もふもふ日和





いつも賑やかなギルドをさらに騒がしくする事件の火種が持ち込まれた。

「な、何だこれーッ!!!」

ナツの絶叫が妖精の尻尾内に響き渡る。ギルド内の者たちはナツの姿に笑いを堪えきれずにいた。

「結構似合ってるわよ。ナツ」

「オイラとおそろいだね!」

ルーシィが口元に笑みを浮かべながら揶揄し、ハッピーは嬉しそうにナツを見上げる。
ナツは、原因を作ったロキの胸倉を掴み上げた。

「何すんだよ、ロキ!」

「やっぱり、よく似合ってるよ。これ」

ロキは、桜色の髪に生えている通常では見られない黒い猫耳を指でつまんだ。
とたんびくりと体を震わせたナツは、ロキから手を離して隠すように猫耳を手で覆った。驚いたのか、尻から生える長い尾の毛が逆立っている。

「触んじゃねぇ!」

「あ、感覚あるんだね。かわいいなー」

ナツに伸ばしたロキの手は、届く前に叩き落とされた。妨害したのはグレイだ。ナツを庇うようにロキの前に立ち、睨み上げる。

「この変態野郎」

「……君に言われたくないよ。ていうか鼻血出てる」

眼光を鋭くしナツを守ろうとする姿は惚れ惚れするが、残念鼻からは赤い筋が流れていた。
慌てて鼻血をぬぐうグレイ。その背後ではナツが数歩距離を置いていた。ドン引きだ。

「んなことより、まだあんだろ。それ寄こせ」

それとは、ナツに猫耳と尻尾を生やせた魔法薬である。ロキが出向いたクエスト先で仕入れてきたのだ。

「急かすなよ。君にもひとつ上げるから」

手を差し出してくるグレイに、ロキは四角いケースを取り出した。その中には小瓶がニ本。すでに三本分の空きができている。ロキは小瓶一つを取り出すと、ふたを開けた。

「あ、ダメだよナツ!服脱いじゃ!」

ロキがグレイの背後に視線を向けて叫ぶと、グレイは風を切るほどの勢いで振り返った。しかし、先ほどまでいたはずのナツの姿はない。

「てめ、ロキ!何が……ング!?」

ロキへと顔を向けたグレイの口に小瓶が突っ込められる。中に入っていた液体は抵抗するグレイの口の中へと流されていった。
予想外の液体の侵入に、グレイはせき込んだ。少し気管に入ってしまったのだ。
グレイは涙を浮かべながら口に突っ込まれた小瓶を抜き、それに視線を落とした。

「何だよ、これ」

「だから言ったろ。君にもあげるって」

「おい、まさか……!?」

グレイは身体の異変に身震いをした。頭と腰が疼く。
くすぐられてるような感覚に顔を顰めて耐えていると、暫くして疼きが引いた。

「ほら、確認しなよ」

ロキが出した手鏡で確認すると、頭には獣の耳。慌てて尻へと視線を落とすと、尻尾。ナツとは違って犬のようだ。

「やっぱり男だと気持ち悪いね」

輝くほどの笑顔で言いのけるロキに、グレイは目を吊り上げた。

「殺す!!」

「まぁまぁ。実はルーシィとエルザの飲み物にも入れてみたんだ……あ、ほら」

ロキは笑いながらグレイを宥め、ルーシィ達へと視線を向けた。

「何よ、これー!?」

「……む、狐か」

ルーシィの頭にはうさぎ、エルザには狐の耳と尻尾が生えていた。
ルーシィは恥ずかしさに手で顔を覆っていた。バニーガールの衣装を着た事はあっても直接生えるのとでは話が違う。

「何であたしまで!」

「よく似合っているぞ。ルーシィ」

「エル……ザー!?な、なにその服!」

エルザは煌びやかな着物に換装していた。
マグノリアでも祭りの時に浴衣は見かけるが着物は珍しい。着る者自体少ないのもあるが、エルザが身につけている着物は、まさに極上の逸品だ。

「どうだ?この耳に合わせてみたんだ」

「似合ってるけど……気に入ったの?それ」

赤を基準にした着物に狐の耳と尻尾。確かに合ってはいる。換装のせいなのか、エルザにはそういう趣向があるようだ。
ルーシィは溜息をついて、ロキへと振り返った。

「あんたの仕業ね、ロキ」

「似合ってるよ。僕のうさぎちゃん」

ルーシィの手を握りしめるロキの手を払い、ルーシィは手を差し出した。

「出しなさい。まだ、あるんでしょ?」

「あと一つだけだよ」

ロキがケースから取り出した小瓶。中には液体が入っている、これで間違いないだろう。
ルーシィが奪おうとするが、ロキはそれを難なく避けてしまう。

「もうそれ捨てなさいよ!」

「ルーシィ、俺も手ぇ貸すぜ。一緒にロキをぶっ殺そう」

「いや、命まではとるつもりないから」

乱入してきたグレイに、ルーシィは小さく身体を震わせた。
楽しそうに騒ぐ三人を見つめて、ハッピーだけが寂しそうに肩を落としている。

「オイラだけ仲間外れだ」

そう言えなくもないが、もしハッピーが薬と使った場合耳が四つ付く事になる。気持ち悪いことこの上ない。そんな事態に間違ってもならなかった事は幸いしているだろうが、誰もハッピーを慰めている余裕はなかった。

騒ぎまわるルーシィ達、その少し離れた場所でナツがニ階を見上げていた。

「相変わらず、くだんねぇ事してんなぁ?」

ラクサスが帰還していたのだ。ナツ達の奇行も見ていたのだろう、喉で笑っているラクサスに、ナツは口元を歪めた。

「うっせ!んなことより俺と勝負しろ!!」

「俺は動物相手にする趣味はねぇんだ。お前はハッピーと魚でも食ってろよ」

ラクサスの言葉に、ナツの尻尾の先端がピクリと動いた。

「降りてこい!この野郎!」

「あ?お前が上ってこいよ。上がれるもんならな」

小馬鹿にしたように笑みを浮かべるラクサスに、ナツが駆け出そうとしたが、顔面に衝撃を受けて足を止めてしまった。

「ダメよ、ナツ」

ミラジェーンが持っていたトレーが顔面に直撃したのだった。

「何すんだ!」

「ニ階には上がっちゃダメ。マスターに言いつけるわよ」

一度どころではなく、ナツはニ階に上がろうとしてマカロフの巨大化した手によって押しつぶされてきたのだ。
ぐっと堪えるナツにミラジェーンはニ階へと顔を上げた。

「ラクサス、あなたもよ。ナツをからかわないで」

ラクサスが他人の言う事などきくはずもない。
顔を俯かせるナツに、ラクサスは目を細めた。

「クク、よく似合ってるぜ?」

悔しそうに唸るナツの尾が直立し毛が逆立った。

「お!お前なんか、キライだー!!」

ナツの声のすぐだった。周囲の唖然としたような短い声が漏れ、ニ階にいたラクサスに吹っ飛んできた小瓶が直撃した。蓋の開いていたそれの中身がラクサスの頭から降りかかる。

「つか避けろよ!」

グレイの言葉に頷くものが数人。皆ラクサスに注目している。周囲はラクサスに直撃した小瓶の正体を知っていたのだ。もちろん、今原因となっている魔法薬の入った小瓶。ルーシィ達がもみ合った拍子に吹っ飛んでしまったのだ。
ラクサスはヘッドホンを外して髪に手を差し込んだ。顔を顰めて耐えていると、次第に頭に通常では見られないものが生えた。

「あああ、あれって」

ルーシィがラクサスを指さす。隣にいたロキが、空になったケースを確認する。まだ症状を出ていないものが一種類。

「うん。豹みたいだね」

「またマニアックな……」

尾まで生えたようで、一階からでも見える位置まで直立しているそれが、揺れている。効果が完全に出るまでは、異変のせいで身体が疼くのだ。
ラクサスは小さく息をついて、一階を見下ろした。周囲がラクサスを直視しないようにして目をそらす中、ナツだけが凝視していた。

「……ぷ!」

「あ?」

「ぎゃははは!お前、鏡で見てみろよ!」

先ほどバカにされていた事を根に持っていたのだろう。ナツはラクサスを指さして涙までも浮かべて笑っている。
ラクサスは己の頭に触れ、揺れる尾を確認して顔を引きつらせた。状況把握はできたらしい。怒りに身体が震えている。

「いい度胸じゃねぇか」

ラクサスは低く唸ると、柵を越えて一階へと飛び降りた。魔力は放ったのだろう、ラクサスが着地した場所がめり込んでしまった。

「ラクサス、ギルドを壊さないで!」

「それどころじゃないですよ。ミラさん」

ミラジェーンの咎める声に、ルーシィが冷静に突っ込んだ。
事実それどころではない。ラクサスの纏う空気が怒りで震えているのだ。尾まで感情をあらわすように、勢いよく振っている。
ラクサスはナツの前で立ち止まると、ナツの顔を掴んだ。ナツは両頬を抑えられて、顔を顰める。

「なにひゅんら……」

「覚悟、できてんだよな?」

「おりぇらやっひゃんらなひ」

俺がやったんじゃない。
否定の言葉さえもうまく口にする事が出来ない。苦しそうにもごもご言い続けるナツを見下ろしていたラクサスに変化が起きた。振っていた尾の動きが止まったのだ。直立した尾の先端が傾いている。

「豹はネコ科だったな」

エルザの呟きにルーシィが頷く。
エルザは換装で手元に本を出すと、それをめくり始めた。

「何の本?」

ルーシィが表紙を覗き込むと、にゃんこの気持ちとタイトルが書かれていた。愛猫家が愛読している雑誌だ。タイトル通り猫について色々掲載されているのだが、何故エルザがそれを持っているのか分からない。

「今ラクサスは、ナツに好意的に感じているようだ」

「はい?」

ルーシィが本を覗き込むと、開いているページは「猫の尻尾の動きから分かる感情の表れ」だった。たしかに豹はネコ科だが、それが豹に当てはまるのだろうか。それ以前に、好意的とはどういう意味だ。
ルーシィは本からラクサスへと視線を移す。確かに先ほどのように怒りは浮かんでいないようには見える。

「はにゃふぇひょ、びゃは」

放せよ、バカ。

ラクサスの手から逃れようと、もがくナツ。ラクサスの尾の先端がピクピクと動いた。

「なるほど。愛情、興奮、好奇心か」

「……それ猫の本だし」

「だから、豹はネコ科だろう」

エルザに真面目な顔で言われては突っ込めない。

「もう、どうしたらいいのよ。大体ロキがこんなもの持ってきたんだから、あんた責任……て、いないし!」

「あの野郎逃げやがったな」

舌打ちしたグレイに、ルーシィの視線が下がる。グレイの斜めに下りている尾がゆっくり揺れていた。

「読むか?」

エルザは、わんこの気持ちも換装で手元に出すと、ルーシィに差し出した。

「いや、大丈夫だから」

話せない動物ならともかく、動物の耳と尾があるだけで一応は人間なのだ。そんなもので感情を読み取ろうとしなくてもいいだろう。

「おい、ラクサス!?」

ナツの慌てた声にルーシィが振り返った。いつの間にか客はいなくギルドの人間だけになっている。異変に逃げ出したのだろう。

「ぐ、うるせ……近寄んじゃね、」

ラクサスが頭を抱えて、苦しむように唸っていた。膝を床につけて荒く息を繰り返している。
まさか薬の副作用でもあるのかと周囲が慌てた。こんな時にマカロフがいればよいのだが、運悪く定例会で不在だった。

「おい、大丈夫かよ……お、まえ、何か変だぞ」

ナツが動揺するのも無理はない。ラクサスが蹲ったと思うと、姿が小さくなっていったのだ。
あまりの出来事に周囲も何の反応もできなく見入るばかりだ。ラクサスの姿はとうとうコートで隠れるぐらいまでになってしまった。コートから尾が出ているから、消滅したわけではないだろうが、姿がどうなってしまったのか想像もつかない。
尾が軽く動いたのに気づいて、ナツはコートに手をかけた。

「大丈夫か、ラクサ……ス?」

ナツは目に入った姿に瞬きを繰り返した。コートで隠して首をかしげ、暫くして再びコートを持ち上げて中を確認する。

「ど、どうなったの?ナツ」

ルーシィの不安そうな声に、ナツは表情を固くして振りかえった。

「でっかい猫だ」

コートから這い出るように顔を出したのは、少なくとも人には見えない。確実に、豹だった。耳と尾だけではない、完全な豹の姿だ。

「でぇぇぇぇ!?」

「本物の豹を見るのは始めてだな」

「あれって、オイラの仲間だよね!」

「違う!ていうか、あれってラクサスなの!?……ナツ、危ないからこっち来なさいよー」

手招きするルーシィに首をかしげるナツ。

「でもこいつラクサスだって。匂いが……おお?」

ナツの身体は豹化したラクサスに押し倒されてしまった。前足で圧し掛かれて、ナツは小さく唸った。見た目以上に重い。
ラクサスは確認するように匂いを嗅ぎだした。

「大変だよ、ルーシィ!ナツが食べられちゃうよ!」

ハッピーが目に涙まで浮かべているが、ルーシィだって、あれがラクサスだとしても見た目が豹では怖い。
ルーシィに変わって、グレイが前に出た。

「獣なら檻の中に入れてやるよ」

グレイが駆け寄り、ナツとラクサスの前まで出ると、魔法を使う構えを作った。

「アイスメイク・プリズン!」

造形魔法で作り出された氷の牢獄。それはラクサスどころか圧し掛かれていたナツまでも閉じ込めてしまった。

「何すんだ、グレイ!」

ラクサスは目を吊り上げるナツの上から退くと、檻をひっかいたり体当りしたりとぶち破ろうとしている。
氷とはいえ、グレイの造形魔道士としての腕は確かだ。簡単に壊されるわけがない。そう分かると、ラクサスはグレイに向かって歯をむき出して唸った。

「完全に獣だな、ラクサス」

鼻で笑うグレイ。しかし、ナツにはそれどころじゃない。ナツは檻にしがみ付いてグレイを睨みつけた。

「てめ、出しやがれ!!」

「そろそろじーさんも定例会から戻ってくるらしいからよ、お前も……」

グレイは思わず口を閉ざした。
牢にしがみ付くナツの耳は震えていて、尾が苛立ちを表わすように毛が逆立っていた。
黙りこむグレイに、ナツが首をかしげる。それが決め手になって、グレイは鼻血を吹きだして倒れてしまった。

「うぉ、危ねぇ!」

ナツは慌ててその場から飛びのいた。
ナツが今までいた場所には赤い斑点が飛んでいる。危うく鼻血がかかるところだった。ラクサスには少しかかってしまったようだ、綺麗な黒斑に紛れて赤いものが混ざってしまった。

「お、魔法が溶けたぞ」

グレイが気を失ったおかげだろう、氷の牢獄が消え去った。
安堵するナツにラクサスが近づいていく。重みのある足を軽い足取りで一歩近づくが、それを割って入るように風が吹き抜ける。

「逃げよう!ナツ!」

「おぉ、ハッピー!?」

翼を生やしたハッピーだ。
ナツを掴んで、勢いよくギルドを飛び出した。

「ナツ、食べられちゃうかと思った」

「ハッピー、あいつはラクサスだって。んなことしねぇよ」

「でも……うわぁぁぁ!?」

街人たちの騒がしさに振りかえって、ハッピーは顔を強張らせた。豹化したラクサスが追ってきていたのだ。
豹の跳躍力は人の比ではない。このままでは追いつかれてしまうだろう。
最悪の想定をしたハッピーが慌てて高度を上げたが、ラクサスの吠え声に驚いて、魔法が解けてしまった。
屋根よりさらに上まで高度を上げていたハッピーたちは、勢いよく地に向かって落下していく。

「うぅ、オイラも食べられちゃうんだ」

「いあ。だから平気だって」

ナツは足から炎を噴き出してうまく着地した。
遅れて落ちてくるハッピーを受け止めようとしたが、それは叶わずナツの体は吹っ飛んでしまった。追いかけてきたラクサスが飛びかかってきたのだ。

「いてて。何すんだ……うぐぇ!」

起きあがろうとするナツの腹に、ラクサスの前足が乗せられる。ちょうどみぞおちの部分を押されていて気持ちが悪い。蛙が潰されたような声を上げて、ナツはラクサスを見上げた。

「も、いい加減にしろ、ラクサス」

力ずくで退かそうと拳握りしめた。しかし、それが振るわれる事はなかった。

「……どうなってるの?あれ」

ナツ達の身を案じて駆け付けたルーシィ達は、目に入った光景に唖然とした。
豹化したラクサスに圧し掛かれているナツ。どう見ても命の危険にあっている状態なのだが、よく見れば違う。ラクサスがナツの顔中を舐めていた。

「く、くすぐってぇ」

身をよじらせて笑っているナツ。
ラクサスは、暫くするとナツ膝に頭をのせて目を閉じてしまった。完全に安心しきっているようだ。周囲が困惑している中、逃亡していたロキが姿を現せた。

「あの薬は飲んで効果を得るものだったから、身体にかかったラクサスには違う効果が出たんだね」

「あんた今までどこにいたのよ」

目を吊り上げるルーシィ。事件の発端である人間が逃げていたのだ。周囲の視線は厳しい。
ロキは苦笑した。

「豹は苦手なんだ」

「誰だって苦手よ。ていうか、ラクサスは何であんな風になってるわけ?」

ナツに懐いているようだが、動物化しているのなら、なお更ラクサスの行動には理解できない。
困惑するルーシィ達に、ロキも分からないのだろう首をかしげた。もともと服用方法が違うのだから仕方がない。

「精神が残っているとは考えられないけど、動物化しても元は人だからね。もしかしたら強い想いだけは残っているのかもしれない」

強い想い。魔法も精神力からきているのだ、理解できなくもない。
納得しかけた周囲は勢いよく振り返った。ナツに身を寄せて安心しきっているラクサス。あれが、ラクサスの本心だとでも言うのだろうか。

「そ、そうなると、今までのラクサスの言動って……」

「愛情の裏返しってやつ?」

今までラクサスがナツへの態度を思い返して、空笑いしか出ない。知りたくもなかった真実だ。
軽く現実逃避に入っていると、定例会からマカロフが戻ってきた。
街の騒がしさを感じて少しばかり警戒しているようだが、それも仕方がない。いつでもギルドには問題が持ち上がってばかりなのだから。

「何しとるんじゃ、お前ら……て、何じゃ、こいつは!?」

流石のマカロフも豹の姿に驚いている。その獣が実の孫だという事を知ればどうなるのだろうか。
近づいていくマカロフに、ラクサスが気づいて顔を向ける。

「いけない、マスター!」

危惧したエルザが駆け寄ろうとするが、想像していた事態にはならなかった。

「お、人懐っこいのう」

ラクサスはゆっくりと瞬きをして、長い尾をマカロフの足へと絡ませた。
マカロフが頭を撫でると、気持ちよさそうに目を閉じる。今にも喉でも鳴らしそうだ。

「もしかしたら、元から凶暴じゃねぇんじゃねぇのか?」

傍観していた一人が軽い気持ちでラクサスに近寄ったのだが、射程内に入るとラクサスは威嚇するように牙をむき出しにして低く唸った。尾も、手で払う動作のように大きく振っている。
ラクサスに牙をむかれる前にと逃げ帰る者を遠目に見ていた周囲は、しばらく沈黙した。

「な、ナツとマスターだけか」

身体の力が抜けていくのを感じた。
溜息をつくルーシィ達に、ギルドに残っていたはずのミラジェーンが駆け寄ってきた。

「よかった。マスター帰ってきたのね」

安堵したように笑うミラジェーンの手には見覚えのある服。何だろうと首をかしげるルーシィに、ミラジェーンはラクサスへと視線を向けた。

「ラクサスの服よ。急に元に戻ったら困ると思って持ってきたの」

「え?てことは、今のラクサスは……」

ラクサスへと視線を向ける。
ラクサスが豹化した時服はそのままだった。動物は毛があるから疑問にも思わなかったが、実際は服を着ていないという事になる。こんな街中で突然元になど戻ったりしたら大惨事だ。

「でもよかったわ、元に戻ってなくって。全裸で全力疾走なんて、グレイだけで十分だもの」

微笑みながらさらりと言いのけるミラジェーンに悪気はないのだろうが、酷い。しかし、そんな事態に陥らなくてよかった。そう思わずにはいられないだろう。
最終的に、薬の効き目は一晩経てば戻るという事で、ラクサスの動物化と共に、ナツ達の耳と尻尾の効果も切れ、元の姿に戻ったのだった。
元の姿に戻ったラクサスは、事件の事を覚えていないようだった。それも幸せなのだろう。ナツと祖父であるマカロフだけに懐き、その上街中を全裸で疾走したなどと知れば、言葉通り雷が落ちるだろうから。
そして、この事件は、誰の口からも語られる事はなかったという。




2010,03,25

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