同じ想い





未開の地と共に未確認生物の調査、それがラクサスの与えられた仕事だった。
場所は孤島。今まで確認されなかった島が、数年前に姿を現した。島を確認してから数年、周囲の環境を調べ終わり、ラクサスは同じ調査員数人と共に島へと降り立った。
島の調査を開始して間もなく、驚愕した。島全体が別世界と呼べるほどに、未確認の動植物が生存していたのだ。
しかし、人の手に負えるものではなく。島全体が檻だとすれば、ラクサス達調査員は餌だ。
襲いかかってくる生物たちから逃れながら、ラクサスは茂みをかき分けて先を進む。

「くそ、この島の生態系はどうなってやがんだ」

先ほども間一髪で餌になるのを逃れたばかりだ。思い出して苦々しく悪態をつきながらも、茂みを突き進んだ。
最後の草をかき分けて抜けだし、天を仰いだラクサスの目に、人影が映る。

「こんな場所に何で人が……」

島の外からの調査でも、人の気配は報告されなかった。実際に島に足を踏み入れてからも、人と呼べる生き物に出くわすことなどなかったのだ。
獰猛な動物が徘徊するような場所で、無防備に岩の上に座り込んでいる。異様な光景に、ラクサスは思わず足を後退させた。
見た目は少年だ、桜色の髪と猫のような瞳を持つ少年。害も敵意も感じない。
少年とラクサスの視線が交うと、少年は震える唇を動かした。

「遅ぇんだよ」

その瞳は潤んでおり、少年が岩から飛び降りて近づいてきても、ラクサスは身動きができなかった。
目の前で足を止めた少年はラクサスを見上げる。ラクサスが黙って見下ろすと、少年はラクサスの背に手を回し、体を引っ付けた。

「ラクサス……」

涙声で少年が呟いたのは、告げてもいないラクサスの名。思わず少年の身体を引きはがそうとしたが、少年の肩に手を置いたところで動きを止めた。
少年の体が小刻みに震えている。少年の顔はラクサスからは確認できない。ただ、しゃくり上げる声が泣いている事を教えていた。
ラクサスの手は、肩から頭へと移動した。桜色の髪を撫でてやれば、少年の抱きつく力が強まる。

「やっと会えたな」

これがラクサスと少年の出会いであり、半月ほどが経過した現在、生活に異変が起きていた。
休日のラクサスは、リビングのソファに座り新聞の記事に目を走らせていた。目の前に設置されているテレビが騒がしく音をたてており、それを夢中で見つめる隣へと見やった。
島で出会った少年が、居座っている。
少年の名はナツといい、今では文献のみで語られている魔法世界を生きていたという。それは千年以上も前で、ラクサスでなくとも信じがたい話しなのだが、実際にナツが火を吐き、火を食べたのが証明となり、信じざるを得なくなった。
島の調査員としてはナツを研究所へと収容するのが道理。そう思いながらも、ラクサスはナツの事を報告できずにいた。

理由は、ひとつ。

「ラクサス?」

ラクサスの視線に気づいたナツが振りむく。
きょとんと首をかしげる姿はまだ幼さが残っているが、実際の年齢は人間の寿命の十倍は軽く超えている。そして、そうまでして生き続けているのは、ラクサスに再び出会うためだった。
ナツの年齢が見た目通りだった当時、魔法戦争でラクサスは命を落とした。ナツは、ラクサスが生まれ変わると信じて、待ち続けていたのだ。

「ナツ」

名を呼べば、それだけでナツは嬉しそうに笑みを浮かべる。
ラクサスは問おうとしていたいくつかの言葉を飲み込み、立ち上がった。

「そろそろ飯にするぞ、何が食いたいんだ」

飯という言葉にナツは瞳を輝かせ、台所へと向かうラクサスの後ろを着いて歩く。

「肉がいい、肉!」

食事の希望を聞けば、必ずと言っていいほどナツの口から出る食材。肉があればなにも文句はないのだ。
ラクサスは相槌を打ちながら食事の準備を始める。その間もナツは、ラクサスから離れることはない。
仕事以外の場所に限って、ナツはラクサスの後を着いて回る。ラクサスも、それに気付きながら咎める事はなかった。
ラクサスは調理の手を進めながら、近くに感じるナツの気配に意識を向けた。
先ほどナツに問おうとしていた言葉が、再び浮かび上がってくる。

お前が会いたかったのは、とうの昔に死んだ男だろ。

何故俺が生まれ変わりだって分かるんだ。

もし、生まれ変わりだと名乗る奴が現れたらどうする。

お前は、俺と死んだ奴とどっちが――

ラクサスは思考を追いだすように溜め息をつき、止まっていた手を動かし始めた。

「なぁ、ラクサス」

首だけで振り返れば、ナツがキッチンカウンターに寄りかかっていた。

「へへっ、なんでもねぇ」

頬を紅潮させてはにかむナツに、ラクサスは視線をそらす。妙に騒ぐ胸を無視して、調理の手を進めたのだった。

もし、輪廻転生が本当にあるとしたら、想いも共に現在に蘇えってしまうのだろうか。




20110802

日記ログ「共に」の続き的な。

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