偽り妖精
物心つく頃には施設で暮らしていた。施設があるのはハコベという田舎で、寮が建っているのも小高い山の中。
自然に囲まれているその場所に不満を持つ事もなかったし、ナツは好んでいた。不自由な事もあるわけがなく、ナツにとって施設は家で、共に住む者達は家族だ。何故、自分が施設で過ごしているのかという疑問さえも浮かばなかった。
だが、十七歳の誕生日の夜、園長から父親について語られた事で、ナツの気持ちは大きく変わった。
母親については生存しているのかさえ不明だが、父親は存在し、ナツが施設に預けられてから今まで多額の寄付がされていた。父親が名を明かす事はなかったが、ただ、髪は印象的で、炎の様に赤かった。
園長の話を聞いたナツは、初めて親というものに興味を持ち、それと同時に顔も分からぬ父親が恋しくなった。
一度生まれた感情は、ほんのわずかな時間の間で溢れてしまった。ナツの頭を埋め尽くしているのは父親の事だけだ。
自室のベッドに寝転がっていたナツは、勢いよく起きあがった。
「父ちゃんに会いに行こう」
父親に一目会うだけ。その目的だけを果たして帰ってこよう。
ナツは消灯時間が過ぎるまで時間を見計らい、職員達も寝静まった夜更けに、静かに動き出した。
財布など最低限のものを詰めたリュックを背負った。隠しておいた靴を履き、窓から抜け出ると、寮を見上げる。
「ちょっと行ってくんな……ぐふッ」
顔面を覆ってきた生暖かいものが視界を遮ってくる。それを引っぺがしてみれば正体はすぐに分かった。寮で飼っている三匹の猫のうちの一匹、ハッピーだ。暗闇では分からないが、青みがかった黒色の毛をしている。
間近で視線をからめていたナツが、にっと笑みを浮かべた。
「ハッピーも一緒に来るか?」
ハッピーはナツが拾ってきた猫だ。まだ目の見えない子猫の時から世話をしてきた、兄弟のような存在。どうせなら父親にも紹介したい。
ナツの提案に返事をするように、ハッピーは一度鳴いた。
「よし、決まりだな。一緒に父ちゃんに会いに行こうぜ」
ナツはハッピーを地面に下ろすと、寮に背を向けて歩き始めた。猫を連れ添って歩いていく少年の姿は人の目を集めそうだが、人通りが少ない夜では誰の目にも止まる事はなかった。
父親の所在の検討など全くつかない。そんなナツが頭に浮かんだのは、ハコベから離れた場所にある都会マグノリアだ。
駅に向かったナツは、マグノリア行きの夜行列車に飛び乗った。寝台車へとたどりつくと、列車が出発するのを感じながら割り当てられた寝台へと上がり、リュックの中に隠していたハッピーを出してやる。
「声出しちゃダメだからな」
ハッピーはナツの言葉を理解しているかのように声を上げず、少しだけ目を細めた。すぐにシーツの上で丸くなり、ナツも布団に潜り込んだ。
丸半日程列車で揺られている内に、列車は終点であるマグノリアへと着いた。時間はすでに昼になっており、ナツは体をほぐすように背伸びをした。
「じゃぁな、坊主」
「親父さんに会えるといいな」
次々に頭を撫でてくる図体の大きい男達に、ナツは笑みを浮かべた。
男達は、同じ車両になった乗客。深夜の間に親しくなり、父親に会いに行くというナツの真っすぐな目に、窮屈な列車で疲れを見せていた男達は絆されたのだ。
「またなー!」
再度会える事があれば奇跡に近い。
ナツは親しくなった男達を見送ると、寝台で眠っているハッピーへと顔を向ける。
「ハッピー、行くぞ」
待っていたとばかりに目を開き、ナツが準備していたリュックに入る。リュックの中は最初よりも窮屈になっていた。ナツが、仲良くなった乗客達から菓子やら食べ物を貰っていたのだ。
「悪い、ちょっとだけ我慢してくれ」
無理やりリュックの中に詰め込まれ、ハッピーは潰れた様な声を漏らした。可哀想だとは思っても、ハッピーを堂々と連れては歩けない。ナツは、早々に列車を降りた。
駅を出たナツは、目に飛び込んだ光景に呆然と立ちつくした。駅の中も人が多かったが駅を出ても変わらず人であふれている。
「すげぇ。ハコベとは全然違ぇんだな」
瞬きをする間に視界に入る人が変わる。一人ひとりが忙しそうに行き交っている。ずっと同じところを見ていたら目が回りそうだ。
ナツはリュックからハッピーを出してやると、周囲を見回した。
「どうやって父ちゃん探すかな」
会いたいという気持ちだけで飛びだしてきた。都会なら情報を手に入ると思い込んでいたが、実際にどう動けばいいのか見当もつかない。
手掛かりがあるとすれば、髪の色。園長が言っていた、炎の様な髪という事だけだ。
「適当に聞いてみっか。なぁ、ハッピー」
足元で大人しく座っていたハッピーが顔を上げてくる。それにナツが笑みを浮かべるのだが、いかんせん目立つ。ナツの髪は珍しい桜色。それだけでも目を引くというのに、猫に話しかけていれば余計だ。
尋ねる人間を目で探っていると、背後から声がかかる。
「ねぇ、君」
振り返れば青年が立っていた。茶色い短髪にサングラスとスーツを身にまとっている。物腰が柔らかそうな印象を受ける。
青年は、ナツをじろじろと見つめると、にこりと笑みを浮かべた。
「君、芸能界とか興味ない?」
「……は?」
「ちょうど君みたいな子を探してたんだよ」
「何言ってんだ、お前」
笑顔で迫ってくる青年に、ナツは嫌そうに顔を歪める。しかし、青年は気にした様子もなく名刺を取り出すと、ナツへと差し出した。
「ロキ?芸能プロ……なんだ?」
「芸能プロダクション妖精の尻尾(フェアリーテイル)。僕はロキ、マネージャーをやってるんだよ」
首をかしげるナツに、青年ロキは続ける。
「とにかく今は急いでるんだ。君、急いでる様子ないし、時間はあるよね」
ロキは腕時計を確認しながら、早口でまくし立てる。流されてしまいそうな雰囲気にナツは慌てた。
「じ、時間なんかねぇよ!俺、人探してるんだから!」
名刺をつき返すナツだが、ロキは名刺を受けとらず、困ったように眉を下げた。その表情にナツはうっと声をもらす。悪い事をしたわけではないのに罪悪感が湧いてしまう。
「悪い……でも俺、父ちゃんに会いたくて、ここまで来たんだ」
「お父さんに?探してるって言ってたけど、居場所は分からないの?」
ナツは言葉を詰まらせた。勢いだけで、半日かけて来てしまったが、時間が経てばだんだん冷静さが戻ってくる。
ナツが何も返答しないのは肯定ととっていいだろう。ロキは呆れたように溜め息をついた。
「どこから来たの?」
「……ハコベ」
ナツの口から出た地名に、ロキは目を見開き、脱力したように手をナツの肩へと置いた。
「無謀だよ」
「でも俺、父ちゃんに会いてぇんだ!」
真っすぐに見つめられ、ロキは諭す言葉を全て奪われた。
ナツの瞳には、強い意志が感じられたのだ。ロキは暫く頭を悩ませ、案が浮かぶと、口を開いた。
「それなら、やっぱりうちのプロダクションに来なよ。君がテレビに出れば、お父さんも君に気付くかもしれないし、僕も社長に頼んで、君のお父さんを探すよ」
きょとんとするナツに、ロキは笑みを浮かべる。
「きっと見つける」
ナツは考える間もなく、頷いた。
「ロキっつったよな。俺を、プロなんとかってのに入れてくれ!」
「了解」
ロキは、差し出された名刺ごと、ナツの手をとった。契約を交わす握手だ。
時間がないと急くロキと共に、ナツはタクシーに乗り込んだ。車内で自己紹介などをしている内にタクシーが停止する。まだ乗車して数分足らずだから、駅からさほど離れていなかったようだ。
ロキの後に続いてタクシーを降りたナツは、目の前に建つビルを見上げた。想像以上の規模の大きさにナツは言葉も出ない。
「で、でかいな……」
「スタジオもあるからね。さぁ、社長には連絡してあるから急ぐよ。他のメンバーを待たせてるんだ」
「他のメンバー?」
ナツは、ロキに手を引かれて事務所の中へと入る。タイミング良く来ていたエレベーターに乗り込み、ようやくロキは、先ほどのナツの問いについて口を開いた。
「まだ話していなかったけどね。君にはelementsに新メンバーとして加わってもらう事になる……と、いいんだけど」
誤魔化す様に最後の部分は口ごもる。聞き取れなかったナツが聞き返そうとするが、口を開こうとする前に、エレベーターが目的の階へと着いてしまった。
「とにかく、先に着替えとメイクをしようね」
「着替え?つーか、メイクってどういう……」
ロキは廊下を突っ切っていく。それに慌ててついて行くナツだったが、動きを止めたロキに手を引かれて体勢を崩した。
よろけるナツの身体は、引っぱられて、目の前にあった部屋に放り込まれる。
「うわ!」
部屋に投げ込まれたナツは、勢いよく傾く身体に目を固く閉じた。盛大に転ぶと予想し、衝撃に備えたのだが、待っても痛みは訪れない。
「手筈通りに頼むよ」
「了解エビ」
「……エビ?」
近くで聞こえた低い声に、ナツは顔を上げた。目の前にはサングラスをかけた男。髪が縄状になっており、初めて見るそれに、ナツは興味深げに見つめる。
「それじゃ、後で迎えに来るからね」
ナツが振り返ったと同時に扉は閉まり、ロキの姿はなくなってしまった。ハッピーも連れて行かれてしまったようでいなく、部屋の中にはナツと、妙な語尾を付けた男だけ。
ナツは、自分の身体を支えている男を見上げた。
「お前、誰だ?」
「elementsの専属ヘアメイクを担当しているエビ」
「それって俺が入るとこだよな」
男は頷くと、鏡の前にナツを座らせた。振り返ろうとするナツの頭を押さえながら、鏡越しで目を合わせる。
鏡越しなのに加え、サングラスで瞳もほとんど隠れてしまっている。それなのにナツは、目があったと感じた瞬間動きを止めた。まるで飼い主に待ての号令をされている犬のようだ。
大人しくなったナツに、男は作業を始めた。
数十分後、部屋の扉が開かれる。顔を覗かせたのは、ロキだ。
「終わったかい?これ以上は、引きとめてられないんだよ」
参ったとばかりに顔を歪めていたロキは、目に入った光景に目を見開いた。ヘアメイク担当の男が、顎に手をあてて視線を向ける先には、誰が見ても少女にしか見えないナツの姿。
腰まで流れる桜色の髪と、淡い青みがかったワンピース。清楚さを感じる白のミュール。まるで、青空の下で咲き誇る桜の様だ。
「ナツ?」
ロキが名を呼ぶと、ナツは我に返ったようにロキへと詰め寄った。
「これ、どーいう事だよ!」
長くなった己の髪を掴んで、ロキの視線の高さへと上げる。もちろん地毛ではなく人工的なものだ。上げていた前髪も下ろされている。
上目遣いで睨んでくるナツに、ロキは柔らかい笑みを浮かべた。
「やっぱり僕の目に狂いはなかったね」
ロキはナツの両肩に手を置いた。
「君には、elementsに女の子として加わってもらう事になってるんだ」
「あァ!?」
「それじゃ、お披露目に行こうか。メンバーとの顔合わせだよ」
「ちょ、待っ……そんなん聞いてねぇぞ!おい!」
ロキはナツの手を引きながら廊下を突き進む。
ナツは、初めて履いたミュールのヒールに苦戦しながら、必死に足を動かす。足元から注意をそらせば、無理やり引っ張っていくロキに転ばされることになる。
ロキはそれに気付きながらも、速度を緩めることなく足を進めながら、口を開いた。
「elementsは男しかいなかったからね、女性を加えての新生メンバーを計画していたんだけど」
ロキはたどり着いた部屋の前で足を止めると、息を乱すナツへと振り返る。
「三人とも過去に色々あったみたいで、女性が苦手なんだよ」
「だったら、何でこんな恰好すんだよ!」
女性が苦手なメンバーしかいない中に女を加える事も理解できないが、それに加えて男である自分にわざわざ女装を施すのも理解できない。
目で訴えるナツに、ロキは苦笑しながら、目の前の扉を開いた。
「社長が決めた事だから仕方ないんだよ。ナツも、大事な目的の為に頑張って」
もちろん、男だって事がばれない様にね。
耳元で囁かれながら、扉が開かれる。ナツは覚悟を決めて、部屋の中へと視線を向けた。広い部屋は応接室の様で、中央にテーブルと、それを挟んでソファが設置されている。
扉に面して、二人掛けのソファに二人が座っており、それと向かい合っているソファに一人。
その三対の視線が開け離れた扉へと向き、ナツへと集中した。
どう考えても歓迎している様な目ではない。ナツが動けずにいると、ロキが明るい声で三人へと声をかける。
「お待たせ。この子が新しいメンバーのナツちゃんだよ」
予想外の呼ばれ方に、ナツは嫌そうに顔を歪めた。その間も三人は座ったままで、見極めるようにナツを眺めている。
視線に耐えられなくなり、ナツは無意識に顔をそらした。
「ほら、女の子にそんな怖い顔しちゃダメだよ。ナツちゃんもメンバーに入るの楽しみにしてたんだから」
楽しみにするも何も、数時間前に出会って短時間で決定したのだ。ね、と同意を求めてくるロキをナツは胡乱気に見つめる。
「俺、こいつらの事知らねぇんだけど」
小さく呟かれても、そのナツの言葉はロキの耳に届いた。ロキは信じられないとばかりに目を見開く。
elementsは、今最も人気があるバンドグループで、ファンの年齢層から見てもナツにも当てはまるはずだ。しかし、ナツが嘘をついているようには見えない。
ロキは、メンバーの顔をちらちらと見ながら、ナツに耳打ちをした。
「金髪がリーダーのラクサスだよ。青い髪がミストガン。最後はグレイだ」
ナツは、ロキに説明されながらメンバーを順番に見やる。黒髪のグレイまで行くと、ラクサスと呼ばれる金髪の青年へと視線を戻した。
目つきが悪いのは生まれつきか、悪意があるのか。我慢しながら、ナツはラクサスに近づいた。
「俺はナツ。よろしくな、ラクサス」
これから仲間となるなら仲良くしなければならない。ナツは笑みを浮かべて手を差し伸べる。握手を求めているのは誰が見ても明らかなのだが、ラクサスが手を差し出す事はなかった。
「いきなり呼び捨てか?馴れ馴れしいんだよ」
ラクサスは立ちあがると、ナツの横を通り過ぎ、そのまま部屋を出て行ってしまった。
扉の開閉の音を耳で感じながら、ナツは怒りに身体を震わせる。しかし、不満を吐きだす前に、声がかかった。
「すまない」
謝罪の言葉に顔を向ける。ラクサスのいた向かい側に座っている青髪の青年。ミストガンが、少し申し訳なさそうに顔を歪めていた。
「ラクサスは誰に対してもああいう態度なんだ」
常にあの態度というのには問題がある気がするが、メンバーや関係者は慣れているようだ。苛立ちが消えたわけではないが、当人が居ない場所で文句を言っても仕方がない。
ナツが、口を尖らせながら相槌をうっていると、ミストガンの手が差し伸ばされる。
「私はミストガンだ。よろしく頼む」
ナツは慌てて手を差し出した。掌が合わさり、互いに握りしめる。
ようやく好感を持てた事に安堵したナツだったが、ミストガンはナツと握手をした途端に動きを止めてしまった。
手が繋がったまま、ミストガンはナツの顔をじっと見つめる。
「……何?」
きょとんと首をかしげるナツから手を放すと、ミストガンは訝しむ様に己の掌を見つめる。
また何かあるのかと困惑するナツに、ロキが近づき耳打ちする。
「ミストガンは女性恐怖症なんだよ」
それでも、愛想良く自分から握手を求めてきたのだ。まだ呆然としているミストガンに、ナツはにこりと笑みを浮かべた。
「よろしくな。ミストガン」
ミストガンは、己の手に向けていた視線をナツに移して、目を見開いた。少し間をおいて頬を緩める。
先ほどまで悪かった雰囲気が和らぐ中、今まで大人しくしていたグレイが立ちあがった。三人の視線がグレイに集中し、それにグレイは小さく息をついた。
「じーさんが決めたんなら、俺は否定しねぇよ」
グレイは扉へと向かいながら、通りすぎざまにナツをちらりと見やる。
「認めたわけでもねぇけどな」
静かに出ていくグレイにナツは拳を握りしめた。それに、再びミストガンが声をかける。
「私もグレイも、女性にはあまり良い思い出がないんだ。気を悪くしないでくれ」
「お、おお。別に、気にしてねぇよ」
そう言いながらも目が泳いでいる。予想外の事で動揺が隠せないのだ。人に邪険にされるような状況になった事がないから、どう対応していいのか分からない。
「ナツ、今猫ちゃんを連れてくるから、元気出して」
ロキが慌てて部屋を出ていく。
落ち込んでいる事が分かるほどに俯いてしまったナツの顔を、ミストガンが覗きこむ。
「疲れてるんじゃないか?座るといい」
ミストガンに促がされる様に、ナツはミストガンの隣に腰かけた。
「コーヒーか紅茶ならある。どっちがいい?」
「いあ、大丈夫だ」
ナツは小さく息を吐き出して、ミストガンを見上げる。
グレイやラクサスとは正反対の態度は、ナツにとって喜ぶべきことだが、ロキの言っていた事が脳裏をよぎる。
「お前、俺といて平気なのか?」
女性恐怖症がどういうものなのか、ナツにも詳しくは分からないが、苦手だという事は確かだろう。
窺うナツの目に、ミストガンは考えるように少し間をおいて口を開く。
「女性は苦手だが、不思議と君は平気なんだ」
それは、ナツが女ではないと言っている様なものだ。気付かれたのかと身構えたナツだったが、ミストガンは何でもないかのように言葉をもらす。
「女性として見るには、年が離れているからだと思う」
ナツとミストガンの二人並んだら、兄妹に見られてもおかしくない年齢差だ。
悟られたのではないと安堵して力を抜くナツに、ミストガンが続ける。
「ナツ、君は何故この世界に入ってこようと思ったんだ?どう見ても、私達の事を知っているようには思えないんだが」
ファンや、メンバーの加入を希望してきた者は数多い。しかし、その者達とナツとの反応は全く違っていた。ナツの目には、ファンが持つような憧れや好意などといった感情が、わずかにも含まれていない。
ミストガンの言葉に、ナツは頭をかいた。
「お前凄いんだな。そんなことまで分かるなんてさ」
「色んなファンも見てきたからな」
「そっか……」
ナツは顔を俯かせた。己の足が身につけている見慣れない靴。それを見つめながら、ナツは口を開いた。
「俺、父ちゃん探してるんだ」
いつの間にかミストガンに心を許していた。先ほどまでの緊張を解いてくれたからかもしれない。
ナツは、自然と、自分が施設で育ってきた事を話した。そして昨日、初めて父親の存在を知った事も。
ミストガンは口を挟むことなくナツの言葉に耳を傾けた。
「見るだけでもいいんだ。父ちゃんが、どんな人なのか知りてぇ」
ナツは、勢いよくミストガンへと振り返った。
「だからさ」
振り返った拍子に揺れた髪が、宙で舞う。まるで桜吹雪のように見え、その中で守られる様に無邪気な笑顔を浮かべたナツが、ミストガンの目には眩しく映る。
「父ちゃんが見つかるまででいいから、仲間にしてくれよ!な?」
首をかしげたナツに、ミストガンは無意識に手を伸ばした。まるで壊れ物にでも触れるかのように、優しい手つきでナツの髪に触れ、頭を撫でる。
その表情は、ミストガン自身も気づかないほどに自然なもので、メンバーさえも見た事がないほどに穏やかな笑みだった。
2011,01,23
バンド名は、elements(四精霊)
精霊(妖精)には四代元素、火・水・風・地があるらしい。雷は風に入るらしいす。テケト