雷王子





ナツが術式の壁に額をくっつけて、魔道二輪車で乱入してきた金髪の男を見下ろした。

「ラクサス!」

闘技場内の全ての視線がラクサスへと集中した。
ラクサスは舞台へと視線を向けると、顔をしかめながら乱れた前髪をかきあげる。

「間に合ったか」

試合の始まる直前だ。間に合っているとは言いがたい。
舞台へと近づくラクサスに、エルザが駆け寄った。

「ラクサス、何故お前がここにいる」

「ペガサスとの試合だろうが。俺の知らねぇとこで上等かまされんのは我慢ならねぇんだよ」

「もう遅い。今最終試合が始まるところだ」

「始まってねぇんだろ?大体俺の知ったことじゃねぇ」

一触即発の雰囲気。その場に割り込むように、ミラジェーンが駆け寄ってきた。

「ラクサス、あなた、どうしてここに?依頼主に連絡をとってみたけど、まだ仕事中だって……」

ラクサスと連絡をとろうと試みたものの依頼主止まりだった。
依頼主の元から未開地まで足を踏み入れていたラクサスには、通信魔水晶は使用不可。つまり、仕事が終わるまでは連絡などとれるはずもないのだ。

「昨夜終わったんだよ」

「そんなはずないわ。ここまで列車を使っても丸一日はかかるのよ」

ミラジェーンは視界に入った魔道二輪に目を見開いた。

「あなたまさか、ここまでずっと魔道二輪で来たの?ステラから」

会話を耳にした周囲がざわついた。
妖精の尻尾があるフィオーレ王国、その先の奴隷売買でも度々問題が取り上げられるボスコよりさらに先にある国だ。列車と船を利用したとしても、半日で戻って来られるわけがない。
しかし、ラクサスはそれを可能にしたのだ――――







昨日、他国ステラの、ボスコとの国境近くにある街アルトア。依頼を終わらせたラクサスは宿舎へと向かっていた。依頼主から報酬を受け取った今、後は帰還のみ。
夜に差し掛かっていた頃だ、もう一泊してからギルドへと帰還する事を考えていた矢先。街の所々で妖精の尻尾の名前が口々で囁かれていた。その手には新聞。フィオーレ王国含む周辺の国で配られている、アース日報がある。
依頼主からもギルドから連絡が数度あったというから、また問題でも起こしたのだろうとラクサスは判断していた。

「相変わらずぶっ飛んでんな、妖精の尻尾!」

「まさか自分とこの魔導士を賭けるなんてな」

話しが見えない。顔をしかめながら歩みを進めるラクサスの耳に、よく知る名前が届いた。

「なんせ、あの火竜が青い天馬に移動するってことだろ?見に行きてぇな」

思わず足を止めて、近くにいた街人へと顔を向ける。新聞を見ながら笑っている街人に、ラクサスは近づいていく。

「貸せ」

新聞が話しのネタになっている事は間違いないだろう。
街人から奪った新聞に目を通すラクサス。街人はラクサスの迫力に逃げ出してしまった。

「どういう事だ、ジジィ」

新聞を握りつぶすラクサスの体から雷が発せられると、それを放出するように新聞が跡形もなく消え失せる。
ラクサスは急くようにその場を後にした。
大会は明日の午前中には開始される。運悪くラクサスの現在いる場所は国外。フィオーレ王国のマグノリアから離れていて、列車を使って急いでも間に合わないだろう。
しかし、この街は魔道二輪車の開発に強く取り組んでいて、最新のものも取りそろえていた。

「あの馬鹿が……ッ」

魔道二輪を最速で走らせれば、大会に間に合う可能性がある。しかしそれはラクサスほどの魔力があるからこそ出来る事だ。
ラクサスには珍しく切羽詰った表情で、魔道二輪の店に飛び込んだのだった――――







魔力はその者の生命力であり、いくらS級魔導士であっても、無茶な使い方をすれば命に関わる場合もある。
ミラジェーンが眉を寄せてラクサスを見上げた。決して表情には出さないが、相当の魔力を消費しているはずだ。

「魔力、ほとんど残ってないんじゃない?」

「だからババァのところに寄ったんだ」

ラクサスは丸薬のようなものを取り出して、口に含むと噛み砕き飲み込んだ。

「ポーリュシカさんね。確かにその薬は一時的に魔力を回復させるわ。でも」

ミラジェーンは言葉を詰まらせた。
ラクサスが口にしたのは、治癒魔導士であるポーリュシカの魔力回復の丸薬。流石というべきか効き目はあるが、ラクサスのように元より持っている魔力の桁が常人とは違う場合、薬を使用しても効果が薄い。
つまり、魔力を全快の状態で十持つものが薬を使えば全回復するが、百を持つものが薬を使用しても同等の十しか回復しないのだ。

「くだんねぇ話しはいい。試合には俺が出る」

ラクサスの言葉に舞台上で聞いていたルーシィが安堵したように溜め息をついたが、それに対してミラジェーンは眉を下げる。

「すでに大会は始まって、もう最終試合なのよ。一応掛け合ってはみるけど……」

ラクサスが出る方が確実性が高いのかもしれないが、最終戦が始まる間際の変更。更にS級の魔導士など、自分たちが不利になるような事を相手側が認めるだろうか。
マスターたちの元へと向かおうとするミラジェーン。それを止めたのは耳をつんざくようなマイクの音だった。

「うふ」

大音量で闘技場に響き渡ったのは、ボブの笑い声。
マイクから発せられる野太い声に、馴れていない妖精の尻尾の者たちがげんなりと顔をしかめた。

「うちは構わないわよ、選手の変更」

その言葉にいち早く反応したのは、隣にいたマカロフだった。

「お、いいのか?ワシが言うのも何じゃが、ラクサスは強いぞ」

「あぁら。うちのヒビキ君だって負けてないのよ。それに……」

ボブは、舞台を見つめるナツへと一度顔を向ける。

「うふ。愛ね」

ナツだけではなく、ラクサスまで背筋を走った悪寒に顔をしかめた。マイクを切ったボブがマックスへとマイクを返すと、合図をするように一度頷いた。

「ここで選手交代だー!我ら妖精の尻尾S級魔導士ラクサス・ドレアー!!!」

マックスの声が高々と場内に響くと歓声が上がる。妖精の尻尾だけではなく、青い天馬からもマスターの寛容さに声は張り上げていた。
その雑音を耳にしながら、ルーシィと入れ替わりでラクサスが舞台に上がる。

「ラクサス!」

熱狂する場内でも、ナツの声はよく通った。
名を呼ばれ、ラクサスは顔を上げると揶揄するように目を細めた。

「いい格好してんじゃねぇか。ナツ」

「うっせ!これのせいで魔法も使えねぇんだぞ!」

「つーか、面倒くせぇ事してんじゃねぇよ」

「俺じゃなくてじっちゃんだ!」

今回の事はマスター同士が引き起こしたものだ。マカロフが気まずいのかわざとらしく視線をそらしている。
ラクサスに食い付くように唸っていたナツの口元が、弧を描いた。

「絶対勝てよ!」

「誰に言ってんだ」

小さく息を付いて、ナツから視線対戦相手へと視線を移す。

「あらあら、いいわぁ。……でも、あまりあなどらない方がいいわよ」

ボブの言葉にナツは眉をひそめ、すぐに舞台へと視線を落とす。ラクサスの姿を確認して顔を緩ませた。
大丈夫だ。ラクサスの強さは、戦ったことがある自分がよく知っている。

「それでは、お待たせしました!どちらが勝ってもこれが最後!最終試合、妖精の尻尾ラクサス対青い天馬ヒビキの試合を開始しますッ!!」

マックスの開始宣言と歓声。
ラクサスが表立った場所で戦うこと事態が珍しいので、見物でもあるだろう。まさに最終試合として相応しいのかもしれない。

「はじめまして。噂はかねがね聞いています。まさか、戦えるとは思わなかったな」

爽やかに笑みを浮かべるヒビキに、ラクサスは気だるげに腕を組んでヒビキを見下ろす。

「くだらねぇな。こっちはさっさと終わらせてぇんだよ」

まるで相手にしていない態度に顔を顰めて、ヒビキは間合いを取るように数歩足を後退させた。

「僕も同感だよ。早く、ナツ君を青い天馬に迎えたいからね」

「人のもんに手出してただで済むと思ってんのかよ。あァ?」

舞台上に冷たい空気が流れている。互いに顔見知りでもない分、手加減などする気はないのだろう。元よりラクサスにそんな言葉自体存在しないだろうが。

控え場所で観戦しているルーシィが、己を抱きしめながら身震いをした。

「こ、怖すぎ……何であんなにピリピリしてるのよ」

「いい試合になりそうだな」

凛とした表情で頷くエルザに、ルーシィは脱力しながら舞台の二人へと視線を向けた。
いい試合どころか血の雨が降るのではないだろうか。それこそ冗談にならない。

舞台上ではラクサスが組んでいた腕を解いて、手をヒビキに向けていた。
ラクサスから発せられた雷は、ヒビキへと届く寸前でかき消された。ヒビキが振り払うような動作をすると圧縮した情報が盾になったのだ。相手の属性と相反するものを利用すれば何の事はない。

「甘くみないでもらえるかな。僕も青い天馬の代表なんだよ」

ヒビキが手を差し出すと、文字盤が宙に現れた。それを指で弾いていく。目の前に映像が現れ、暫くしてヒビキは己のこめかみに指を当てた。目の前ではラクサスが待ち構えていた。
用心する必要もないという事か。

「時間をくれてありがとう」

力を過信すればその分隙になる。ヒビキは口元に笑みを浮かべて、文字盤のキーを指ではじいた。途端にラクサスの様子に異変が起きた。
ラクサスは周囲に視線をさまよわせ、舌打ちをした。

「……何しやがった」

「僕の魔法は古文書(アーカイブ)。情報を圧縮して相手に伝える事が出来る。後方支援の方が多いけど、もちろん戦闘に応用もできる」

顔を顰めるラクサスに、ヒビキは続ける。

「魔法をデータ化して相手の頭にアップロードする。それがどういう意味か、実際に体験しているなら分かるんじゃないかな」

魔法を発動させているヒビキと、それを受けているラクサスにしか分からない。何せ目には見えないのだから、観客などは困惑するばかりで状況を判断できない。
どよめく場内に、司会者であるマックスが舞台に近づいてマイクを向けた。

「ヒビキ選手、説明お願いします」

「僕は今、ある魔法を圧縮してラクサスさんの脳にアップロードしたんだよ」

「どういう魔法を?」

「ダメージはないけど、今彼は視覚と聴覚がなく、感覚が麻痺している状態なんだ」

観客が騒がしくなる。

「感覚が麻痺しているから魔法も思うように扱えないし、視覚も聴覚もなければ無の中にいるのと同じ。戦闘中ならどこから相手に襲われるか分からないんだ。常人なら暫く放っておくだけで……ッ!!」

突然轟音が鳴り響き、舞台の一角が削り落とされた。ラクサスの雷撃が落ちたのだ。
ヒビキは表情を強張らせた。

「さすがはS級魔道士」

魔法を扱うのも難しいのに、恐らくヒビキが解説をしているたった数分の間に制御できるようになったのだろう。化け物じみているラクサスには常人の常識など当てはまるはずがなかったのだ。
ヒビキは指をこめかみに当てた。聴覚は奪っていても、念話を利用すれば会話は可能だ。

「コントロールはできないみたいだね」

雷撃はヒビキから離れた場所に落ちている。これならいくら攻撃を放っても魔力を消費するだけで、いつかは尽きるだろう。そうでなくても、ラクサスの魔力は魔道二輪の利用で大幅に削られているのだ。

「長引かせれば見ているナツ君も辛いだろうからね、悪いけれど終わらせてもらうよ」

相手の脳に送れるのは、何も感覚を奪うだけのものではない。これは、傍観するはめになっているナツ達への配慮だった。

「ルールだから命は奪わない」

文字盤を弾いていた指を止めて、主催者席にいるナツへと視線を向ける。ナツがまっすぐラクサスを見つめている。それに苦笑してラクサスへと視線を戻した。
最後のキーの打とうとした指は、ラクサスの歪んだ表情に気圧されて止まってしまった。苦痛に歪んでいるのではない、嘲笑するものだ。

「その程度かよ。くだんねぇな」

「どういう意味だ」

「試合のルールってやつに、舞台から出るなってのもあるよな。つまりは、てめぇも外には逃げられねぇわけだ」

ラクサスは拳を天に掲げた。

「鳴り響くは招雷の轟き……天より落ちて灰燼と化せ」

ラクサスから計り知れないほどの魔力が放出されている事は、対戦相手であるヒビキでなくても感じる事ができる、肌を刺すような魔力。
ラクサスの思考を読み取ったヒビキがごくりと生唾を飲んだ。

「自滅する気なのか」

ヒビキの言葉にラクサスは口端をあげて笑みを作った。

「レイジングボルト!!」

誰もが想像した以上の光景。舞台上全てに落雷した。もちろん、ヒビキだけではなく魔法の発動をしたラクサスまでもが攻撃の対象になる。
耳を刺激する轟音と、雷の眩しさに観客の視界までもが塞がれた。
雷撃がやんでも、衝撃で舞台周辺を土埃が舞っている。観客席では確認する事が出来ないほどに、姿を隠していた。

「これは、どうなってしまったのかー!雷撃を直撃した両選手、これは互いにひとたまりもないでしょう!」

マックスの司会の響く中、次第に土埃も晴れてきた。ナツが飛びつくように、術式の結界に手を当てて舞台を見下ろす。
舞台上には人影が二つ。倒れることなく二つともが攻撃に耐えて立ち通していたのだ。視界が完全に晴れれば、選手の状況までもが確認できた。衣服は雷撃の影響でボロボロだが、ラクサスは平然とヒビキを見下ろしていた。

「自滅ってのは雑魚がするもんなんだよ」

通常の人間なら別だが、ラクサスは滅竜魔法の魔水晶を体に埋め込まれているのだ。竜迎撃用の滅竜魔法をくらっても大して効果はない程に、身体は強化されている。
ヒビキは攻撃を受ける際に、ラクサスへの魔法を解除して己の持つ魔力を最大限に使用して防御に徹していたのだが、それでも耐えしのぐだけで限界だった。すでに試合続行は不可能だ。

「情報不足、かな……」

ヒビキが力尽きたようにその場に倒れた。意識がないだろう事は見てわかる。
ラクサスは小さく息をついた。

「あのバカはどこにもやらねぇよ」

物音もなく静けさが支配する会場中に、マイクのノイズ音が漏れた。

「ひ、ヒビキ選手ノックアウト!勝者ラクサス・ドレアー!よって、ギルド対抗魔導士大会は妖精の尻尾の勝利とします!!!」

マックスの高らかな宣言とともに妖精の尻尾側の歓喜の声が響き渡る。耳を刺激する声に顔をしかめて舞台を降りるラクサス。
主催者席にかけられていた術式も同時に解かれ、結界に体重を預けていたナツは、支えをなくして体をよろけさせた。

「術式が解けたのね。その拘束具のロックも解けてるはずよ」

勝敗が確定して少し気落ち気味のボブ。その言葉を途中まで聞いて、ナツは手すりに足をかけた。

「ナツ?」

ハッピーの声にも反応を示すことなくナツは手すりを蹴った。
舞台めがけて落下していくナツの体。もちろん魔法を使えば絶壁の高さでも難なく着地できるだろう。しかし、ナツの拘束具は装着されたままだ。

「ナツ、拘束具!」

「おぉ!?やべ、取れねぇぞ、これ!?」

魔力を制御する拘束具の錠は解除されているはずだが、焦っていて取り外すのに戸惑っている。このままでは地面に直撃してしまう。
ハッピーが翼を生やしてナツへと向かおうとするが、ボブに止められた。

「大丈夫よ」

楽しそうに笑みを浮かべるボブに、ハッピーはナツへと顔を向ける。
止まることなく落下していくナツの体。拘束具も外れる様子もなくあっという間に地面へと近づいていく。

「やべ……ッ」

かたく目を閉じて衝撃を待つが、いくら待てど想像程の衝撃は訪れなかった。変わりに抱えられているような感覚。
ナツが目を開くと、間近にラクサスの顔。

「何やってんだ、てめぇは」

「お、おう」

落下するナツの体をラクサスが受け止めたのだ。
ラクサスは呆れたような表情を浮かべてナツの体を地面へと降ろすと、拘束具を取り払った。
解放されナツは拳を炎でまとってみる。魔法のよみがえった感覚に浸っていると、ラクサスが歩きだしていた。

「おい、待てよ!」

ナツは慌ててラクサスの背を追いかけた。止まることなく歩き続けるラクサスの隣に並んで歩みを共にしながら、ラクサスを見上げた。

「来てくれて、ありがとな」

満面の笑みを浮かべるナツに、ラクサスは足を止めてナツを見下ろした。

「何だよ?」

首をかしげるナツの顎にラクサスの手がかけられる。

「礼ならサービスでもしろよ。俺は結構色気には弱いんだぜ?」

「……手酌とかマッサージか?」

色気という単語には引っかかりがなかったのだろうか。マッサージの動作だろう手をうごめかせるナツに溜息をついてラクサスは手を離した。
ナツは顔をそらすように妖精の尻尾側の控え場所へと顔を向ける。

「エルザ達が気になるから行くか」

少し裏返ったナツの声。ラクサスは逸らされているナツの顔を見下ろして目を見開いた。表情は読み取れないが、隠されることのない耳が赤く染まっている。
ラクサスは喉で笑って、ナツの腕を掴んだ。

「グレイの奴も、うぉ!?」

ラクサスに腕をひかれて傾く身体。慌てて振り返るナツに、ラクサスは腰をかがめて顔を寄せた。
合わさった唇。咄嗟の事に反応できるわけもなく、ナツの薄く開いた唇の隙間から、ラクサスの舌が侵入する。歯列をなぞり、ナツの舌に絡める。
静まり返る場内に、より水音が耳を刺激する。

「……これで勘弁してやるよ」

唇を解放され、耳元で囁かれる。
ナツは夢から覚めたように目を見張った。目の前にあるラクサスの顔に、一瞬で顔を赤くさせると、手の甲で己の唇をこすりながらラクサスを睨みつける。

「ば、バーカ!!」

一言罵倒とも取れないような言葉を吐き捨てて控え場所へと向かってしまった。
その後ろ姿を見送りながら、ラクサスは小さく笑みをこぼした。

「はッ、かわいい奴」

満足そうな表情で、ラクサスは出入り口から姿を消していった。それと同時、場内に野次が飛んだ。内容はナツを揶揄するものだ。当り前だろう、観客が残る中で視線の集まる舞台近くで、口づけを交わしたのだから。

「熱いねー!!」

「王子様追いかけなくていいのかー?」

ひやかすように口笛までも鳴らす者が出てくる。
ナツは顔だけではなく全身を恥辱で真っ赤に染めあげて、観客席を睨みつけた。

「うるせぇ!それより、忘れてねぇよな」

ナツは両手を炎で纏った。歯をむき出して笑みを作るが、若干口元がひきつっている。その姿に観客がどよめいた。

「全員黒焦げにしてやるァ!」

手どころか全身、怒りで炎が噴き出ている。

「バカ、やめろ!!」

「こんなとこで暴れんな!」

「落ち着けー!!」

宥める声にも耳を傾けるわけもない。ナツの両手が合わさり、巨大な火球が出現した。

「これでも喰らえ!火竜の煌炎!!!!」

容赦ないナツの攻撃が観客席へと直撃する。
すでに標的は、揶揄してきた妖精の尻尾側の者だけではなくなっていた。逃げ惑う観客たち、マスターたちも攻撃を避けながら避難している。
壊れていく闘技場を見まわして、ボブが小さく息をついた。

「本当に元気ねぇ。マカロフちゃん、これは貸しにしとくわよ」

「ぐぅ……ナツー!もうやめんかー!!」

ボブから逃げるように、マカロフはナツへと近づいていく。身体を巨大化させながらナツを止めに入った。

こうして、青い天馬との賭け試合も無事終えたのだが、ミラジェーンの指示でしばらくの間マカロフは飲酒禁止となったのだった。

「マカロフちゃん。またやりましょうね、大会」

「誰がやるか!!」

この度の教訓、酒を飲んでも呑まれるな。状況によっては倍以上になって己に返ってきます。




2010,03,15
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