ラクナツ夫婦と子グレの妙なパロ





「早くしろよ、ナツー」

玄関先で立ちつくす幼児。今から慌ただしい足音が響き、それは玄関に近づいていた。足音の正体は青年で、桜色の髪を靡かせるその青年の手には園児服一式。

「グレイ!何で服脱いでんだよ!」

桜色の青年の名はナツ。成人を迎えたれっきとした男である。しかし、何やかんやで母親という職業についてしまった。童顔のせいか高校生ほどにしか見られないのが、彼の悩みである。

「あれ!?」

ナツに咎められ、初めて自分の姿に気づいた幼児。下着一枚の寒々しい格好の彼の名はグレイ。この家の長男であり、ナツの腹から生まれた実子である。現在、五歳の幼稚園年長だ。

「あれ、じゃねぇよ!さっき着替えたばっかじゃねぇか!もう、いいから着ろよ。迎えのバス来ちまうだろ」

グレイは妖精の尻尾という幼稚園に通っている。毎朝同じ時間に迎えに来る送迎バスが、今まさに来ようとしている時間だった。
ナツにシャツのボタンを止められる。それを眺めながら、グレイはににこにこと笑みを浮かべていた。

「何笑ってんだ?」

「オレ、今ナツのダンナさまみたいぎゃふん!!」

グレイの言葉は、頭の衝撃で打ち消された。

「何考えてんだ、マセガキ」

スーツを身にまとった金髪の青年が、呆れた様な目でグレイを見下ろしていた。
幼い子供にも容赦なく拳を振り上げる彼こそ、この家の家長である。名はラクサス。FTC(フェアリーテイル・コーポレーション)の副社長だ。社長である祖父マカロフの後を継ぐべく日夜励んでいる。多分。

「殴るなよ、ラクサス。バカになったらどうすんだ」

睨むナツの唇に、ラクサスは啄ばむような口づけを落とした。途端ナツは顔を真っ赤に染まる。

「ば、バカ!グレイが見てんだろ!」

「そうだ!オレのナツになにすんだ!」

涙目で睨んでくるグレイを鼻で笑って、ラクサスはナツを抱き寄せた。

「こいつは俺のだ。お前は他当たれ」

何て大人げがないのだろう。子供相手に勝ち誇った笑みを浮かべている夫に、妻であるナツはラクサスの腕の中でウンザリしていた。毎朝同じようなやり取りが行われるのだ。
ナツはラクサスの腕から抜け出して、今にも泣きそうなグレイの頭を撫でた。

「ほら、外出るぞ。もうバス来んだろ」

ナツの言葉通りバスのクラクションが鳴った。玄関の扉を開けば、家の前でバスが一台止まっている。

「おはようございまーす」

バスから降りてきたのは、ナツと高校時からの付き合いである友人のルーシィ。妖精の尻尾幼稚園で働く幼稚園教諭である。

「よぉ、ルーシィ」

「おはよ、ナツ。グレイ出られる?」

ナツは、ぐすぐすと鼻を鳴らすグレイをルーシィの前へと出した。

「……また?」

ルーシィの言うとおり、この光景もよくある事なのだ。ナツとルーシィは顔を見合わせて深くため息をついた。

「それじゃ、グレイ君お預かりします」

「オネガイシマス」

形式ばったやり取りをして、グレイはルーシィに背を押されるようにバスへと乗っていった。
バスが見えなくなって、ナツは家の中へと戻ると、玄関先で待ち構えているかのように立つラクサスの姿。

「やっと行ったか」

「お前、グレイ苛めんなよ。そうじゃなくても父ちゃんとも仲悪ぃんだから」

「お前の親父は危ねぇんだよ、色々」

鈍感なナツは気が付いていないが、ナツの父親であるイグニールは、未だラクサスとナツの結婚をよくは思っていない。少しでも気を抜けば殺される。それぐらいの覚悟で対峙しなくてはならない程だ。
ラクサスでさえも、義父であるイグニールと会う時は神経をすり減らしていた。
泣きそうに顔を歪めるナツの頭を、ラクサスの手が乱暴に撫でる。

「似合わねぇ顔してんなよ」

「ラクサス……俺は、」

言葉を止めるように、ラクサスの唇がナツの唇に重なる。角度を変えて、深く口づける。ナツは苦しさに、震える手でラクサスの服を掴んだ。

「お前は俺の妻だ。この家で、バカみたいに笑ってりゃいい」

熱い吐息が漏れる。熱を含んだラクサスの声に、ナツはとろんとした瞳でラクサスを見上げた。再び唇が重なるというところで、それを遮るように呼び鈴が響いた。
夢から覚めたように、ナツは我に返ると、ラクサスの身体を押しのけた。口元をぬぐいながら扉を開ければ、見覚えのある顔が立っていた。

「よ、よぉ。フリード」

ラクサスの秘書でもあり運転手も兼ねているフリードだった。フリードはナツの姿に苦笑した。

「朝から大変だな、ナツ」

毎朝の事なので、すべてお見通しのようだ。
顔を真っ赤に染めるナツを隠すようにラクサスが前へ出た。

「予定の時間より早いな」

「急な会議が入った。携帯に出ないから、直接来たんだ」

会社の連絡は携帯電話のみ。仕事を家には持ち込まないのが、この家のきまり。ちなみにこの規則を決めたのは、ナツでもラクサスでもなく、ナツの父とラクサスの祖父だ。
ラクサスは面倒くさそうに溜息をつくと、ナツに触れるだけの口づけを落とした。

「行ってくる」

「おう!がんばれよ」

ナツの笑顔に見送られるラクサスの纏う空気は優しい。そんな仲睦まじい姿に、フリードは眩しそうに目を細めた。
余談だが、ナツと結婚してからラクサスの性格が丸くなった。当初人を人とも思わぬ荒い性格から一変したおかげで、ラクサスの副社長としての支持も上がったらしい。ナツ効果で、現社長であるマカロフもだいぶ安心し、側近であるフリード達にも大変喜ばしい事となった。
そんなこんなで、ドレアー家の一日が今日も平和に始まりました。まる。


20100430

苦情は受け付けない



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