負けられない





「皆様お待たせしました!誰もが想像しえなかった互いの魔導士を賭けた、まさに奇想天外ギルド対抗魔導士大会!妖精の尻尾対青い天馬!これより開催いたしますッ!」

マックスの声がスピーカーを通して場内に響き渡る。砂の魔法をうまく使い自身の体を浮かせたマックスが、舞台の真上高く宙を漂う。

「ちなみにこの度の司会は、妖精の尻尾の歩くマイク、砂の魔導士マックスが務めさせてもらいます!」

舞台に集っていた選手たち。ルーシィが目を押さえて顔を俯かせた。

「す、砂が目に入る!」

「クソ、あいつ派手に魔法使いやがって」

ちょうどマックスの真下にいる形になった選手たちは、顔を上げられないでいた。マックスが魔法で操る砂で体を持ち上げているために、そこから漏れだした砂が落下してきたのだ。司会に注目していた選手たちには堪ったものではない。

「それにしても、すごいノリノリね」

ルーシィが目に涙を浮かべながら呟く。その真上ではマックスが声を張り上げている。

「ちなみに、露天も出てるからぜひ立ち寄ってね!マグノリアでしか手に入らない名物品も取り揃えておりまーす!」

それで、マグノリアの街中が賑わっていたのだ。大会を餌に稼ごうという魂胆だ。

「抜け目ねぇな。マグノリアの連中」

「それではお待ちかね、選手の紹介をいたしましょう!おーっと選手全員俯いてますね。緊張でもしているのかなー?」

「ふざけんな!てめぇの砂が目に入んだよ!」

「マックス、せめて舞台から距離をおけ」

声を荒げるグレイと、嗜めるように静かに声を響かせるエルザ。二人の反応に、マックスは手のひらで目を覆った。

「おやおや、恥ずかしがりのフェアリーだ!」

観客が噴出すように笑みをこぼす。エルザの言葉にも臆する事がないのは素晴らしいが、腹立たしい。グレイは拳を握りしめながら、大会後のマックスの制裁を決意した。
マックスは宙に浮いていた体を舞台の上に着地させた。

「てめ、後で覚えてろよ。マックス」

「落ち着け、グレイ。マックスも悪気はないんだ」

エルザに嗜まれるグレイを気にした様子もなく、マックスは選手の紹介を始めた。

「第一試合!美しく換装しながら戦う姿は異名のごとく妖精女王!ミス・フェアリーテイル!エルザ・スカーレットォォ!対するは、いつもはツンたまに見せるはデレ!最強のツンデレをほこり褐色の肌は空夜の如くレェェン・アカツキィィ!!」

マックスを前に二列に並んでいた選手六名。マックス側二名、エルザとレンが互いに顔を見合わせる。

「よろしく頼む」

「手加減はできねぇけど、お前を傷つけねぇよ。別に、気になるとかじゃねぇからな」

互いに握手を交わす。レンは相変わらずのようだが、エルザが動じる事などない。

「第二試合!造型するは己の心、心よりも露出するのは己の体!妖精の尻尾一の露出魔導士グレェェイ・フルバスター!対するは、あどけない表情は小動物の愛らしさ!母性を擽り年上の女性を魅了するイィヴ・ティルゥゥゥム!」

「人を変態みたいに言うんじゃねぇ!」

「いいな、レン。妖精女王のお相手が出来るなんて」

イブが隣のレンを見上げる。始めて顔を見合わせた時から憧れていると言っていたから無理もないだろう。

「第三試合!精霊は友達、恋よりも金!いつでも金欠コスプレ大好き女王様ルゥゥーシィィィ!対するは、彼氏にしたい魔導士ランキング上位常連!甘いマスクで女性の噂は数知れずヒビキ・レイティィィィスッ!」

「酷ッ!確かに金欠だけど、コスプレ好きじゃないから!」

「よろしく。ルーシィさん」

ヒビキが女性を虜にするような柔らかい笑みを浮かべる。それに返すように笑顔を向けたルーシィだったが、ふと自分の位置に思考を固めた。

「あ、あれ?私、最後なの?」

最終試合といったら大会の重要部分ではないだろうか。表情をぎこちなくエルザたちに向けると、エルザは一度頷いた。

「ルーシィがチームの要だな」

「ちょ、普通はエルザじゃないの!?」

最強の女とも呼ばれているエルザが出るのが妥当ではないか。慌てふためくルーシィに、グレイが、落ち着けと呟いた。

「どうせルーシィの番までいかねぇよ。エルザと俺が勝って終わりだ」

「それは、そうかもしれないけど……」

自信に満ちているグレイの妨げになるような事は言いたくはないが、相手もギルドから選ばれた有力な魔導士。不安がなくなるわけではない。
そんな中でも司会は進められていく。

「今回賞品となる魔導士の紹介もいたしましょう!片や我らが妖精の尻尾一の問題児!国中知らぬものはいない仕事で破壊しない日もない!火竜こと、ナァァツ・ドラグニルゥゥゥッ!!!」

観客の視線が主催者席へと向けられる。
マックスの言いように眉を吊り上げたナツが立ち上がった。

「喧嘩売ってんのか、マックス!つか、壊してんじゃなくて、気づいたら勝手に壊れてんだ!!」

しかしマックスはナツの言葉に耳を傾けるわけもない。司会者としている間は、そちらへと徹しているのだ。プロとしかいいようがない仕事ぶりだ。

「片や青い天馬一の異端!美形に混ざる汚物!声以外に良いところ無し!一夜=ヴァァンダレェェイ=寿ィィィ!!!」

「し、失礼だぞ、君!!」

一夜が腹立たしげに声を荒げる。しかし事実だと、青い天馬以外の観客が内心で頷いた。やはり、顔で選ばれる青い天馬において一夜は異色過ぎる。
それにしても、マックスの紹介の仕方は人の神経を逆なでする物言いばかりだ。彼の今度が心配になってしまう。

「すごい。二人ともダメな意味でギルド一だ」

「褒められる事じゃねぇだろ」

「褒めてないし。グレイ、あんたは妖精の尻尾一の変態なんじゃない?」

いつの間にか服を脱ぎ始めていたグレイに、ルーシィが冷たく突っ込みを入れる。最近のルーシィは突拍子もない行動にも慣れたのか、手厳しい部分がある。
グレイは慌てて服を着ていく。

「それでは、双方ギルドのマスターにも一言いただきましょう」

マックスが砂を操ってマイクを、マカロフの元まで届ける。
マイクを受け取ったマカロフは賞品魔導士二人を挟んで隣にいるボブへと指をさした。

「ナツはやらん!勝つは妖精の尻尾じゃ!それと、そこの小僧はいらんからな!」

小僧とはもちろん一夜の事だ。一夜はエルザに惚れ込んでいるせいで何かあるごとにちょっかいを出してくる。そうでなくても性格自体気に食わない。
マカロフからマイクを奪ったボブが、余裕の笑みを零した。

「あぁら。今のうちに好きなだけ吠えておくといいわ、マカロフちゃん。勝つのは青い天馬だもの」

「何じゃとォ!?」

立ち上がるマカロフを無視して、ボブがナツへと視線を移す。

「ナツちゃん。うちにきたらトライメンズに入りなさいね。そうね、夜桜のナツなんてどうかしら?ナツちゃんの髪の色綺麗ですものねー」

トライメンズは皆別名に夜が入る。だが、それはナツを戦慄させた。
トライメンズに入ると言うことは、ヒビキ達と同様に行動をともにする。つまり、ホストまがいな事もしなければならない。ナツに到底向いているとは思えない。
一瞬の間を置いて、ナツをよく知る妖精の尻尾側が爆笑の渦に巻き込まれた。笑いすぎて涙を浮かべるものまでいる。
ナツは荒々しく立ち上がって、笑い声で騒がしい方へと睨みつけた。

「くそ、笑ってんじゃねぇ!これ外れたら全員黒焦げにしてやるからな!」

負けたときの事を考えると冗談にもならない。当のナツだけではなく、今回選手となっているルーシィ達にも笑えない話しだ。

「ナツのアイデンティティが!火竜じゃなかったら、もうナツじゃないわよ!」

「夜桜って、滅竜魔導士としてどうなんだ?」

「動揺するな、二人とも。何を言われようが関係ない。勝つのは私たちだ」

揺るがないエルザの一言で、グレイもルーシィも余計な力が抜ける。全ては自分達が負けなければいい事だ。頷く二人。
その前では、トライメンズの三人が、歓迎するかのような笑顔でナツを見上げていた。

「ナツ君なら歓迎するよ」

「スーツ一緒に見立てようね!」

「別に、嬉しくなんかねぇからな」

すでに仲間の気分になっている。
マイクを返されたマックスが、舞台から飛び降りた。

「試合に入りたいと思います!第一試合の選手以外は控え場所に戻ってください!」

エルザとレン以外の選手が舞台から離れる。控え場所に戻ると、そこにはウェンディとシャルルの姿。

「本当は選手しか入っちゃいけないんですけど、マスターにお願いして入れてもらいました。せめて、サポートはさせてください」

「……ありがとう、ウェンディ」

怪我をする前提で考えるのはどうかと思うが、魔導士同士の戦いなら無傷とはいかないだろう。ウェンディの優しさに、ルーシィは頬を緩ませた。

「試合の前にルールの説明をいたしましょう!勝敗の決め方は簡単!相手を場外に落とす。テンカウントのダウンをとる。相手に参ったと言わせる、この三つ!ただし、命を奪う行為は失格となります!」

マックスの説明に、ルーシィは微かに安堵の息をついた。思っていたよりも危険がない。相手を傷つけなくても場外に落とすことで勝利を得る事もできるのだ。
ルーシィは緊張で強ばっていた表情を和らげて、試合を見守るべく舞台へと視線を向けた。

「それでは、これより第一試合、妖精の尻尾エルザ対青い天馬レンの試合を開始します!」

マックスの開始宣言の後、銅鑼の音が響き渡った。腹にまで響いてくるような低い音が耳を刺激する。
音の余韻が残る中、エルザが片手に剣を換装させた。

「悪いが、さっさと終わらせてもらう」

エルザの目が据わっている。エルザが舞台を蹴り、レンの元の懐へと飛び込んで剣を振り切る。エルザの剣の腕は妖精の尻尾でもよく知られている。
まさか真っ二つかと観客も顔をしかめるが、剣がレンに触れる事はなかった。

「ぐッ!!」

破裂音と共に、握られていた剣が舞台を滑り場外へと落ちた。
エルザは痺れる手を押さえながら、レンから距離をとった。

「今のは、」

レンの扱う空気魔法(エアマジック)は空気を自由に操る。もちろん破裂をさせることも可能なのだ。エルザの剣を弾いたのも空気魔法の効果。予想しなかった為に、剣は油断したエルザの手から吹き飛んだのだ。
間合いをとるが、レンが手を前に出すとエルザの足元を衝撃が襲う。空気魔法で足元の空気を破裂させているのだ。
後方へと飛んで避けるエルザを追うように衝撃が続く。

「しまった……ッ」

大会のルールの一つである場外も敗北。後方へと逃げるうちに舞台の端まで追いやられていた。片足が舞台を踏み外しかけ、エルザの動きが止まる。
レンの手がエルザの顔を狙うように上がると、すぐに感じ取ったエルザは別の鎧に換装し、跳躍力を上げて宙へと跳ぶ。豹の姿を模ったような鎧通常よりも身軽に動かす。

「なるほど、手強いな」

「傷つけないように攻撃するのは難しいんだ、降参しろよ。べ、別に心配してるわけじゃねぇからな」

女性に手荒な事は出来ないのは、青い天馬の方針か個人の性格か。
しかし、エルザは降参するつもりなど毛頭ない。負ければナツを奪われるのだ。この戦いをすることで己の命が奪われるのだとしても負けるわけにはいかない。

「手加減は無用だ。私もするつもりもない」

エルザは両手に剣を換装させると、舞台を蹴る。先ほどよりも鎧の効果分素早い。

「攻撃の暇など与えなければ済む話しだ」

剣の立ち回りも高い分、素早さも加われば、戦いには有利だ。しかし、エルザはレンの元までたどり着く前に足を止めてしまった。

「ぁ、」

崩れるようにエルザは舞台に膝をついた。何が起こったのかエルザ自身も周囲も困惑する中、エルザが空気を取り込むように呼吸を繰り返した。
舞台に手をつき、荒々しく呼吸を繰り返しながらレンを見上げる。呼吸を整えて口を開く。

「今のは、真空状態だった」

レンから一定の空間が真空状態だったのだ。しかし真空状態に長時間は耐えられない。
エルザが膝を突いてすぐに魔法を解除したのだろう。そのまま発動させたままなら、確実にエルザは窒息死していた。

「恐ろしい魔法だな」

「もう降参しろよ。次は止めない。別に、お前と戦うのが辛いから早く終わらせたいわけじゃねぇからな」

エルザは数回深呼吸を繰り返した。剣を握りなおして立ち上がる。
降参する気がないのだと察したレンが手を差し出すが、その瞬間エルザの姿が消えた。跳躍力でレンの真上まで跳んだのだ。しかし、レンが作り出した真空状態は真上関係なくレンの一定周囲を限定する。
エルザが真上から剣を振り下ろす。数秒間、人体で真空に耐えられるなどたかが知れている。エルザの視界がかすみ、振り下ろされた剣先はレンの背を掠めただけだった。
微かな痛みに顔をしかめるレンだが、魔法は解除されていない。

「くッ」

舞台へと着地したエルザの思考はすでに朧だったが、意識が飛びそうな瞬間、視界にはいった人物に一瞬だけ思考が鮮明になった。出来うる限りの力で剣を振り下ろす。
勝負がついたのだと思っていたレンは、背後から振り下ろされたエルザの剣を避ける素振りさえも見せなかった。
その間ほんの数秒。エルザの剣に背を切りつけられたレンは、衝撃で舞台へと倒れこんだ。拍子に魔法は解除されたようでエルザは肺に酸素を取り込む。
立ち上がると、同じく立ち上がったレンの顔面を、剣の柄で殴りつけた。鍛え上げた腕力だ。背に傷を負っていたレンは呆気なく場外まで吹き飛んでいった。

「……私は、負けられないんだ」

場外に転がるレンを見下ろして呟くエルザに、試合終了を告げる銅鑼の音が響き渡った。




2010,02,15
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -