※微妙にあらすじ
海外出張に行ってしまったナツの父親イグニール。その間ナツをドレアー家で預かる事になった。その数ヶ月後、今度はラクサスの祖父であるマカロフが海外出張になり、ナツとラクサスの二人暮らしが始まった。
そして半年も経たないうちにマカロフが戻ってきて、再び三人で楽しい暮らしが始まったのだった。



二冊目。日記最後のページ「ばいばい」





休日、三人でゆっくりと昼食を取り終えたちょうどその時、来客を知らせる呼び鈴が鳴り響いた。

「オレ出てくんな」

「グレイだったら出るなよ」

ラクサスの言葉に頷いて、ナツは玄関先へと向かっていった。
少し間をおいてもナツが戻って来ない。と言う事はグレイではなかったのか。ラクサスは立ちあがって玄関先を覗いてみた。

「、イグニール」

玄関先では、海外出張しているはずのナツの父親イグニール。そしてナツはしっかりとイグニールにしがみ付いていた。

「ラクサス。久しぶりだな」

ラクサスに気が付いてイグニールが手を上げる。
それにラクサスは一瞬戸惑って、玄関先へと足を動かした。

「帰ってきたんだな」

「ああ。思ったよりも早く向こうでの仕事が終わってね。こっちに戻ってこられる事になったんだ」

「とにかく上がれよ。ジジィとの話しもあんだろ」

ナツははっとするとイグニールから離れて、ラクサスの横に立った。
家の中に上がろうとするイグニールにナツはにこりと笑った。

「いらっしゃい!とうちゃん!」

その時のイグニールの表情は中々目にかかれるものではない。目に入れても痛くない程に可愛がっている愛息子に、まるで客の様に言葉をかけられたのだ。妙に衝撃を受けたイグニールを家へと招き入れた。

ナツがラクサス達と共に過ごしていたのは、イグニールが海外に出張になったからだ。そして、イグニールが戻ってきたという事は必然的にナツはイグニールと共に元の家へと戻る事になる。

「また父ちゃんといられるんだな!」

嬉しそうに飛び跳ねるナツにイグニールは柔らかく笑みを浮かべていた。

イグニールとマカロフが他愛ない会話し始めると、会話に興味のないラクサスは自室へと戻っていった。それにナツも付いて来る。
階段をのぼりながら、ラクサスは近くで聞こえる軽い足音に耳を傾けた。
幼い足音がやってきて一年足らず。鬱陶しいと思っていたのに、いつの間にかそれが当り前となっていた。
纏わりつく様に背後を追ってくるその足音。それが、なくなるのだ。

「……帰ってきて良かったな」

イグニールの事だ。ナツは大きく頷いた。

「おお!また一緒にいられるんだぞ!」

ナツはまだ小学生なのだ。親を恋しく思うのは当り前だ。
ラクサスはナツの頭をぐしゃりと撫でた。

「たまになら来てもいい」

きょとんとするナツに、ラクサスは自室へと入った。我に返ったナツが慌ててその後を追う。

「ラクサス、今のどーいう意味だ?」

「たまになら構ってやるって言ったんだ」

「たまにってなんだ?ずっと一緒だろ?」

ナツは大きな目をぱちくりと瞬きを繰り返した。
まるで理解していないナツの反応に、ラクサスは訝しむように眉を寄せた。

「お前、意味分かってねぇのか?イグニールが帰って来たってことは、お前は元の家に戻んだよ」

ナツは少し間をおいて口を開いた。

「……ラクサスも一緒に来るんだよな?」

「なわけねぇだろ」

呆れた様に溜め息をつけば、ナツは呆然とラクサスを見つめる。

「ナツ?」

どうしたのかと声をかければ、次第にナツの顔は歪んでいった。
堪える様に身体を震わせ、涙で潤んだ瞳でラクサスを見つめる。

「、じゃあ、オレ、行かねぇ」

「お前、何言って」
「オレ、ずっとここにいる……」

ナツの瞳から涙が零れた。

「ラクサスと、いっしょがいい」

ナツから吐きだされた言葉は、ラクサスの心を簡単に揺さぶった。
居るのが当たり前と思っていたのはラクサスだけではないのだ。イグニールが出張に行ってしまうという時でさえ泣かなかったナツが泣きじゃくるほどに、ナツの中でラクサスの存在は大きなものになっていた。

「……別に遠くに行くわけじゃねぇだろ」

ナツの家との距離は電車で数駅程度。大して遠いわけでもないが、小学生のナツには近いとも言えない距離だ。

「合鍵は持ってんな?」

頷くナツに、ラクサスは小さく笑みを浮かべた。

「好きな時に来ていい。待っててやる」

ナツが惜しむ様にラクサスにしがみ付いた。その次の日、ナツはイグニールの迎えと共にドレアー家を去っていった。

そして、一週間後。
休日の朝、学校のある平日とは違い睡眠を貪っていたラクサス。
腹の圧迫感で目を覚ました。

「……お、起きた」

幼い声と、ぼやけた視界に入る桜色。
ラクサスは次第に覚醒していく思考で、ようやくその正体を認識した。

「ナツ?何でここにいる」

眠るラクサスの腹の上に、ナツが跨っていた。
寝起きのラクサスの顔を覗き込み、ナツが口を開いた。

「父ちゃんが出張に行くから、またこっちに来たんだ」

寝起きの脳が徐々に理解をしていく。
つまりナツは、イグニールが出張に行っている間またドレアー家に住む事になったと言っているのだ。

「へへ!よろしくな、ラクサス!」

満面の笑みを浮かべるナツに、ラクサスも口元に笑みを浮かべた。
腹の上に乗っかっているナツを見つめる。

「ナツ、ルールは覚えてるか?」

ラクサスとナツの二人暮らしになった時に作ったナツ用のドレアー家ルールだ。
ナツは、手を額にあてて敬礼の形を作った。

「いち、火は使わない!に、誰が来てもドアを開けない!さん、特にグレイはダメ!よん……は、もうねぇんだ」

四は、じっちゃんが帰ってきたらぶん殴る。という、書き置き一枚で勝手に海外出張に出かけたマカロフへの怒りからできたものだったのだが、それはマカロフが戻って来た時点でなくなった。
自信満々で言いきったナツの頭を撫でながら、ラクサスが口を開いた。

「四、ここにいろ」

きょとんとしたナツの表情はすぐに笑みに変わる。頬を紅色させ、ラクサスにしがみ付いた。

これからも、ずっと一緒。




20100928

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