インスタント・カップル





「そろそろ仕事行かねぇとな」

ギルド内のテーブルに凭れかかっていたナツは、依頼板の方へと視線を向けた。いつでも依頼書が貼りつけられているそこには、おまけの様にナブが立っている。
先ほど依頼版を覗きに行ったが、多人数で行える割りのいい仕事がなかったのだ。

「一人で行きゃいいだろ」

向かいの席に座っていたラクサスが、面倒そうに呟く。

「チーム組んでるからって、いつもくっ付いてる必要なんかねぇだろ」

鬱陶しい。
吐き捨てるラクサスに、ナツは口元を歪めた。

「なに言ってんだよ。お前は、俺達と一緒じゃなきゃ仕事行けねぇんだぞ」

それにはラクサスは言葉を詰まらせた。身体がいつ元に戻るか分からない不安定な状況である今は、一人での行動は最小限にとどめられているのだ。
何も言い返せないでいるラクサスに、その隣に座っていたグレイが、小さく噴出した。

「一人じゃ何もできねぇ奴がかっこつけてんじゃねぇよ」

「あァ?」

険悪な雰囲気の二人に、嬉々としてナツが立ちあがった。しかし、争いに混ざろうとする前に、背を正してしまう。

「また喧嘩か、お前達」

ラクサスとグレイが声のする背後に振り返れば、エルザが腰に手をあてて立っていた。

「全く、仕方がないな」

睨まれたグレイとラクサスが苦い顔をする。それに小さく息をついて、エルザは手にしていた物を目の前に差し出した。手には一枚の依頼書がある。
テーブルに乗り上げたナツが文字を読みあげる。

「討伐か!」

暴れられると顔を輝かせるナツに、エルザが頷いた。

「ルピナス城下町で暗躍している魔法教団の制圧だ」

エルザの言葉に、訝しんだグレイが眉を寄せた。

「前にもそんな仕事しなかったか?」

「おそらく、以前に私達が片づけた教団だ。残党がいたらしい、前よりも手を広げている」

残党がいた上に組織を拡大させてしまったのであれば、前回の依頼も達成したとは言いきれない。今回の依頼で完全に制圧するのが筋だろう。

「っし、暴れか!」

最強チームでの仕事が受理され、翌日、列車でルピナスの隣駅へとたどり着いた。
毎度の如く乗り物酔いのナツは、列車から降りても足がおぼつかず、体を揺らしながら歩いている。

「大丈夫?ナツ」

見慣れているとはいえ、やはり異常なほどに顔色が悪ければ心配にもなる。ハッピーが気づかうように声をかけるが、ナツに返答する余裕などない。
倒れそうなナツの身体を、ラクサスの手が支えた。

「しっかりしろ」

ラクサスの言葉に頷きはするが、己の足で体を支えるのも辛く、もたれかかったままだ。
そんなナツを気にした様子もない他の面々は先を行き、エルザは歩きながら周囲を横目で見やった。

「前回の仕事で私達の顔は知られている、気を抜くな」

「そりゃ、そうよね」

ルーシィが顔を引きつらせる。
制圧した魔法教団からではなく、街からも警戒されているだろう。前回は街を半壊させ、その前には、ナツによって城を一部破壊されている。警戒されないために、教団のいるハピネスではなく、隣駅で降りたのだ。
ホテルにたどり着いたナツ達は、エルザの部屋へと集まった。

「さっきも話したが、今回は教団側に私達の顔は知られていると考えて行動する」

頷く面々に、エルザはルーシィへと顔を向けた。

「ルーシィ、キャンサーを呼んでくれ」

エルザに言われるままに、ルーシィは取り出した鍵を前へ出す。

「開け!巨蟹宮の扉キャンサー!」

星霊界との門を通して姿を現した、キャンサー。両手に構えているハサミを動かしながら、ルーシィへと顔を向ける。

「今日はどうするエビ?」

「私じゃなくて……エルザ、呼んだけどなにするの?」

エルザは短く礼を言うと、他の面々へと目を向ける。

「お前たちに変装してもらう」

エルザが視線を向けたのは、グレイとナツとラクサス。変装をしても無意味なハッピーは除外されている。
変装の意味は分かるが、何故自分たちだけなのか。目で訴える三人に、エルザが続けた。

「敵も女の方が油断するからな」

「ってことは、変装って……」

「女装に決まってるだろう?」

グレイの言葉の続きを軽く言い放ったエルザに、グレイとラクサスは顔を引きつらせた。

「冗談じゃねぇ」

「女装なんかできるか!」

ラクサスとグレイの反発する声に、エルザは訝しむ様に眉を寄せた。

「何が不満だ」

「不満しかねぇよ!」

噛みつく勢いで叫ぶグレイに、エルザは小さく息をついた。動じた様子もなくキャンサーへと視線を向け、顎をしゃくってグレイ達を示す。

「やってくれ」

拒否を許さぬエルザの目に、キャンサーは戸惑いながらも、所有者であるルーシィに視線を向ける。呼び出された目的はどうあれ、精霊は所有者の命令に従うのが規則だ。
ルーシィは疲れたように息を吐いて、グレイを見やった。

「ていうか、グレイは、すぐにばれるんじゃないかしら……」

いつの間にか服を脱いで上半身裸になっているグレイ。その姿を見るルーシィの目は冷たい。

「仕方がないな」

エルザが溜め息交じりに呟くと、グレイは強張っていた体の力を抜いた。今まで幾度となく非難されてきた脱ぎ癖だが、今回ばかりは役に立ったのだ。
エルザの目は、残った二人に向いた。

「ラクサス、ナツ、お前たちで頼む」

「ちょっと待て。前の仕事の時に俺はいなかったんだ、変装する必要はねぇだろ」

ラクサスの言葉は尤もで、元より、変装は顔が知られているからという理由からだ。女の姿で油断させる作戦だとしても、顔が知られていたグレイと、ラクサスでは意味合いが違ってくる。
エルザは、思案するようにわずかに間をおき、小さく頷いた。

「それなら、お前たちに恋人として潜入してもらう。恋人関係にある者たちが多く被害にあっているらしいからな、ちょうどいいだろう」

さらりと言いのけるエルザに、いち早く反応したのは、言われている当人たちではなくグレイだった。

「おい、冗談だろ!」

「なんだ、まだ問題でもあるのか?」

先ほどから文句しか口にしないグレイに、エルザは目を細めた。厳しい目を向けられ、グレイは一瞬怯むが、すぐに口を開く。

「問題あるだろ!ふりとはいえ、ナツがこいつと恋……ぐっ、言葉にもしたくねぇ」

グレイは己の首を押さえて苦い顔をしている。事情を知らない者たちから見たら、今にも卒倒してしまいそうだろう。脂汗すら滲ませている。
グレイは、顔を引きつらせながら、ナツへと振り返った。

「お前は何ともねぇのかよ!」

「仕事なら仕方ねぇだろ」

落ちついた声で答えたナツに、グレイの勢いはかき消された。
言葉を失いナツを呆然と見つめるグレイにナツは首をかしげ、そんなナツをラクサスは珍しいものでも見るようにまじまじと見つめた。

「お前、割りきってるな」

ナツの性格から、かたくなに拒否するものだと考えていたラクサスには、予想外だった。ラクサスの中ではナツは幼い姿のまま止まっていた分、成長を実感できる。
感心していたラクサスだったが、その思案は、ナツが背後に隠れてきたことで止まった。

「もしかして、変装って、そいつがやんのか!?」

ナツは、ラクサス越しにキャンサーを見やる。警戒している動作に訝しんでいた面々だったが、すぐに合点がいった。

「そいつ、顔にべたべた塗ってくんだよ!ぜってぇ嫌だ!」

ラクサスの年齢が後退した原因である魔法薬。同じようにナツが女へと姿を変えられた時、衣服の調達の為キャンサーを呼びだしたのだ。その際化粧をされた事を引きずっているのだろう。
威嚇するように睨むナツに、ルーシィは口を開いた。

「今回はあの時みたいに途中で終わらせないわよ」

「当り前だ。正体がばれれば、力づくで制圧しなければならないからな」

「その方がいいじゃねぇか!」

エルザの言葉は、まさに常通りの行動のはずだ。
手っ取り早い。そう付け加えようとしたナツの言葉は、エルザに睨まれて止まってしまった。厳しかったエルザの目が伏せられる。

「マスターに言われてしまったんだ……少し抑えるようにと」

気落ち気味のエルザに、誰も言葉をかけられなかった。
エルザしか知らないが、評議員からきつく忠告を受けたマカロフは、注意をしたというよりは泣きついたというのが近かった。その姿にエルザは衝撃を受けたのだ。

「次壊したら、この町からは二度と依頼が来ないかも」

「ナツが二回も壊してるしね」

溜め息交じりに呟いたハッピーとルーシィに、ラクサスは眉を寄せた。どんな仕事の仕方をしているのか内心で突っ込み、未だ警戒しているナツを前へ押し出す。

「仕事なら仕方ねぇんだろ?」

先ほど口にした言葉を繰り返され、ナツは言い返す言葉を失くした。仕事なら常に危険も覚悟だ。ナツは、堪えるように目を固く閉じ、口を開く。

「や、やればいいんだろ」

どうにか絞り出したような声に、この件で一番騒いでいたグレイが床に沈んだ。生気など感じない屍のようになっても、慣れなのかナツ達が気にかける様子はない。
一度割りきってしまえば、多少の時間は耐えられるものだ。ナツは、化粧されている間、渋い顔をしながらも最後まで耐えきった。
地毛と同色の人工毛で長髪にされ、長いワンピース姿。薄く化粧をほどこされている。元の質がいいのかキャンサーの腕がいいのか、顔見知りでなければ男だと悟られる事はない程に、ナツは変身をとげていた。もちろん、大人しくしていればだ。

「やだ、かわいいじゃない!」

「なかなか似合っているぞ」

己の作品の出来に恍惚するように、エルザとルーシィは満足にナツを眺めていた。その視線を嫌そうに見やって、ナツはラクサスへと視線を向ける。
ラクサスの首には、ナツが常に身に着けているマフラーが巻いてあった。ナツが着替えさせられる時に奪われ、女性には不釣り合いだからとラクサスに回されたのだ。不満に思いながらも、ラクサスが行動を共にするのなら仕方がないと、ナツは渋々了承した。
ラクサスは、己の首に巻いてあるマフラーを見やる。父からの贈り物だと、ナツが幼い頃から肌身離さず身に着けていた。それを、他人に預けている所など見た事はない。

「俺が持ってていいのかよ」

ラクサスの言葉に、マフラーをちらちら見ていたナツは、反応が遅れてしまった。きょとんとしながらも返答に口を開く。

「ラクサス以外の誰に預けるんだよ」

共に行動するラクサスがマフラーを持っていれば、自然と目の届く場所にマフラーがある事になる。ナツの言葉の意味を、ラクサスを含めた面々も理解している。それでも、信用していない相手に大事な物を預けたりしないだろう。

「ラクサス?」

口をつぐんでしまったラクサスは、顔を覗きこんできたナツの顔を鬱陶しげに手で避けた。

「さっさと始めるぞ」

面倒な仕事は、さっさと終わらせるに限る。面倒そうに呟いたラクサスに、他の面々も頷いた。

「私達は町の外から町全体を、お前たちは教会付近を探ってくれ」

エルザの言葉で、ナツとラクサスはエルザ達と別れた。ハピネスまで赴き、周囲を探りながら街を歩くのが、二人の役回りだ。
ナツが大人しくしていられたのは、ほんのわずかな時間だ。性格上無理があったのだろう、落ち付かず、隣を歩くラクサスに声をかける。

「俺たち、恋人に見えんのか?」

「見えなきゃ困んだよ」

作戦なのだ、嫌だとは言えないし、成功させるためには恋人同士に見えなくては困る。
ラクサスの言葉に頷いたナツが、周囲を見渡す。通りすぎた恋人たちの動作を確認し、ラクサスの腕にひっついた。
怪訝そうに眉を寄せるラクサスに、ナツは小さく呟く。

「恋人ってこうすんだろ?」

周囲を目だけで探るナツに、ラクサスは言葉を飲み込んだ。

「ラクサスもなんかやれよ」

要求されても、ラクサス自身女性との付き合いは皆無だ。興味もなければ、万が一そういう状況になっても人前で絡むのは好かない。
無言で拒否を示すラクサスに、諦めたナツは周囲に視線を走らせ、近くの露天へと近付いた。
腕を掴まれていたラクサスも必然とついていく事になり、露店に並ぶ品物を見て目を見開いた。ナツには不釣り合いともとれる装飾品が並べられている。高価な物ではなく、髪飾りや胸飾りといった、気軽に身に付けられる物ばかりだ。

「なぁ、これ――」

ナツは、並べられている内の一つを指さした。

「かっこよくねぇか?」

指し示されているのは、女性が身につけるには趣味を疑われる形の物。髑髏が禍々しく構えている胸飾りだった。昔のミラジェーンなら好むかもしれないが、今のナツの身なりでは似つかわしくない。
返答できずにいたラクサスは、露店の商人と目があい、慌ててラクサスはナツの手を退かすとその手で隣の髪飾りを手に取った。

「これをくれ」

代金を支払ったラクサスはナツへと向き合った。
いつもは露わになっている額は、変装の為に下ろされている。ラクサスは前髪を横へと撫でて、手にしていた髪飾りのピンで挟んだ。
ラクサスの手が放れれば、髪飾りで飾られた髪が露わになる。ナツの色の印象に合う桜の装飾がほどこされているヘアピンだ。
ナツはヘアピンに触れると、ラクサスを見やった。

「邪魔だから」

いらねぇよ。続けようとしたナツの言葉は、ラクサスに肩を掴まれたことで止められた。

「よぉく似合ってるぜぇ?」

思い切り掴まれた肩に痛みが走るが、ラクサスの怒りを含んだ瞳と低い声に、顔を引きつらせるしかなかった。抗議の言葉さえも出てこない。

「よかったね、彼からのプレゼント」

固まっていたナツを復活させたのは商人からかけられた声。商人の言葉に瞬きを繰り返したナツは、並んでいる商品をちらりと見やった。自分が見ていたのは別の商品だったのだが、ラクサスは勘違いしたのだと、間違った解釈をしてしまった。それを告げようとしたが、言葉を飲み込んで、ラクサスへと視線を向ける。

「なんだよ」

文句でもあるのかと、ラクサスの声に不満が含まれている。
ナツは、一度俯くとラクサスの服を掴み、上目づかいで見上げた。

「……ありがとな」

予想もしていなかった言葉に、ラクサスは目を見開くと、次の瞬間顔を赤らめた。
礼を言っているにも関わらず、ナツの口は拗ねたように尖っており、それが更にラクサスを混乱させた。
ナツの変装はうまくいっている。女の子に見えるのだ。そして、仕草が可愛く見えてしまった。己の行動に羞恥心が生まれた事も加えれば、ラクサスが混乱する理由としては十分だ。
冗談じゃねぇ。あのナツだぞ。
ナツの顔を直視できずに顔をそらしたラクサスは、息をついて気持ちを落ち着かせると、ナツへと顔を向きあわせた。

「よく似合ってる」

同じ言葉なのに、先ほどとは違う常よりも柔らかい声。ラクサス自身驚くほどで、それはナツの頬を紅潮させた。視線を泳がせながら、ずっと掴んだままだったラクサスの服から慌てて手を離し、俯く。間が持たずに、ナツの手は己の服を弄りはじめた。

何だこれ、恥ずかしい!

二人の心の叫びは見事に一致していた。状況としては良い方向だ、仮にも恋人同士として街を散策しているのだから。
露店から離れた二人が歩いていると、暫くして背後から声がかかってきた。

「少しよろしいですか?」

他人の方から接触したことで、ラクサスの意識は完全に魔導士としての仕事へと切り替わった。ナツも同様で、振り返った二人の目には、教会の人間だと判断がつく服装をしている男が映る。待ちに待っていた信徒で間違いない。

「何か用か?」

「いえ、見目麗しかったもので」

ラクサスの問いに答えながら、信徒はナツを観察するように見やる。

「可愛らしいですね」

舐めまわすような視線に、ナツは自然と顔を顰めてしまう。それを隠す様に、ラクサスはナツの後頭部に手をやり、ナツの顔を胸に押しつけながら男を見据える。

「フィアンセだ、妙な目で見るな」

魔導士としての闘志ではなく、嫌悪感だけで睨みつける。それでも十分効果はあったのだろう、信徒はたじろぎながらも顔に笑みを張り付け、口早に話し始めた。

「私は怪しい者ではありません。教団の者で、恋人たちへの祝福と、永劫に続く幸せをお祈りしております。今宵、教会へと足をお運びください」

「夜に、か?」

一般人を夜に協会に呼びこのだ、それだけで十分怪しさしかない。
訝しむラクサスに、信徒は頷いた。

「月には魔力があると言うのをご存じですか?私達は月の魔力を借りて、恋人達へと祈りを捧げているのです」

ナツの脳裏にガルナ島での出来事が蘇える。その際に、目にする事になった月の雫(ムーンドリップ)は、月の魔力を長い月日をかけて集める事で発動できる魔法だった。月の魔力は、身をもって知っている。
ナツが回想している間に、信徒の話しは終えたようだ。

「是非、お越しください」

信徒が一礼をして去っていくと、ようやくナツはラクサスの手から解放された。信徒が声の届かない距離まで離れたところでラクサスへと振り返る。

「ラクサス」

確認するようなナツの目に、ラクサスは口端を吊り上げた。

「簡単に引っかかったな」

恋人同士の被害が多いといっていたから、今回の誘いに乗れば、間違いなく教会の企みを明かす事も出来るだろう。一先ずは、作戦の一段階は成功といっていい。
ラクサスは、ナツが差し出してきた手のひらに音をたてて手を合わせた。

「宿に戻るぞ」

「おお!」

ようやく恋人同士の役から解放されるのだ、二人の表情は晴れやかだった。

宿に戻ったナツ達が暫く待つと、エルザ達も戻ってきた。ナツ達が得た情報を話せば、エルザは満足な笑みを浮かべ、己が得た情報も口にする。

「私達が得た情報も、お前たちと同じように、声を掛けられて教会へと連れて行かれる者が多いという事だ」

そして。エルザが続ける。

「教会に赴いた者達は、姿を消すらしい」

「オイラ達が聞いた話も同じだったよ」

ハッピーと半屍化しているグレイが得たのも同じ情報だったようだ。

「軍が動いていないとすると、金で繋がっている可能性もあるな」

「裏金か。腐ってんな」

人が消えれば怪しむ者も出てくる。しかし、軍が動いていないとすれば、教会から買収されているとも考えられる。
顔を歪めるラクサスの言葉に、エルザは頷いて口を開く。

「もしかしたら、全員といかないまでも姿を消した人を助けられるかもしれない」

姿を消した人を奴隷商に引き渡している可能性もある。そうなれば、引き渡す時に大方の人数を集めてからの方が、効率が良い。

「今夜動くぞ。ナツとラクサス、お前達には教会へと行ってもらう。行けるな?」

二人が頷いたことで、一先ず話しは終わった。
夜になるまで各自準備となった時間、各自割り当てられた部屋へと戻っている中、ルーシィはナツとハッピーの部屋へと訪れていた。
ルーシィは、ベッドで大の字になっているナツの顔を覗きこむ。

「そのピンかわいいわよね。どうしたの?」

ナツの変装は、ルーシィの契約星霊キャンサーが仕立てたものだ。今回この場にいるルーシィはもちろん、ナツの身なりを覚えている。髪飾りは記憶になく、気になった事がルーシィの部屋の訪問理由だった。
ナツは天井を見つめながら、髪飾りに触れた。

「ラクサスが買ってくれた」

「……へ?」

目を見開いたままルーシィは固まってしまった。その反応も当然だろう、ナツの言葉からすれば、髪飾りはラクサスから贈られたことになる。経緯の想像がつかないルーシィとナツの間に沈黙が生まれる。
間が良いのか、扉を叩く音が数回鳴った後に扉が開かれ、ラクサスが姿を見せた。

「作戦会議だ、エルザの部屋に来い」

ラクサスを横目で見やったナツは、勢いよく上体を起こした。その視線はラクサスではなくルーシィへと向いている。

「なぁ、フィアンセってなんだ?」

ナツの口にした単語に、ラクサスの眉が跳ねる。ルーシィは、真面目に見上げてくるナツの目にたじろいで、足を一歩後退させた。

「な、なによ、急に」

「ラクサスが、俺の事フィアンセだっていうからさ」

ナツの言葉だけでは誤解される。演技だと付け加えようとしたラクサスだったが、ルーシィの方が早かった。

「あれぇ?ずいぶん楽しそうじゃない」

ラクサスへと振り返ったルーシィの顔は笑みが浮かんでおり、楽しげに歪むそれは揶揄するものだ。

「プレゼントもしたみたいだしぃ?」

苛立ちで顔を引きつらせるラクサスが言葉通り雷を落とすのだが、もちろん、その後騒ぎに駆けつけたエルザに、三人は叱りを受けるのだった。




2012,03,08

これほとんど書けてて…しかも去年の初めか一昨年辺りだった…こんな感じのがまだまだあるのですよ。消化しないと、どこに何があるのか分からない。一つのワードデータに詰め込んでるので探すのに一苦労です。。。

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