なっちゃん誘拐事件





地下室なのか、陽が当たらないどころか窓さえ見当たらない。電灯もついていないせいで部屋は薄暗く、唯一の灯りは、延々と同じ映像が流れるテレビのみ。
部屋に響き渡るのは、音楽機器から流れる、曲と女性の歌声。

「んー!んぐぐんが!」

部屋の片隅には、両手足を縛られている少年。喋られないようにとテープで口もふさがれている。
うまく言葉を発せなくても、少年は訴えるようにもがき続けていた。
その対象は、目の前にいる男。ずっと恍惚した表情で少年を眺めているのだ。
男は手を伸ばすと、少年の髪に触れた。
部屋の暗さで隠れているが、少年の髪は珍しい桜色をしている。
ふわりとした柔らかい感触に、男は笑みを浮かべた。

「かわいいなぁ。なっちゃん」

うっとりとした声に、少年は顔を歪めた。
男はまるで夢でも見ているかのようで、目付きも怪しい。
男は立ち上がると、天を仰ぎながら両手を広げた。

「なっちゃん!なっちゃん!なっちゃん!なっちゃん!なっちゃん!なっちゃん!なっちゃん!なっちゃん!なっちゃん!」

名を呼び続ける男に、少年はぞくりと鳥肌をたてた。
男はピタリと動きを止めると、ゆっくりと少年に視線を落とす。

「なっちゃん。ほら、見てよ」

男が部屋全体を指し示す。
薄暗くて分かりづらいが、暗闇に目が慣れた少年にも確認はできた。
部屋の天井や壁を埋めつくしているのは、少年が写っているポスター。
フィギュアや写真集やサイン、全てが少年に関するものだ。テレビに流れているのも、少年のみが映っているDVD。
少年は額に妙な汗が浮かぶのを感じた。危険信号など、部屋に連れてこられた時からだ。
どうにかして逃げなければ、何をされるか分からない。追いつめられながらも必死に思考を巡らせる。
そんな少年に、男は這うような動きで詰め寄った。

「なっちゃん」

「ッ」

息を荒げる男の顔が間近にせまり、少年の瞳にじわりと涙が浮かんだ。

「かわいい僕のなっちゃん」

思考を巡らせられる余裕は完全に奪われてしまった。
後退りして男から逃げようとするが、元より部屋の端にいたのだ、すぐに壁に止められてしまう。
男の手が少年の肩にかかり、少年をその場に押し倒す。

「なっちゃんは僕のだ」

最悪の状況に、少年は目を固く閉じた。
しかし、それと同時に激しい音が響き渡る。驚いて目を開く少年、男も音の方を振りかえった。
暗闇に光がさしている。そこに立っている人物と破壊された扉。

「ナツ!」

聞きなれた声で名を呼ばれ、少年は涙をこぼした。

ラクサス。




20110115

こんなことあったらアイドルとしてやばいよな…傷がつく


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