二人で





※ナツ女体
※妖精たちの恋の二次創作
※暗…い?
※すんまそん



病院にたどり着いたナツは、ロキの止める声も無視して駆けだした。
病院の中を突っ切り、ロキに聞いた病室まで走る。静かな院内では、ナツの足音は常以上に騒がしく感じるだろう。
看護師に注意の言葉を何度かけられても、ナツは振り向く事さえしなかった。

「、じっちゃん!」

「ナツ、来てくれたのか」

ラクサスがいるだろう病室の前に立っていたマカロフの前で、ナツは足を止めた。
肩で息をしながら、口を開く。

「ラクサスは?」

「平気じゃ、もう落ち着いておる」

乱れた呼吸を整える内に、まとわりついていた緊張が消えていった。
深く息を吐き出して病室を見つめるナツに、マカロフは口を開いた。

「お前には話してもよいかも知れんな。ラクサスの事を」

振り向くナツに、マカロフは続けた。



マカロフの話を聞き終えたナツは、病室へ足を踏み入れた。
ナツには珍しいほどに静かな足取りで、ベッド横に立ち、目蓋を閉じているラクサスを見下ろす。

ラクサスは、生まれた時から体が弱くてのう。バンドを続けていた事さえ、奇跡に近い。

「ラクサス」

ナツは、布団から出ている手に触れた。腕には針が刺さり、点滴を受けている。
暖かさを感じる、生きていると安堵できる体温。ナツは、その手を握りしめた。

すでに限界じゃ。手術なしでは、いつまで体が持つか分からん。

マカロフの言葉が脳内で繰り返される。
正直、話を聞いただけでは現実味を感じられなかった。今は、現実味を帯びていくとともに不安が広がっていく。

「ラクサス……ッ」

掠れた声で繰り返し呼ぶと、何度目かで、ラクサスの手が動いた。
ナツの手を握り返し、ゆっくりと目蓋を開く。

「ここで、なにしてる」

「お前が倒れたっていうから来たんだろ、バカ」

涙さえ浮かべるナツに、ラクサスは喉で笑った。

「無事で残念だったな」

「お前、なに言って……」

まるでナツの存在を否定するかの様に、ラクサスは再び目を閉じた。
ナツは、歯ぎしりをすると、ラクサスに覆い被さった。目を見開くラクサスの頭の両脇に手をついて、至近距離で睨み付ける。

「俺、赤ちゃん産むぞ」

ラクサスの眉がひそめられた。

「てめぇ、何言ってるか分かってんのか?ガキがガキ産んでどうする」

「お前が言うな!」

望んでなどいないナツに、妊娠すると分かっていてラクサスは行為をしたのだ。原因をつくった人間がナツを責める言葉を使うのは矛盾している。
ラクサスは言い返す事もせず、その代わりに舌打ちをした。

「勝手にしろ、俺には関係ねぇ」

「ふざけんな――」

目をそらそうとするラクサスの顔を両手で挟み、真っ直ぐに見つめる。

「ちゃんと責任とれよ、父ちゃんだろ」

口を開こうとするラクサスを止めるようにナツは距離を縮め、押し付けるだけの口づけを落とす。

「ナツ」

ゆっくりと唇を離したナツの顔は、泣く寸前に歪んでいた。

「俺一人じゃ無理だから、ちゃんと側にいろよ」

ナツは、ラクサスの胸に額を当てた。
微かに鼓動を感じる。触れれば心地よい体温を感じる。

「頼むから、死ぬな……ッ」

きっと知っていた。酷い扱いをするくせに、その手が優しいことを。きっと分かっていた。見つめてくる瞳が優しかった事を。
だから、いつの間にか体温を求めていた。だから、ミストガンの言葉に応えられなかった。
嗚咽をもらすナツに、ラクサスは言葉を発することなく、ただ、桜色の長い髪に手を伸ばした。




20110416




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