前回までのあ・ら・す・じ☆(※続いてません)
ギルドから帰る途中、覚えのある匂いに山道へと誘われたナツ。そこで見つけたのは道端で倒れていたコブラ。六魔将軍は評議会によって捕らえられ、コブラの場合はブレインの手で命を奪われていたはずだが、生きていた。コブラは記憶をなくしており、重傷を負いながらも、心の声が聞こえる魔法に困惑しながらマグノリアへとたどり着いた。コブラを家に連れて帰ってしまったナツ。ちょうど、共に暮らしていたハッピーは同じエクシードであるシャルルとリリーと共に仕事に出ていて、家にはナツ一人だったのだ。記憶をなくし、己の魔法にさえ恐怖するコブラを、評議会に突きだすことなどできなかったナツは、ハッピーが帰ってくるまでという約束で共に暮らす事になり……。
敵同士だった二人の期間限定の共同生活。惹かれあっていく二人だったが、別れの時は迫っていた。



5日目「心地よい声」


いつも通りギルドに来ていたナツは、ファイアジュースを口にしながらぼんやりと過ごしていた。

「ナツ、最近変ね」

カウンターの席に座っていたルーシィは、ナツを見て眉を落とした。
ハッピーが仕事に出た次の日からナツの様子が妙だと、ルーシィだけではなく、ギルドの者たちも気にかかっていた。
最初は挙動不審で常よりも早く帰宅していたのだが、帰宅時間が早い事は変わらないが、今はギルドにいる間中は心ここに非ずといった状態。

「また変なものでも食べたのかしら」

エーテリオンを食べてしまった時は、常に騒がしいナツが食欲を失う程に活気がなかった。あの時のように非常事態ならば分かるのだが、それ以外で間違っても炎以外の物を食べてしまうだろうか。
ルーシィが思案に沈んでいると、カウンター内にいたミラジェーンが笑顔を浮かべながら口を開いた。

「まるで恋煩いね」

「ミラさん……面白がってませんか?」

胡乱げに見つめるルーシィに、ミラジェーンは笑顔を浮かべたままで否定する事はない。
二人が会話を続ける中、ナツがゆっくりと立ち上がった。そのままふらふらとギルドを出ていく。

「本当、どうしちゃったんだろう」

「ナツの事だもの、すぐに元に戻るわ。それより、評議会から通達が来たのよ」

「ま、また何か……」

顔を引きつらせるルーシィに、ミラジェーンは続ける。

「各ギルドへの重要通知よ。六魔将軍の一人、コブラを捜索中ですって……行方が掴めないみたい」

「コブラって、ナツが倒した奴ですよ。まさか、仕返しにきたりしないですよね」

ルーシィが顔を青ざめさせる。ミラジェーンは、通達書類をカウンターに置いて、載せられているコブラの写真を見つめた。

「注意した方がいいわね」

マカロフは定例会で不在なのだ、警戒するに越したことはない。



ギルドを出たナツは、商店街へと来ていた。調理せずに食べられそうな、パンや果物を買いながら帰路を進む。

「いっぱい食えば怪我も治るよな」

医者に見せる事はできないため、薬と自然治癒力に頼るしかないのだ。
ナツは、家を出る前に見たコブラの寝顔を思い出して頬を緩めた。家へと向かう足は自然と早くなっていく。

「ただいまー!」

帰宅したナツを待っていたのは、綺麗に掃除された部屋。数時間前には散らかっていた物も、全て片づけられている。
ナツは部屋を見渡し、慌てて奥の部屋へと進んだ。

「コブラ!」

寝室にコブラの姿はあった。
ナツの声に振り返ったコブラの手には雑巾が握られている。

「お前、何で寝てねぇんだよ!」

つめよるナツに、コブラは眉を寄せた。

「いつまでも寝てられるわけねぇだろ。怪我も、ほとんど痛みはねぇからな」

ブレインの攻撃で貫通していた右肩の傷。ナツがコブラを見つけた時、傷には応急処置が施されていた。止血や薬草を使う程度だが、命を取り留めることができたのはそのおかげだろう。そして、医者に診てもらわずとも回復できているのも。
コブラが投げてきた雑巾を受けとったナツは、コブラの右肩を見つめる。

「……まだ、大人しくしてろよ」

ナツの静かな声が部屋に落ちる。似つかわしくないその声は、無意識の内に寂しさを含んでいた。
コブラはナツから目をそらすと、ベッドに腰かけ、傷に手をあてる。

「無理に動いたせいで、また痛みだしてきやがった」

息をついてベッドに横たわったコブラに、ナツは口元を歪めた。

「お前が勝手にやったんだろ!」

「部屋が汚すぎんだよ」

部屋の汚さはルーシィにも言われた事で、言い返す言葉もない。悔しそうに呻っていたナツだったが、思い出したように、あ、と声をもらした。

「腹減ってんだろ?食いもん買ってきたから持ってくるな」

寝室を出ていくナツを見送って、コブラは己の手首にはめられている腕輪を見やる。
腕輪は魔力を押さえる道具で、身に付けている間は魔法が使えない。心を読む魔法を制御できないコブラの為に、ナツが魔法屋で手に入れてきたのだ。
魔力を封じるとはいえ、強制するものではない。鍵がかかっているわけでもない為、すぐに外れた。
腕輪を外したコブラの脳に直接声が入ってくる。声はナツのもので、暫く聞いていたコブラは再び腕輪を装着した。

「うるせぇ声だ……」

近づいてくる足音に耳を傾けながら、目を閉じる。蘇えってくるのは、幾度となく頭に響いてきた声。

何度聞いても心地良い。

コブラの口元には笑みが浮かんでいた。




20110811

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