これまでのあらすじ(※去年のやつ設定で)
幼い頃、手術のため海外に行ってしまったラクサスが、高校二年になったある日帰ってきた。幼馴染のナツとグレイとも再会し、ナツの父親イグニールの許可を得て、一人暮らし状態になっていたナツの家で共に暮らす事に。
ナツに密かな恋心を抱くラクサスとグレイと、二人の想いに気がつかないナツ。そのバランスの取れていた関係が崩れる事になる。
幼い頃とは別人のように強くなったラクサスに戸惑っていたナツは、共に暮らすうちにラクサスに恋心を抱くようになってしまったのだ。
放課後の教室で、ナツはラクサスへの想いをルーシィに打ち明けていた。それを聞いてしまったグレイは荒れ、喧嘩に明け暮れるようになってしまった。
理由を知らぬままグレイの身を案じるナツに、ラクサスは……
幼馴染三人の恋愛模様は、秋の空よりも変わりやすい。グレイは、三人の関係はどうなるのか。
幼馴染の青春ラブストーリー。




21日目「最初で最後の好き」



路地裏の壁に背を預けたグレイは、口の中に充満する血の味に眉を寄せた。
ナツの想いを知ったのは数日前。あの日、忘れ物をとりに教室へ戻ったグレイの耳に、話し声が聞こえた。
想い人の声だ、すぐにナツの声だと分かり、教室の前で止めていた足を動かそうとしたが、

「どうしよう、俺……」

ナツの震える声に、グレイの足は止まった。
泣いているのなら慰めてやりたい。この腕で抱きしめてやりたい。そう考えていたグレイの耳に、ナツの声が入ってくる。

「俺、ラクサスが、好きだ」

前に出かかっていた足は、よろけた身体を支えるために一歩下がった。
目には、ルーシィに抱きしめられるナツの姿が映る。どこか遠くに聞こえる二人の会話から逃げるようにグレイは駆け出した。
その後の記憶は、ほとんどない。次の日から学校へは行かず、外に出ては喧嘩に明け暮れた。
元より、ナツと共に喧嘩と聞けば駆けつけて混ざる程だ、グレイが喧嘩をしようが珍しい事ではなく、むしろ仕掛けてくる不良も多い。
グレイは、壁に後頭部を擦りつけながら天を仰いだ。建物の隙間から覗く狭い空を見ながら、うっすらと口を開く。

「ナツ」

切なく漏れた声。目を閉じ、目蓋の裏にナツの姿を思い浮かべていたグレイは、耳に入った足音に目を開いた。
首をひねれば、絵にかいたような不良が数人立っていて、グレイは壁から背を放した。
最後に食事をとったのがいつかも覚えていない。ただ、昨日は家に帰っていなく、少なくとも今日何も口にせず、睡眠も満足にとっていなかった。それに加え、続けざまの喧嘩で、自分で気づかぬうちに体力は限界だった。
喧嘩を初めてすぐ、グレイの意識は飛んでしまっていた。
どれほど経ったのか、目を覚ましたグレイは、全身に走る痛みに顔をしかめながら体を起こした。

「やっと起きたか」

聞きなれた声に振り返れば、一人分距離を置いた隣に、ラクサスが座っていた。

「お前、いつから……」

「どっかのバカがリンチされてる時だよ」

グレイは舌打ちをもらすと気まり悪げに目をそらす。
ラクサスは立ち上がると、グレイを見下ろした。

「帰るぞ。ウルが心配してる――ナツも」

ナツの名に反応したグレイは、ラクサスを見上げて鼻で笑った。

「余裕だな。勝ったつもりかよ、もやしっ子」

もやしとは、ラクサスが幼い頃病弱だった時のあだ名だ。グレイ以外に呼んだ者はいないが、ラクサスにとっては思い出したくもない記憶だった。
ラクサスは一瞬眉を寄せ、口を開く。

「わけ分かんねぇ事言ってんじゃねぇよ、さっさと立て」

「渡さねぇからな」

「あん?」

「俺は十年間あいつの側にいて守ってきた!てめぇには絶対譲らねぇ!」

ナツの事を言っていると察することができたラクサスは、歯を食いしばると、グレイの胸倉を掴み上げた。

「守ってきた?笑わせんな、今あいつを悲しませてんのはお前なんだよ」

「ふざけんな――」

グレイは、己の胸ぐらを掴んでいるラクサスの手首を掴んだ。

「ナツを泣かせてんのは、お前だ」

グレイの目には怒りと悲しみが混ざっており、ラクサスは訝しむ様に眉を寄せた。
しばらく睨み合っていたが、ラクサスは息を吐き出し、グレイから手を放した。

「その状態じゃ、まともに頭も回ってねぇだろ。続きは帰ってからだ」

ラクサスの言う通り、グレイの身体は限界なのだ。グレイは、重い身体を無理やり動かして立ち上がった。

家の付近まで来ると、グレイは前を歩くラクサスの後ろ姿を眺めた。
幼い頃とは違う、鍛えられた体。身長も、幼い頃は三人の中で一番低かったというのに、今では逆だ。それも、全てはナツの為なのだろうと、グレイには分かっていた。

「ナツが好きか?」

唐突なグレイの問い。己に投げかけられているのだと分かったラクサスは、足を止めて振り返る。
互いにナツに恋心を持っている事は幼い頃から知っていて、今更確認する事ではない。だが、グレイの目は真剣で、ラクサスは諦めたようにゆっくりと口を開いた。

「ああ、好きだ」

グレイは、くしゃりと顔を歪めると歩きはじめ、ラクサスを追い越したところで足を止めた。

「悪いな」

小さく呟くと再び歩きはじめる。
謝罪の意味をラクサスはまだ理解していなかった。そして、家が見えてきた二人の目に、ナツの姿が映る。
家の前に立っていたナツは、グレイの姿を見つけて駆け出した。

「グレイ!」

「ナツ」

駆け寄ってきたナツに、グレイは目を細めた。ナツの安堵に緩める表情を見れば、身を案じていてくれたと分かる。

「悪いな、心配させて」

「っ……ほんとだ、バカ」

体を震わせるナツの瞳には涙が溢れていく。それを見つめながら、グレイはゆっくりと口を開いた。

「ナツ、俺、お前が好きだよ」

「な、何だよ急に。俺もグレイの事好きだぜ」

グレイの言った好きは恋愛感情の意。平然と恋の言葉を口にしているナツとは、意味が違う。
予想していたことで、グレイは真っすぐにナツの目を見つめながら口を開いた。

「友達の好きじゃねぇよ。その意味、今のお前なら分かるだろ?」

ラクサスに恋心を持った今なら、想いが通じるはずだ。グレイの思った通り、ナツの顔が次第に赤くなっていく。

「だ、だって、お前は……」

視線をさ迷わせるナツの手を掴み、グレイはナツの意識を己へと向ける。

「ガキの頃から、ずっと好きだった。ナツ、お前をくれ」

グレイの真剣な瞳とぶつかり、ナツは顔を俯かせた。一度ラクサスを見やり、再び視線を落とす。

「悪い、俺、好きな奴いるんだ」

「……ラクサスだろ」

グレイの紡いだ名に、ナツは勢いよく顔を上げた。
グレイは苦笑して、目を見開くナツの横を通り過ぎる。そのまま家へと入っていくグレイの背を見送ったナツは、ラクサスをちらりと見て、顔を俯かせた。ラクサスの視線を感じながら、ナツは口ごもる。

「お、俺さ、好きな奴できたんだ」

「偶然だな。俺も、ガキの頃から好きな奴がいる」

反射的に顔を上げたナツは、ラクサスの言葉と向けられている柔らかい笑みに、顔を真っ赤に染めた。

「ラクサス、俺――」

お前が好きなんだ。




20110818

「最初で最後の好き」は、グレイがナツに好きと口にしたのが最初で最後という事で。
しかしフルバスター、どれだけシリアス展開にしても諦めません。次の日から「愛してる」を連発します。
タイトルの意味はそんなんでした。
21日とかふざけてるけど、去年3つしか書いてねぇです…毎度ながら適当す


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