Café セイバートゥース
「最近暇だよなぁ」
土曜日の昼間。常ならば店内では、ショーケースの前は人で溢れている事が多いはずが、今は一人もいなった。
厨房から出てきたナツが口を尖らせて呟くと、同じく暇そうなルーシィが店内へと目を向けたままで口を開く。
「やっぱ、あれが原因かなぁ」
「新しくできたカフェね?」
店の奥からミラジェーンが出てきた。
客足が遠のいたことで、ミラジェーンとラクサスは店長とで話し合いをしていたのだ。
「さっき、店長ともその話しになったの。多分、お客さんを持って行かれちゃってるのね、セイバートゥースに」
眉を落とすミラジェーンの出した名に、ナツは首をひねった。
「セイバートゥース?」
「二号店が、この近くにできたの」
答えたのはルーシィだ。
セイバートゥースの本店は、人が多く集まる都心部に構えている。何度も雑誌で掲載され、アンケートをとっても、毎度上位に食い込む人気。年齢層は、若い女性が多いが、幅は広い。その二号店が、都心から外れたマグノリア商店街の外れに開店したのだ。
「凄いのか?」
「行った事ないけど、そこの店員が凄い人気らしいわ」
グルメ雑誌週刊ソーサラーの愛読者であるルーシィは、他店の情報も持っていることが多い。少なくとも、ナツよりは情報力はあるだろう。
溜め息をつくルーシィに、ナツはひらめいたとばかりに目を輝かせた。
「じゃ、やっぱあれだな――敵情視察!」
歯をむき出しにして、指をつきつけるナツに、ルーシィは口を開く。
「もしかして、今から?」
「当り前――」
「仕事中だろ、バカ」
背後から伸びてきた手に襟を掴まれ、ナツは言葉を止めた。振り返ればラクサスが眉をひそめて立っている。
ミラジェーンが戻ってきたのだから、話し合いは終えている。ナツが休憩でもないのに厨房から離れていられたのは、ラクサスの目がなかったからだ。
ラクサスの咎める目に、ナツは口を尖らせる。
「暇なんだから、いいじゃねぇか。どうせやる事ないんだろ?」
容赦ないナツの攻撃がラクサスの胸に突き刺さった。今、もっとも気にしているだろう言葉だ。
言葉を詰まらせたラクサスに悪気を感じることなく、ナツはルーシィへと振り返った。
「っし、行こうぜ!カフェ……なんとかに!」
「セイバートゥースね」
ラクサスを内心で憐れみながら、ルーシィはナツのお守役として同行することになったのだった。
当然ながら、店を閉めるわけにはいかないので、ミラジェーンもラクサスも店に残っている。元より、ラクサスがわざわざ敵対する立場にある店に足を運ぶ気なんてないだろうが。
ナツは偵察には変装だと、毎度のごとくなっちゃんの姿だ。すでに、変装と言っていいのか疑問だ。
「セイバートゥースかぁ……うまいもんあんのかな」
「あんたも、少しは雑誌とか読みなさいよ。話題になってるから、週ソラにも載ってるのよ?」
涎を垂らしそうなナツに、ルーシィは胡乱げな視線を向ける。
商店街内に店を構えるフェアリーテイルからは、目的の喫茶店は徒歩で時間などかからない、目と鼻の先だ。
すぐに喫茶店へとたどり着いたナツとルーシィは、店内に入らずに、設置されている窓に張り付いた。体勢を低く保って、窓から店内を覗く。
「すげぇ、人がいっぱいだな」
「やっぱり人気ね」
店内の席はほとんど埋まっている。今は昼と夕方の中間で、時間帯から考えても小休憩に当てはまる。加えて土曜日となれば、休日の人が多いから混雑は当然だろう。
店内を眺めていたルーシィは、接客している人物を見つけて、指を指した。
「あの、黒髪の人」
ルーシィが指し示す人物をナツの目が捕らえる。接客をするには無愛想過ぎる黒髪の、ナツ達と同年齢ほどの少年だ。
ナツが視線を向けたのを確認して、ルーシィが続ける。
「ローグ・チェーニ。ティーインストラクター……紅茶のソムリエね。お客さんの気分や好みに合わせてブレンドしてくれるらしいわ」
「それって凄いのか?」
ナツの頭にある専門知識は菓子関連のみで、紅茶や珈琲といった嗜好飲料には疎い。それに関する職業も同様だ。
「あたしも詳しくはないけど、評判がいいのは確かよ」
「じゃぁ、あいつも凄いのか?」
ナツは店内に向かって指を向けた。
ローグ以外にいる店員は、もう一人。金髪の少年だ。右に額に傷があり、年齢はローグと同じほどだろう。
「スティング・ユークリフね。バリスタよ」
「それなら知ってるぞ、すげぇでかい武器だよな」
ナツが言っているのは、古代の大型兵器である。ルーシィは困惑に瞬きを数回繰り返し、戸惑いながらも口を開いた。
「それは知らないけど、あたしが言ったのと、あんたが想像してるのとは絶対に違うわよ。簡単に言えば、バリスタは珈琲を入れる人の事。でも、それだけじゃないの――」
ナツの目は店内へと向いており、話題の人物を追っていた。
「世界のバリスタが集まったラテ・アート大会の優勝者よ」
つまりは、その分、優勝者と共に店もが注目されるのだ。
店内にいるスティングは気さくな笑顔で女性客の接客をしている。その姿や、ナツ達とそう変わらない年齢から、実力が高いようには見えない。
店内を眺めながら、ルーシィの言葉に適当に相槌を打っているナツは、内心で、ラテ・アートの意味が分からずに首をかしげていた。
「なぁ、とりあえず中に入ろうぜ?」
店を覗いている姿は、ただの不審者で、下手したら営業妨害になりかねない。先ほどから、通行人が怪しむように視線を向けてきている。
気づかなかったのだろう、ルーシィは顔を引きつらせると、早々に入口へと向かった。
喫茶店の入り口のすぐ横がオープンテラスにもなっており、天気の良い今日も解放されている。楽しげに会話をしている女性客を横目に、ナツ達は店内へと足を踏み入れた。
扉上部に設置されていたベルが鳴り、店内を動いていたスティングが、ナツ達の入店に気付いた。
「いらっしゃ――」
出迎えの言葉をかける途中でスティングは動きを止めた。見開く目は、ナツを捕らえており、少し間を置いてスティングはナツの元へと駆け寄った。
「ナツさん!」
名を呼ばれた当人のナツは、予想外のことに瞬きを繰り返す。どういう事かと、説明を求めるルーシィの目にも、答える事が出来ない。
呆然とするナツに、スティングは笑みを浮かべながら、口を開く。
「まさか、ナツさんの方から来てくれるとは思わなかったよ。俺の方から行こうと思ってたんだけど、開店準備で忙しくてさ……」
スティングは、ナツの長い髪に目を止めると、髪をすくい取り、口付けた。
「これ、ヅラ?かわいいね」
動作は妙に手慣れており、囁く声は優しい。
衝撃を受けたナツは、よろけるようにルーシィの腕にしがみ付いた。
「る、ルーシィ……」
動揺しているのは確かで、妙な扱いを受けて怯えているのか。ナツの性格からは想像がつかないが、そうルーシィが気にかけていると、ナツが驚愕の顔で口を開いた。
「俺、ばれたの初めてだ!」
ナツの声は顔同様に驚愕に満ちている。
確かに、ナツの女装を見破ったものはいない。名前を呼んだ事から、以前からナツの事を知っているようだが、それでも急な訪問からすぐに察せるほどに、ナツの女装の完成度は低くはない。
ナツの予想外の言葉に、気遣わしげだったルーシィの眉がつり上がる。
「神妙な顔で言うな!」
怯えているのかと本気で心配してしまった。
「もしかして、ナツさんの友だち?」
目を吊り上げていたルーシィは、覗きこんできたスティングに、一歩身を引いた。反射的に頷くと、スティングは笑みを浮かべながら、唯一空いていた席へと二人を導く。
「じゃぁ、サービスするよ。さ、こっちへどうぞ」
運がいいのか悪いのか、異様に人目が集まる中、案内されたのは店内の中央辺りに位置する席。気のせいなのだが、ルーシィには孤立した席のように感じてしまった。
席に着いた二人に、スティングは注文をとらずに消えてしまう。そんな中、居心地悪げにナツが身じろいだ。
「何か睨まれてねぇか?」
「どう見ても睨まれてるわよ」
周囲の視線が突き刺さってくる。
店の人気は、二人の実力だけではない。二人自身にも人気があったのだ。確かに顔がいい。片は愛想がよく、片は年齢に似つかわしくないほどに冷静沈着。正反対に見えて、だからこそバランスがいい。
「なぁ、ここって女の客しかいねぇんだな」
「あんた、睨まれてる理由分かってないでしょ」
今更なナツの言葉に、ルーシィは脱力した。ナツの場合、女装しているだけで実際には男なのだから、自覚が出ないのも仕方がないのだろうが。
落ち付かない時間は、すぐに終わった。戻ってきたスティングが、ナツとルーシィの前に菓子の乗った皿を置いたのだ。
「これ、うちのパティシエの一押し、苺のタルト。ナツさん、苺好きでしょ?」
皿の上には、苺を使ったタルト。カットされている断面は、タルト生地とカスタードクリームの間にキャラメリゼしたナッツが挟まれ、層になっている。飾られている苺は、名前にふさわしく、惜しげもなく使われている。
ナツは目を輝かせて、スティングを見上げた。
「うまいもんは好きだ!」
再びケーキへと視線を戻したナツは、ふと違和感を覚えた。しかし、違和感が疑問へと変わる前に、スティングが二人の前にカップを置いた。
ソーサーの上に乗せられているカップは湯気をたて、中にはラテ・アートで猫が描かれていた。
「カフェラテ。苦いの嫌いだと思ったから、ナツさんのは特別だよ。ミルク多めでチョコシロップ入り。どう?」
先ほどまでの緊張は菓子の登場で和らぎ、次に出されたカフェラテで、二人の心は鷲づかみされてしまった。
見事に食いついたルーシィが手を合わせて、頬を緩ませる。
「かわいい!」
「おぉ、ハッピーだ!」
「ハッピー?」
首をかしげるスティングに、ナツは続ける。
「ハッピーは家で飼ってる猫だ」
「ナツさんも猫飼ってるんだ。家にもいるよ、レクターっての」
「へへっ一緒だな」
無邪気に浮かべられた笑みには、警戒心など全くない。今のナツには最初の敵情視察という目的が忘れ去られているようだ。
ナツの笑顔で、頬に赤みを差したスティングの手がナツへと伸びる。柔らかそうな頬へと触れる寸前だ、店内で動いていたもう一人の従業員ローグが通りがかりざまに足を止めた。
「いい加減にしろ、スティング」
「ローグ……」
咎める声は、当然だろう。今のスティングは仕事中なのだ。客はナツだけではない、ローグ一人では対応しきれないのだ。
スティングは不満げな表情を隠すことないまま、ナツへと視線を落とす。
「仕事じゃなかったら、ゆっくり話せたんだけどね。まぁ、ゆっくりしてってよ」
スティングは他の客に呼ばれ、渋々ナツの席から離れて行った。わずかに周囲の視線を感じながらも、時間が経てば気にもならなくなる。特にナツは、視線よりも目の前の菓子へと意識が向いていた。
「じゃ、いただきまーす!」
手に取ったフォークを菓子に突き刺す。フォークがタルト生地に刺さる瞬間の、作り置きでは味わえない、クリームの水分を吸っていたら出せない触感。
ナツとルーシィは、菓子をすくったフォークに食いついた。
「うんっ、おいしいわね、これ!ケーキ屋でも人気出るわよ!」
味に満足したルーシィは、更にもう一口口へと運ぶ。しかし、ナツは複雑そうに顔を歪めて菓子を凝視していた。
「うまいけど、なんか食ったことある」
再び手を動かし始めたナツだったが、フォークを口元まで運んだところで動きを止めた。
脳裏をよぎったのはラクサスの姿。ナツは、口元で止まっている菓子をじっと見つめ、震える唇を動かす。
「これ、ラクサスのと似てる……」
ケーキに恍惚していたルーシィは、手を止めてナツへと顔を上げる。食べ物を目の前にしては不自然なほどに、ナツの表情には緊張が浮かんでいた。
「どういう意味?」
「これ、ラクサスのケーキだ」
でも、何かが違う。クリームのなめらかさと濃厚さ。苺の種類。そういう、見た目でも分かる違いではない。
「正真正銘、当店のパティシエが作ったものだよ」
思案に沈んでいたナツに、声が割って入ってきた。反射的に振り返ったナツとルーシィの目に、スーツ姿の男が映る。
「よぉ、おかえり。ルーファス」
店内とカウンターを行き来していたスティングが、スーツの男に気付いて声をかける。それに軽く返事をした男ルーファスは、見上げてくるナツとルーシィを交互に見やった。
「ナツ・ドラグニルに、ルーシィ・ハートフィリア……偵察かな」
「あたし達の事、知ってるの?」
「フェアリーテイルの従業員と記憶している」
ルーファスは、ナツと視線が交うと口元に笑みを浮かべた。
「君の味覚は確かのようだね」
訝しむナツに、ルーファスは続ける。
「君達が口にしているものは当店が作ったものだ。嘘偽りはない。ただ、君の言う事も間違いではないのだよ――それは、君達の店を参考にさせてもらってできた物だからね」
呆然と聞き入るナツの目に、不安の色が濃くなっていく。ルーファスが、仮にも敵対する店の人間に対して淡々と説明しているからか、それとも、この後に続けられるだろう言葉の予想がついているからか。
ルーファスは笑みを崩さぬまま、人差し指でこめかみあたりを二度つつき、己の頭を示した。
「私は、記憶と味覚には自信があってね。口にしたものの、食材と配合が分かってしまうのだよ。そして、二度と忘れる事はない」
ルーファスの笑みに歪んだ口元がゆっくりと動く。
「私は、君達の店の味を全て記憶している」
ナツの瞳が、一瞬で不安から嫌悪に変わる。
「お前、真似したのか!?」
「止めて、ナツ。騒ぎになったら、困るのはあたし達の方よ」
咎めるにしては、落ち付いたルーシィの声。立ち上がりかけていたナツを制して、ルーシィは食べかけのケーキへと視線を落とした。
「基本、作り方も含めて、同じようなものばかりでしょ。皆、それに配合や飾りで自分の作品にしていくの」
基本は、菓子も料理も、全ては同じだ。新しいものも生み出されるが、原理は同じ。小麦粉、バター、卵、砂糖。同じ材料でも、組み合わせや分量、手順で、仕上がる物が違う。
初めて基本にたどり着いた者の、発想と才能は尊すぎるほどだ。
「確かに味は似てるけど……それだけで真似したなんて言えない」
今、目の前にある菓子を真似していると言うのなら、ラクサスの作る菓子も真似事になるのだ。
ルーシィが口を閉ざすと、耳障りにも周囲の雑音が自然と耳についてくる。
スティングが、不穏な空気を察して近づいてくる。それを視界の端に捕らえたナツは、フォークを握る手に力を込めた。残りの菓子を口へと放りこみ、カフェラテで流し込むと、音をたてて立ち上がる。
「スティングだっけ?これ、うまかった、ありがとな。でも、ケーキはうまくねぇ――」
ナツはルーファスを睨みつけ、弾くように口を開いた。
「ラクサスのケーキが一番うめぇ!バカにすんな!」
呻る声は店内に響き、静寂を呼んだ。ナツの大きすぎる音声に、スティング達も客もすぐに反応できない。唯一、ナツの行動を予想できたルーシィは、床を蹴って出て行くナツに、慌てて立ち上がった。
「もうっ、待ってよ!……ていうか、ここ、あたしが払うのね」
ルーシィは溜め息をついて財布を取り出した。テーブルを見やるが、伝票が置いていない。呆然と立ち尽くしているスティングへと振り返った。
「お会計お願い」
「いや、ナツさんからお金とれないし……」
我に返って拒否を示すスティングに、ルーシィはやんわりと首を振るった。
「それじゃ、きっと納得しないから」
少し困った様に眉を落とした、笑顔。仕方がないと諦めがついていて、それは、ナツを理解しているからこその表情だった。
喫茶店を飛び出したナツは、商店街をかけぬけ、洋菓子店へと飛び込んだ。
「ケーキ食わせろぉ!」
店内には客が居り、ミラジェーンが接客していた。いきなりのナツの乱暴な登場に、客もミラジェーンもびくりと体を跳ねさせた。
「おかえりなさい、ナツ」
目を見開くミラジェーンに返事をする事なく、ナツは厨房へと足を進める。厨房内にはラクサスが居り、まばらに来る客に対応する菓子を作っていた。
乱暴に扉を開けて入ってきたナツに、ラクサスは作業していた手を止めた。厨房内にいても、帰ってきたナツの第一声は聞こえていたのだ。
「何騒いでんだ、お前は」
「ラクサス、約束だろ!ケーキ食わせろよ!」
ナツの言う約束の意味を、ラクサスはすぐに察した。
数ヵ月前にマグノリア商店街で行われた祭り、収穫祭。その時に開催されたイベントの一つ、ミスコンテストに女装して参加したナツを連れて帰る為に、した約束。好きな時に好きなだけケーキを食べさせる。というもの。
しかし、ラクサスが返事をする前に、ナツは目の前で仕上げられたばかりの菓子に手を伸ばした。
「クソガキ!それは売りもんだ!」
ラクサスの制止する声も空しく、素手で掴まれた菓子は、ナツの口の中へと消えてしまった。
味わっているのか疑わしい、満足に咀嚼もせずに飲み込んだナツは、口元にクリームをつけたままラクサスを見上げた。
「ラクサスのケーキが一番うめぇからな!」
褒めているとは思えない程に目つきが悪い。どう見ても喧嘩腰のナツの目は、怒りに交じって涙が浮かんでいた。
店内から厨房を覗いていたミラジェーンは、ナツより少し遅れて戻ってきたナツに振り返る。
「何かあったの?」
「……まぁ、偵察中に、ちょっと」
曖昧にしか答える事はできず、ルーシィはナツとラクサスのやり取りを眺める。
「偽物なんかに負けんなよ!」
ナツの両手はラクサスの服を握りしめ、瞳は訴えかけるように真っすぐラクサスの目を射抜く。
ラクサスには、偵察に行ったナツに何があったのかは分からない。聞けるような状況でもない。だた、必死な瞳が、己を守ろうとしてくれているのだと、ひたすらに信じてくれているのだということは、嫌でも伝わってくる。
「で、次は何が食いてぇんだ?」
ラクサスの言葉に、ナツの目が見開く。
「お前の好きなもん作ってやるよ――お前だけのな」
こんなにも、自分のために必死になってくれる存在が愛おしくて仕方がない。
自然と笑みを浮かべていたラクサスに、ナツの表情がくしゃりと歪む。
ラクサスの服を掴んでいた手に力を込めた。こみ上げてくる感情を抑えきれずに、目尻に涙が溜まっていく。ナツは、ラクサスにしがみ付いて顔を隠し、歯を食いしばった。
喫茶店で食べた菓子の味は、確かにラクサスのつくったものに似ていた。言われないで食べさせられれば、ラクサスが作ったものと勘違いしてしまいそうだ。でも、何かが違ったのだ。確かに、教えられる前に感じた違和感があった。
それを、言葉にできない事がもどかしい。
「ラクサスが、一番だ」
震えた声に、ラクサスは小さく息をついて、ナツの頭をぐしゃりと撫でた。
「ああ――」
ありがとな。
ルーシィが出て行った後、すぐに、セイバートゥース店内は落ち着きを取り戻した。何もなかったように店員も動きだし、騒動でわずかに帰った客もいるが、ナツ達が来る前と変わらない穏やかな雰囲気が流れている。
接客が途切れると、スティングはカウンターに背を預けて、隣に立っているローグへと顔を向けた。
「ナツさん、どうしたのかな」
顔を動かさず横目で視線を向けてきたローグに、スティングは続ける。
「つーか、ラクサスって誰だよ」
「ラクサス・ドレアー。マグノリア商店街にある洋菓子店フェアリーテイルのパティシエだ」
一度厨房へと引っ込んだルーファスが、顔を出した。彼はラクサスの作成する菓子の味も全て記憶しているのだ、人物の情報も当然含まれている。
「そいつ、ナツさんの何?」
「二人は、店舗の二階にある住居で同居している。関係について詳しくは調べていないが、互いに同僚以上の感情を持っているようだ」
淡々と告げたルーファスの言葉に、スティングは歯ぎしりをした。
「そいつがナツさんを、あんな風にしたってことかよ……」
女装した姿は可愛らしかった。それこそ、幼い頃を思い出すほどに。でも、あれほどに苛立ちと屈辱を露わにした姿など知らない。スティングの記憶の中では、ナツは幼いまま、無邪気に笑みを浮かべる姿で止まっていた。
スティングは、湧き起こる怒りで、拳を固く握りしめた。
2012,03,20
洋菓子店パロでは、セイバートゥースは人気1カフェ。
紅茶ソムリエのローグ。バリスタのスティング。オルガはパティシエ(軽食も含む調理)ルーファスはマグノリア店の店長(年齢的に)。もう一人の女の子は、コーディネーター的な…また適当な。つーか、名前。。。
スティングは過去にナツと面識有りという事で。まだジェラール達も満足に出していないのに。うぅっ
ケーキ屋のライバルに喫茶店とか王道ですね。本当今回も色々適当すぎますが、苦情はナッシングで。ケーキの事とか、ね。
ラテアートはココアでもできるらしいです。最初ココアにしようとしたけど、ケーキにココアはド甘すぎますから、カフェラテで。
何か、もう、ナチュラルにナツが女装してる