あらすじ。
行き倒れていたコブラを見つけたナツは、怪我を負い記憶まで失っていたコブラを放っておく事が出来ず、家に連れて帰る。幸いにも、共に暮らしているハッピーはエクシード3匹で仕事に出ているため不在だった。
帰ってくるまでの間という期限を付け、ナツはコブラと共に生活を始めたのだが、日を重ねるごとに二人は惹かれ始めてしまった。



6日目「本当の事、本当の気持ち」


「ハッピー達は明日帰ってくるみたいよ」

ミラジェーンが笑顔で告げた。
ハッピーたちの仕事は、猫の手も借りたいという程に忙しい飲食店の仕事だった。本当なら数日で終えてくるはずの仕事だったのだが、猫三匹の接客がうけ、引きとめられたらしい。

「よかったわね、ナツ」

ミラジェーンの声を遠くに感じながら、ナツはギルドを出た。
帰路への道をナツはぼんやりと進む。ナツには似つかわしくなく、俯いたまま。動く地面を見つめていた。

「明日……」

コブラとの約束は、ハッピーが帰ってくるまで。約束通りならば、明日ハッピーが戻ってくるまでにコブラと別れなければならない。
コブラの傷はほとんど癒えているから、問題はない。元より敵だったのだ、ナツが家に置いておく義理もない。
いつの間にかナツは家までたどり着いていた。ぼんやりと家を眺める。窓からコブラの姿が見え、ナツは咄嗟に顔を俯かせた。
立ちつくしたままでいると、扉が開く。

「何やってんだ、そんなとこで」

コブラの声が耳に入り、ナツはゆっくりと顔を上げた。訝しむ様なコブラの顔を見て、笑みを浮かべる。

「ただいま」

無理やり作った笑顔は、引きつっていた。

「……さっさと入れよ」

溜め息をつくコブラに、ナツは頷いて家の中へと入った。
ナツがいない間に、家の外に出られないコブラが暇つぶしにと家の中を片付けた。そのおかげで、散らかり放題だった家の中は数日間まともな姿をしている。
片づけられている部屋とコブラの姿は、ナツの中でいつの間にか当然となっていた。これが明日には無くなってしまう。

「おい」

声をかけられ、ナツはびくりと肩を震わせた。

「な、なんら?」

裏返ったナツの声に、コブラは少し間を置いて口を開く。

「何でもねぇよ」

寝室へと戻っていくコブラの背を見つめ、ナツは小さく息をついた。



その日の夜、コブラはベッドから起きあがり、寝室から出た。怪我人であるコブラはベッドを使い、ナツはハンモックで眠りについている。
コブラはナツの眠っている部屋へと足を運ぶと、ハンモックに体を預けるナツへと近づいた。
よく、不安定な場所で熟睡できる。そう思いながら顔を覗きこんだコブラは、眉を寄せた。
閉じられたナツの瞳から涙が溢れ、目じりを伝っていた。魘されているように口からは少し乱れた呼吸。
コブラはナツの顔に手を伸ばすと、まつ毛についた涙を指の腹で触れた。指についた水滴を見つめ、魔力を抑えていた腕輪を外した。
人の心を聞く魔法。それさえ使えば、今日ナツの様子がおかしかった事も、今なにに苦しんでいるのかも分かると思ったからだ。しかし、

「……ああ、そうか」

コブラは、くしゃりと顔を歪めると、持っていた腕輪を強く握りしめた。
直接頭に流れ混んでくるナツの声は、胸を揺さぶる。

ハッピーが明日帰って来ちまう。コブラがいなくなっちまう。どうしたらいいか分かんねぇ。あいつに本当の事も言えてねぇ。敵だったって言ったらどうなる。俺が倒したって言ったら嫌われるか。嫌われたくねぇ。一緒にいてぇ。このまま一緒にいたらいけねぇのかな。

胸を鷲づかみされるようなナツの言葉が、コブラの頭を埋める。伝線したようにコブラの瞳に涙が浮かんだ。

「そうかよ」

六魔将軍。評議員が捜索している。

その言葉も、頭に流れ込んでくる。このまま居座れば、ナツにまで被害がいくだろう。

「こぶ、ら」

掠れた声がナツの口からもれ、コブラはこぼれそうになった涙を拭った。持っていた腕輪をハンモックに乗せ、震えた手でナツに触れる。
撫でた髪は思った以上に柔らかい。涙を拭った指先から伝わるのは、頬の暖かさ。
コブラは腰を屈めると、ナツに顔を近づけた。薄く開いたナツの口から洩れる息がかかる程に至近距離で見つめ、塞ぐように唇を重ねた。

「んぅ……」

口が塞がれ、ナツが身じろいだ。うっすらと開いた髪と同色の瞳が、コブラを見つめる。

「……コブラ」

唇を解放されたナツが名を紡ぐ。
何も言わずに見つめるコブラに、ナツはくしゃりと顔を歪めた。

「俺な、俺……」

「ありがとな――」

目を見開くナツに、コブラは触れるだけの口づけを落とした。

「ナツ」

六日間過ごしてきたが、コブラは一度もナツの名を呼んだりはしなかった。初めて呼んだ声は、柔らかく、そして震えている。

「コブラ、」

コブラはナツの目を隠すように手で覆う。隠れた涙から涙が伝い、目尻を伝って落ちていく。
それを眺めながら、コブラは口を開く。

「今まで世話になった」

更に続けられるコブラの言葉は、視界が塞がれていてもナツの目には見えていた。
嗚咽をもらすナツに、コブラは静かに家を出ていく。
異様なほどに寒く感じる中で、ただナツの耳には、最後にコブラが告げた言葉がくりかえし耳に響いていた。

「俺も……俺も、好きだ」

ああ、やっぱりお前の声は綺麗だ。




20110827

6日で終わっちゃいましたが…六魔だけに?ぷっ

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