これまでのあらすじ(※続いてry)
たった一人の肉親である祖父が海外出張に行く事になり、その間ラクサスはドラグニル家に預けられることになった。
まるで本当の父のように接してくるイグニールと、兄のようなナツは、兄弟もおらず両親の記憶などほとんどなかったラクサスには、暖か過ぎる家族。
最初は戸惑いながらも、ラクサスは少しずつドラグニル家に馴染んだのだった。




6話「グラタンとコロッケ」



イグニールは小説家という職業についていて、締め切りが近くなると書斎に籠って出てこなくなる。その時期に突入した今、家事全般はナツがうけもっている。
学校を終えたナツは、ラクサスと共に商店街内にあるスーパーへと訪れていた。
カゴを手に歩きながら、ナツは食料品売り場を眺める。

「今日は何にするかなー……ラクサス、何食いたい?」

「オレはなんでもいいよ。ナツのご飯おいしいもん」

大雑把な性格とは不釣り合いにも、ナツの料理の腕はなかなかだった。父親の仕事の関係でそうせざるを得なかったのだろうが、ラクサスの舌は満足できる程だった。
ラクサスの言葉に、ナツははにかんだ。

「グラタンにするか。ラクサス好きだろ?」

表情を輝かせて頷き、ラクサスは口を開く。

「エビも入れてよ!」

「おう!じゃぁ、グラタンに決定だな!」

「グラタンだー!」

笑い声をあげながら、必要な食料品を求めて足を進める。その姿は本当の兄弟のようで、周囲の客は微笑ましげに眺めていた。
食料品を大方集め、カゴの中身を確認しているナツに、見知った顔が近づいてきた。

「よぉ、ナツ」

「グレイ」

グレイは、ナツと同じ学校に通っている幼馴染。小学校入学時から共にいて、まるで計ったようにクラスもずっと同じなのだ。
そして、ラクサスはグレイが苦手だった。

「お前、ここで何してんだよ」

「買い物に決まってんだろ。今日はウルもリオンもいねぇから、飯がねぇんだよ」

グレイが持ち上げたカゴの中には、インスタント食品と出来あいの惣菜が入っている。それに加えて菓子も。

「カップ麺だとでかくなれねぇって父ちゃん言ってたぞ」

グレイはナツの言葉に小さく噴出した。身長では、ナツよりもグレイの方がわずかに勝っているのだ。
それに気付いたナツが不機嫌に目を吊り上げるが、グレイはナツが不満の声を上げる前に、ナツの持つカゴを覗きこんだ。

「エビとマカロニとチーズ……グラタンか?いいな」

「お、そうだ。グレイも家で飯食えよ!」

ナツの言葉に、待ってましたと言わんばかりにグレイの目が光る。それに気づいたのはラクサスだけで、ラクサスは慌ててナツの服を引っ張った。

「どうした?ラクサス」

「早く帰ろうよ」

「ナツ」

グレイは、ナツの首に腕をひっかけ、ラクサスと離すように体を引き寄せた。

「せっかくだ、手料理食わしてくれよ」

グレイはナツの耳元に口を近づけ、囁く。

「あと、お前もな」

ナツは顔を赤く染めて視線をそらした。

「何言ってんだよ……バカ」

ナツの声は似つかわしくない程に小さく、元気を絵にかいたようなナツしか知らないラクサスは、衝撃で言葉を失った。
じわりと涙を溜めて、ナツにしがみ付く。

「ラクサス?どうした?」

「……早く帰ろうよ」

ぐすぐすと鼻を鳴らすラクサスに、ナツは苦笑した。宥めるようにラクサスの頭を撫でて、グレイへと振り返る。

「悪ぃ。やっぱ、さっきのなしな」

「はぁ?おい、ちょっ……!」

ナツはラクサスの手を握りながらレジへと向かってしまった。
取り残されたグレイは、カゴを持つ手に力を込めた。

「あのクソガキ、邪魔しやがって……」

グレイはナツに一目惚れをし、出会った日数分片想い中なのだ。そんな中、ナツの家に転がり込んだラクサス。幼いラクサスを、グレイは大人げなく目の敵にしていた。
悔しがるグレイを周囲の客が遠巻きに見ている頃、レジをすませたナツは、帰路を進みながら、ずっと俯いたままのラクサスへと視線を向けた。

「さっきからどうしたんだよ。グラタン嫌になったのか?」

「ち、ちがうよ!」

慌てて顔を上げたラクサスは、ナツと目が合うと再び俯いてしまった。

「な、ナツは、グレイが好きなの?」

「何だよ、急に……まぁ、ずっと一緒だから嫌いじゃねぇけど、あいつ変態だからな……」

首をひねっていたナツは、肉屋が目に入ると店に近づいて行った。きょとんとするラクサスに、ナツはすぐに戻ってくる。
その手には二つのコロッケがあり、ナツは一つをラクサスへと差し出した。

「グレイは友達だけど、ラクサスの方がいい奴だな。ムカつくこと言わねぇし」

無邪気な笑みを浮かべつナツに、ラクサスはコロッケをおずおずと受けとった。

「……ナツは、オレの方が好き?」

ナツは瞬きを繰り返した後、再び笑みを浮かべた。

「おう、好きだぜ!」

ナツが眩しく見えて、湧き起こってきた羞恥を誤魔化すように、ラクサスはコロッケにかぶりついたのだった。




20110814

若干グレ→←ナツ気味でラク+ナツなドラグニル家。
ラクサスはお兄ちゃんがとられたくないだけです。成長していき、やがて恋に変わる。


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