと急ぐ。

「遅ぇぞ、ラクサス」

リビングに足を踏み入れてすぐ、ソファでくつろいでいるナツの第一声がかかった。ナツはソファの背もたれにしがみ付く形で振り返り、不満げに頬を膨らませている。

「お前、それわざとか?」

再会してから幾度となくたどり着く思考である。ナツの行動が可愛く見えてしまうのは、好意を持っているせいだけではないだろう。
きょとんと首をかしげる姿も愛らしく見えてしまい、ラクサスは緩む顔を隠しながらキッチンへと急ぐ。
朝食の準備をしながら度々ナツの様子を盗み見れば、昨日と同じようにクッションを抱きながらテレビを見ていた。

「ナツ」

名を呼べば、素直に振り返ってくるナツに、ラクサスは言葉をつなげる。

「手伝えよ。トースト焼くぐらいできんだろ?」

ナツは、数回瞬きを繰り返した後に笑みを浮かべた。

「仕方ねぇから手伝ってやる!」

クッションを放り投げて駆け寄ってくるナツに、ラクサスはこっそりと笑みをこぼした。
食パンをトースターにセットしたナツが、冷蔵庫の中を覗きながら、ジャムやバターの準備をする。くるくる動く姿は幼い頃のままだ。

「皿はこれでいいのか?」

「ああ、悪いな」

棚から取り出した皿を差し出してくるナツに、頷きながらちょうど出来上がったオムレツを乗せようと皿に手を伸ばした時だった。

「なんか、こういうのって新婚みたいだな」

ナツの口から発せられた予想外の言葉は、ラクサスに動揺を与えるには十分で、受け取ろうとした皿をとり落としてしまった。一瞬の事で二人とも反応できず、落下した皿は床で無残にも割れて散らばる。

「うわっ、何やってんだよ……」

腰を折って割れた皿に手を伸ばすナツに、ラクサスは慌てて手を伸ばした。ナツの肩を掴み行動を制しようとするが、それが悪かった。身体を起こそうとしたナツの体勢が崩れ、背から傾いていく。

「ナツ!」

スリッパを履いていない事を後悔した瞬間だ。ラクサスは足元の皿の破片に一瞬気をとられながらもナツへと手を伸ばす。それが、ラクサスの体勢も崩させた結果となってしまった。
二人の体が重なって倒れ、皿の落下音より遥かに大きな衝撃音がキッチンに響く。ラクサスは、腕に痛手を感じながらも、ナツに状況を確認しようと視線を落とした。

「怪我はないか?」

「いてぇ……頭うった」

顔を歪めながら後頭部をさするナツに、ラクサスは安堵に溜め息をついた。だが、安堵は窮地に追い込んだ己に気付いたことで、消え去った。
今のラクサスの体制は、ナツを組み敷いている状態だ。もちろん、やましい気持ちはなく、転倒しようとしたナツを支える為だったのだが。
ラクサスは、身動きがとれずに、ナツを見つめる。

「ラクサス?」

訝しむナツと目が合いながらも、言葉をかけようにも口ごもってうまく言葉にならない。二人の視線が交って少しの間があり、ナツの頬が紅潮した。
ナツは、顔をそむけるように首を動かして、横目でラクサスに視線を向ける。

「動けねぇんだけど」

口を尖らせながらの言葉は照れ隠しにしか見えず、ラクサスの頬も紅潮させた。

「悪い……」

謝罪を口にしながらも、ラクサスは身動きせずにナツを見つめるだけ。ナツは居心地悪げに視線をさ迷わせながら、ラクサスの服を遠慮がちに掴んだ。

「あのさ、今日も一緒に学校行っていいか?」

今の状況で出てくるとは思わなかったナツの言葉に、先ほどと同様にラクサスは反応が遅れた。ぎこちなく頷けば、ナツは言葉を繋げる。

「ジェラールとエルザは違う学校なんだよな。場所分かんねぇから、放課後……ラクサス?」

ラクサスの手が乱暴に床に打ちつけられる。間近で発せられた音にびくりと体を震わせたナツは、身体を起きあがらせるラクサスに眉を落とした。

「ラクサス?」

再び名を呼べば、ラクサスは歪めた顔をそらしながら口を開いた。

「あいつに会いたいのかよ」

「当り前だろ。だって――」

「分かった」

ナツの言葉を遮って立ち上がり、廊下へと足を向ける。

「箒とってくる」

足を止めることなく、短く告げて出て行く。
ナツは上体を起こすと、座りこんだままラクサスが出て行った方を見つめる。

「だって、友達だろ……ラクサスは違ぇのかよ」

先ほど止められた言葉を紡ぐ。エルザもジェラールも幼い頃は共に遊んだ友で、ナツだけではないラクサスも同じだったはずなのだ。
ナツの問いと取れる言葉に、誰も答えるものはいなかった。
戻ってきたラクサスの様子は変わっておらず、不機嫌な雰囲気を纏っていた。それは一日中続き、学園が終わり放課後になっても、機嫌は戻る事はなかった。それでも、ジェラール達に会いたいと言う、朝にナツが願った事は覚えていて、ラクサスは一言も発しないながらも、ジェラール達の通う学園に向かって足を動かしていた。
ナツはといえば、ラクサスが返事を返さない中、雰囲気を変えようと一方的に話しかけている。

「あいつらと、よく会ってんのか?学校は違っちまったけど、前みたいに遊んだりしてんだろ。あ、でもジェラールは忙しいんだよな。向こうにもさ、ジェラールのファンとかいっぱいいるんだぜ!俺も、あいつが出てる雑誌買っちまったしな」

照れくさそうに笑みを浮かべるナツとは逆に、ラクサスの表情は更に険しくなっていく。それに気付いたナツは、黙らざるを得なかった。
ナツが口を閉ざせば沈黙が訪れ、居心地の悪い空気が二人を包む。周囲の雑音が異様に耳につき、ナツは視線をさ迷わせた。話題を探したのだが、その視線は前方に見えた二つの影を見つけてしまった。

「ジェラール!」

ナツの明るい声に、ラクサスの肩が跳ねる。

「エルザー!」

ナツが見つけたのは、前方から歩いてくる帰宅途中のエルザとジェラールだったのだ。
二人に向かって駆け寄っていくナツに、ラクサスも止まりそうになった足を進める。

「久しぶりだな!」

昨日のルーシィとグレイに声をかけた時と同様に、ナツは己の姿が見えない可能性など考えぬ様に、ジェラールとエルザに声をかける。まるで、主人を見つけた犬のように、嬉しそうな仕草。
だが、昨日とは違う反応が返ってきた。

「驚いたな。いつこっちに来たんだ?」

嬉しそうに目を細めるジェラールの言葉。ジェラールの視線はナツを捕らえており、それは、確実にナツの存在を認めていた。
ナツの顔が更に嬉しそうに輝き、ラクサスの足が微妙な距離で止まる。

「俺のこと見え――」

「何をそんなに驚く必要がある」

ナツの言葉を遮って、エルザの凛とした声が割って入る。

「確かにこの辺りで見かけるのは珍しいが……こっちに用事でもあったのか、ラクサス」

エルザの目は真っすぐにラクサスを捕らえていた。
三対の目がエルザを見つめる。エルザは、ラクサスとジェラールを交互に見たあと、訝しむように首をかしげた。

「エルザ」

ジェラールは、エルザからナツへと視線を移して、言葉を繋げる。

「お前には見えないか?今、俺の目には、綺麗な桜が映っているんだ」

「すまないが、私には見えないな」

エルザは苦笑すると己の腕時計を見やった。時間を確認し、ジェラールへと視線を戻す。

「おじいちゃんに買い物を頼まれているんだ。私は先に帰らせてもらう」

ラクサスに短く別れの言葉をかけて、エルザは帰路に向けて足を進める。取り残された三人の中で、すぐにエルザへの意識はなくなった。
ジェラールは、存在を確認するように両手でナツの頬を包みこんだ。

「死んでしまったのか?」

「おお。気付いたらこっちに戻ってきてた」

無邪気に笑みを浮かべる姿は幼い頃のままで、ジェラールは思わずナツの身体を抱きしめた。震える腕に力を込め、桜色の髪に顔を寄せる。

「許してくれ……幽霊だとしても、ナツ、お前に会えたことが嬉しくて堪らない」

腕同様に震える声に、ナツは笑みを浮かべたままでジェラールの背に手を回した。

「俺も、ジェラールに会えて嬉しいぞ」

何より、自分の存在を確認できた人間なのだ。ラクサス以外には認められる事がなかっただけに、ナツにとっての喜びは大きい。だから、ラクサスから表情が消えた事に気がつかなかったのだ。

「いつからこっちに来ていたんだ?」

「二日前だ。今はラクサスの家にいるんだ」

ジェラールからの抱擁を解かれたナツは、ようやくラクサスへと振り返る。だが、視線はラクサスの交わる事はなかった。ラクサスはナツとジェラールから顔をそむけていた。

「ラクサス」

ナツが名を呼んで、ようやく気付いたようにラクサスがナツへと振り返った。

「何だよ」

「いあ、だから、俺、今お前ん家に住んでんだよなって……」

「ああ、そうだな」

そっけない相槌のみで、ラクサスは再び視線をそらしてしまった。不自然な反応にナツの眉が落ちる。だが、意識はジェラールに腕を掴まれた事で逸れてしまった。

「何故、ラクサスの家にいるんだ?」

「俺の事見えるのラクサスしかいなかったし」

「俺がいるだろう」

ジェラールの両手は、逃さぬようにとナツの腕を掴んでいる。真っすぐに見つめてくる真剣なまなざしに、ナツは気圧されるように顔を俯かせた。横目でラクサスを見やるが、ラクサスは顔をそらしたままだ。

「ナツ、俺の家に来ないか?」

ジェラールの言葉に、反射的にナツの顔が上がり、同時にラクサスの視線もジェラールへと向く。

「ジェラールの?」

「そうだ。俺はお前の姿を見る事ができるんだ、資格はあるだろう。それに」

ジェラールは一度ラクサスに視線を向け、再びナツへと戻す。

「いつまでもラクサスの家にいるのは迷惑じゃないのか?お祖父さんもいるんだ、不都合も多いだろう」

一日目の出来事がナツの脳裏に蘇える。マカロフにはナツの存在は見る事はできなかった。そのせいで、ラクサスの行動を訝しみ、心配していたのだ。ラクサスにも不快な気持ちをさせてしまった事実から、後ろめたさもあり、否定はできない。

「俺は一人暮らしだから遠慮はいらない」

「でもよぉ――」

「そうしろよ」

視線をさ迷わせていたナツの表情は、言葉を遮って入ってきたラクサスの声で固まった。

「そっちに行けよ」

ラクサスの声は感情などなく、ナツを困惑させた。
ラクサスの様子は朝から妙だったが、その理由がナツには分からず、ジェラールの言った迷惑という言葉を否定してもらえなかった事を悲しむ余裕さえない。
戸惑うナツなど無視して、ラクサスはナツに背を向けた。先ほど来た道を引き返し、少しずつ二人から距離を離して行く。

「俺の家は嫌か?」

ラクサスの背を呆然と見つめたままのナツに、ジェラールが声をかける。
友人であり、拒む理由などないナツは、ジェラールの言葉に慌てて振り返った。

「そんな事ねぇよ!ジェラールの家楽しみだぞ!」

そう答えざるを得なく、後ろ髪引かれながらも、ナツはジェラールの家へと向かう事になった。
ジェラールは進学校であるERA学園に通いながらも、ミストガンという名で芸能活動をしている。ミストガンは、幼い頃に亡くなったジェラールの双子の弟の名だ。芸能界へと入るきっかけとなったのは、エルザが応募したオーディションだったが、手紙のやり取りでナツが背を押したのが大きかった。

「そういやぁ、お前小さい頃からオバケとか見えたんだよな」

ジェラールの家へとたどり着いたナツは、部屋を徘徊しながら幼い事の記憶を甦らせていた。
ナツとジェラールが出会ったのは、ミストガンが亡くなってすぐの事。家に引きこもっているジェラールを引きずりだしたのがナツだった。その時には、ジェラールは通常の人には見ることのできないものが見えるようになっていた。

「そのせいで気味悪がられたりもしたが……今では、この力があってよかったと思っている」

きょとんとするナツに、ジェラールは目を細めた。

「おかげで、ナツの姿を見る事ができた」

自分だけでない事は不服だが。内心付け加えられたことなど気がつかないナツは、嬉しそうにはにかんだ。
ラクサスの事は気がかりでありながらも、ようやく己を見ることができる友人に再会できたことは、ナツの気の緩みになっていた。友人に対して警戒という言葉は妙だが、ナツには必要だったのだ。こと、ジェラールに関しては。
ジェラールの部屋で時間を過ごしたナツは、夕食を終え、満悦でソファでくつろいでいた。
他人の家だから遠慮すると言う言葉はナツにはない。ソファに寝そべる姿は、まるで猫のようで、今にも喉を鳴らしそうだ。

「まさか、食事をとれるとは思わなかったな」

ジェラールが、グラスを両手にソファに近づく。それに気付き、ナツは起きあがってジェラールの分の間を開けた。
腰をおろして、グラスの片方を差し出してくるジェラールに、ナツはグラスを受けとり、口を開く。

「おお、ラクサスも同じこと言ってたな……って、何か味おかしくねぇか?これ」

グラスに口をつけたナツは、違和感に顔を歪めて、グラスの中で波打つ液体を見つめる。色から見て、葡萄果汁の飲料と予想していたナツだが、味が妙だった。

「ワインだ。初めてか?」

「酒じゃねぇか!」

ナツも、当然ジェラールも未成年である。悪びれた様子もなく告げたジェラールは、慣れた様子でグラスの半分程の酒を喉へと流しこんでしまった。

「口当たりがいいものを選んだつもりだったんだが……口に合わなかったか」

「そう言う事じゃなくてよぉ……」

量の減ることのないグラスを見つめるジェラールの声は、気落ちしたように沈んでおり、ナツは内心慌てて、己のグラスを見つめた。今まで興味がなかったわけではない、だが、父親の言いつけを守っていたのだ。
ナツは、グラスとジェラールを交互に見やった後に、一気にグラスの中身を呷った。

「結構うまいな!」

半分は強がりだ。酒に免疫のないナツの舌は、渋みを強く感じてしまっていた。必死に笑顔をつくるナツに、ジェラールは薄く笑みを浮かべた。
最初は饒舌に話していたナツだったが、暫くして勢いがなくなっていった。酒のせいで顔は赤みを帯びている。
ナツが眠そうに眼を擦るのを横目で見やったジェラールは、垂れ下がっているもう片方のナツの手に、己の手を重ねた。

「今でも、気持ちは変わっていない」

「なんの話しだ?」

首をかしげるナツに、ジェラールは腕を回し、優しく抱きしめる。

「引っ越す前に想いを告げただろう。あの頃のまま、俺の気持ちは変わらない」

眠気で回転の悪い脳が、時間をかけてジェラールの言葉を理解した。引っ越す少し前に、ナツはジェラールに愛の告白されていたのだ。当時、ナツの想いは他にあり、二人が両想いになる事はなかった。その後、手紙でのやり取りでも、ジェラールは変わらずに友人として接していたために、告白の記憶はナツの中で消えかかっていた。
記憶が蘇り、酔いと眠気でおぼろげだった思考が鮮明になる。完全に眠気も覚め、ナツは身じろいだ。抱きしめてくるジェラールの胸を押して身体を放す。

「わ、悪い、俺、そろそろ帰るな」

「どこに帰るんだ」

「どこって、ラクサスの……」

口ごもるナツの両肩を、ジェラールの手が掴む。力が入っており、ナツは痛みに顔を歪めた。

「ジェラール」

「やはりラクサスなのか。昔から、お前はラクサスばかりを見ている」

「それは、俺が守ってやんなきゃ――」

「今は必要ないだろう」

ガキの頃とは違ぇんだ。もう、お前の助けはいらねぇよ。
昨日のラクサスの言葉が、ジェラールの言葉と重なって脳裏に蘇える。

「でも……」

出て行くなんて言うな。
そう言ってくれたはずだった。でも、数時間前のラクサスには、拒絶されたのだ。言葉を詰まらせるナツに、ジェラールは追い詰めるように言葉を繋げる。

「俺にはお前が必要だ」

「ジェラール」

「好きだ……好きなんだ、ナツ」

顔を近づけてくるジェラールに、咄嗟に反応できなかたナツは口づけを許してしまった。唇は触れるだけで離れ、ジェラールは至近距離でナツの瞳を見つめる。
瞳を揺らせるナツが顔をそらす前に、再び唇を重ねながら、ジェラールはナツの上体を倒した。
上着をたくし上げ、手を肌へと伝わせば、ナツはびくりと体を震わせながらジェラールの手を掴んだ。

「ジェラール……ダメだ、やめろ」

ジェラールは、触れそうな至近距離で唇を動かす。

「ナツ、俺を拒まないでくれ」

囁くような声と、哀願する弱々しい瞳は、ナツから拒絶を奪う。正義感と庇護心が強いナツは、相手が弱気に出てくると強気になれない。友人となれば特にだ。ジェラールは、それを分かっていて行為を進める。
ナツの手がゆっくりと零れおち、自由となったジェラールの手はナツの胸に落ちた。
ジェラールはナツの身体のいたるところに唇を落としていく。音をたてて口づけ、愛おしむように肌を撫でる。
逃げ腰のように身じろいだナツを無視して、ジェラールは手を降ろした。ナツのズボンに手をかけて、ゆっくりとずらしていく。

「じぇ、ジェラール……」

「ナツ、俺に全て任せてくれ」

いつの間にか立場が逆になっていた。ナツの瞳が弱々しくなり、ジェラールの瞳が獲物を捕らえた獣のように光っている。
ナツの手が、怯えたように己のズボンに手をかける。抵抗しながらも力は弱く、ズボンは呆気なくジェラールの手によって下ろされてしまった。
羞恥で目を固く閉じるナツに、ジェラールはくすりと笑みをこぼして下着に手をかけた。
ゆっくりとずらされ、徐々にナツの隠されていた最後の部分が晒されていく。焦らすような動作で、更にナツの羞恥は大きくなっていった。

「綺麗だ」

視界を閉ざしていても、外気にさらされた事で己自身が露わになった事が分かる。加えた、ジェラールの言葉にナツの羞恥が限界へと達した。
身をよじり、隠すように立てた膝を合わせるが、その行動はすぐにジェラールの手によって止められてしまう。足を開かれ、間にジェラールの身体が割って入った。

「ナツ」

名を囁かれて開いたナツの瞳には、不安と制しようとする思いが浮かんでいる。それに気付きながらも、正反対の想いで満ちているジェラールは、好意を止める気はなかった。
ジェラールはナツ自身を手で包むと、擦り始めた。動かす速度を変えながら、ナツの顔から眼をそらさずに苛める。
快楽で出そうになる声を抑える姿も、相手を誘う素材でしかない。ジェラールは、無意識に誘うナツに喉を鳴らし、顔をナツの股間に埋めた。
喉をひくりと鳴らせたナツは、自分の股間に顔を埋めているジェラールに目を見張った。

「何して……ひぅっ」

ジェラールは、ナツ自身を口で咥えていた。唾液を含ませながら舌と唇で愛撫する。性経験などなく自慰だけだったナツには刺激が強く、瞳に涙を浮かべて頭を振り乱した。

「放せ、かおしくなゆっ」

身体を震わせながら、ナツはジェラールの頭へと手を伸ばす。引きはがそうとしようにも力が入らずに、髪に手を絡ませるだけで終わった。まるで、行為を喜び願っている様にもとれる行動で、ジェラールの愛撫は激しくなった。

「やぁっ、もう――」

せり上がってくる絶頂に身悶えながら、ナツの口からは、無意識にラクサスの名が零れた。
同時に、吐き出される熱と共に浮かんだのは、涙と胸の痛み。囁いてくるジェラールを拒絶するように、ナツは己の腕で視界を塞いだ。




2012,04,21

亡霊が見える。という子どもだったジェラールくん。エルザとは親戚関係にある。的な設定があった気がします。
エロっぽいけどセーフかと思って裏にはしませんでした。基準は文が短いのと入ってないってとこですね。
つーか、最初はジェラールくんはここまでする子じゃなかったはず。ゆきあつのせいか!
忘れていますが、この話は「あの花」をパロろうとした産物です。忘れていい失敗な過去です。でも、ゆきあつがぁっっ※ポジション的にジェラはゆきあつなのですゴメリンコ

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