いきなり最終話「イチゴミルク、ホットで!」





三月に入ってすぐ、妖精学園では卒業式が行われた。学園を去っていくその中に、ラクサスの姿もある。ナツは、どこか遠くでそれを見ていた。

『卒業式の後、例の場所に来てくれ』

登校したばかりのナツの携帯電話に、ラクサスからメールが入っていた。指定の場所は、伝説の木だろう、ナツには何となく察しがついた。半年ほど前に、ナツが告白をし、振られた場所だ。
そして、ナツの中では、ラクサスの呼び出しを受けるか未だに決めあぐねていた。

「ナツ」

目の前にあるグレイの顔と声に、入り込んでいた思考から抜け出した。反応できずに目を瞬かせるナツの額に、グレイの手のひらが当たる。

「熱はなさそうだな。どこか具合でも悪いのか?」

心配そうに顔を歪めるグレイの顔を間近で見ながら、ナツはゆっくりと首を振るった。
ラクサスに振られたナツは、数十分しか経たないうちにグレイに告白され、受けた。それ以降半年近く、恋人同士として時間を共にしている間グレイに優しくされ、ナツの中で、友人でしかなかったグレイの存在は次第に大きくなっていた。それでも、目がいつの間にかラクサスを追ってしまう。
卒業式が終わり、在校生も卒業生を追う様に体育館を後にした。体育館を出れば、卒業証書を手にした卒業生たちが学校での最後の時間を過ごしている。
グレイと共に教室へと足を進めながら、ナツは目だけを動かして、ラクサスの姿を探す。

「ナツ」

「お、おお、何だ?」

急に足を止めたグレイが振り返ってくる、それにナツは肩をびくりと震わせた。
グレイの瞳が切なそうに細められている。ナツの行動に気付いていたのだろう。ナツは、気まずそうに顔を俯かせた。
謝罪の言葉を口にしようとしたナツだったが、グレイに手を掴まれたことで止められてしまった。

「これから家に来いよ、今日誰も居ねぇんだ」

「いあ、悪いけど」

「いいだろ。それとも、何か用事があるのか?」

グレイの探る様な目と、逃がさないとばかりに力が込められる手。暫く無言で見つめ合ったが、それは、ナツが笑みを浮かべたことで終わった。

「んじゃ、グレイの家行くか!菓子いっぱい買ってこーぜ!」

少し緩んだグレイの手から逃れて、ナツは教室へと向かって走り出す。
先を行ってしまったナツを追うグレイの手は、固く拳が握られていた。
教室に置いてあった鞄を取った二人は、途中で菓子を買い込みながら、グレイの家に向かった。
飲み物持っていくからとリビングへ向かったグレイに、ナツは先にグレイの部屋へと入る。扉を背に、ナツは携帯電話を取り出した。今朝受けたメールを開くと、その文面を眺めて、携帯電話を握る手に力を込める。
ラクサスが自分からメールをしてくる事は、今までなかった。

「待ってんのかな」

卒業後と書いてあるなら、指定の場所にすでにいるのかもしれない。

「何が待ってんだ?」

背後から声がかかり、ナツはびくりと肩を震わせた。慌てて携帯電話をしまいながら振り返ればグレイが立っていた。

「お、驚かせんなよ!」

「勝手に驚いたんだろ。飲み物、コーラで良かったか?」

グレイは、持っていたペットボトル飲料とコップ二つをテーブルに置きながら座る。飲料の中身はコーラだ。
ナツも座りながら、頷く。

「おお、サンキュー。そうだ!菓子食うぞ、菓子!」

買い込んだ菓子をテーブルの上に広げ、順番に口に放り込んでいく。菓子を頬張る無邪気な姿に、グレイは笑みを浮かべた。

「そういや、ルーシィ泣いてたよなー」

「ああ、卒業式か」

卒業式の最中、ルーシィは終始涙を浮かべていた。卒業生による答辞の時など、涙腺が決壊したように涙をこぼしていた。ナツは卒業式に集中などしていなかったし、グレイはそういう性格の人間ではないから、涙など頑張っても出てはこない。

「目すげぇ赤くなっててさ……ぷっ」

思い出して噴き出すナツに、グレイは小さく息をついた。

「お前、それ言ったら殴られるんじゃねぇか?」

「おお、殴られた」

遅かったようだ。悪びれもなく笑みを浮かべるナツに、グレイも笑みを浮かべた。
他愛ない会話をしている内に、テーブルの上の菓子はナツの腹に納められていく。それを眺めながら、グレイは口を開いた。

「ナツ」

名を呼ばれ、菓子を食っている手を止めると、ナツは菓子のかすのついた指を舐めながら振り返る。

「好きだ」

ナツは瞬きを繰り返すと、訝しげに眉をひそめる。

「なんだよ、急に」

「急じゃねぇだろ、付き合ってんだから」

恋人同士なら会いを囁いてもおかしくはない。そうか、と納得したナツとは逆に、グレイの表情が曇った。
グレイはナツへと身を寄せると、先ほどナツが舐めていた手を取る。その手に口づけを落とすと、グレイは指を舌で弄びはじめる。

「ちょっ、やめろよ、汚ぇ……」

非難する様な目を向けるナツだが、その頬は微かに紅色していた。口からは熱っぽい吐息が漏れる。まるで性感帯のように、ナツの身体は反応を示した。
グレイは、喉を鳴らすと、ナツをその場で組み敷く。見上げてくるナツの目は、非難の奥に熱を帯びていた。

「いいよな?」

グレイの手が制服の中へと入りこむ。肌を伝わるグレイの手に、ナツは喉をひくりと震わせ、グレイの腕を掴んだ。微かに震えるその手は、拒絶を示している。

「俺じゃ、嫌かよ」

ナツには何も返す言葉がなかった。グレイが何をしようとしているのか、ナツも分からないわけではない。グレイが嫌ではないはずなのに、身体が拒絶する。
グレイは歯ぎしりすると、掴んでくるナツの手を振り払った。

「いい加減あいつの事忘れろよ!」

あいつという言葉で、ナツの脳裏にラクサスの姿が過る。今さらだろう、過るどころではない、ずっとナツの思考にはラクサスがいるのだ。それは、恋人となったグレイと時間を共にしていても変わらない。
ナツの目は、自然と逃げるようにグレイからそらされていた。グレイはナツを見下ろしたまま口を開く。

「ラクサスの奴が留学するって知ってるか?」

ナツの目が見開かれ、グレイへと視線が向く。

「やっぱ知らねぇか……あいつにとって、お前はその程度って事だよ。お前を置いて行くんだ」

グレイの口元には笑みが浮かんでいるのに、目は悲しみの色が浮かんでいる。

「もう、あいつを追うな。俺がいるだろ」

言葉と共に、グレイの両手が縋るようにナツの肩を掴んだ。グレイの手が震え、それは掴んでいる肩に伝わる。

「グレイ……俺、ラクサスに呼び出されてんだ」

「ああ、そうだろうと思ったよ」

ナツは、肩を掴んでくるグレイの腕に触れる。

「悪い、グレイ」

グレイの顔が歪む。泣く寸前のようなそれは一瞬で、すぐに消えてしまった。グレイは身体を起こすと、ナツに背を向けた。

「行けよ、ラクサスんとこ」

泣いているのかもしれない、ナツからは表情は窺えないが、グレイの声が震えていた。
ナツは、側に置いてあった己の鞄を手に取ると、グレイへと振り返る。身動き一つしないグレイに近づき、その頬に唇を寄せた。
驚いて振り返るグレイに、ナツはにっと笑みを浮かべる。

「俺、お前の事好きだったぜ」

でも、ラクサスの方が好きなのだ。振られたとしても、これだけは変える事は出来なかった。

「ありがとな、グレイ」

ナツが部屋を出て、暫く経ってから、ようやくグレイは動く事が出来た。
最初で最後のナツからの口づけ。未だに柔らかい感触が残っている場所を、指でなぞる。頬でも、唇に近い口端。唇と口端、それはナツの、ラクサスとグレイへの想いの差だろう。

「おしかったって事か……」

グレイの瞳から、堪えていた涙が零れた。







グレイの家を飛び出したナツは、学校へと向かって全力疾走していた。遅刻しそうな時でさえ、こんなにも必死に学校へと走った事はない。これほどに、距離が遠く感じた事はない。
携帯電話で時間を確認すれば、もう夕方に入りはじめていた。普通に考えれば、学校に生徒が残っているとは考えづらい。
学校の門は未だ解放されたままだ。ナツは、校内に飛び込むと、校舎を横切る。ラクサスが指定した場所であろう伝説の木は、校舎から少し離れた場所にあるのだ。
伝説の木に駆け寄ったナツは、息を乱しながら周辺を見渡す。しかし、人影など見当たらない。空へと顔を上げれば、日も傾き始めている。卒業式後とメールに書いてあったのだから、待っているという考えこそが甘かったのかもしれない。
ナツは伝説の木まで歩み寄ると、幹に手をあてた。半年前、ここでラクサスとの距離を作ってしまった。
そして今日、近づく機会を逃してしまったのだ。

「……ラクサス」

じわりと浮かんだ涙を拭おうと手を伸ばすが、それが止められる。

「ナツ」

背後から声がかかったのだ。聞き覚えのある声に、ナツは振り返る。同時に飛び込んできた影、それを慌てて捕らえた。
うまく捕らえる事が出来た、それは暖かい缶飲料。投げた主へと視線を向ければ、ラクサスが立っていた。

「やっと来たか」

溜め息交じりに呟いた声とは逆で、その顔には笑みが浮かんでいた。

「ラクサス、待っててくれたのか」

「当り前だろ。自分で呼び出しといて帰れるかよ」

ラクサスは、己の手にも持っていた缶飲料の蓋を開け、口を付ける。
再び目頭が熱くなるのを感じながら、ナツは口を開いた。

「俺が来なかったら、どうすんだよ」

「来たじゃねぇか」

ナツは言葉を詰まらせた。視線を落とせば、手の中には缶飲料。手に温度を分けてくれるそれに、ナツは、あっと声をもらした。

「これ、クリスマスん時もくれたよな」

「あれは、たまたまだ。お前が財布忘れたんだろ」

ナツは、缶飲料の蓋を開けると、一口口に含んだ。

「うまい……俺、これ好きだ」

涙を浮かべたまま、表情を緩めるナツに、ラクサスは目を細めた。

「知ってる」

ラクサスの表情に、ナツの頭に数ヶ月前の事が頭を過った――――。

数ヶ月前のクリスマス。グレイとのクリスマスの時間は夕方まで、その後は家で待つ父親イグニールと過ごす。それがナツの予定だった。
恋人だったグレイとナツは時間を共にした、その帰り。日も暮れて、街には闇が落ちる。家に向かって歩いていたナツは、途中にある自販機の前で足を止めた。
暖かい飲み物でも買おうと思ったが、ポケット内をどれだけ探しても、財布が見当たらない。

「やべ、忘れてきちまった」

おそらくグレイの家に忘れてきたのだ。しかし、とりに戻るのも面倒だ。諦めて、その場を後にしようとしたが、ナツが振り返る前に横から手が伸びてきた。
手袋をした手が自販機に小銭を投入し、その手は、ナツが選ぼうとしていた飲料を選択する。
手の主へと振り返れば、金髪が間近を通った。ぼうっと眺めるナツの目の前で、手の主は自販機から缶飲料を取り出し、それを、ナツへと差し出す。

「これだろ」

「ラクサス」

差し出されるままに受け取った缶飲料。手のひらから伝わる暖かさに、ナツは表情を緩めながら、手の主であるラクサスを見上げる。

「いいのか?」

頷くラクサスに、ナツは缶飲料を頬にあてた。寒気に当てられていた頬に、じんわりと暖かさが染み込む。

「ありがとな。へへっ、あったけー」

「今帰りか?」

「おお。帰って、父ちゃんとクリスマスすんだ!ラクサスも来るか?」

並んでナツの家の方へと足を進めながらの会話。
ラクサスはナツの言葉に目を見張った。隣を歩くナツをじっと見つめれば、ナツはきょとんと首をかしげる。

「何だよ」

ラクサスは、見上げてくる猫目を、無言で見返す。まるで何でもないかのように言い放ったナツの目は幼い頃と同じで、恋愛感情など含んでいない様だ。

「いや、いい。あの人に睨まれるのは御免だ」

ナツの父親イグニールは、ナツを溺愛している。睨まれるというのは半ば冗談だが、親子の時間を邪魔するつもりはない。

「つーか、何で手袋してねぇんだよ」

ラクサスの目が、缶飲料を握るナツの手に落ち、荒れ始めているその手を睨みつける。ナツは気まずそうに目をそらした。

「だって、面倒くさい」

「お前、あれだけ騒いだの忘れたのか」

ナツの家は父子家庭だ。働く父親の手助けをしようと、食後の後片付けや洗濯などをやるようになったナツの手は、見事に荒れた。それが数年前。イグニールが涙を流していたのは、ラクサスにも衝撃だった。

「クリームはぬってんだろうな」

口を閉ざしてしまったナツの頬に、ラクサスの手が伸びる。両頬を押さえるように掴めば、ナツは眉を寄せた。強く掴まれているせいで頬に微かな痛みがある上に、話せない。
ラクサスは溜め息をつくとナツから手を放し、手袋を外した。それをナツへと差し出す。

「これ使え」

「いらね……ふぐっ」

ラクサスは再度、ナツの両頬を掴んだ。

「いいから使え」

「ひひゃ、ひゃふあふはひゃふぃひゃふぇあ」

なにを言っているのか分からない。
ラクサスが手を放すと、ナツは再度口を開いた。

「俺がそれ使ったら、ラクサスが寒いじゃねぇか」

「お前が痛い思いするよりはマシだ」

ラクサスは言った後に決まり悪そうに舌打ちをした。それをぼうっと見ていたナツの頬に赤みが差し、顔が次第に俯いていく。

「お、俺は、ラクサスが寒い方が嫌だ」

「寒いなんて言ってねぇだろ」

ちらちらと窺う様に見上げられては、これ以上何も言えない。ラクサスは諦めたように溜め息をつくと、手袋を片方だけはめて、もう片方をナツへと差し出した。

「これならいいだろ。着けろよ」

ナツは渋々手袋を受けとると、左手にはめた。今まで使っていたラクサスの体温が若干残っていて暖かい。

「缶、逆の手で持て」

手袋の温もりを味わっていると、ラクサスの声が落ちてくる。
首をかしげながらも、言う通りに、素手で持っていた缶飲料を反対の手へと移動させる。暖かさを失い始めていたとはいえ、缶飲料の温度がなくなり、素手の方が冷えていく。しかし、それはすぐに体温によって包まれた。

「ら、ラクサス……!」

ラクサスの手がナツの手を掴み、己のポケットへと差し入れたのだ。
更に顔を赤く染めるナツに、ラクサスは眩しそうに目を細めた――――。

手のぬくもりを思い出して顔を赤らめるナツに、ラクサスは揶揄するように口端を吊り上げた。

「何考えてんだ?」

「別に、何も……」

口の中には缶飲料の甘味が広がり、手は、思い出したように体温が戻ってくる。そして、いつもより早い鼓動を刻む胸。

「ナツ」

間近で聞こえた声に我に返って、ナツは顔を上げた。
至近距離で見下ろしてくるラクサスの顔は、先ほどのような揶揄を含んだものは見られない。真っすぐな目に、ナツの鼓動は更に早くなっていく。

「ラクサス、俺さ」

「半年だな」

ナツの言葉に被せるようにラクサスが口を開く。

「お前に、ふざけた告白されてから半年だ」

「ふざけてねぇよ、本気だ」

色恋に疎いナツの性格と、あの日のナツの言動は、ラクサスに勘違いさせてしまった。あの日、本気だったナツの言葉はラクサスには届かなかったのだ。
もし、あの日ルーシィに後押しされて、再度想いを告げていれば、こじれる事はなかったかもしれない。
もし、あの時の言葉を真面目に受けとめていれば、距離が出来る事はなかったかもしれない。
互いに何度も悔いた事だが、時間を戻す事などできない。
ラクサスは、ナツの頬に手をそえた。寒気にあてられて冷えた体温が手のひらに伝わってくる。
見上げてくる猫目を見下ろしながら、口を開いた。

「もう一度やり直していいか?今度は俺から」

「それって」

ラクサスの親指が、喋るのを止めるようにナツの唇をなぞる。びくりと身体を震わせるナツに、ラクサスは柔らかく笑みを浮かべた。

「お前が好きだ。恋人として付き合ってくれ」

その言葉は、半年前にナツがラクサスへと告げたもの。全く同じ言葉は、ナツが口にした時よりも、遥かに甘く熱く、鼓膜を震わせる。
ナツは、己の頬に当てられているラクサスの手を握りしめ、震える唇を必死に動かした。

「俺も、好きだ」

震えた声を情けないと恥じる余裕などない。迫ってくるラクサスの顔に、ナツは瞳を閉じた。唇が合わさり、互いに求めあう様に、舌を絡める。先ほどの缶飲料が冷たいと思えるほどに、身体全体に熱が生まれていった。
好意に夢中になる二人の手からは、いつの間にか缶飲料は消えていた。地面に転がる缶飲料。それの中身が地に飲まれていく中、熱い吐息をもらしながら二人は唇を離した。
力なくもたれかかるナツの身体を抱きしめて、ラクサスは小さく囁く。

「来月から、留学する事になってる」

「……知ってる」


「四年間は帰ってこれねぇ。だから」

ラクサスは、身体を放して、ナツを見下ろす。不安そうな瞳が浮かべる涙を、指の腹で拭ってやる。

「浮気しないで、ちゃんと待ってろよ」

ナツの目が大きく見開かれる。もしかしたら、別れを告げられるのかと思っていたのだが、よい方向に裏切られた。
ナツはラクサスの背に手を回して、強く抱きついた。

「当り前だろ」

顔を埋めているせいで、少しくぐもった声。それでも、耳には心地良く響き、ラクサスはナツの身体を抱きしめた。
時間の経過が、空を見なくても分かる。色鮮やかな景色に闇が差していった。日が落ちれば気温も下がるはずなのに、体温を分け合っているせいか、寒気は感じない。
二人を現実へと引き戻したのは、ナツの携帯電話だった。軽快な着信音に、ナツは慌ててラクサスから身体を離した。その着信音を指定しているのは父親だからだ。
慌てて電話に出るナツに、ラクサスは苦笑した。卒業式である今日は、在校生も帰宅が早い。それなのに、日が落ちても帰らないナツを心配しているのだろう。ナツを溺愛しているイグニールらしい。
謝罪の言葉を繰り返すナツから、イグニールの様子が手に取るように分かる。
小さく息をついたラクサスの視界に、仲良く転がっている二つの缶が目に入る。地面に転がっているそれは、中身は出てしまっているし、残っていたとしても当然飲めるはずがない。

「父ちゃん、すげぇ怒ってた」

疲れたように携帯電話をしまうナツに、ラクサスは口を開く。

「新しく買うか」

何がだと首をかしげるナツだが、ラクサスの視線を追って、指し示すものを察した。

「おお!」

二人並んで自販機へと向けて足を進めた。
隣を歩くナツは機嫌良く笑みを浮かべている。それを心地良く感じながら、ラクサスは見えてきた自販機へと目を向けた。

「今年の飲み納めだな」

気温が上がり、自販機の暖かい物も消え始めているのだ。ナツが好んでいる缶飲料も、春休みに入る前に完全になくなってしまうかもしれない。

「今年じゃねぇよ」

ナツは自販機に向かって駆け出した。ナツの言葉に訝しんでいると、自販機にたどり着いたナツが振り返る。

「四年間だ!これはもう、ラクサスとじゃなきゃ飲まねぇ!」

日が完全に落ちているというのに、ナツの笑顔は輝いて見える。
ラクサスは眩しそうに目を細めた。




2011,03,29


ナツ休み期間で書いた、伝説の木の下で、の最終話。
続編希望くださった方々ありがとござます!続編は無理ぽなので、最終話にした。途中経過なんていらんよ最後にラクナツしてりゃ楽しいもん^^
三年後、一年間短縮して帰ってきたラクサスが、ナツと同じ大学に進学したグレイと口論になったりすんだよ、きっと。
伝説が更に伝説を生んだって言う話し、でした。わけ分からん!


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