S級試験1






毎年の年末行事、S級魔導士昇格試験。その受験者が発表され、その中に、ギルドに加入して八年であるカナが選考された。

「がんばれよ」

ギルドを出ていこうとするギルダーツに声をかけられ、カナの表情は明るくなった。

「うん!」

今回試験で名を出された事が、カナにとっては好機と取れた。
ギルダーツに名乗り出る事が出来なかったが、試験に受かる事ができたら打ち明けられる。同じS級になれば、その資格がある。
そう意気込むカナの視界に、明るい色が入ってきた。
綺麗な桜色が、輝かせる目でカナを見上げる。

「ナツ」

最近、ナツを見ると胸が痛む。
カナは、思わず顰めてしまった眉間を戻して、ナツを見かえす。

「なに?」

「オレがパートナーになってやる!」

ナツの言葉の意味を理解するのに、暫く時間を要した。昇格試験では、受験者は相棒を選んで二人一組で試験に挑むのだ。
やる気満々に拳を突き出しているナツをどこか遠くで見つめながら、カナはゆっくりと口を開いた。

「だめ」

カナにしては小さすぎる呟きに、ナツは首をかしげた。聞き取れなかったわけではない、カナの否定する意味を問うてるのだ。

「なんでだよ」

「ナツには、絶対にたよりたくないの!」

珍しく戸惑ったような声が、ナツの口からもれる。
怒っているか、泣きそうになっているか、ナツの表情はどちらかだろう。だが、それを確認する勇気は、カナにはなかった。
ナツから逃げるように、カナはその場を後にした。
ギルドを飛び出して、街をさまよう様に歩きながら、カナは石畳の地面を見つめる。

「ナツにはたよらない」

ギルドを出てから、何度も呪文のように繰り返す。
目を閉じても甦るのは、ナツとギルダーツの姿。まるで、本当の親子のように仲が良い二人。
ギルダーツがナツを気に入っているのは周囲もよく分かっている。ナツも、ギルダーツに懐いている。
笑いあう二人を見ているだけで、気持ちが悪くなる。思い出すだけで、ナツへの妬ましい気持ちで溢れていく。
そんな思考を追いだすようにカナは首を振るい、深く息を吐き出す。

「……私の、お父さんなのに」

告げさえすれば、ギルダーツが自分のことだけを見てくれる。そう言いきれないのは、己が弱いからだ。
ナツは強い。まだ年齢が幼い分、強いとは言い切れないけど、少なくとも自分よりも強い。

「ナツなら、お父さんとつり合うんだ」

でも、だからといって諦められない。娘として接してくれていなくとも、好きだから。

「試験、がんばろう……絶対受かって、お父さんに言うんだ」

そしたら、ナツからお父さんを取り返せる。
異様に高鳴る胸の鼓動が、緊張や興奮だけではなかったのだと、後になって分かる。結果なんてものも、きっと分かっていた。
こんな汚れた気持ちで、試験など受かるはずがなかったのだ。




2011,05,11〜2011,06,20
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