prologue





例えば道端に段ボールが放置してあって、その中に捨てられている動物が入っている。そんな事今時ないのではないか。
だが、その日は重なった偶然から出会いが始まった。
いつもなら通勤に車を利用するのだが、出勤前に車が故障になり使い物にならなかった。その日に限って会議が長引いた上に、天気予報が外れて大雨。更には駅からタクシーを利用しようとしたが行列ができていたのだ。
自宅までは大した距離ではない。徒歩で帰路に着く事にした。

「今日は厄日か……」

ラクサスは苦々しく顔を歪めた。
駅前で購入したビニール製の傘を片手に夜道を進んでいくが、風も強く傘が意味をなしていない。守られているのは顔部分だけで、身体のほとんどが雨で濡れていた。
開き直って傘を閉じたのがゴミ収集場の前。ちょうど街灯で照らされているその場所に、箱状に組み立てられたままの段ボールが放置されていた。
雨にさらされて弱くなっているそれの大きさがラクサスの膝ほどまであり、つい目を取られた。
すぐに視線を外したのだが、歩きだそうとした足は段ボールが動いた事で止められた。風ではありえない不自然な動きにラクサスは振り返った。
まさか動物でも捨てられているのか。
段ボールを凝視していると、雨を防ぐように傘になっていた蓋が開く。中から覗いてきたそれにラクサスは目を疑った。

「冗談だろ」

段ボールに手をかけて顔を出したのは子供だった。まだ幼児といえるほどの幼さの子どもだ。
段ボールで守られていたのだろう、濡れていない柔らかそうな髪は桜色の綺麗な色だ。
髪と同色の大きな猫目が、見下ろしてくるラクサスを見つめ返す。
穴が開きそうな位に見つめられ、ラクサスは動けずにいた。これが動物だったらそのまま素通りしたかもしれないが、目の前で起きている事が非常識すぎて、思考がうまく働かないのだ。
夜道の道路脇で雨晒しの中幼児と見つめあうという異様な光景。それを止めたのは、髪から伝って目に入った雨滴。
ラクサスは我に返ると、目元をぬぐって足を踏み出した。しかし、行動を起こすのが遅かった。幼児の手が、逃さないとばかりにラクサスの服を掴んだのだ。
事件性の高そうな状況。面倒事はごめんだと幼児の手を払おうとしたが、幼児の腹から鳴り響いた空腹を訴える音に手は止められた。
縋るような幼い瞳に、少し間をおいてラクサスは深くため息をついた。もちろんそれは、諦めて状況を受け入れるという意味のものだ。
ラクサスは段ボールに入っていた幼児を抱き上げ、雨で冷えていく身体を温める為に帰路へと急いだのだった。


20101003

交番行けよ



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