ティータイム





マグノリア商店街に店を構えている洋菓子店FAIRY TAIL。昼過ぎの休憩室に、ナツが休憩のため訪れていた。
同じく休憩に来たルーシィが、包み紙で覆われている物をテーブルに置く。

「来る前に買ってきたの、一緒に食べない?」

包み紙がルーシィの手で解かれ、中身が現れた。

「おお、菓子だ!」

「和菓子ね。お団子とお饅頭と……好きなの2つとって」

猫のような焼き印が入っている饅頭と、どら焼き。甘辛のたれが絡んでいるみたらし団子。桜の葉が巻いてある桜もち。
菓子を見つめるナツの目は輝いている。
どれにするかナツが選びあぐねていると、休憩室の扉が開いた。入ってきたのはラクサスで、ラクサスはナツの横に座ると、テーブルに並ぶ和菓子に目を止めた。

「化猫の宿か」

「知ってるのね」

「知らないわけねぇだろ」

小さく息をついたラクサスの言う事は尤もだ。
化猫の宿とは、ルーシィが購入してきた和菓子店で、マグノリア商店街内にあるのだ。マグノリアで生まれ育ってきたラクサスが知らないわけがない。

「ラクサスも食べて。皆の分も買ってきたから」

「ああ、悪いな」

ラクサスの手は、数種類の菓子の一つに迷わず伸びていた。選んだのは桜もちで、それはルーシィの予想通りだった。ラクサスだけではなくFAIRY TAILで働いている者たちには、桜と言って連想するのはナツで、ラクサスの事情をよく知っているからだ。
ラクサスがその菓子を選んだのは無意識なのかは分からないが、どちらにせよルーシィにとっては面白いネタになっている。
ルーシィの口元は緩んでおり、それに気付いたラクサスは気まり悪げに舌打ちをもらした。

「なぁ、ラクサス」

さっさと食べてしまおうと、ラクサスが桜もちを口にしようとしたところで、ナツに名を呼ばれた。
ラクサスは開きかけた口を閉じて、ナツに振り返る。

「それ半分こしてくれ」

「あん?食いたいなら、そっちにまだあるだろ」

桜もちは、ラクサスが手に取った以外に、もう一つ残っている。
再び桜もちを口にしようとするが、それはナツに腕を掴まれて止められてしまった。

「俺は全部食いてぇの!」

「お前、なに言ってんだ」

訝しむラクサスとは逆に、ルーシィはナツの考えを察して、ああ、と頷いた。

「一人2個ずつで買ったから、ラクサスとナツが別の種類を選んで半分ずつにすれば全種類食べれる……そう言いたいんでしょ?」

「流石ルーシィ!」

ラクサスは呆れたようにナツを見下ろす。食に対してナツの執着が凄まじい事は共に生活しているラクサスも分かっている。

そういや、ガキの頃から食い意地はってたな。

ラクサスが初めてなっちゃん≠ニ出会った時、絵本に出てくるお菓子の家に涎を垂らしていた。そんな姿も、ラクサスには可愛らしく見えたのだ。
過去の記憶を掘り起こしていたラクサスは、目の前でじっと見上げてくるナツに気づいて我に返った。

「なぁ、頼むよ」

少しだけ声の音量を落として、縋るように見つめてくる。当然のごとく、ラクサスは陥落した。

「分かったから、その目をやめろ」

脱力するラクサスに目を輝かせて、ナツはラクサスの持つ桜もちにかぶりついた。

「ふぁんひゅー」

サンキュー。
桜もちの半分以上はナツの口の中へと消えてしまった。
ラクサスは咎めるのも面倒になり、手に残った桜もちを口へ放りこんだ。
桜の葉の香りと餡の甘さが口に広がる。洋菓子とはまた違った上品な味だ。ラクサスも、和菓子を口にするのは久しぶりで、味わっていた。
だが、視線に気づいて、ラクサスは眉を寄せる。前に座るルーシィが、先ほど同様に揶揄を含んだ笑みを浮かべていた。

「それって間接キスよね」

ちょうど、口の中の菓子を飲み込んだラクサスは、ルーシィの言葉に動揺し、むせた。

「てめ、急になに……」

「おい、大丈夫か?」

苦しげに咳き込むラクサスに、ナツが顔を覗きこんだ。
ラクサスは、至近距離に迫ったナツの顔に咄嗟に目をそらす。ナツの顔が目に入った瞬間、視線が自然とナツの唇へと向いてしまったのだ。
苦しさが治まり溜め息をついたラクサス。その視界に、休憩を取りに来たグレイの姿が入った。

「大丈夫かよ、23歳」

ルーシィ同様に、グレイも揶揄するように表情が緩んでいる。

「間接キスぐらいで動揺すんなよ、23歳」

「黙らすぞ、クソガキ」

低く呻るラクサスに、グレイは適当な返事をしながら、ルーシィの隣へと腰掛ける。

「つーか、女を嫌ってほど抱いてきたんじゃねぇのかよ」

グレイの言葉にラクサスは顔を引きつらせた。

「妙な言い方すんじゃ……」

グレイの言葉を訂正させようとしたラクサスは、はっとしてナツに振り返る。
聞かれていたと思っていたのだが、ナツは菓子を口に頬張っていた。すでに3つの菓子が半分に割られている。
聞かれていなかった事を安堵して息をつくラクサスに、ナツは振り返った。

「なぁ、今グレイが言ったこと、本当か?」

ラクサスは体を強張らせた。ナツの表情は常と変らぬ様に見えるが、よく見れば、目が笑っていない。

「……昔の話しだ」

「本当なんじゃねぇか!」

勢いよく立ちあがったナツの目をつり上がっている。その目には涙が浮かんでおり、ラクサスはナツの怒りを鎮めにかかるのだった。
ラクサスとナツの痴話喧嘩を眺めながら、グレイは菓子を口にする。咀嚼しながらルーシィへと視線を向けた。

「で、なんで和菓子なんだよ」

ルーシィやミラジェーンはよく菓子を持って来て、分け回っている。しかし、和菓子を持ち込んだことはなかった。

「別に意味はないんだけど、このお店最近雑誌に載ったのよ」

雑誌の内容は、最年少の和菓子職人という題。写真も載せられており、写っていたのは12歳の少女。
それが話題になり、現在店が繁盛しているのだ。

「もしかしたら、うちのライバルになるかもしれないじゃない」

ルーシィの言葉に、グレイは未だ痴話喧嘩を続けるナツ達を眺めて、小さく息をついたのだった。

「そりゃ、心配にもなるな」




20110810


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