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発砲音が部屋に響き渡る。数発放たれた弾は致命傷からは程遠い場所を貫いた。両肩、両足を集中的に狙われ、服からむき出しになっている四肢を血が染める。

「銃って、けっこう痛ぇ、な……」

痛みで力を込めるのも辛い。手当てをしなければ出血多量で死にいたる。ナツは熱を持つ傷口に顔をしかめた。

「残り一発」

魔導士は小さく呟いて銃口をナツへと向ける。わざとらしく彷徨わせるように動かし、ナツの頭に狙いを定めた。魔法が使えない状態の今、頭部を銃弾が貫けば間違いなく命はない。

「くそ、」

「やめて!これ以上ナツ様に手を出さないで!」

男に拘束されていたフィルが逃れようともがく。顔を青ざめさせて、どんなに叫ぼうが相手が聞き入れる事はない。

「こんな……約束が、違う」

フィルの声にナツは顔を向ける。フィルは身体を震わせて俯いている。
魔導士はナツに向けていた銃で、己の肩を叩いた。

「自分からばらすなんてな」

「今さらだろ」

男達が卑下した笑みを浮かべる中、ナツはフィルを見つめる。

「お前、どういう……」

「どうもこうも、俺たちはこのお嬢様に依頼されてんだよ。つまりお前らと同じ、お仕事ってわけだ」

魔導士はナツに近づくと、フィルへと向けていたナツの顔を銃で己へと向けさせた。困惑しているナツの瞳が揺れる。

「依頼内容は、屋敷の襲撃」

「な、何でだよ!ここ、お前ん家じゃねぇのか!?」

ナツの声にフィルはびくりと肩を震わせた。
続けようとしたナツを黙らせるように魔導士が銃で殴りつける。加減などなかったのだろう、皮膚は切れ血が流れる。

「正真正銘ジェレネール財閥の令嬢だよ。そうじゃなきゃ、俺達が簡単に屋敷に侵入できるわけないだろ?」

額から伝う血が目に流れる。ナツは血が入って染みる瞳を閉じて、逆の目で魔導士を睨みつけた。

「使用人もみーんな知ってんだよ。知らねぇのは、お前らだけだ」

内部で手引きした人物がいるなら騒ぎになる前に事を起こせる。ナツ達が気がつかなかったのも無理もない。

「今頃他の奴らも俺達の仲間に……あ?そういや、何か言ってたか?」

「屋敷を襲って“ナツ様に助けてもらいたいのー”だろ?」

フィルが耐えるように身体を震わせる。一人が、にやりと口元を歪めた。

「誰も傷つけるなって言ってたっけか?」

フィルを捉えていた男が、フィルの顎を掴んで俯いていた顔を上げさせた。

「手加減なんてできないような奴らばっかだからなぁ……うっかりっつー事もあるかもな」

「そんなッ」

顔は青ざめ、涙で頬は濡れている。
ナツは見極める様にフィルを見つめ、ゆっくりと口を開いた。

「フィル」

フィルはナツとは視線を合わせずに逸らしたままだ。それでもナツはゆっくりと続ける。

「お前、屋敷の奴らを傷つけたかったわけじゃねぇんだろ」

半日も時間を共にしていなくてもフィルが悪い事を考えるとは思えない。俯いたまま反応を返さないフィルの足元は、零れ落ちた涙で濡れていた。

「心配すんな。お前も屋敷の奴も守ってやる」

フィルが目を見開いて顔を上げた。視線が交わると、ナツは一度にっと笑みを浮かべ次には目の前の魔導士を睨みつけた。

「俺達の依頼は、屋敷とフィルの警護だからな。ここでやられたら妖精の尻尾の名折れだ」

魔導士は銃をナツへと向ける。額に銃口が押しつけられ距離はない。この状態で発砲されれば避けられない。

「この状況で、よくそんな戯言がほざけるな」

開いた片目が魔導士をまっすぐ睨みつける。射るような瞳に魔導士は気圧されながらも引き金を引いた。

「ッ!……な、何だ!?」

引き金を引いても弾が放たれる事はなかった。
動揺する魔導士に、ナツは口端を吊り上げた。

「ナイス」

開きっぱなしの扉にはグレイが立っていた。魔法を使う構えをとっている。

「情けねぇな。ナツさんよぉ」

魔導士の持つ銃が凍りついていた。手ごと凍りついてしまえば引き金も引けない。発砲は不可能だ。
現れたグレイに即座に数人の賊が襲いかかった。しかし、ほんのわずかで片が付く。残る賊は魔導士とフィルを拘束していた男のみ。
グレイは足元に転がる賊を軽く蹴とばして、ナツを見上げた。

「何遊んでんだよ。ナツ」

「これのせいで魔法が使えねぇんだよ!」

呆れたようなグレイの表情にナツが苛立ったように叫ぶ。
グレイもナツが本気で遊んでいるとは思っていない。この魔法には、グレイもナツ同様に見覚えがあったのだ。
策を練っているとグレイの横を風が切った。薄暗い部屋でも分かる茜色の髪。

「なるほど。元評議員の者、か」

一瞬でナツと魔導士の間を駆け抜けエルザは剣をふるった。魔導士が隠し持っていた魔水晶が粉々に切り刻まれ、無残な形で床に散らばる。

「ふべ!」

魔水晶が破壊されたことで魔法が消え、ナツは床に倒れ込んだ。

「無事だったか、エルザ」

「ああ。ルーシィとハッピーは屋敷を周っている。使用人たちの方は二人に任せておけば問題ないだろう」

エルザは床に倒れているナツを見下ろして、顔をしかめた。

「酷い怪我だな。平気か、ナツ」

「おおお、平気だ。これで魔法も使えるしな」

打ちつけた顔面に手を当ててゆっくりと立ち上がる。
魔法が戻り身体が強化されても、受けた傷が消えるわけではない。力を入れれば流れ出る血の量が増す。伝った血が床を汚していた。

「ナツ、動くな。賊を片してすぐに手当てを……」

「エルザ!」

グレイの声が響く。
ナツに意識が向いていて魔導士が襲いかかっている事に反応が遅れた。銃だけではなく短刀も所持していたのだ。鋭く光る短刀が、エルザの腕を切りつけた。
斬り返そうとしたエルザは、力が抜ける様にその場に膝をついてしまった。剣を握ろうとするが痺れて動かない。

「剣に毒を塗りつけておくのは常識だ」

睨みつけるエルザに魔導士はクツクツと笑みを浮かべて、ナツに近づいた。

「何を、する気だ」

身体を震わせながら立ちあがろうとするエルザ。その存在を視界にも入れず魔導士はナツの腕を引き上げた。
傷の痛みに顔を顰めるナツの身体を、閉じている窓へと押し付ける。

「お前だけは先に消しておく」

「ぐぅ!」

魔導士の手がナツの首を絞める。ナツの身体が持ち上がり更に首には圧迫がかかる。

「出血が多くて、身体もうまく動かせないんだろ」

ナツが移動した場所には血たまりが出来ている。
ナツは荒い呼吸を繰り返しながら魔導士の手首を掴んだ。震える手では何の抵抗にもならない。

「ナツ!」

毒の作用で崩れ落ちるエルザに、グレイもナツへと加勢しようと駆け寄るが、横から突き出された刃に足を止められてしまった。フィルを捉えていた男が、フィルを放り投げて、グレイへと刃を向けたのだ。
先ほどエルザを切りつけた剣と同じなら、毒が塗りぬけてあるかもしれない。触れるのは危険だろう。しかし、氷で覆ってしまえば無意味。
グレイが刃を防ぐ間際状況は悪化した。

「落ちろ」

男の低い声と同時にナツの身体が窓ガラスへと叩きつけられる。激しい音をたてて窓ガラスが割れ、破片と共にナツの身体が落下していった。

「ナツーッ!!!」

無抵抗なまま落下した身体は地に撃ちつけられることになるだろう。出血が多い今いくら身体を強化していても、無事では済まない。
グレイは、襲ってくる男を造形魔法で吹き飛ばすと、ナツが落ちた窓へと駆け付けた。顔を強張らせるグレイの表情に、ナツを落とした魔導士は暗い笑みをうかべる。

「一人仕留めた」

何か抜け落ちたような声だった。うすら寒さを覚えるような声だが、グレイは力が抜けたように窓へともたれかかった。

「あの野郎、いいとこ持って行きやがって」

グレイは安堵のため息をついた。
落下したナツの身体は地面には着いていなかった。地に叩きつけられる前にラクサスに受け止められ窮地を脱していたのだ。
いまだナツの無事を知らない魔導士がグレイの背後に近づいていた。毒を塗りつけてある剣を振り上げた。

「よくも、やりやがったな」

振り下ろされる剣を避け、グレイは魔導士を振りかえった。
滅多に見る事のない、怒りに燃えるグレイの瞳が魔導士を捕える。グレイの手が構えられ部屋中に冷気が満ちる。

「償えよ」

グレイの冷たい声と共に無数の造形された氷の槍が、魔導士の身体を貫く。わざと急所を外し意識を飛ばす寸前で攻撃を止めた。
倒れこむ魔導士の頭を踏みつける。

「てめーの命でな」

手に剣を造形し魔導士の身体に付き立てる。死を間際に震えだす魔導士に、グレイは剣を握る手に力を込めた。

「やめろ、グレ、イ」

エルザの声にグレイは我に返った。
毒に身体を蝕まれながらも、我を忘れるグレイを止めようと、エルザは声を震わせながら諭す。
グレイは剣から手を離しエルザに駆け寄った。

「エルザ、無理するな!」

「命を奪うのは、ふぇあり、ているの……」

ギルドのやり方に反する。

「分かったから喋るな!」

力を振り絞っていたのだろう気を失ってしまったエルザを抱え上げ、グレイは倒れている魔導士を見下ろした。

「……ラッキーだったな」

エルザを医者に見せなければならない。慌てて部屋を出て行こうとするグレイに、隅で座り込んでいたフィルが声を上げた。

「待って」

置いて行かれたくないのか。
襲ってきた賊にあらかた経緯を聞いていたグレイは、フィルの存在に顔をしかめた。その表情にフィルはびくりと肩を震わせたが、すぐにまっすぐグレイを見上げた。

「ここには医者がいます。解毒も出来るはずです」

「本当か!?」

フィルは立ちあがって、頷いた。
屋敷にいた住み込みの医者のおかげで、エルザを蝕んでいた毒も解毒された。ナツの方は出血がひどかったものの、火と食事の両方を摂取することで、あっという間に回復する事が出来た。何とも簡単な構造だ。

賊を軍に引き渡し、あらかた片が付いた頃には、昼になっていた。

「なぁ、ラクサス」

血が足りないのか延々と食事を続けるナツが、食べるのを止めてラクサスを見上げた。
呼ばれたラクサスは疲労感を全く見せない顔でナツへと視線を向ける。

「助かったけど、何であんなとこにいたんだよ」

ナツが落下した時だ。あの時ラクサスが受け止めていなければ、ナツの身体は無事ではすまなかった。
ラクサスは思い出したように口を開いた。

「ちょうどお前らのいる部屋の真下の部屋にいたんだ。片がついたと思ったら、お前が落ちて来やがった」

テラス下で聞いた不審な会話が気になり屋敷内を巡視していた。その際に襲ってきた賊。質より量といったところか、倒せば新しく現れ、片づけるのに妙に時間がかかってしまった。
それに苛立っていたラクサスだったが、そのおかげでナツの窮地を救えたのだ。
あの時、窓越しに落下していくナツを見つけたラクサスは、慌てて窓から飛び出した。
他の者なら、どんなに早く反応しても落下する人間を受け止めることは不可能だが、運がいい事にラクサスは雷の魔法を扱う。短い距離ならば、音よりも早く移動できる光速級だ。

「ふふ。私たちは良いチームだな」

エルザが嬉しそうに目を細めると、ルーシィ達も笑みを浮かべた。
緩やかに時を過ごしていると扉が開いた。廊下から、恐る恐る部屋に足を踏み入れたのはフィル。

「み、皆様、お怪我の方は大丈夫ですか……」

己が聞ける立場でない事は承知だろう。
何ともねぇと、明るく返事するナツ以外の者は口を開きはしない。フィルが言葉を紡ぐのを待っているのだ。

「す、すみませんでした!」

フィルが塞ぎこんでいたのは誰もが一目で分かる。昨夜の時と服装など格好が変わっていない。己のしでかした事の重大さを分かり悔やんでいたのだろう。
頭を下げたまま顔を上げないフィルにルーシィが口を開いた。

「ねぇ。何でこんなことしたの?」

ルーシィ達も誰もが騒動の経緯を知っている。ナツの想いから来たものだ。
ルーシィの言葉に、フィルはそっと顔を上げた。

「元ハートフィリア財閥のルーシィ様ならお分かりになるでしょう。この生活が、どれほど拘束されているものなのか」

「……あたしの事、知ってるんだ」

「お会いした事はありませんけど兄から聞いた事がありますから。写真も拝見していましたし」

苦笑するルーシィに、フィルは胸に手を当てると、拳を握った。

「羨ましかったの!あなたが!」

部屋に木霊するフィルの声。ルーシィは眉をひそめた。

「本当は会えなくてもよかった。ナツ様が事がのっている記事を見ているだけでも幸せだった。でも……ルーシィ様が、ナツ様と同じギルドに所属した事を知って」

同じ令嬢として、拘束され自由などないのに。雑誌で見たルーシィの笑顔に、理不尽と思われても仕方がない様な怒りを覚えた。

「あなたは、お兄様だけじゃなくナツ様まで……私には何もないのに!」

フィルの兄は御曹司のサワルー公爵。ルーシィとは婚姻の予定まであったのだ。最終的に白紙になったのだが。
フィルが泣きじゃくる姿は、まるで癇癪を起した子供のようだった。令嬢という形に縛られて吐き出す事もなかったのかもしれない。
ルーシィはゆっくりとフィルに歩み寄った。目の前で止まると優しく抱きしめ、頭を撫でる。

「分かるよ。息がつまりそうな屋敷も自分を縛りつけるお父様も、自由がないのも……よく分かる」

でも。
ルーシィは、身体を離してフィルに真っすぐ視線を合わせた。

「あなたは間違ってた」

屋敷内でも、使用人たちとは楽しそうにしていた。彼らが、フィルを思って今回の賊の件に手を貸していたのもルーシィ達にはすでに知っている事だ。

「あんなことしなくても、自由を手に入れる方法はあったはずでしょ」

ルーシィも家出という形をとって、大事なものを傷つけてしまった。その事は考えが足りなかったのだと何度も反省した。それでも、家を飛び出した時の自分で決意して踏み出した一歩を否定はしない。

「……ゆっくり考えよ。ね?」

もう二度と、同じ間違いを繰り返さないように。
柔らかく笑みを浮かべるルーシィに、フィルはぐしゃりと顔を歪めた。先ほどから止まらない涙は、更に激しくなり、フィルはルーシィに抱きついた。

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

何度も謝罪を繰り返すフィルに、ルーシィは気がすむまで抱きしめてあげていた。
誰だって、例えばと考える事があるかもしれない。もしギルドに所属しなかったら。もし仲間に出会わなければ。あの時、あなたに出会わなければ。
ルーシィは、楽しそうに笑っているナツへと振り返ると、笑みを浮かべた。

落ち着いたのを見計らったかのように扉を叩く音が響いた。フィルは慌ててルーシィから離れると扉へと向かった。扉の向こうで待っていたのは使用人で、何かを告げると、フィルの表情が輝いた。
使用人が去っていくと、フィルはルーシィ達に振り返る。

「お兄様がお帰りになりました!」

ルーシィが視線を遠くへむけた。

「へぇ。あんなお嬢様が慕うってんなら、そうとう男前なんだろうな」

フィルの笑顔にグレイも笑みを浮かべるが、あいにくルーシィの視線を戻らないままだ。グレイの言葉にフィルが満面の笑顔を向けた。

「お兄様以上に素敵な方はいません!」

「えーナツはー?」

ハッピーの言葉に、フィルは落ち着きがない様に身体を揺らせた。

「その……実は、ナツ様とお兄様は似ていらっしゃいますの」

ルーシィの視線が戻ってきた。ぐりっと、フィルへと向けられる。

「似てる?」

「そっくりですわ」

「ちょっと待って!でも」

言い切るフィルに顔を引きつらせるルーシィ。思い出したようにラクサスも顔を顰めている。

「おい、巡視中に肖像画を見かけたが……」

ラクサスの言葉は扉が開く音で遮られた。

「大丈夫かい!フィルー!」

野太い男の声が耳を支配する。フィルは表情を輝かせて、扉を開け放った主へと駆け付け勢いのまま抱きついた。

「お兄様!」

抱きつかれているのは、眼鏡をかけた小太りの男。寸法ギリギリのタキシードに身を包み、暑いのか顔には汗が浮かんでいる。フィルの抱きつかれた拍子に頭に載せていた帽子が落ち、巻いてある髪の毛が揺れた。
手をいやらしくわきわきと蠢かせている。
その姿に、ルーシィとラクサスを除く面々は、絶句した。

「「に、似てねぇよ!!」」

我に返ったナツとグレイの声がそろって部屋に響いたのだった。
悲しくも、ナツと似ている点は一つもない。

その夜、予定通りに御曹司生誕パーティは開かれる事になった。ナツはフィルの側に付き、ルーシィ達は屋敷内の警護に周っている。
ナツは昨夜着せかえられていた時のタキシードに身を包んでいた。あの時の着せ替えはパーティのためだったのだ。採寸も問題はない。

「ナツ様」

フィルは、椅子に座ったままゆっくりと口を開いた。

「私、まだ一つだけ嘘をついている事があります」

真っすぐ視線を向けたまま告げるフィルに、ナツは嫌そうに顔を歪めた。

「ま、まだ何かあんのか?」

「そうではなくて」

表情を変えず淡々と言葉を紡ぐ。わけが分からずナツは首をかしげた。

「ナツ様、次お会いする時は……その時は本当の私を見てください。ジェレネール家ではなく一人の人間として。フィルとして」

表情は見えなくても、ナツには彼女が笑みを浮かべている事が分かった。全てふっきれたような晴れやかな笑顔だろう。
頷くナツに、フィルは更に笑みを深めた。
こうして、波乱の満ちた依頼は無事終える事が出来たのだった。

それから一月ほどたった、ある日。週刊ソーサラーを片手にルーシィがギルドに駆け込んできた。

「ナツ!大変よ、ナツ!」

食事を頬張っていたナツは、週刊ソーサラーを突きつけてくるルーシィに顔を歪めた。

「変なのはルーシィだろ」

「変って何よ、大変って言ったの!それより。見てよ、これ」

ルーシィが強調するように週刊ソーサラーを揺らす。
すでに定位置となっているようで、ナツの前に座っていたグレイとラクサス。彼らも雑誌へと視線を向けた。
開かれている記事は毎回のっているランキングだった。”彼氏・彼女にしたい魔導士ランキング”だ。

「ルーシィは十位か」

「あ、うん。とうとうランキングに……じゃなくて、こっち!」

ルーシィが指さす方、ランキングの下辺り。

「……フィルぅ!?」

「おいおい。あのお嬢様、ギルドに入ったのかよ」

ナツは唖然とし、グレイは溜息をついている。
そんな中、ラクサスが顔を顰めていた。ルーシィはラクサスの反応に一度頷く。

「驚くわよね」

ラクサスは溜息をついた。ナツとグレイは気付いていないが、フィルの名が載っているランキングは彼氏部門だったのだ。
新人という事で写真やコメントが載っている。化粧していないとはいえ整った顔を変わらない。長かった髪は短く切りそろえられ、砕けた笑顔を向けていた。
コメントには「ナツさん、僕、あなたの様な魔導士になります。そしていつか、あなたの隣に立ってもおかしくない立派な男になってみせます」と意気込みが書かれていた。
ちなみに所属したのは青い天馬。マスターがボブなだけに、フィルの事を知っている者は所属理由に納得してしまえる。

「思い出したんだけど、ジェレネール家って代々男女一人ずつって決まってたのよね」

「だから、フィルは女の子の格好してたんだね」

ハッピーの言葉にルーシィは頷いた。
ルーシィは、令嬢だった頃にジェレネール家と度々接触していたが女子の話など聞いた事がなかったのだ。過去の事に加え、フィルが完璧に女性になり切っていたのもあり違和感に思わなかったのだ。
ぐったりと座り込むルーシィの前にミラジェーンが飲み物を差し出した。

「ふふ。ルーシィの時もそうだったけど、ナツはお嬢様キラーなのかしらね」

ミラジェーンの言葉は、妙に納得してしまえるものがある。
ナツの、何ものにもとらわれない性格は、きっと人の壁をも簡単にぶち壊してしまうのだろう。フィルの場合実際は男なのだが。

「つか、男かよ!!」

ようやく気がついたのだろう、雑誌を食い入るように見ているナツとグレイが同時に叫ぶ。
その姿に、ルーシィは溜息をついたのだった。




2010,05,24
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