ヘルプ・レター





出会い方が悪かったから、第一印象は最悪。性格は合わない。そう思っていると、良いところを見つけた時、普通よりも好感が上がりやすかったりする。

数学の授業中に惰眠を貪っていたナツ。それに目を付けた数学教諭であるマカオが、教科書に載っている問題の解答を、名指しで指名した。

「ナツ、問1を答えろ」

熟睡していたナツが一度呼ばれてぐらいで起きるはずもなく、数度呼ばれてようやく体を起こした。
隠す様子もなく欠伸をもらすナツに、マカオが口を開く。

「問1答えてみろ。授業聞いてたなら簡単だぞ」

授業聞いていないから指名したのだから、ナツが答えられるわけがない。ナツは、教科書を見つめたまま固まった。
分からない。そう告げようとナツが口を開く前に、マカオが口を開く。

「お前が答えるまで授業進めないからな」

「酷ぇ!」

「酷くねぇだろ、ナツ。俺の授業で寝てるのが悪い」

「聞いてねぇって分かってんなら当てんなよ!」

その前に授業中寝るな。
言い返せない言葉をかけられ、ナツは口を閉ざした。
諦めて教科書を見つめるが、授業を聞いていなかった上に、ナツはテストの点数も低いのだ。どれだけ頭を回転させても、答えが出るわけがない。
無意味な時間が経過していく。その中で、ナツは隣から鼻で笑う声が聞こえ、首をひねる。
隣の席はラクサスで、ラクサスはナツと目が合うと、まるで挑発するように再び鼻で笑った。

「てめ、今笑ったろ!」

目を吊り上げるナツに、ラクサスが視線を向ける。

「んな問題も解けねぇのかよ」

「バカにすんな!こんぐらい……っ」

噛みつくナツに、ラクサスは机の上の紙くずを指ではじいた。それは見事ナツの額に的中し、ナツの机の上に落ちる。

「なにすんだ!」

「遊んでないでさっさと答えろー」

マカオの声に、ナツは悔しそうに呻って教科書に視線を戻す。教科書の上には、先ほどラクサスが弾いてきた紙くずが転がっており、ナツは邪魔そうにそれを手に取った。
軽く丸められているノートの切れ端のようなそれに、文字が書かているのが見え、ナツはこっそり開いた。
くしゃくしゃの紙には、数字が一つだけ書かれており、今の状況でカンペという言葉がナツの頭を過る。
まさかと思い、一度ちらりとラクサスを見やれば、ラクサスは窓から外へと目を向けている。
ナツは戸惑いながらも書かれている数字を口にし、何とかその場を切り抜けることができた。
授業の終了を告げる鐘が鳴り響き、授業を終えたマカオが教室を出ていく。
教室がざわついていく中、ナツは教科書を片づけているラクサスへと身体を寄せた。

「お前、結構いい奴だな」

「何のことだよ」

淡々と告げるラクサスに、ナツのは笑みを浮かべる。

「ありがとな、助かった!」

視線だけを向けたラクサスは、慌てて目をそらした。ナツに笑顔を向けられたのは初めてで、それは、思った以上に眩しかったのだ。
ラクサスは居心地の悪さに立ち上がり、視線をそむけたままで口を開く。

「お前のせいで授業が止まったら迷惑なんだよ」

逃げるように教室を出ていくラクサス。その背後では、ナツの怒りの籠った声がラクサスの名を呼んでいた。




20110826

互いの高感度が上がったピコーン


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