届かない手





※裏の続きであるが裏ではない
※妖精たちの恋のelementsの二次創作。
※ナツ女体。
※ラクサスが酷い?



「ほら、確かめてみろよ」

化粧室の前で座り込んだまま動かないナツに、ラクサスは手に持っていたものを投げた。
膝の上に落下した箱状の物を手に取ったナツは、箱に書かれている文字を読み、眉を寄せた。

「なんだよ、これ」

「見れば分かんだろ。それ使って確かめろよ、ガキができてるかどうか」

ラクサスが放り投げたのは、妊娠検査薬。全て分かっていて、用意していたのだ。
ナツは、それを握りしめて化粧室へと戻った。



検査などしなくとも己の体だ、察していた。
陽性反応のでた検査薬は、半ば八つ当たり気味にゴミ箱に投げ捨てた。

「……どうしよ」

休日だったのは幸いだ。
残酷な事実を突きつけられて、即気持ちを切りかえられるほど、ナツは経験を積んでいない。
ラクサスだけが単独の仕事で出ているから、なおさらナツには有りがたかった。
誰もいないベランダで空を眺めていると、肩に上着がかかる。
首をひねって振り向けば、ミストガンが立っていた。

「体調がよくないなら、中に入った方がいい」

ナツは、かけられた上着の端をつまむ。そのまま、動きを止めるナツに、ミストガンは外へと視線をむけた。
建物が並ぶ町並みを遠くに見ながら口を開く。

「子供ができたんだろう」

上着をつまんでいる手が小刻みに震える。

「なんで、分かったんだ……」

「君を見ていればすぐに分かる」

ナツの喉がごくりなる。
緊張で表情を強ばらせるナツを見下ろして、ミストガンは笑みを浮かべた。
それにつられたように、顔を上げたナツの表情が微かに和らぐ。

「ナツ、私と逃げないか?」

ミストガンの言葉を理解するのに僅な時間がかかった。
揺らぐナツの目には、変わらずに柔らかく笑みを浮かべるミストガンの顔がある。

「私は、君も、君の子供も愛していける」

言葉もなく見上げるだけのナツの手に、ミストガンは己の手を重ねた。

「私たちのことを誰も知らない、そんな土地で、三人で共に生きよう」

ナツにとって、ミストガンは初恋の相手といっていい。だから、ラクサスに奪われる前に、ミストガンと身体を繋げたのだ。
ミストガンの言葉は、ナツにとって大きな救いのはずなのだに、頷くことができなかった。

「お、俺は……」

ようやく口を開いたナツだったが、それを止めるように、慌ただしい足音が響いた。

「大変だよ!」

足音の主はロキだった。部屋に飛び込んだロキはベランダにいるナツとミストガンを見つけて、駆け寄った。
切羽詰まった声同様に、表情も余裕がない。
振り返るナツとミストガンに、ロキは続ける。

「ラクサスが倒れた」

ナツの体が小さく跳ねた。

「中央病院に運ばれたっていうから、僕は行ってくるよ。周りが混乱するから君たちは待機だ、状況が分かったらすぐに連絡する」

「俺も行く!」

出ていこうとするロキに、ナツが駆け寄る。
頷いたロキと共に出ていこうとするナツを、ミストガンは手をつかんで引きとめた。

「何故行く。何故、そんなに怯えているんだ」

返事をしないナツに、ミストガンは、手をつかんでいる手に力を込める。

「君は、ラクサスが好きなのか?あんな屈辱を受けても」

ナツの肩が揺れる。振り返らずに口を開いた。

「好きなわけねぇだろ。あいつ、嫌なことばっか言うし酷ぇことするし。すげぇむかつく」

ナツは体を振るわせながら、首だけで振り向く。その瞳は、涙の膜で覆われていた。

「でも、ラクサスがいなくなるかも知れねぇって考えると……痛ぇんだ」

ミストガンの手が力を緩め、ナツは逃れるように出ていく。
それを見送って、ミストガンは天を仰いだ。
晴れ渡る空には、眩しい太陽が浮かんでいる。手を伸ばしても掴むことができない輝き。その眩しさに、顔をしかめた。




20110415




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