love(中三ラク・高三ナツとグレ)





物心ついた頃からの憧れだった。綺麗な髪の色も、強い意志を持つ優しい瞳も、笑顔も。
全て好きだった。

「ただいまー」

帰宅したナツの後ろから、付いて行くように友人のグレイが家に上がる。
ナツの帰宅に気付いた父親のイグニールがリビングから顔を覗かせた。

「おかえり。ナツ」

「ただいま。父ちゃん」

ナツの後ろの隠れていたグレイが、一歩足を踏み出してイグニールに軽く会釈をした。

「お邪魔します」

「ああ、久しぶりだね。ゆっくりして行きなさい」

イグニールはグレイに笑みを浮かべるとナツへと視線を移した。

「ラクサスが部屋で待ってるぞ」

「マジで?何だよ、メールしてくれりゃいいのに」

ナツは階段を上って二階にある自室へと急ぐ。その後を追うグレイの顔が不機嫌そうに顰められていた。
ナツが自室の扉を開けると、そこにはイグニールの言葉通りの人物の背が見えた。クッションの上に座って、備え付けのテレビに向かっている。ゲーム中の様でコントローラーを握っている手がしきりに動いていた。

「ラクサス」

ナツが声をかけると、ゲームに夢中になっていたラクサスは振り返った。

「おかえり。ナツ兄」

「ただいま……つーか、来るならメールしろって言ったじゃねぇか」

ナツはぶつぶつと不満を口にしながら、ラクサスの隣に腰かけた。

「別にいいだろ、そんなもんしなくても」

ラクサスも不満そうだ。ナツへと向いていた視線がテレビ画面へと戻されてしまった。
ラクサスはナツの隣に住む隣人だ。家族構成は祖父と孫の二人暮らし。ナツはラクサスが赤ん坊の頃から知っていて、ラクサスも小さい頃は言葉通りどこに行くにもナツの後ろをついて回っていた。
兄弟の様に過ごしてきたその延長線なのだろう、ラクサスも中学三年になるというのに未だにナツの部屋へと訪れてくるのだ。それもほぼ毎日。
ナツもラクサスを弟の様に思っている為訪ねてくるのが嬉しくもあるのだが、ナツにも友人との付き合いがある。

「ったく、次からはメールしろよ」

ナツはラクサスの頭を撫でると、入り口でつっ立っているグレイへと振り返った。

「どうした、グレイ」

「……何でもねぇよ」

グレイが部屋へと足を踏み入れたと同時にナツが立ちあがる。ラクサスのそばに置いてあった空のグラスを手に取った。

「飲みもん持ってくる。父ちゃんが作った菓子もあるんだ」

「あぁ、美味かったな」

ラクサスの言葉にナツは衝撃を受けた。

「食ったのか!全部!」

「んなわけねぇだろ。ちゃんとナツ兄の分は残してある」

「だよなー。じゃ、グレイも適当に座ってろよ」

ナツは機嫌よく部屋を出ていった。階段を下りる音を耳にしながら、グレイはラクサスの隣へと腰を下ろした。

「久しぶりだな。クソガキ」

「てめぇも元気そうだな。変態」

二人の間には不穏な空気が流れている。ラクサスの雰囲気もナツへと向けていた物とは全くの正反対。
グレイはテレビ画面へと向きながら視線だけをラクサスへ向けた。

「ずいぶんお盛んじゃねぇか。有名だぜ、色んなとこで食い散らかしてるってな」

ナツには届いていないが噂があるのだ。金髪の少年が手当たりしだい女性を抱いていると。
ラクサスはコントローラーを操作しながら舌打ちをした。

「人を犬みたいに言うんじゃねぇよ」

「発情期の犬より質悪ぃだろ。そんな奴がナツの近くにいるってのが許せねぇんだよ」

ラクサスは手の動きを止めてグレイへと振り向いた。

「年中発情してんのはてめぇだろ。ナツを妙な目で見やがって。気持ち悪ぃんだよ」

ラクサスは得意気に鼻で笑って続けた。

「あれは俺が貰うんだ。手ぇ出すんじゃねぇ」

自信で満ちたその言葉。しかしグレイは苛立ちもせずに逆に口端を吊り上げた。

「お前、自分の立場分かってんのかよ。弟でしか見られてねぇお前より俺の方が分があるんだぜ?」

ラクサスの眉が顰められる。
二人が睨みあう中、扉が開いた。

「なぁ、コーラでいいか?」

ナツがトレーを手に戻って来たのだ。トレーの上にはコーラの入ったグラスが三つとイグニールの手製の菓子。
ラクサスとグレイは振り返って笑みを浮かべた。

「サンキュー。ナツ」

「悪ぃ。ナツ兄」

先ほどまでの空気が嘘だったかのようだ。
ナツが何故気付かないのか、この光景を見れば誰しも疑問に思うだろう。三人でゲームをしているのだが、ナツの両隣に座るラクサスとグレイが度々火花を散らし、ナツはそれに気付かずにゲームをしながら菓子に舌包みを打っている。

そんな状態を数時間続け、そろそろグレイが帰宅を考えようとしていた時だ。ナツが思い出したように口を開いた。

「そういや、お前今日は泊ってくんだろ?」

テレビ画面からラクサスへと視線を移動させたナツに、ラクサスは頷いた。

「今日はじーじが帰って来ねぇんだよ。飯食うついでだ、いいだろ?」

「当たり前だろ。父ちゃんも出掛けちまったしな。朝まで帰って来ないって言ってたからゲームやり放題だな!」

にっと笑みを浮かべるナツにグレイは顔を引きつらせた。
グレイは、ナツの両肩を掴んで己の方へと身体を向けせる。

「ちょっと待て!今夜はお前とそいつの二人きりなのか!?」

グレイの必死な形相に、ナツは引きながらも頷いた。

「お、おお。ダメなのか?」

「ダメに決まってんだろ!こんな奴と二人っきりになったら何されるか分かったもんじゃねぇ!」

ナツの顔が訝しむように顰められた。

「ラクサスが悪い事するってのか?んなわけねぇだろ!」

弟の様に可愛がってきたラクサスの悪口を言われ、ナツは怒りに目を吊り上げた。
好意を寄せている相手に睨まれて怯まないはずがない。グレイはナツの肩から手を放すと、嘲笑する様なラクサスの表情に口元を引きつらせながらも、ナツへと目を向ける。

「それなら、俺も泊らせてもらう」

きょとんとするナツにグレイが続けた。

「構わねぇだろ。それとも、そいつは良くて俺はダメだってのか?」

「ダメだ」

間髪をいれずに答えたのは誰でもないナツだ。

「グレイは泊めるなって言われてんだよ」

「誰だよ、んな事言った奴は!」

「えーと、エルザとルーシィと……あと、ロキだ!」

エルザとロキは大学に通っていて、ルーシィがクラスメイト。三人ともグレイとナツの共通する友人だ。

「ロキの野郎、協力するって言ったじゃねぇか……!」

怒りに身体を震わせていると、ラクサスがナツの腕を掴んだ。

「なぁ、ナツ兄。風呂一緒に入らねぇか?」

「お、そうだな!久しぶりに一緒に入るか!」

その言葉にグレイは顔を青ざめさせて、首を振るった。

「ダメだ絶対!やめとけ、ナツ!」

グレイの過剰な反応にナツは引いていた。顔を歪めながら部屋の扉を開ける。

「俺風呂の準備してくんな。グレイ、お前もそろそろ帰れよ」

部屋を出ていくナツに、グレイは床に手をついて項垂れた。手を打とうにもどうにもできない状況だ。
そんなグレイをラクサスは見下す様に見下ろした。

「立場を利用するのも手だろ」

グレイやナツの知らないところで、ラクサスはルーシィ達と接触していたのだ。それこそナツの弟分として同情を装うような事を口にした。
ルーシィ達はグレイがナツに好意を寄せていた事は気付いていた。友人として応援する構えをとっていたのだが、そこにラクサスが加わったのだ。
素直でない態度に隠れた寂しさを見せれば、ルーシィが一発で落ちた。それにロキがルーシィ側に付かないわけがなかったのだ。

「て、てめ……」

呻るグレイの姿は負け犬の姿そのものだろう。
それを嘲笑していたラクサスだったが、階下から呼んでくるナツの声に身を翻した。部屋を出て階下へと降りていく。

「ナツ兄、面白い遊びがあるんだけどやらねぇか?」

「風呂でやるのか?」

「ああ。……ナツ兄がどこまで我慢できるか、な」

その会話を耳にしたグレイが激怒しながら階段を駆け下りていった事は言うまでもない。




20100913
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